587 忙しい時もあるにゃ~


 わしがボケたが為に「猫の国とは地獄の事ではないか」とウサギ族に噂される中、脅しまくったあとは訂正せずにさっさと撤収。ヨタンカに帰る旨と、「苦情が来るから頑張ってね~」と告げて転移した。


 おうおうおう。やってるな。みんな目が血走ってモフっておるからちょっと怖い。双子王女まで立場を忘れておるよ……

 ワンヂェンたち治療班が大変そうじゃし、助けに行くか。わしもモフられたらたまらんからのう。


 魔道具研究所の庭は、モフモフパーティー真っ只中。プールに張られたお湯を使って揉み洗いされるウサギ。乾かされてブラッシングされるウサギ。涙目のウサギ。

 ウサギ族からの悲鳴は聞こえないが、住人の歓喜の声が凄い。ひょっとしたらウサギ族からの悲鳴は掻き消されているだけかもしれないが……

 わしもモフられる危険があるので、コソコソとコリスとオニヒメを連れて、治療班の元へと逃げる。


 そこで診療。わし達は重傷者を担当するのだが、ウサギ族は決まって誰かに抱かれて現れ、涙目で医者を見ているのでちょっとかわいそう。なので、わしの前に現れた者には念話で「少しの間だけ我慢して」とお願いしておいた。

 まぁ治療の済んだウサギには、サンドイッチやスープ、ケーキが餌付けされるので、最後の晩餐にとてつもなく美味しい物を食べられたと諦めていた。



 ウサギ族の処置が終われば、各々のパートナーに引き取られ、街に消えて行く。あぶれた住人はかなり悔しがっていたけど騒ぎになっていなかったところを見ると、順番が決まっているみたいだ。

 いちおう家は用意しているのだが、まだ整備が終わっていないので、しばらくは辛抱してもらうしかない。明日にはパートナーが変わって別の家に行くとも聞いたが、ウサギ族の家を用意したあと、ちゃんと別れてくれるか心配だ。


 移住第一弾は、なんとか揉め事も起こらず、ウサギ族が被害を受けただけで幕を下ろす……


「双子王女もお持ち帰りするんにゃ……」

「「何か問題でも??」」

「いや、にゃんでも……リータ達にはわしが居るにゃろ~~~!!」


 ウサギ族を抱っこしている双子王女をジト目で見ていたら、リータとメイバイも抱いていたので、必死に止めるわしであった。

 ちなみにリータ達は、ちょっと抱かせてもらっただけだったので、わしが嫉妬心を見せたが為に、この日の撫で回しはすんごい事になったのであったとさ。



 翌朝は、少しお寝坊。元よりウサギ族の時差ボケがあるので、十時頃に役場訓練場に集合するように言っていたから、ウサギ族はパートナーに抱かれて現れた。

 とりあえず数を確認し、昨日は乱痴気騒ぎで出来なかった住人台帳の作成。猫の国王族総出で念話を使ってプロフィールを聞き出し、職員が石板をカタカタと叩いて、情報集約魔道具に打ち込む。

 その中で、体調の良い一番年上のウサギをまとめ役に任命。年上といっても40代前半だったので、ウサギ族は平均寿命が極端に低いのかもしれない。


 そのまとめ役に通訳をさせて、ウサギ族にこれからの事を説明する。


「え~。昨日は怖い思いをさせてすまなかったにゃ。みにゃさんみたいにゃ姿の者は、ここの土地には居ないから撫で回されてしまうんにゃ。もう、わしにゃんて、しょっちゅう撫で回されてるにゃ~」


 猫の街の住人はクスクス笑っているので、ツカミはボチボチ。ウサギ族に笑って欲しかったが、知らない土地で知らない種族に抱かれているので緊張は解けないのだろう。


「まだ眠いだろうと思うけど、今日は我が街を案内してもらってくれにゃ。そして明日からは、こちらの言葉と常識を学ぶ事ににゃるから、ゆるりと楽しんでくれにゃ~」


 わしの説明が終わると、ウサギ族を抱いて離さないパートナーを一列に並ばせ、念話の魔道具とお金を配布。念話の魔道具はさすがに百個も無いので、五組でひとつを使って案内してもらう。

 これで街の説明やお金を使って商品を買うこと、そのお金がどうやって貰えるかがわかってもらえるだろう。

 わしも街をウロウロして問題が無いか見張っていたら、ウサギ族が質問している姿を何度も見たので、作戦は上手くいったようだ。他の住人からも撫で回されているウサギをいっぱい見たけど……



 そして翌日は、昨日とは違うパートナーに抱かれたウサギ族を、学校に集めてトウキン校長に丸投げ。教室も先生も足りないので、パートナーの子供を使って青空教室を開くようだ。

 このウサギ達はあまり体調が良くないみたいなので、これから移住して来るウサギ族の英語の先生予定。力仕事じゃないし車イスも用意したから、なんとか授業ぐらいは出来るだろう。


 撫でられて迷惑そうなウサギと、楽しそうな子供達の授業風景を微笑ましく見ていたら、小説家の猫耳娘二人に捕まった。どうやら冒険の取材をしたいらしい。

 「何日も前に戻ったのに今ごろ取材?」って思ったら、急遽冒険に行く事になったし、ウサギ族の事で双子王女も忘れていて、わしが冒険に出たと知ったのはウサギを見た昨日だったらしく、ちょっと怒られた。


 なので、さっそく猫ファミリー全員での取材。今回はたいした敵と戦っていないので面白くないかと思ったが、集落をみっつも発見していたのでそこそこ面白いようだ。

 だいたいがさっちゃんの騒ぎ散らした話で、わしが集落に受け入れられない失敗談。ウサギ族の出会いと、喋っていいかわからないが、さっちゃんの成長した姿も教えてあげた。


 後日、「サンドリーヌ王女の冒険記」なる小説が東の国で発行され、「猫王様のアメリカ見聞録」よりかなり早くに売り出されたので、さっちゃんと双子王女が若干揉めたのであった。



 猫耳娘からの取材が終わると、猫ファミリーは解散。リータ達はソウに居るポポル親子を見に走って向かい、わしはサボリ……


 冗談で~す。働きま~す。


 リータ達はフェイントを入れてわしの行動をこっそり見ていたので、キャットタワーには入らずに猫の街の居住区に移動。そこで、建設班と一緒に真面目に家を建てたりなんかしていたら、リータ達の姿は消えていた。

 居なくなるとサボリたい欲求に駆られたが、さっきのフェイントもあったし、リータ達が猫耳秘書のファリンと何か話をしていたから、サボらないほうが身の為だろう。たぶん、見張りを頼んでいたから……


 ウサギ族の為に建てた家は、以前猫の街で作った子供用の下宿。三年経っても出て行く者は居ないので、ウサギ族を受け入れるならあったほうがいいだろう。

 それに、あまり撫でられ過ぎると死んでしまうかもしれないので、命を守る為には隔離する必要がある。仲間で共同生活をすれば、長生きするはずだ。

 ただ、わしだけで作ってしまうとウサギ族の仕事を奪ってしまうので、移住者第三弾までの建物程度。わしも手伝う予定だが、出来れば建設班の教えをいながら、自分達の手で作ってもらいたい。そうじゃないと楽が出来んからな。


 夕方頃になると、今日のところはソウの別荘に転移。ポポル親子の進捗状況を聞いて就寝となった。



 それからは、わしは通い夫。猫の街で仕事をしたり日ノ本へ行ったりエルフの里へ行ったりと忙しく過ごし、三月も後半に入ったある日……

 キャットタワーの会議室で双子王女と打ち合わせしていたら、知人が訪ねて来たらしいので、お春に連れて来てもらった。


「……誰にゃ?」


 知人のはずだったが、そこには踊り子みたいな服を着た背の高い巨乳のアジアンビューティーがお春の隣に立っていたので、わしは首を傾げる。


わらわじゃ。妾」

「玉藻様ですよ!」

「にゃ~~~?」

「まったくそちは見る目がないのう。ほれ? これでわかったじゃろう」


 お春がアジアンビューティーを玉藻だと紹介してくれたが、わしの理解が追い付いていないので、アジアンビューティーは九本の尻尾を出して証明とする。


「それが問題じゃないにゃ。わしが聞きたいのは、にゃんで大人になってるかにゃ」

「そっちか。陛下から離れたから、本来の大きさに戻ったんじゃ。ナイスバディーじゃろ?」


 うん。ナイスバディーじゃけど、どこでそんな言葉を覚えたんじゃ? うちの学校で教えておるのか??

 そう言えば……日ノ本で読んだ歴史書に、こんな美人が載っておったな。だからお春は一目見てわかったのか。ロリ巨乳の姿しか見ていなかったから、すっかり忘れていたわい。


「ふ~ん……ま、もうすぐお昼にゃし、食堂に移動しようにゃ」

「ちょっとは褒めろ!!」


 玉藻はわしの態度が気に食わないらしく、女を使って褒めさせようとするが、大きさは双子王女とほぼ一緒。だが、胸に挟んだままエレベーターに乗ったら、わしの事はどうでもよくなったようだ。


「しかし、急にこんな建物が立っていたから驚いたぞ」

「あ~。いろいろあってにゃ。狭くなって急遽拡張したんにゃ」

「いろいろ? ウサギみたいな奴が歩いていたけど、それが関係しておるのか??」

目敏めざといにゃ~。もう着いたから、話はあとでにゃ」


 お春がレバーを慎重に操作すると、エレベーターは10階に到着。キャットタワー居住者専用食堂に入ると、そこにはエベレストが一望できる景色が広がっていた。


「おお~。いい景色じゃな。こんな所で毎日メシを食っているのか?」

「夜はにゃ。玉藻に見せてやろうと連れて来たんにゃ。でも、窓に張り付いてにゃいでこっちに来て座れにゃ~」


 キャットタワー初体験の玉藻は興奮しているらしく、落ち着きがないので呼び寄せる。そしてお春が食事を運んで来ると、わし達は手を合わせ、食べながら玉藻の先程の質問に答える。


「ちょっと旅に出てにゃ。そこで出会ったウサギ達が困っていたから移住を勧めたんにゃ」

「ほう……面白そうな話じゃな」

「ぜんぜん面白くないにゃ~。五千人の移住にゃんて、超大変にゃ~」

「五千!?」


 玉藻が数に驚いてくれたので、グチグチと大変さを語っていたら、同席していた双子王女が「自分達のほうが仕事が増えてる」と愚痴り出したので違う話に変える。


「それで、にゃんでまたそんにゃ姿でいたにゃ?」

「ああ。妾も旅に出ていてな……」


 どうやら玉藻は、わしが留守だったが為に、旅をするにあたって女王を頼ったそうだ。欲しかった物はハンター証。外国人がハンターギルドで作るには制約があるのかと聞きに行ったら、その場でさらさらっと書状を書いてくれたとのこと。

 その足でハンターギルドに向かい、スティナを呼び出してCランクハンターになったらしい。本当はBランクからいけたのだが、実質一番上なので、面倒事が起きたら旅が楽しめないので避けたようだ。


 しかし、ハンター証を貰って依頼ボードを見ていたら、バカにからまれたらしい。理由は「幼女がこんな所で何しているんだ」だとか。

 バカの言い方がムカついた玉藻は、ぶん殴ってからアダルトバージョンで旅立ったらしい……


 その道中で、たまに尻尾を出して歩いてみたら撫でる者が多かったので、尻尾を隠して旅をしていたから、わしと会う時には出すのを忘れていたようだ。



「誕生祭で身に染みておったが、こちらに住む者は尻尾に興味を持ち過ぎじゃ」


 長く喋っていた玉藻の話が愚痴に変わったかと思ったら、わしの顔をジーーーっと見て来た。


「にゃに?」

「そちはよくその姿で歩き回れるな」

「わしはこの姿しか出来ないからにゃ~」


 最後の締めはわしのディスり。なので玉藻は置き去りにして、下の階に移動するのであった。


「まだ話したい事がいっぱいあるんじゃ!」

「仕事で忙しいんにゃ~」

「嘘つけ」

「本当にゃ~」


 旅の話をしたい玉藻はわしの事を信じてくれず、仕事場までついて来るのであったとさ。

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