295 世間話をするにゃ~


 ハンターギルドに、ワンヂェンとコリスを連れ込んだら質問攻めにあった。仕方なく説明するが、なかなかやまない質問に辟易へきえきしたので、さっちゃんを召喚する。


「この子は東の国の国賓です! 剣を向けるような事があれば、わたくし第三王女サンドリーヌが女王陛下に成り代わり、罰を与えるので、重々、肝に銘じなさい!!」


 さっちゃんの言葉に、ハンター達は口を閉ざす。わしは、コリスに乗ってなかったら、もっとかっこよかったと思ったが、口に出さずにびを入れる。


「さっちゃん。権力を使わせてごめんにゃ~」

「ううん。コリスちゃんが剣を向けられるよりましよ」

「それはありがとにゃ~」

「だって、かわいいも~ん」


 う~ん……かわいいから権力を使ったの? そこは、コリスに手を出したらキョリスが怖いからではないのか? まぁ静かになったからいっか。



 コリスとさっちゃん達には、広い場所でくつろいでもらい、わしとリータとメイバイで、買い取りカウンターのおっちゃんに声を掛ける。


「おっちゃん。久し振りにゃ~」

「久し振りだな。しかし今度は、どえらいモノを連れて来たんだな」

「コリスは売り物じゃないからにゃ?」

「ああ。わかっている。女王様に楯突たてつくわけがないだろう」


 女王の親友の、わしの時はしつこかったのに……さっちゃん効果か? さすがに目の前に王族がいたら、口には出来ないか。


「また大蟻のクイーンを狩って来たけど、買うにゃ?」

「クイーン!? どこに居たんだ!」

「東の国じゃないから、安心するにゃ」

「そ……そうなのか?」

「山向こうにいっぱい居るみたいにゃ。これからも、狩ったら持って来ようと思うけど、高く売れるのかにゃ?」

「ああ。貴族の間では、入荷を待っている者も居るぞ。でも、白い巨象には勝てないがな。今日は、巨象は無いのか?」

「そっちも売るにゃ。大蟻と黒蟻もあるから、買い取れるだけ買ってくれにゃ」

「おお! わかった」


 わしはおっちゃんの指示する場所に獲物を出していき、世間話を軽くする。

 どうやらわしが居ない間、王都のギルドは収獲量が減り、物珍しい獲物も見掛けず、おっちゃんは暇していたようだ。なので、長期間の旅は控えて欲しいと言われたが、王様なので難しい。会釈だけして、受付カウンターに向かう。

 受付カウンターに行くと、手前の受付嬢に頼もうとしたら、ティーサが物凄い形相で手招きするので、わし達は苦笑いでティーサの元へ行く。


「ほい。報告書と緊急依頼の完了書にゃ~」

「なんで別のカウンターに持って行こうとしたんですか!」

「空いてて近かったからにゃ~」

「猫ちゃん担当は、私なんですからね!」


 そんなの決まっていたのか? たしかにティーサに頼む事と、当たる率も高かったけど、他の人に受付をしてもらった事もあるぞ?


「まぁまぁ。早く処理してにゃ~」

「もう! 猫ちゃんが居ない間、大変だったんですからね!!」


 ティーサは作業をしながらも、勝手に世間話をして来る。どうやらわしが居なくてギルドに活気が無くなり、難しい依頼を受ける人も居なかったので、収益が減っていたとのこと。

 そのせいでスティナの機嫌が悪く、酒にも付き合わされ、大変だったらしいけどしらんがな。

 ほとんどが愚痴だったから聞いている振りをしていたが、言葉を詰まらせて目に涙を溜め、わしの顔をジッと見つめるので何事かと思い、耳を傾ける。


「でも……生きて帰って来てよかったです~。リータちゃんもメイバイちゃんも、こんなに長く音沙汰が無いから心配だったんですよ~」


 あ……そう言う事か。ハンターなんて、危険な仕事じゃ。ギルドの受付をしていれば、帰って来ない者もいたんじゃろうな。

 仲の良かった者もいたじゃろう。そんな背中を見続けて、送り出していたんじゃな。


「すまなかったにゃ。でも、わしは強いから、絶対に生きてここに帰って来るにゃ。それだけは約束するにゃ!」

「猫ちゃん……」

「そうですよ! シラタマさんは、必ず帰って来ます。もちろん私もです!!」

「私もニャー! 心配してくれてありがとうニャー!!」

「リータちゃん……メイバイちゃん……うぅぅぅ」


 わし達の力強い言葉に、ティーサは涙を流す。その涙に、わしももらい泣きしてしまったら、リータとメイバイに笑われてしまった。

 その声に誘われ、ティーサも泣きながら笑顔に変わり、わしの渡したハンカチで涙をぬぐう。でも、テンプレの鼻チーンはやめて欲しかった。



 そうして復活したティーサは、質問を投げ掛ける。


「それで、隣のワンヂェンちゃんは、ハンターになるのですか?」

「にゃ~? にゃ!? 居たにゃ!?」

「買い取りから、ずっと居たにゃ~!」

「にゃんか目が赤くにゃい?」

「にゃんでもないにゃ!!」


 なんじゃ焦って……この反応は、ワンヂェンまでもらい泣きしておったのか? まぁいまはその事はいいか。


「ワンヂェンも、ハンターになりたいにゃ?」

「狩りはあんまりしてこなかったからにゃ~」

「大蟻の時は戦力になっていたし、やろうと思えばやれるんじゃないかにゃ?」

「う~ん……」

「でしたら、登録だけしておいたらどうですか? シラタマさんが認めているのなら、お強いんですよね?」

「まぁそこそこは魔法は使えるかにゃ~」

「ワンヂェンより、コリスのハンター登録をしたいんにゃけど……」

「うっ……コリスちゃんですか。私の一存ではちょっと……」

「まぁリスだもんにゃ~」

「シラタマだって猫にゃ~!」

「わしの事はいいにゃ~!」


 「にゃ~にゃ~」と喧嘩が勃発すると、二人してリータとメイバイに抱きかかえられて、力業で止められた。

 そうしてわし達の発言で、ワンヂェンが猫であった事を思い出したティーサが、やっぱり登録は出来ないと言ったら、ワンヂェンが落ち込んだ。

 「別になりたくなかったにゃ~」とか言っていたが、強がりっぽいので、本当になりたいなら女王に頼んでやる事にした。コリスのついでだから、猫の一匹や二匹、増えたところでどうって事はないはずだ。すでに猫はいるからな!



 その後、スティナが呼んでいる事を思い出したティーサに急かせれ、わし一人でギルマスの部屋にお邪魔する。


「ほい。コーヒーにゃ~」

「あ、ありがとう……」


 部屋に入ったら仕事中だったので、コーヒーをれてやったのに微妙な顔をされた。納得は出来ないが、そのまま仕事中の机に座り、作業を見つめる。


「……なに? すんごくやり難いんだけど……」

「あ、ごめんにゃ。ちょっとギルマスの仕事に興味があってにゃ」

「シラタマちゃんは、ギルマスになりたいの?」

「いや~……スティナにはいつかバレそうだし、本当の事を言おうかにゃ」

「本当の事ってなによ……」

「絶対に、人に言わないでにゃ?」

「う~ん……ま、シラタマちゃんの秘密なら面白そうだし、黙っていてあげるわ」

「さすがギルマスにゃ~!」


 わしはスティナを褒めながら机から飛び降り、正面に立つと右肩を出してすごむ。桜吹雪なんて描かれていないけど……


「山向こうの国、猫の国の王様とは、このわし……わしがシラタマ王にゃ~!」

「え……ええぇぇ~!」


 ふふん。大絶叫じゃな。ドッキリ成功じゃ。


「……なんてね。知ってた」

「にゃにぃぃ~~~~~~!!」


 わしのほうが大絶叫じゃ!


「なんで驚くのよ?」

「いや……にゃんで知ってるにゃ?」

「だって……猫の国でしょ?」


 ああ! わしにピッタリですよ~だ!!


「ワンヂェンちゃんって可能性はあったけど、シラタマちゃんが、もったいぶって言うから丸わかりよ」

「じゃあ、王都のみんにゃも知ってるにゃ?」

「さぁね~……戦争に参加したって知ってる人ぐらいじゃない?」

「そうにゃんだ……」


 隠しても、隠し切れない、猫問題……。一句読んでいる場合じゃなかったな。


「こっちでは普通に接して欲しいんにゃけど、無理かにゃ~?」

「私は普通に接するわよ~」

「にゃ、にゃんですか? 座っていてくださいにゃ」

「そんなこと言わずに~。ふぅ~」

「にゃ!? 寄らないでくださいにゃ」

「ほら~」

「ゴロゴロ~」


 わしは逃げる事も出来ずに、スティナに挟まれた。いや、逃げる事はせずに、抱かれてしまった。

 逃げると、リータ達にある事ない事言われそうな予感が働いただけで、けっしてエロイお姉さんに抱かれたいわけではない。ホンマホンマ。



 スティナはわしを抱きながら世間話をして来るが、収益が減っただとか、評価が下がっただとか、男が寄り付かないだとか、しらんがな。

 愚痴に拍車が掛かると抱き締めがきつくなって、挟まっているわしは息が出来ないからやめて欲しい。


「だから、普通に接するからハンターは続けて~」

「ムゴムゴ~」

「お願いよ~」

「ムゴムゴ~!!」


 喋れんのじゃ! いい加減、離してくれんかのう。


 わしがムゴムゴ言っていると、ようやく胸に埋もれているわしに気付いて離してくれるが、膝に乗せたまま降ろしてくれない。仕方がないので、そのまま会話を続ける。


「いちおうは、続けるつもりにゃ」

「本当!?」

「ただ、仕事が忙しいから、こっちの活動頻度は低くなるにゃ」

「え~~~!」

「しょうがないにゃろ~? その代わり、白と黒の獣が狩れたら、優先して卸すからにゃ。あと、難しくてどうしようもない依頼にゃんかは、相談してくれたら場合によっては受けるにゃ」

「それならいいか……」

「あ! キャットカップは、もうやらないからにゃ?」

「なんでよ!」

「だって、最後にやった時は、それほど盛り上がってなかったにゃろ?」

「たしかに……賞味期限切れね」


 賞味期限? もうわしは食べ頃ではないのか? まぁ目新しさが減ったのだから、当たらずと言えども遠からずか。


「それでスティナの用件って、にゃんだったにゃ?」

「シラタマちゃんがハンターを続けるかどうか、確認したかったのよ」

「それだけにゃ?」

「大事な事よ! 辞めるつもりなら、私の体を使ってでも止める覚悟だったんだからね!!」

「もう使っているにゃ~」

「あ……」


 こうして、スティナのハニートラップは回避できたが、結局、セクハラを受けながら世間話は続くのであった。

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