015 第2ラウンドにゃ~


「さあ、帰って食事にしましょう。今日はどれだけ食べても減らないわよ~」

「「やった~!!」」

「や、やった~(え~~~!!)」


 ボス狼食べるの? さっきまで喋っていたし、おっかさんもしんみりしていたから食べづらいんですけど~? 兄弟達は大丈夫なのか。野生、強し……

 てか、おっかさんの口振りからすると、全部持って帰る気じゃな。三十匹以上の狼が転がっておるが、我が家まで何往復かかるんじゃろうか? わしの作った氷室にも収まらん。また改築か……


 わしが悩んでいると、女猫がわしに乗っかり、話し掛けてくる。


「モフモフ~。疲れたから運んで~」


 行きもわしに乗っておったじゃろう! たしかに兄弟達より働いていなかったけど、大きさはほぼ変わらんのじゃからおっかさんに乗ってくれんかのう。落とさないように歩くのは面倒じゃ。やんわり断ってみるか。


「わしもほら、いっぱい魔法使ったよ? けっこう疲れたから自分で歩こうな?」

「わたしもだけど、あれも~」


 女猫が狼の死骸を指差す。


 つまり女猫の分も、わしに運べと言っておるのか? それはちょっとわがままが過ぎるのう。次元倉庫を使えば簡単じゃが、たまにはビシッと言ってやろう。


「モフモフならできるでしょ? いつもいっぱいどこかに入れてる~」


 だからなんで知っておるんじゃ! いつも見られないように気を付けておるのに、女猫はどうやってわしを見ておるのじゃ? なんにしても、女猫にこのまま話されるのはマズイ!


 わしは女猫の口をふさごうとしたが、時すでに遅し。おっかさんの目から、過去最大のビームが発射された。わしは慌てて、女猫を乗せたまま飛び退く。


 ハァハァ……いまのはヤバかった。女猫もろとも消し飛ぶところじゃった。地面にも、底が見えないぐらいの深くて大きな穴が開いておる。ホンマホンマ。


「なにしてるの~?」


 女猫よ……わしの嘘をバラすでない。


「さっきの話は本当? もしかして、これ、全部入るの?」

「うん! くさったりしないよ~」


 おっかさんの質問に答えているのはわしでは無い。女猫が胸を張って答えておる……正解! てか、なんでそこまで詳しいんじゃ!


「そう……じゃあ、お願いしようかしら」


 あれ? いろいろ追及されると思っておったが、あっさりしておるのう。ついにわしの行動に慣れたのかな?


 わしは狼達を次元倉庫に全て入れると、皆と我が家に戻り、狼をたらふく食べた。食べ終わると、皆、疲れていたのか、すぐに眠りに就くのであった。



 そして翌日……


「で……昨日のアレはなんだったの?」


 現在わしは、おっかさんと男猫に正座(ただのお座り。気分の問題じゃ)をさせられ、昨日の件を問われておる。そんなわしの背に、女猫がのしかかる。いまは忙しいからやめて欲しい。


「ア、アレとは、なんのことでしょうか?」

「とぼけるな!」

「狼を入れていた魔法よ! そう言えば、狼達に気付いていた理由も聞き忘れていたわね。教えてくれる?」


 おっかさんは、わしに聞かずに女猫に聞く。


 何故に? 聞かれても誤魔化すけど。


「それはね~。モフモフがね~。ブワ~って、なにか出してるの。そのブワ~ってのに触るとわかるみたい。でも、隠れるとわからないみたい~」


 女猫ぉぉぉ! 見えてるの? 見えてたの?? だからわしの探知を簡単に掻い潜っているのか! わしの探知の仕方じゃ、障害物に隠れてしまえば見付けにくい。欠点すら見抜いているとは、天才か!!


「そうなの? 私はわからなかったけど……あっ! 昔、変な音や嫌な感じがしたことがあったわね。なるほど」


 名探偵も居るよ。おっかさんは、あんな説明で良くわかるな。

 男猫は……もう飽きて生肉をかじっておるな。男猫の戦い方は、体が資本じゃからのう。【肉体強化】の魔法まで使っておったし……あっ! これで追及から逃れられるかもしれん。


「みんなも隠してることはない?」


 ギクギクッ


 ビンゴじゃ。女猫の表情はわからんが、その他は肩が動いて目を逸らした。


「兄弟(男猫)の体が強くなる魔法。どっかで見たな~?」

「そ、それは、アレだ……ゴニョゴニョ」

「おっかさんと兄弟(女猫)の風魔法は、よく見るな~?」

「そ、それは、アレよアレ……ゴニョゴニョ」

「エッヘン!」


 歯切れが悪いのう。女猫以外は悪いと思っているようじゃ。男猫は独学で覚えたのかと思っておったが、パクっておったんじゃな。わしの感心を返せ!


「どうやって覚えたのかな~?」

「「………」」


 おっかさんの試験の後、わし一人置いて三匹で出掛ける事が多かったのは、そう言う事じゃったんじゃな。教師は女猫か? よくあんな説明で使えるようになったな。そっちにもビックリじゃ。


「わし一人置いて……みんなで……」


 わしは悲しそうに背を向ける。


 いまの演技なら、主演男優賞も狙えるはずじゃ。演技しなくても言われた通り動く猫なら、猫の主演映画だったら引っ張りだこじゃな。猫又NGとか言われなければ……

 フフ。自分の主演映画を思い描いていたら笑えるのう。皆を騙している最中ってのも、笑いを誘う。じゃが、いまは我慢をしなければ。仕掛け人も大変じゃ。肩がピクピクしよる。


「兄弟すまない」

「そ、そんなつもりはなかたのよ。あなたの魔法がかっこいいから、みんなマネしたくなったのよ。だから、ちょっと練習をね」


 おや? 男猫が何故か謝っておるぞ。おっかさんも何か言い訳をしておる。泣いてると思われた? やっぱり主演男優賞狙ってみるかのう。

 とりあえず、笑っていたのだけはバレないようにしなくては……


「モフモフ。ずっと笑ってるよ~」


 すぐ言う~!! そりゃ女猫はずっと乗ってるからわかるじゃろう。ここは笑って誤魔化そう。

 後ろから「ゴゴゴゴ」聞こえるのは気のせいじゃ。気のせいのはずなのに、冷や汗が止まらん。振り返れない。振り返るなと、野生の感が言っておる。


「どうしてこっちを見ないのかしら?」

「おい! こっちを見ろ!」

「怒らないからこっちおいで~?」


 それは女性が言う常套句じょうとうくじゃ。元の世界で、女房に内緒でキャバクラに行った事がバレた時にも同じ事を言われて、正直に話したのにめちゃくちゃ怒られた。ここは必殺、かわいこぶりっ子じゃ!


「にゃ~ん?」

「騙したわね!!」「騙したな!!」


 もちろん効かない事は知ってた。だって、一回も成功した事がないんじゃもん。


 ぬお! 【肉体強化】を使った男猫が飛び掛かって来た。いまのはヤバかった。昨日より速くないか?


「ちょ、ちょっと待って!」

「待たん!」

「わ! やめて。兄弟(女猫)、下りて!」

「やーーー!」

「嫌じゃない!」

「あなたはこっちに来なさい」


 おっかさんに呼ばれた女猫は渋々わしから下りて、おっかさんの元に行き、何か話をしている。その間も、男猫がじりじりわしに近付いていた。


「話し合おう。話せばわかる。な?」

「問答無用!」


 うお! 男猫のネコパンチがかすった。やっぱり狼達の戦いの時より、動きが鋭い。それはそうと、そんな言葉どこで覚えたんじゃ? わしか。


「にゃ~~~!!」


 男猫の猛攻をなんとか凌いでいると【鎌鼬】が飛んで来たので、わしは大声を出して跳び退いた。


 おっかさんか!?


「わたしもやる~」


 女猫。お前もか……。わしの毛皮の防御力は高いけど【鎌鼬】はアカン! 痛いじゃすまない。


「にゃ! にゃ!? にゃ~~~!!」


 女猫の【鎌鼬】は同じ魔法で弾き、男猫のネコパンチは引き付けてかわして行く。二匹の息の合った猛攻を凌いでいると、おっかさんの特大【風玉】が飛んで来て、わしは辛くもかわす。


 キャット空中三回転……し、死ぬかと思った。


「おっかさんは反則だ!」

「だって~。楽しそうなんだもん」

「二人相手でもきついから!」

「え~~~! じゃあ、私一人で相手するわ。あなた達、交代よ」

「ハァハァ。お母さん、頼む」

「つかれたけど、楽しかった~」


 二人はどうやら限界みたいじゃな。わしは……もう限界じゃ。箸も持てん。ホンマホンマ。猫の手では、そもそも持てないけど……あ、この手で行こう!


「おっかさん。わしも、もう限界だよ」

「そう? 全然疲れているように見えないわよ?」

「ホンマホンマ」


 ビュッ!!


 おっかさんの【鎌鼬】が、わしの鼻先を通り過ぎる。


 ちょっとチビッた……


「死ぬ! 死んでしまう!」

「なら頑張りなさい!」


 わしは覚悟を決めて、自分に掛けていた重力魔法を解除して【肉体強化】を使う。おっかさんはわしの準備が整うと、一気に距離を詰めて肉弾戦に持ち込んだ。


 おっかさんの肉球が何度も降って来る。わしはフェイントを交えて、なんとか避けて行く。最後に力のこもったおっかさんの肉球をかわすと地面にヒビが入り、二人に距離が出来る。



 ふぅ。なんとか避けきった。ちょっと前のわしでは避けきれんかったのう。重力の負荷も上げておったし【肉体強化】も強力になっておる。

 しかし、相変わらずおっかさんの攻撃力は化け物レベルじゃ。妖怪猫又のわしが言うのもどうかと思うが……


「やるわね。もうちょっと付き合ってもらおうかしら」


 おっかさんは、さっきと同じ攻撃を繰り返す。わしも慣れたようにかわすが、さっきと様子が違う事に気付く。


 追い込もうとしてる? ボス狼がやった事を試しているのかな? おっかさんは新しいモノ好きじゃな。それなら誘いに乗って、そこで攻撃を受けて負けるか。

 痛そうじゃが、いまのわしなら覚悟して受ければなんとかなるはず。魔法で軽く防御するし、おっかさんも殺す気は無いじゃろう。あの目は信用できんが、信じておるぞ。おっかさん!


 わしは誘いに乗り、おっかさんの肉球を避け、狙いがバレないように最終地点に向かう。


 これを避けた先がゴールじゃ。あとは、おっかさんの攻撃を痛くないように受けるだけじゃ。


 おっかさんが前脚を振り上げる。その瞬間、わしの背後から衝撃が走る。


 兄弟達のタックル? ヤバイ!? おっかさんの攻撃が………来ないんか~い!


「モフモフ~」

「やっと捕まえた」

「あなた、どれだけ逃げるのよ」

「だって……みんなの攻撃、本気だったよね?」


 わしがジト目で見ると、一斉に目を逸らされた。


 そりゃ必死で逃げるわい! あれで追い駆けっこのつもりじゃったんか? まぁ、これで昨日の魔法の件は逃げ切れたかな?


「で……昨日の魔法はなんだったの?」


 逃げ切れなかったみたいじゃ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る