562 ちびっこ天皇を送り届けるにゃ~


 誕生日会の翌日、朝食の席でイサベレに熨斗のしを付けて返そうと頑張ったら、なんとか女王は受け取ってくれた。当分旅には出ないので、居てもうちの食費がかさむから、受け取ってくれて助かった。

 ちびっこ天皇は、何やらさっちゃんよりも女王の母性に引かれたらしく、二人で話に花を咲かせるのはいいのだが、わしを飛び越して勝手に約束を取り付けないで欲しい。

 このままでは女王の傀儡かいらいになるぞとお玉に耳打ちし、玉藻が戻ったら絶対に報告するようにと言っておいた。お玉はまだ、玉藻ほどちびっこ天皇に強く出れないようだから、早く玉藻が戻る事を望む。


 食事が済めば、女王一行は帰るのだが、ちびっこ天皇がグスグス泣いて女王から引き離すのは大変だった。


 女王の母性……恐るべし。あと、子供が泣いているのに、その邪悪な顔が怖すぎる。ぜったい日ノ本を狙ってる顔じゃもん!


 わしとさっちゃんはプルプル震えながら抱き合っていたが、そのせいでさっちゃんを引き離すのに大変だった。モフモフ言ってるだけのクセに……



 女王一行が数台の車に揺られて帰ると、わし達は掃除をしてから猫の街に帰ろうとする。双子王女とちびっこ天皇達は役に立たないのでその他でやるのだが、お春に止められた。王族総出で掃除するのはおかしいらしい。

 だが、東の国では猫で通しているからと説得してお掃除続行。大人数でやったからすぐに終わったが、大事な事を忘れていた。


「にゃ!? 今日、万国屋との取引の日にゃ!!」


 現在の時刻は11時過ぎ。一週間に一度、三ツ鳥居が開くのは10時頃と決まっているので、転移して帰ってもとっくに閉まっている。


「あっちゃ~……陛下の帰りは、一週間延びちゃったにゃ」

「な、なんだと!? 今日帰る予定だったのに……なんとかしてくれ!」

「にゃんとかと言われても……休みが増えてよかったにゃ~。にゃははは」

「あ……それもそうか。帰れないんじゃ仕方ないな~。あははは」


 二人で笑ってみたものの、ちびっこ天皇の仕事が立て込んでいるし、今日帰らないと家臣が心配すると、お玉に言われていた。

 しかし、わしには関係ない話なので、しらんぷり。仕事をしない王様仲間が増えて、喜ばしい限りだ。


「送ってあげなさい!」

「シラタマ殿の仕事しない病がうつったらどうするニャー!」


 喜んではいけなかったようだ。わしだけリータとメイバイにガミガミ言われてしまったので、仕方なく送る事となってしまった。



 とりあえず、今日中に帰るには急がないといけないので、城にある三ツ鳥居を使う事となった。なので、さっきお別れしたばかりの女王と面会。

 若干、お互い気恥ずかしいが、三ツ鳥居の使用許可書にサインして、城の一番端にある建物から猫の街の三ツ鳥居集約所に移動した。

 皆を役場に送り届けると、わしはその足で工房に向かう。予想通り、つゆと源斉は工房に寝泊まりしていたようなので、取っ捕まえようとしたが、待ったが掛かってしまった。


「陛下にも迷惑かかるんにゃから、さっさと行くにゃ~」

「これ! これだけ!!」


 どうやら源斉とつゆは、協力して研究をしていたようだが、太陽光発電じゃない。わしがさじを投げたラジオセットを二人でイジッていたようだ。


「どこまで進んでいるかによるにゃ~」


 わしもラジオは早く実現したいから、電報を作った平賀家なら余裕かと思い、天才の源斉に任せたので、二人に説明を求めると何も進んでいなかった。スイッチを押しても、うんともすんとも言わない。


 だから叩いても一緒だと思う。諦めの悪い奴等じゃ……


「さあ、行くにゃ~」

「ラジオ~~~!」


 なので源斉は、またなんとか博士みたいに拘束して運び、つゆの叫び声が響くのであった。

 ちなみにつゆは、源斉の事よりラジオと引き離された事に泣いていたが、工房の出口まで進んだところで、掃除機を思い出して戻って行った。


 源斉博士は確保したので、バスの屋根に乗せて役場に戻る。そうしてここでランチ。源斉の拘束は解けないので、お春には食事を源斉の口に放り込んでもらい、わしも腹に掻き込む。

 モグモグしながら、平賀家に用事があるから今日中に帰れない可能性があるのでリータ達も誘ってみたのだが、難しい話はついて行けないと断られてしまった。少し寂しいが、断られたものは仕方がない。


 京で羽を……徹夜で仕事か~。大変だな~。


 リータ達に「遊びに行くなら殺す……」的な殺気を放たれたわしは、心の声を微調整。大変さをアピールしたから、たぶんバレなかったはずだ。



 食事が終われば、ちびっこ天皇達に忘れ物は無いかと確認して、飛行場からソウに向けて飛び立った。

 ソウに着いたら、これから見せる物は他言無用と、お持ち帰りを禁じた誓約書にサインをさせる。電気についてペラペラ喋りやがった事もあり、もしも破った場合は、酷いペナルティーを付けておいた。


 そうして巨大エレベーターから地下空洞に出ると……


「「うわ~~~!」」

「モゴモゴ……ふぉーくりふと~~~!!」


 ちびっこ天皇もお玉もうるさい。ついでに拘束具を噛み砕いた源斉もうるさい。


 でも、わしの作った拘束具を噛み砕いて、源斉の歯は大丈夫じゃろうか?


 さすがに驚きと心配が勝ったが、普通に喋っていたから大丈夫そうだ。それよりも、あっちこっち行こうとするちびっこ天皇とお玉をお縄にしなくてはならない。

 なんでリータ達を無理矢理にでも連れて来なかったのかと後悔しながら、三人を引っ張るわしであったとさ。



 なんとかかんとか別荘スペースに連れ込んだら、一番奥にある壁に連行して、互い違いの壁の裏に回る。

 するとそこには、ふたつの三ツ鳥居が設置されていた。


「こんな所に三ツ鳥居が……何故、隠すようにしているんだ?」

「う~ん……これも秘密事項にゃ。お玉……ちょっと話があるにゃ」


 ちびっこ天皇の質問にはわしからは答えられないので、少し離れて話を聞く。やはりお玉は知っていて、ちびっこ天皇には話は通ってなかったので目隠しの必要があるようだ。

 なので、ちびっこ天皇には無理矢理目隠しをしてお玉に担がせ、源斉は棺桶に入れてわしが担ぐ。そして、片方の三ツ鳥居に触れて呪文を唱えて通る。


 通り過ぎた場所は、御所の玉藻の隠し財産がある地下室。いちおうわしも口止めをされていたので、知らない人には見せられないから、ひと手間掛けたというわけだ。


 この三ツ鳥居は、本当は取っ払おうかと考えていたが、地下空洞の回復機能を使えば補充は日ノ本側だけで済むので、玉藻も残す決断に至ったのだ。

 もちろんわしも鍵はコピーしていたので扉を開けようとしたら、お玉もスペアキーを持っていたから、先に源斉を上に運んでもらった。

 その間わしは、ちびっこ天皇と雑談しながら三ツ鳥居の補充。お玉が戻って来た頃に補充が終わったので、ちびっこ天皇を担いで階段を上がる。


 全ての扉にしっかり鍵を掛けて外に出ると、ようやくちびっこ天皇と源斉は自由の身。拘束を解いてやった。


「ここは……御所……。ボクの知らない三ツ鳥居があったのだな……」

「今回は緊急事態だったから使わせてやったんにゃ。絶対に喋るにゃよ~?」

「ああ……しかし、あの機械の数々……」

「だから忘れろにゃ~。じゃにゃいと、契約通り、猫小僧が出るにゃ。三種の神器が盗まれて、日ノ本のどこかに埋められるから気を付けるにゃ~」

「うっ……わかった。シラタマを止められる兵力がないから諦める……」

「わしじゃないにゃ~。猫小僧が盗んで埋めるんにゃ~」


 そんな事をしたら、玉藻どころか日ノ本が怒り狂うからしないけどな。じゃが、どこに埋めたかわからない物を探す労力を考えたら、危険を冒す事は出来んじゃろう。

 怪盗猫又に盗めない物はないんじゃ~! 主に力業で……


「さてと……そんじゃ、わしは行くにゃ~」

「しばらく泊まって行くのではないのか? もてなすぞ??」

「早く帰らにゃいと怒られるから、江戸の三ツ鳥居でも借りるにゃ~。まったにゃ~」


 ちびっこ天皇に適当な挨拶をすると、源斉を担いで御所を駆け抜け、塀を飛び越え、平賀家の屋敷まで走る。平賀家とは少し話があったからここに来たのだが、時差を忘れていたので、もう夕暮れだ。

 本当は今日中に仕事を終えて帰るつもりであったが、仕方がないので今日はお泊まり。源斉には明日、顔を出すと言って宿を探す。


 しかしながら、いまから宿を探すと池田屋になってしまいそうだったので、ここは知人を頼る事にした。



「さあ! わしを夜の娯楽に連れ出してくれにゃ~!!」


 ここは京一番の大店おおだなである厳昭みねあきのお店。店の中で叫んでみたら、わしの顔を見たキツネ旦那が奥に消えて行き、ほどなくして、厳昭と、ちょうど同席していたキツネ店主が揉み手で現れた。

 今回は急ぎの仕事は無かったらしく、厳昭の経営する高級旅館で飲み明かす。キツネ耳舞妓も呼んでくれたので至れり尽くせり。なので、ヤマタノオロチ肉をバラまいて楽しい夜を過ご……


「商談は手紙だけでいいにゃろ?」

「いやいや。また新しい物の開拓をしないといけまへんねん」

「その事を話していたから、ちょうどよかったです~」


 どうやら二人で新規事業の話をしていたらしく、そんな所に猫がチュールをしょって現れたから……チュールはわしが食べるのか。鴨がネギしょって現れたから、からんで来ているようだ。

 しかしわしは夜遊びを満喫する為に日ノ本へ来ている。だが、二人の鉄壁防御のせいで舞妓さんに近付けない。

 結局はキツネ店主と厳昭のゴマすりに負けて、面倒事を片付けてからキツネ耳舞妓と遊ぶしか手が無かった。


「ナマ物を運ぶのは怖いから、次は酒でいいんじゃないかにゃ?」

「それでんがな!」

「たしかに洋酒なんて珍しいから売れます!」

「「コ~ンコンコン」」


 二人は悪い顔で笑い出したが、今日のわしは急いでいるので乗ってあげない。とりあえず、わしが趣味で集めていた各国の酒を取り出して、キツネ耳舞妓も含めた試飲会を開催。

 ウィスキーにワイン、リキュールにスピリッツ、ビール等々。全て味が違うから、飲んだ者は、日ノ本に居ながら世界旅行を楽しめているようだ。


「まぁ他にもあるかも知れないから、ホウジツに集めさせておくにゃ。だから次回の入荷の際に、どっちかソウに足を運んでくれにゃ」

「へい! となると、お土産が要りますね……こちらも試飲用の酒を用意しておきます~」

「それはいいにゃ~。清酒もいいけど、焼酎にゃんかもいいかもにゃ~」

「いまある物をここに!!」


 この旅館にも厳昭の酒コレクションがあったらしく、各地の清酒と焼酎が並び、チビチビ飲んでいたら、懐かしくってついつい飲み過ぎてしまうわしであった……



「うっうぅぅ……はっっ!?」


 翌朝わしは、怖い夢を見て目が覚めた。


 つつ~……はて? 昨夜は何をしておったのかのう。たしか質屋達から接待を受けて……そうじゃ! 飲み過ぎてそのまま酔い潰れてしまったんじゃ。せっかく舞妓さんと遊ぼうとしていたのに~~~!! ……ん?


 わしは布団から体を起こすと、手にふぁさっと何かが当たった。


 モフモフ……いや、尻尾……ま、まさかわしは、一線を……


 隣には、知らない白塗りのキツネが寝ていて、わしの狭い額から滝のような汗が流れる。そうして固まっていたら、キツネも目覚めて体を起こした。


 めっちゃこっち見てる……化粧をしてるところを見ると、キツネ舞妓で間違いなさそうじゃけど……

 覚えてないわしも悪いけど、お前もお前でなんか言ってくれんかのう……怖いから!


 約一分ほど見つめ合う猫とキツネ。布団が汗でジットリして来た頃に、ようやくキツネが声を出した。


「もしかして……シラタマさんですか??」

「にゃ? その声は……質屋にゃ??」

「なんでわての顔を覚えてへんのですか!!」

「セーフにゃ~~~!!」


 キツネの顔なんて覚えられないのだから、ツッコミは無視。浮気疑惑の晴れたわしは、心底ホッとするのであったとさ。

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