558 エネルギー会議にゃ~
「うおぉぉ~! うおぉぉ~! うぅおおおぁぁ!!」
ちびっこ天皇の来猫の翌日、つゆと源斉を連れてソウの地下空洞に来たのだが、源斉が走り回ってうるさい。つゆも見た事があるくせに、数々ある機械を触り倒している。
そのせいで二人とはしばらく話になりそうになかったので、放置してホウジツに会いに行く事にした。
そこで、先日手に入れた黒魔鉱と白魔鉱の巨大矢を見せて商談。ホウジツは、これほど巨大な矢、全てにレアアースが使われているとは信じられないみたいだったので、鉄魔法を使って真っ二つにして断面を見せてあげた。
かなり驚いていたが、すぐに悪い顔に変わっていたから、頭の中で金勘定が始まったようだ。それを鍛冶場に持ち込み、重量を計り、料金表を見ながら二人でソロバンを弾く。
わしから終わり、ホウジツも終わったら、お互いのソロバンを見せ合って「にゃしゃしゃしゃしゃ」と笑う。白魔鉱の巨大矢は、とんでもない価格がついたから致し方ない。
チェクチ族には料金表の写しと、その他雑費で掛かる費用、猫の国への取り分も書いた物を渡すつもりだ。
いちおう勉強が済んだチェクチ族の留学生を、他所の国の商業ギルドに連れて行き、我が国が嘘を言っていないと証拠を見せる事も考えている。
ただ、あまり流通させ過ぎると価格破壊が起こるし、チェクチ族が急激に採掘を始めたら枯渇する懸念もあるから、様子を見て小出しにしていく予定だ。
それに、一気にお金持ちになったチェクチ族がどうなるか予想がつかない。どんな幸せを望んでいるかもわからないので、急激な変化が起こらないようにコントロールする必要があるだろう。
ホウジツから諸々の書類を受け取ったら地下空洞に戻るが、つゆと源斉が見付からない。なので奴隷に居場所を聞いたところ、壁の向こう側に居るとのこと。
壁の向こう側は、猫の国王族の別荘スペース。一軒家とミニゴルフ場と離れ、隠された三ツ鳥居があるのみ。二人には面白い物がないはずなのにと思って移動すると、「ガンガン」何かを叩く音が聞こえて来た。
「当主様、ダメですって~。すみません!」
「ここにもっと凄い物が眠っているのだろ! 止めるな~~~!!」
音の発生源である離れに向かうと、源斉がハンマーを振り回し、つゆが止めている姿が目に入った。なので、わしは狭い額に怒りマークを作って二人に近付く。
「にゃにしてるにゃ~!!」
「シラタマ様!?」
「師匠!?」
わしが怒鳴り付けると、源斉もいちおう悪い事をしている自覚があったらしく、つゆと共にわしの前で土下座する。
ただ、土下座までして謝る事でもないので、わしも二人の前にあぐらを組んで目線を同じにして話を聞く。
どうやら一通りの機械を見て回った源斉は、つゆに他にも何か面白い物はないかと聞いたそうだ。そこでつゆが離れに行けばあると言ってしまったら、テンションマックスの源斉は、壁を乗り越えて離れに向かったとのこと。
しかし、離れはわしが土魔法で硬く封印していたので、扉どころか窓すらない。だから源斉は、作業場にあったハンマーを持って来て「ガンガン」叩いていたらしい。
「そんにゃので開くわけないにゃろ~。てか、待ってたら開けてあげたんだからにゃ~」
「「申し訳ありません……」」
もちろんわしの作った離れは、そんな事ではビクともしない。傷ひとつ付いていないし、源斉も反省しているように見えるので、土魔法を使って大きく穴を開け、空気穴も開けたら二人を呼び込む。
「それでにゃ……」
「うおぉぉ~! うおぉぉおぁぁ!!」
「あ、当主様。それは私の!!」
これから大事な話をしたいところであったが、未来の技術の数々を見た源斉が再びテンションマックスとなり、つゆも久し振りに見たからか触っていたら、源斉に奪い取られていた。
これでは話にならないので、もうしばし時間を置く必要がありそうだ。仕方がないので、串焼き工場で黒い魚を捌いてから奴隷に焼かせる。
ちょっとは落ち着いたかと離れに戻ったら、源斉はまだ騒いでいたので、手が出てしまった。
多少強く叩き過ぎて首の骨が折れてしまったけど、わしのせいじゃない。源斉が悪いんじゃ!
だって、わしが整理していた棚はぐちゃぐちゃ。なんなら機械がいくつか分解されて部品もぐちゃぐちゃ。わしの離れが爆発でもしたかってぐらいぐちゃぐちゃにされて、外にまで機械や部品が散乱していたんだから致し方ない。
いくらわしの失敗作であっても、ここまでされては、怒りで手加減が下手になっても仕方がないのだ。
でも、つゆが平賀家当主殺人事件を目撃して青い顔をしていたので、ちゃんと回復魔法で治してあげた。
源斉を起こしてしまうと片付けがままならないと思い、放置してつゆと一緒に片付けをしていたら、意外と早く目覚めやがった。しかし、離れに入れると邪魔なので、何度もネコパンチで意識を奪ってやった。
「にゃん回同じ事をするんにゃ! いい加減落ち着けにゃ~!!」
源斉は無駄にマッチョなので、気絶耐性があるらしく、五分ごとに目を覚まして向かって来るから、落ち着くまで土魔法で拘束。口も仮面のような物で塞いだから、なんだか喋らない羊に出てくる博士みたいになってしまった。
とりあえずそれで片付けは
「つゆもいまはいいから、まずは片付けにゃ!」
「はひっ! すみません!!」
勝手に修理しようとするつゆに釘を刺し、なんとか床に散らばった物は片付いたので、テーブルにビクター……源斉博士もくっ付けて、本題に入る。
「さてと……二人のせいで昼を回ってしまったけど、第一回エネルギー会議を始めるにゃ~」
「エネルギー会議?」
「ムゴムゴムゴ?」
「言葉のままにゃ。源斉は英語を知らないから日本語に訳すと、燃料会議にゃ」
「ムゴ~」
源斉は猫の国に来た理由をようやく思い出して頷いているが、つゆは知らなかったので、源斉の作った新型電池を見せて、電力不足の話をしてあげた。
「なるほどです。でも、私なんかじゃ、役に立たないと思うのですが……」
「そんにゃ事はないにゃ。これから猫の国でも使う技術にゃんだから、勉強しておいて欲しいんにゃ」
「は、はい! わかりました!!」
つゆもやる気を出したところで、部屋の端にあった黒板をガラガラ引いて来て、チョークでカツカツと、発電方法を覚えているだけ書き出す。
水力発電、火力発電、風力発電、地熱発電、潮力発電、太陽光発電、バイオマス発電。その名前の下には簡単な発電方法を書き、黒板を見ながらランチを始める。
源斉も興味が黒板に移っていたようなので拘束を解いたら、黒板を見ながらサンドイッチをかじってはブツブツ言っている。
まぁそれはいいのだが、わしの知識や始めて食べるパンにも、まったく質問して来ない。本当に技術以外、興味がないようだ。
逆につゆはモグモグ質問して来るので、わしもモグモグ答える。それから食後のコーヒーまで堪能すると、本格的な会議に移る。
「食べながらでも、一通り頭に入ったにゃろ? いまから詳しく説明するから、こっから候補を絞って行こうにゃ」
「「はい!」」
二人はいい返事をくれたので、メリットとデメリット、製造方法を説明し、意見をぶつけ合う。それから長く話し合って夜の八時頃になると、ようやく発電機の候補は絞られた。
次は作る順番だが、夕食時にはかなり遅くなったので、食べながら話し合う。
「一番手っ取り早いのは、風力かにゃ~?」
「ですね。でも、多く配置すると風を奪う事になりますし、近くの人に健康被害が出るのは怖いです」
「対策としては、数を少にゃくするか、人里から遠ざけるか……ま、どっちにしても、どれも安定した電力にならにゃいし、複合的に使って行くしかないにゃ」
源斉はあまり話に入って来ないので、つゆと話し込んでいたら、源斉がピシッと手を上げた。
「太陽光発電をやりたいであります!」
「わしもやりたいんにゃけどにゃ~……いまいち知識がないんにゃ。源斉はゼロ……零から作れるにゃ?」
「うっ……それを考えていたんですが、
アイデアか……あんな説明だけでリチウムイオン電池を作った源斉なんじゃから、ワンアイデアさえあれば、作れるかもしれんな。
二人が見詰める中、わしはさっき仕分けた物をゴソゴソと漁り、石と色違いのボールを二個持って来て、テーブルの上に並べる。
「これを見て、源斉はにゃにかわかるかにゃ?」
「いえ……さっぱりです」
「そっちの白い物と、黄色い物を触ってみろにゃ」
「はい……どちらも弾力がありますね。面白い……」
「黄色いほうは、ゴムの木の樹脂を固めた物にゃ。日ノ本では無いのかにゃ?」
「ええ。ゴムですか……何かと使えそうな物ですね。しかし、白いほうは、ゴムではないのですか?」
「白いほうはシリコンにゃ。そっちの石から抽出した物質で出来てるんにゃ」
「「石が柔らかくなる!?」」
つゆも驚いていたので、ここでシリコン講座。
シリコンは昔、会社で研究していた時期があったから、わざわざ鉱山に出向き、それらしい石を見付けては持ち帰り、手に入る薬品を使ってなんとか作った品だ。
ゴムの木は南の国で増産中だったので、ボール等の発注を受けるだけで精一杯だったから、代用品にならないかとシリコンを作ってみたのだ。
ただ、いまある設備だけでシリコンを作る事は大変で、時間も掛かる。そこで、ヤマタノオロチの血が手に入ったから、ゴムの木に栄養水をぶっかけて無理矢理成木にしたから必要が無くなった。
南の王にめっちゃ感謝されたけど、格安で買い取っているから少し心苦しい。しかしゴムの輸入があるおかげで、バス等の足回りが良くなったので、ウィンウィンだ。いや、猫の国の利益が多すぎるので、ボール等の権利は半分あげた。
この事からシリコン製作は誰かに引き継ごうと考えていたけど、すっかり忘れていたのだ。
シリコンの作り方についての説明を終えると、源斉に尋ねる。
「これを板にして上手く使えば、太陽光から電気を作れるんにゃけどにゃ~。にゃにか思い付きそうにゃ?」
「ここまで出て来ているんですが……もう一声!!」
「う~ん……あとは~……植物にゃんかも使えるって聞いたけど、専門外にゃからにゃ~」
「どういうことですか!?」
「植物ってのはだにゃ。葉に葉緑体って器官があってにゃ、太陽光を浴びて栄養を作り出すんにゃ」
「なるほど……太陽光発電に似てますね。栄養とは、すなわち燃料……」
「いや、そこから電気は生まれないにゃ。たしか余剰分のエネルギーを根から吐き出して、そこに集まる微生物が電気を作る……太陽光発電と関係なかったにゃ。にゃはは」
話をしながら失敗に気付いたわしは頭をポリポリ掻くが、源斉は何か浮かんだのか、ハッとした顔をした。しかし、アイデアが消えたら下を向き、またハッとしたかと思ったら下を向く。
何やら一人で顔を上下していて声を掛けづらいので、つゆと「日ノ本発電計画書」の作成に移行。大プロジェクトなので、人を多く使うから大事な作業だ。
たぶん実地調査なんかは天皇家が人を使う事になると思うので、分業できるように計画書を書いていき、細かい作業は平賀家に任せる事にする。
まぁ新型発電所等の建設作業は、水力発電所を作った平賀家に任せておけば、ちょちょいと設計図ぐらい引けるだろ。
「こんにゃもんかにゃ?」
「さすがシラタマ様です! これなら工事も
「いや、大まかにゃ流れしか書いてないにゃ~」
ほとんどというか、全部、天皇家と平賀家に丸投げするので、つゆに大絶賛されるのは心苦しい。
そうして、なんかつゆがわしに擦り寄って来たから押し返していたら、源斉のカクカクがついに止まった。
「にゃんか思い付いたにゃ?」
「ぷ……」
「「ぷ……にゃ?」」
「ぷしゅ~~~」
残念ながら、源斉の頭はショート。さっき治した首も折れたのか、首だけ後ろ向きに倒れた。
「源斉!?」
「あわわわわ」
「死ぬにゃ~~~!!」
本日二度目の死の危機に、わしは必死に源斉の首を治すのであったとさ。
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