588 特別な日にゃ~


「誠に仕事をしておる……」


 わしが仕事をしているのが信じられない玉藻は、双子王女と打ち合わせをする姿を見て驚いている。


「もうどっか行けにゃ~」

「いや、笑い話に出来るから見ておく」

「どこに笑うところがあるんにゃ~」

「あのシラタマがじゃぞ? プッ……仕事をしておる……コ~ンコンコン」

「本当に笑うにゃ~~~!!」


 仕事を邪魔されたわしは、集中力が切れた。双子王女もこれでは仕事にならないとわしを撫で出す始末。このままでは寝てしまいそうなので、玉藻を追い出さなくてはならない。


「てか、玉藻も出席するから戻って来たんにゃろ?」

「ああ。そうじゃった。シラタマ達と一緒に帰ろうと思っておったんじゃ」

「そんにゃにゆっくりしていていいのかにゃ~?」

「隠居の身じゃ。陛下とお玉に任せておれば問題ない」

「そうかにゃ~? こにゃいだ二人で猫の国に来てたにゃ~」

「なんじゃと??」


 玉藻が興味を持ったようなので、わしはちびっこ天皇が訪ねて来た話をした。


「電力不足……そうか。そちが解決してくれたのか。さすがシラタマじゃな」

「新設する施設やダムにゃんかもあるし、今ごろ手一杯になってるかもにゃ。しかも、あの平賀家の舵取りにゃ。どうなってるかにゃ~?」

「うっ……そう言われたら、心配になって来た」

「じゃあ、さっさと帰れにゃ~」


 玉藻は心配そうな顔をするので帰還を急がせる。すると、ウンウン唸ってから答えを出した。


「今日だけは、シラタマを見ている。面白いからのう」

「勘弁してくれにゃ~」


 マジで邪魔なのでどこかに行って欲しいわしは、日ノ本発電計画書とウサギ族の現状ノートを読んでいろと言って仕事を再開する。

 さすがに日ノ本の事になると玉藻は興味を移して熟読し、静かになった。だが、ウサギ族ノートは唸り声が大きく、何度か質問して来るので黙っていろとキレた。



 玉藻のせいで予定より時間が掛かってしまったが打ち合わせを終わらせると、わしはまた違う仕事。うっとうしい玉藻と共に各所に出向き、進捗状況を聞いてキャットタワーに戻る。


「にゃ? リータ達もこっちに来てたんにゃ」

「はい。玉藻さんが来ているとハルちゃんから聞きましたので挨拶しようかと。どちらに居るのですか?」


 玉藻はわしの後ろに居るのだが、リータ達は気付いていないのでどうしてなのかと振り向いたら、玉藻はニヤニヤしながら尻尾を隠してやがった。


「子供か! 無駄に尻尾を隠しにゃがって~」

「コ~ンコンコン。リータ、メイバイ。久方振りじゃな」

「「え……」」

「これが玉藻にゃ。大人になってるんにゃ」


 わしが親指で指差して玉藻を紹介すると、玉藻は尻尾を出して笑っている。


「玉藻さんでしたか! てっきり、その綺麗な人と浮気してるのかと……」

「またシラタマ殿が、美人さんに手を出してたと思っていたニャー!」

「にゃんでそうなるにゃ~」

「シラタマと違って見る目があるのう。コ~ンコンコン」


 玉藻はリータとメイバイに褒められて上機嫌。逆にわしは、浮気を疑われて悪寒。一瞬殺気が放たれたから当然だ。



 リータ達が玉藻との挨拶が終わったら、10階食堂で再会を祝しての宴会。玉藻の冒険談を聞いてあげた。

 どうやら玉藻は南を中心に回っていたようだ。その土地土地でハンターの仕事を受け、路銀を手に入れていたとのこと。難しい依頼もソロでこなすので、行く先行く先で大活躍だったらしい。

 ただ、その土地の民族衣装やお土産を多く買ってしまうので、ハンター業だけでは到底足りず、貯蓄を切り崩して旅をしていたそうだ。


「本当に世界は広い! まさか南を回るだけでこんなに時間が掛かるとは思っておらんかったぞ!!」


 旅の話をする玉藻は上機嫌で声がデカイ。わしはあまり聞く気がなかったから逃げようとしたのだが、玉藻の胸に挟まっているから至近距離で超うるさいのだ。


「もうその辺でいいにゃろ~。とっくにみんにゃの食事は終わってるにゃ~」

「まだまだじゃ!」

「そういうのは陛下に聞かせてやれにゃ~」


 話し足りない玉藻はうるさいので、屋上庭園に建てられた離れに移動。そこの猫御用達の縁側で酒を飲む。

 ちなみにコリス達は話が面白くないらしく、王族専用寝室で熟睡。浮気を心配するリータとメイバイしかついて来てくれなかった。


「いちおう言っておくげど、玉藻の見た世界にゃんて、極一部だからにゃ」

「あ……そうじゃった。シラタマ達は、いまはどの辺りを回っているのじゃ?」

「いまは北アメリカ大陸にゃ」


 玉藻の質問に、地球儀を出してコロラド州辺りを指差して答えとする。


「おお~。そっちもデカイ大陸じゃな。ここを回り終わったら、足を運んで見るかのう。面白い物があったら教えておいてくれ」

「楽するにゃよ~」


 玉藻は旅の時間短縮をしたいらしく、わしの冒険した場所を中心に攻めるようだ。ただ、面白いと思える物はいまのところ少ないので、日記を読ませて行きたい場所の候補は、後日提出させる。

 そうして寝るには頃合いになったので寝室で眠るのだが……


「そこで妾が白い獣を真っ二つにしてやったんじゃ!」

「もう寝させてくれにゃ~」


 玉藻の冒険談は続くので、わしはなかなか眠れないのであったとさ。



 翌朝は、リータとメイバイの殺気で目覚めた。殴られる前に起きたわしは、出来る猫だ。

 しかし怒っているので、玉藻のふくよかな胸からモゾモゾと這い出して二人の脚にスリスリ。足りないようなので飛び付いてスリスリ。でも、怒りは消えなかった……


 居間で浮気してたって言われても……リータ達がうるさいからって、玉藻とわしを追い出したんじゃろ? あのあと、二時間も冒険談を聞かされたんじゃからな? 眠たくて死にそうにゃ~。


 わしの反論に、さすがに二人は悪いと思って優しく撫でて謝って来たけど、甘えた声には反応はなし。仕事が立て込んでいるから働けとのことらしい……


 なので、朝食は半分寝ながら餌付けされ、ソウの地下空洞に転移。リータ達が玉藻にポポル親子を紹介し、わしは頼んでいた仕事の進捗状況を奴隷から聞く。

 それから玉藻は、ここにある三ツ鳥居から日ノ本へ帰還。猫の街の三ツ鳥居はいまは使えないから、ソウから送ってやったのだ。



 そして玉藻の帰った翌日、厄介な奴等が猫の国に続々とやって来た。


「何この建物!? たか~~~い!!」


 さっちゃんと愉快な仲間達……だけでなく、東の国王族揃い踏み。


「シラタマ王……なんだこの建物は!?」


 ビーダールからは、バハードゥ王やハリシャ王女……だけでなく、西の国や南の国、小国の王族が勢揃い。


 そう。今日は、関ヶ原で急遽帰した各国の王が、日ノ本へお呼ばれされた特別な日なのだ。


 この為にわしは毎日忙しくし、ウサギばかりにかまっていられなかったのだ。


「まぁ言いたい事は山ほどあるにゃろうけど、王族は空中庭園にご案内にゃ~」


 今日はキャットトレインが続々と猫の街に到着するので、ひとつの国ばかりを相手にしていられないわしは、案内は役場職員に任せて、猫ファミリーで各国の王族のお出迎え。

 各国の王族はキャットトレインを降りた瞬間、視界に収まらない高さの建造物に驚き、わしに質問するけど握手だけしてキャットタワー内に送り込む。

 そして二基あるエレベーターに驚き、エレベーターガールならぬエレベーターウサギに驚き、空中庭園の絶景に驚く。


 ちなみにエレベーターウサギとは、移住第一弾から雇ったウサギ族。最初はヨボヨボのウサギだったのに、猫の町で暮らしていたら普通に動けるようになったので、体調の良くなったウサギを役場職員として雇ったのだ。

 おそらく、栄養不足で健康状態が悪かっただけなのだろう。それがリータ達や双子王女にバレて、さっそく雇えとうるさかったから、いまいち使い勝手の悪かった手動エレベーターの専属操縦士に任命したのだ。


 そのエレベーターウサギにはスーツを着せて、片言の英語でエレベーターを操縦している。

 「上に参ります」とか「ドアから手を出さないでください」とか、マニュアル的な言葉しか発しないが、一番多い言葉は「ドントタッチミー!」だったらしい。



 全ての王族が到着したら、すでに始まっているバーベキュー大会にわしたち猫ファミリーも加わり、各テーブルを回る。コリスとオニヒメは東の国のテーブルに置いて来たけど……

 とりあえず挨拶回りをするのだが、もうすでに双子王女や職員が王族からの質問に答えてくれていたので、わしは別件の謝罪をして回る。


 この空中庭園でも、十人ほどスーツを着たウサギが給仕をしているので指差し、ウサギ族の移住の為に必要な食糧だとの説明。それとウサギ族の簡単な説明文を載せたレジュメも渡しておいた。

 先日、女王からの説明があったらしいので、それならば仕方がないと謝罪は受け取ってもらえた。

 まぁ五千人も移民を受け入れるという事は、一時的な国力の低下を招くと思っているのだろう。でも、資金はわしのポケットマネーじゃし、すぐに巻き返せるんじゃけどな~。


 ただ、移住が終わった際には、ウサギを数匹寄越せと無理を言う王族女性陣が続出。どうやらペットとして飼いたいようだ……

 ウサギ族はいちおうこれでも人間扱いなので、ペットはかわいそう。それに、飼い主が解剖なんかするかもしれないので、易々とは譲れない。

 かといって、王族女性陣の圧が強いので、ウサギ族移住が完了した際には必ず考えると言っておいた。適当な言い訳だが「必ず」と力強く言ったからなんとか引いてもらえた。


 ぶっちゃけ考えるつもりはさらさらない。まだまだ忙しいのにそんなことやってられるか!!



 各テーブルを回ったわしは、最後に残していた東の国テーブルにまざり、モグモグ食べる。


「それにしても高いね~。城の見張りやぐらより高いかも??」


 さっちゃんがわしを撫でながらそんな事を言うので、わしは疑問に思う。


「双子スパイから連絡はいってなかったにゃ?」

「お姉様をスパイって……あ、スパイで間違いないか。じゃなくて、お姉様にどうして教えてくれなかったのかを聞いたら、私達をビックリさせたかったみたい」

「にゃはは。二人もサプライズ好きになったにゃ~」


 わし達が笑っていたら、女王も話に入って来る。


「まったく……困ったものよ。ま、建物ぐらいはいいわ」

「建物ぐらいってなんにゃ~。他にどんにゃ情報を流しているんにゃ~」

「それより……」

「わしの質問に答えてくれにゃ~」

「「エレベーターをお城に作って!!」」


 わしの質問に答えてくれない女王は、こんな小型化されたエレベーターがあると知って、猫耳の里のエレベーターを見た時よりも圧が強い。さっちゃんと声を合わせておねだりして来るのであったとさ。



 食事会が終わったら、明日の為にさっさと解散。三大国の王族は、キャットタワー内のワンフロアをVIPフロアに改造してあるので、そこで就寝。


 勝手に場所を割り振ったけど、次回は違う国が上に来るようにするから揉めないで欲しい。てか、東の国王族は猫ファミリー居住区に来るのならいらなかったんじゃね?


 若干揉めたが、その他小国は猫の街の旅館や宿屋にご案内。そこで就寝になる。


 うんうん。今度遊びに来た時には、ビルに泊まらせてやるから、ここで勘弁してね。どうしてもと言うなら、西の国の上のフロアが空いてるけど、そこで寝るか? そうじゃろうそうじゃろう。嫌じゃろ。


 小国とも若干揉めたが、さすがに大国とは格の違いがあるので、なんとか折れてくれた。



 そして翌朝早く……


 魔道具研究所にズラッと並べた三ツ鳥居の前に各国の王族が集合する。


「三ツ鳥居は前回の倍は用意したから、そこまで急がなくていいからにゃ。でも、時間には気を付けてにゃ~。では、いってみようにゃ!」


 各国にも三ツ鳥居は売っているので使い方を熟知している皆は、各々の従者に詠唱させて三ツ鳥居を通る。するとそこには、公家装束の玉藻、お玉、家康、秀忠の、日ノ本最高家臣の揃い踏み。

 簡単な挨拶をしつつ渋滞緩和に努めて、各国の王族の案内までしくれている。


 そうして全ての出席者が紅白の幕の前に揃うと、厳かな装束で着飾ったちびっこ天皇が現れて、手に持ったしゃく(細い木の板)に書かれたカンニングペーパーを見ながら英語で語り出した。


「ようこそ日ノ本へ! 先日は突然帰してしまってすまなかった。謝罪はまたあとでするから、いまはこの景色を楽しんでくれ!!」


 ちびっこ天皇が両手を上げて広げると、紅白の幕がバサッと落ちる。


「「「「「おお~……」」」」」

「「「「「きれ~い……」」」」」


 幕の先は桃色景色……


 そう、満開の桜のお目見えだ。


 始めて見る桜の織り成す景色に、誰もが言葉を忘れて見とれるのであった……

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