507 巨大魚を釣るにゃ~


 リータとメイバイに、流し釣りトローリングの生き餌にされそうになったわしが逃げ惑っていたら、どこから現れたかわからないコリスにモフッと捕まり、二人の元へ運ばれた。

 たぶんコリスは、わしをエサにすれば美味しいのが食べられると思って、息を殺してわしを捕まえたのだと思う。

 しかし、リータの鎖で簀巻すまきにされたわしがシクシク泣いていたら、鎖はすぐに解かれた。エサにする発言は、どうやら二人の冗談だったようだ。まさかわしが泣くとは思っていなかった二人は、献身的に撫で回していた。

 ただ、コリスが「チッ」と舌打ちしていたところを見ると、コリスだけは本気だったようだ。でも、そんな悪い仕草、どこで覚えたんじゃ?


 このままではコリスがグレてしまいそうなので、コリスも撫で回し、餌付けして、清く正しい道に引き戻すのであった。



「にゃ! にゃんか追って来てるにゃ~」


 そうこう遊んでいたら、オニヒメがわしの袖を揺らしていたので船尾を見ると、土の鎖にくっつけたエサを追う巨大な黒い魚影が見えた。


「よし! 引け引け引けにゃ~!!」

「「「「にゃ~~~!」」」」


 土の鎖を噛まれてしまっては間違いなく切られてしまうので、リータ達は急いで鎖を引っ張る。その甲斐あって、あっと言う間に土の鎖は回収。次なる準備に取り掛かる。


「リータ、鎖を突き刺してやれにゃ~!」

「はい!」


 黒い魚影はエリザベスキャット号を追いかけているので、近付いた瞬間にリータの鎖が飛び、先端の矛が突き刺さ……


「ハズレちゃいました~」


 残念ながらリータの鉄魔法操作では、黒い魚影より遅いので、簡単に避けられてしまった。


「コリス! オニヒメ! リータの援護にゃ!!」

「「うん!」」


 二人は左右に分かれて交互に【鎌鼬かまいたち】を放ち、黒い魚影を真ん中に追い込む。そこをリータの鎖。今度は深々と突き刺せたようだ。

 黒魔鉱の長い鎖の強度は心配だが、魔力を流していれば切れる事はないだろう。


「やった!」

「まだにゃ! 抜けないように、引っ掛けるように操作するんにゃ」

「こ……こう? うん。刃はこっちに向きました!」

「それじゃあ、集合にゃ~」


 わし以外の皆でリータの掴んでいる鎖を握ると、魔力を流しつつ声を合わせる。


「せ~の!」

「「「「にゃ~~~!」」」」


 一本釣り。全員で一気に引くと、水圧も巨体も関係無く、20メートルはありそうな黒いエイが水面から飛び出した。


「出たにゃ! オニヒメとコリスは頭に【三日月】にゃ~」

「「うん!」」

「メイバイは引き付けて尾を落とせにゃ!」

「はいニャー!」


 まずは遠距離から、コリスとオニヒメの大きな【鎌鼬かまいたち】が飛ぶ。空を舞う黒エイに当ててダメージにはなっているが、切断とはいかないようだ。その頃にはメイバイの射程範囲に入り、大ジャンプ。

 すれ違い様に光の剣を走らせ、四本の尾を切り落とした。その瞬間、黒エイから切り離された尾は、わしの次元倉庫に入れられる。


「あとは……どうしましょうか?」

「そうだにゃ~……とりあえず逃げようかにゃ? メイバイにゃら、にゃんとかするにゃろ」

「ですね」

「「「「にゃ~~~!!」」」」


 黒エイの息を完全に止められてはいないが、縦にも横にもデカイ巨体がエリザベスキャット号に降って来ているのだから致し方ない。わし達はダッシュで前甲板に移動する。

 すると黒エイは、後部甲板に落ちて「ドーン」と大きな音が鳴り、エリザベスキャット号が大きく揺れたのであった。



 わしの作った巨大船ならば、それぐらいの衝撃では壊れないと信じていたが、恐る恐る後部甲板に移動すると、メイバイがナイフを高々と掲げて叫んでいた。


「ニャッニャニャーーー!」


 たぶんメイバイは「とったぞ~!」と言いたいのだろうが、テンションが高過ぎて猫が出ている。

 そこで労いの言葉を掛けながらどうやってトドメを刺したのかと聞いたら、落下前に首だと思われる場所から斬り裂き、はもの骨切りのように、背骨を斬り刻んだらしい。


 なるほどな。そこまでやれば、死んでなくても動くのは困難か。黒い魚ならば、リータ達の攻撃なら余裕っぽいのも確認が取れたな。

 ただ、わしの船が黒エイの血でエライ事になっておる。新船なのに、このままでは魚臭くなりそうじゃわい。


 皆が戦いの話を楽しそうにしていると、血相変えた二人が走って来る。


「さっきの音はなんじゃ!?」

「揺れも凄かったぞ!?」


 玉藻と家康だ。大声を出しながらやって来たが、急ブレーキ。


「「なんじゃそりゃ~!!」」


 黒エイの死骸を見て、わし達は怒鳴られてしまった。


「まったく……やるならやると、わらわも誘わんか」

「そうじゃぞ。ただでさえ、昨日の戦闘は中途半端だったんじゃからな」


 二人は愚痴を言い続けるので、わしは黒エイの身を切り分けて次元倉庫に入れ、血も水魔法で海に流しつつ、反論しておく。


「黒にゃんか戦っても面白くないかと思ってにゃ。それに、操縦してたにゃ~」

「「しかしじゃな……」」

「わしだって手出ししてないんにゃ~」


 なんとか二人を納得させようと頑張っていたら、オニヒメがまた袖を引っ張って来た。


「いっぱい」

「いっぱいにゃ~?」

「うん。いっぱいにゃ~」


 と言う事は……


「そ、総員、臨戦態勢にゃ! 玉藻と家康は前後に分かれて、リータ達は中央を守れにゃ~~~!!」

「「お、おう」」

「「「「はいにゃ~」」」」


 わしが焦って指示を出すと、皆は散り散りに動く。そうしてわしはコックピットのある猫又わしを模した建物の頭の上に駆け登り、360度見渡す。


 おうおうおうおう。魚が水を切り裂き、わらわらと寄って来ておる。黒エイの血に誘われたか? 白に黒、5メートルからその十倍近くある奴も居るかも?


 現状を確認したわしは、音声拡張魔道具を握って指示を出す。


『四方八方、大多数にゃ! 足場を作ったら、各個撃退よろしくにゃ~!!』


 皆は魚を見据えてわしを見ていないが、分かれたチームで手を上げていたので、指示は行き届いたようだ。英語で喋ってしまったけど玉藻と家康も手を上げていたから、言い直す必要はなさそうだ。

 なので、エリザベスキャット号にほどほどに近付いたところで、わしは大魔法を使う。


「【青龍乱舞】にゃ~~~!!」


 氷の龍を、まずは四方に。続いて八方に放って、海を凍らせる。その範囲は、およそ直径300メートル。一網打尽に巨大魚を凍らせ、黒い巨大魚は、ほとんど活け締めになったと思われる。

 だが、白い巨大魚は手強い。氷を割り、エリザベスキャット号に進んでいる。



 動く白い巨大魚は、玉藻、家康、猫ファミリーの格好の的。次々に海に飛び降り、氷を走って攻撃を加える。



 巨大キツネとなった玉藻はエリザベスキャット号の船尾から飛び降りると、10メートルはありそうな白い巨大魚に狙いを定める。


「【氷牢の術】」


 絶対零度の氷の檻。白い巨大魚の頭からエラまでを包み込むと、しばらくして、動きは止まってしまった。


「なるほどのう。楽に倒せるのはいいが、面白味に欠けるのう」


 玉藻は弱点を攻めて次々に白い巨大魚を倒し、楽しみにとっておいた50メートルはある白いアジとの戦闘に突入するのであった。



 巨大タヌキとなった家康は船首から飛び降りると、一番近い10メートルクラスの白い巨大魚に突撃。白い巨大魚は大口を開けて家康を噛もうとしたが、家康は両前脚を鉄のように硬くして、受け止める。


「数が多いから、いちいち遊んでられん。一気に行くぞ! ポーーーン!!」


 白い巨大魚の口内に向けての【咆哮ほうこう】。この一撃で、背骨が尻から突き抜け、白い巨大魚は撃沈した。


「ちと燃費は悪いが、致し方ないのう」


 家康は最強呪術を惜しみ無く使い、次々と白い巨大魚を一撃でほふり、最後に楽しみにとっていた30メートルクラスの白いブリに突撃するのであった。



「左舷を攻めましょうか?」

「うんニャ。あんまり大きいのだと、私達じゃ無理ニャー」

「では、右舷はシラタマさんに任せて行きましょう!」


 リータとメイバイは両サイドを見て相談し、強そうな巨大魚の少ない左舷から飛び降りる。10メートルクラスの白い巨大魚には、前回の経験からリータが全ての攻撃を引き受け、コリス、メイバイ、オニヒメで集中砲火。

 首元から背骨を露出し、斬って砕いて無力化する。そこに、オニヒメの折り紙魔法【千羽鶴】がエラに突入。白い巨大魚は呼吸器官も傷付けられ、沈黙する事となった。


 リータ達は皆で協力し、少し時間は掛かるものの次々と白い巨大魚を倒して進み、20メートルを超える白いシャコとの戦闘に突入するのであった。



 皆がエリザベスキャット号から飛び降りた直後、わしも遊んでいる暇もなく、誰も向かっていない右舷から飛び降りた。

 そこで、息のある白い巨大魚の首を【大鎌】でねつつ、一番最後に回していた40メートルはある白い巨大魚の目の前で止まる。


 これは……スズキかな? 出世魚じゃから大きさで名前が変わるけど、スズキが一番上じゃから……スズキ常務なんてどうじゃろう?

 これではホントに出世しただけじゃ……おっと。【大風玉】!


 スズキ常務は【水鉄砲】を使って攻撃するので、大きな風の玉で相殺し、わしは一気に距離を詰めて、【超大鎌】で首を落として終了とする。


 さてと……けっこう氷が割れておるし、補強しながら皆の助太刀に行こうかのう。


 わしは【青龍】を召喚して氷の面積を増やし、まずは船尾の方向で戦っている玉藻と合流しようとする。

 そうしてまだ息のありそうな白い巨大魚が居たならば首を落とし、玉藻の戦闘区域まで走ると少し様子を見る。



 玉藻の相手は、白いアジ。50メートルってところかな? さすがは玉藻。もう決着がつきそうじゃ。


 わしが見守る中、玉藻は尻尾から雷を複数飛ばし、感電させて白アジの動きを止めた。そこに、トドメで【氷牢の術】。エラを凍らせ、白アジが動かなくなるまで警戒を解かない。

 なので、その近くに【青龍】を落とし、白アジの全身を凍らせてやった。


「人の獲物に何してくれるんじゃ」


 わしが近付くと、さっそく文句を言われてしまった。


「もう決着はついたし、待つだけ時間の無駄にゃろ。それより掃討戦に移行してにゃ~」

「まったく……少しぐらい余韻を楽しませろってもんじゃ」


 玉藻はそう言いながらも、リータ達の戦闘区域を目指して走り、生き残りの巨大魚が居たならば、率先して笑いながら爪で切り裂いていた。

 わしはそれを横目に見つつ、氷を増やして走り、リータ達の戦いが目に入ると、玉藻の尻尾を掴んで止める。


「いきなり尻尾を掴むな! グンッて、なるじゃろ!!」

「ゴメンゴメンにゃ~。でも、リータ達が危なくなるまでは手を出してやるにゃ。玉藻だって、さっき手を出すなと言ってたにゃ~」

「うっ……そうであったな」


 意気揚々と獲物を横取りしようとしていた玉藻は、わしに注意されてしゅんとする。


「まだにゃん匹か息がありそうだし、それで時間を潰しながら、手助けが必要にゃら助けてやってくれにゃ」

「ふむ……わかった」

「じゃ、わしはご老公を見て来るにゃ~」


 こうして巨大魚との戦いは続き、わしは玉藻を置いて、家康の戦闘区域に向かうのであった。

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