099 ご先祖様じゃないにゃ~


「猫ニャ!?」

「猫耳にゃ!?」


 女王に抱っこされて、連れて来られた地下牢には、猫耳姿の十代半ばの女性が居て、わしは驚き、猫耳の女性もわしの姿に驚き、お互いの特徴を叫んでしまう。



 おお! 猫耳娘じゃ!! 尻尾も動いてる!! 孫が見たら喜ぶぞ。見せてやりたかったのう。無理か。しかし、異世界に来て、初めてのファンタジー要素かもしれん。一番のファンタジーは、わしってツッコミは受け付けん!

 女王が会えば信じると言っていたのはこの事か。この国で黒髪、アジア系の顔立ちでも珍しいのに、猫耳と尻尾が付いているならば、間違いなくこの国の者ではないな。

 でも、なんでメイド服なんじゃ? 可愛い子じゃから似合うけど、女王の趣味か?


 さて、どこからツッコンだらいいものか……ちょっと待て。猫耳と思ったけど、獣耳をそう思っただけかもしれん。猫耳は見慣れておるしな。


「あの……ご先祖様ですかニャ?」


 まだ混乱しているから、ツッコムところを増やさないで欲しい。一言で二つも増えた。じゃが、猫で合ってるみたいじゃ。順番は違うけど、ここからツッコもう。


「違うにゃ!」

「その姿……その尻尾は、ご先祖様ニャー!」

「違うって言ってるにゃ~」

「私はご先祖様の子孫ですニャー」

「聞いてくれにゃ~」

「フフフ」

「にゃんで笑うにゃ!」

「だって、あなた達のやり取りときたら、「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」言ってるんだもの」


 うっ……パクリ娘のせいで笑われた。漫画の中の猫の亜人みたいに、言葉に「ニャ」が付いてるけど、やはり漫画は事実が書かれていたのか?

 そんな事より、子孫じゃな……そう言えば、おっかさんの昔話に猫又が出て来ておったな。もしかして、ご先祖様は人間とヤッちゃった? わしとリータが結婚したら、この子みたいな子供が生まれるのかな?

 う~ん。まだ考えたくない。この子の事は、一旦保留にしよう。


「ちょっと君は黙っているにゃ。女王。この子はなんにゃ?」

「あなたの知り合いじゃなかったのね。この子は東の山を越えて来たみたいなの」

「あの大きな山をにゃ!?」

「見つかった時には、ひどい怪我をしていたわ」

「仲間達と一緒に逃げて来たけど、みんな死んだニャ……」


 仲間を亡くして可哀そうじゃが、情報を増やさないでくれ。


「それで、この子が戦争の情報を持って来たのかにゃ?」

「そうよ。この子のおかげで準備が出来ているわ」

「そんにゃ子を、にゃんで地下牢に閉じ込めているにゃ?」

「一部の者しか知らないけど、名分は捕虜って事になっているからよ。それと見た目もね……」

「猫だにゃ~」

「ご先祖様に言われたくないニャー!」

「君は黙っていてくれにゃ~。危険がないにゃら、もう少しいい部屋でもいいじゃないかにゃ?」

「それは契約魔法で縛られているからよ。もしかしたら、近くに主が居て、命令が下される可能性があるから、安全のために閉じ込めるしかないのよ」

「解除は出来ないのかにゃ?」

「この国の魔法と違っているから、難しいわね」


 出来ないか~。こんな子を地下牢に閉じ込めているのは忍びないが、仕方ない事か……いや、魔法で縛っているなら、アマテラスから貰った魔法書さんに載っているかもしれない。


「契約魔法が解除できたら、せめて明るい所に移動させてくれるにゃ?」

「ご先祖様。私は大丈夫ですニャ。美味しい食事、綺麗な服、奴隷なのに、こんな生活が出来て幸せニャー」

「先祖じゃないって、言ってるにゃ~」

「出来たとしても、見た目がこれじゃあ、城を歩かせるわけにはいかないわね」

「猫だからかにゃ?」

「そうだけど……もう歩いているわね」

「わかったにゃ。わしが貰って行くにゃ」

「……いい案かもしれないわね。解除できたら頼むわ」

「そっちで出来ないにゃら、わしがやるにゃ」

「国の優秀な魔法使いが無理なのに、シラタマじゃ無理よ」

「やるだけやってみるにゃ。君、魔法の名前を教えるにゃ」

「出来るニャ? たしか……」



 わしは猫耳娘に魔法の名前を聞くと、魔法書を開いて検索する。魔法書は、火の魔法と検索したら、何万と出て来て使いにくいが、正式名称がわかれば一発で検索に引っ掛かる。

 今回は正式名称で検索したので、すぐに魔法はわかったから、あとは実行するだけだ。


 う~ん。実行し難い。猫耳娘に掛かっている魔法は【奴隷紋】。背中全体、尻まで刻まれているのか。全裸になってもらわないといけない……しかも、こんな注意事項どうしろと? ええい! 成るように成れじゃ。


「君はわしの事を信じられるかにゃ?」

「ご先祖様なら、なんでも信じられるニャー」

「ご先祖様じゃ……もういいにゃ。女王、鍵をくれにゃ。それと、二人っきりにして欲しいにゃ」

「何するつもり? ま、まさか……」

「言い方!! 掛かっている魔法を解くだけにゃ」

「冗談よ。ちょっと待ってて」



 女王は一度、地下牢から出て、わしに鍵を渡してから、また外に出る。わしは鍵を開けて、牢屋に入ると猫耳娘に指示を出す。


「服を脱いで、ベッドにうつ伏せで寝てくれにゃ」

「はいニャ!」

「ちょ、後ろ向くから待つにゃ。はいにゃ。いいにゃ~」

「??」


 いきなり脱ぎ出すって、この子には羞恥心と言うものがないのか。


「うつ伏せになったニャ」

「それじゃあ、始めるにゃ」


 わしは猫耳娘に股がると、魔法書を開き、魔法書に書かれてある呪文を頭の中で念じながら、背中から尻に触れる。すると猫耳娘は……


「あ……ああ……あ~~~ん!」


 なんちゅう卑猥ひわいな声を出すんじゃ!!


「お楽しみみたいね……」

「ち、違うにゃ~~~!!」


 出て行く振りをして、一部始終を見ていた額に青筋を浮かべた女王に、わしはまた怒られてしまった。


「これで……終わりにゃ~」

「こ、こんなの初めてニャ。気持ち良かったニャ~。もうダメニャ~」

「本当に魔法を解除していたのでしょうね?」

「本当にゃ~。ほら背中も綺麗になったにゃ。にゃ?」

「たしかに……」


 わしは猫耳娘に掛かった【奴隷紋】の解除を、魔法書に書かれた通りに実行した。魔法書に書かれていた内容はこうだ。

 【奴隷紋】を刻む、もしくは解除する時に、魔力が少ないと耐え難い激痛が走り、魔力が多いと耐え難い快感を与えるらしい。


 こんな事になるとは……。激痛より快感を選んで失敗じゃったかも……


「もう服を着ていいにゃ」

「フニャ~」

「もう一度聞くけど、本当に……」

「女王はずっと見ていたにゃ!」

「そうだけど、この子を見ていると……私もやってくれない?」


 この女王は……それは女王様の仕事じゃろう! お猫様はそんな事せんわ!!


「女王は奴隷でも、にゃんでもないにゃ」

「ケチ~」


 女王はやっぱりさっちゃんの母親じゃな。駄々のこね方が似ておる。


「これで、連れ出してもいいかにゃ?」

「いいけど……戦争の事はまだ秘密だから、周りになんて説明するの?」

「それは……」


 考えて無かった……。一緒に暮らす事になるから、リータとさっちゃんに間違いなく怒られる。どうしたものか……


「さっちゃんとリータには、本当の事を言っていいかにゃ?」

「サティにはいいけど、リータにはダメね」

「そこをにゃんとか! それさえ出来たら、この危機を乗り越えられるにゃ。頼むにゃ~」

「わかったわよ。その代わり……わかっているわよね?」

「リータにはちゃんと言っておくにゃ」

「違うわよ」

「騎士にはならにゃいけど、女王の依頼はちゃんとするにゃ」

「それも違うわ。今度、一緒に寝ましょうね。シラタマ成分が足りていないのよ」


 間違いなくさっちゃんの母親じゃ! さっちゃんと同じこと言っておる……もう猫耳娘を連れて帰るのやめようかな? じゃが、地下牢に閉じ込めているのはかわいそうじゃ。


「うぅ……わかったにゃ」

「やった! 絶対よ~」



 こうしてわしは、自分の身を売って、猫耳娘を引き取ることに成功した。


 猫耳娘の設定を、どうするか女王との話し合いの結果、対外的には猫耳娘はわしの親戚と言う事になった。

 女王は猫耳娘をわしの娘にしようとしたが、絶対バレると断固拒否した。「そのほうが面白いのに~」と、言っていたが、無視してやった。

 女王の話も終わったみたいなので、猫耳娘を引き連れ、女王の部屋に残していた昼食を食べに戻ったら、片付けられていた。

 泣く泣くリータと合流しようとメイドさんに居場所を尋ねたところ、さっちゃんの部屋にいるらしい。嫌な予感がするので、部屋にはすぐに入らないで、ドアの隙間からのぞいて見る事にする。


 う~ん……どういう状況じゃ? ソフィ達はいないみたいじゃけど、さっちゃんが orz ってなっている。リータも何か勝ち誇ったような顔をしているし……平民が王女様に何をしたんじゃ?



「ご先祖様、入らないニャー?」

「いま、入りづらい雰囲気にゃ。……にゃ!?」


 隙間から見ていたわしは、さっちゃんに気付かれてしまった。さっちゃんはわしと目が合うと、ダッシュでドアに近付き、勢いよく開ける。


「シラタマちゃん! って、猫耳??」


 さっちゃんはわしを見て、猫耳娘を見ると混乱した。


「えっと~」

「まあまあ。落ち着くにゃ。中に入って座るにゃ~」


 ソファ-に座ったさっちゃんは、紅茶を一口で飲み干したら復活した。


「その女、誰よ!!」

「この猫耳娘は、わしの娘ってせっ……」

「「むすめ!?」」

「シラタマさん……その姿じゃ結婚出来ないって言ってたじゃないですか! 嘘ついたんですか!!」

「待つにゃ~! 話を聞くにゃ~」


 しばし、さっちゃんにポカポカと、リータにズシズシとわしは叩かれた。なんとか落ち着かせて、二人に猫耳娘を引き取った理由を説明する。


「だから、女王の娘設定は拒否したにゃ」

「な~んだ。そう言う事ね」

「ビックリさせないでください」

「二人が話を聞かなかっただけにゃ~」

「「エヘヘヘ」」


 なんだかさっちゃんとリータは、息が合って来たな。仲良しになったのか? それとも、敵の敵は味方ってヤツか……


「ところで、その子の名前は?」

「名前にゃ? そう言えば、まだ聞いてにゃかったにゃ」

「私もご先祖様の名前、聞いてなかったニャ」

「それでよく親戚設定なんてするわね」

「忘れてただけにゃ~。わしはシラタマって言うにゃ。だから、ご先祖様はやめてくれにゃ」

「私はメイバイニャ。シラタマ様でいいですかニャ?」

「様も敬語もいらないにゃ」

「じゃあ、どう呼べばいいニャ?」

「普通に……」

「親戚設定だから叔父さんでいいんじゃない? リータが叔母さん役で……そうだ! シラタマちゃん!!」

「にゃ! 急になんにゃ?」

「リータに婚約指輪あげたって……わたしと言うものがありながら、どう言う事よ!」


 リータが見せたのか……それでさっちゃんは orz ってなっておったのか。よけいな事を……


「まだ結婚するか決まってないにゃ。将来的にそうにゃるかも知れにゃいけど……」

「まだ決まってない? じゃあ、わたしにも婚約指輪をちょうだい!!」

「にゃんでそうなるにゃ!」

「王女様。シラタマさんには、もう決まった私が居るんですよ」

「ぐぬぬぬぬ」

「王女らしからぬ声を出すにゃ! リータも挑発するにゃ~。しょうがないにゃ~」


 わしはリータの時に使った白い鉱石を取り出すと、鉄魔法で操作して、リータとデザインを変えた指輪を作り出す。


 そうしてわしは、さっちゃんの右手を取り、薬指に指輪を嵌める。


「結婚指輪!!」


 喜んださっちゃんは、すぐさま左手の薬指に付け替えて叫ぶのであった。


「「違(います!!)うにゃ~!!」」


 もちろん、わしとリータも叫ぶのであった。

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