100 メイバイの話を聞くにゃ~


 さっちゃんに指輪を贈り、機嫌を取って笑顔に出来たが、今度はリータが膨れてしまった。


「シラタマさんのバカ……」

「リータもさっちゃんの性格知ってるにゃ。挑発するにゃ~」


 わしがリータを宥めていると、メイバイが話に入って来る。


「ご先祖様はモテモテだニャー」

「いい加減、ご先祖様はやめるにゃ~」

「じゃあ、シラタマ殿って呼ぶニャ」

「もうそれでいいにゃ」


 呼び方が決まると、今度はさっちゃんが質問して来た。


「ところで、シラタマちゃんって、メイバイのご先祖様なの?」

「違うにゃ」「そうニャ」


 さっちゃんの質問に、わしの否定とメイバイの肯定が重なった。


「どっちなの?」

「メイバイは勘違いしてるにゃ」

「そんな事ないニャ。ご先祖様は尻尾が二本あって、丸みの帯びた体をして、二本足で歩いていたと言い伝えられているニャ」


 まんま、わしじゃな……。しかし……


「伝えられているって事は、何か伝承があるのかにゃ? 聞かせて欲しいにゃ」

「わかったニャ。これは猫耳族の者が子供に伝える話ニャ。その昔……」


 メイバイの昔話が始まる。その話は、およそ千年前に実在したと言われる猫又から始まり、猫の群れは栄華を極めただとか、強い敵が現れて三日三晩戦って、辺りはめちゃくちゃになっただとか、聞いた事のある話だった。


 おっかさんの昔話と一緒じゃ……。年代は猫では数えられないじゃろうから、教われなかったが、新事実じゃな。


 メイバイの話は続き、戦闘にからくも勝利した猫又は深い傷を負った。そこを救ったのが、人間の女性。猫又と女性はすぐに恋に落ち、五人の子供に恵まれたそうだ。


 この猫又には倫理観が無いのか? 元が猫なら、倫理もへったくれもないか。猫と恋に落ちる女性って……わしの周りにもけっこう居るな。


 メイバイの話はまだ終わらない。

 人間の生は短く、妻に先立たれた猫又は悲しみ、その悲しみを癒すために、多くの妻をめとった。何人かまでは記憶されていないが、猫又が消えたのが八百年前。二百年の内に数多くの子供を残して、今日に至るらしい……


 途中までは面白かったんじゃけどな~。ハーレムを築いておるとは……もしかして、こいつの血が、わしの中にも流れておるのか? 出来れば違うと言って欲しい。もうわしが言ってやる。違う!

 しかし、消えたと言う事は、ご先祖様は死んでないのか? それとも死の直前に身を隠してから亡くなったのか? 猫なら隠れて死ぬ可能性はあるか。

 言い伝えでは死んだと確定していないから、メイバイは生きていると思って、わしをご先祖様と呼んでいるのかな?


「つまり、いまも女性にモテモテなシラタマ殿は、ご先祖様に違い無いですニャ!」

「大間違いにゃ。前半の話はおっかさんから聞いた事があるにゃ」

「なんと!? それじゃあ本当に……」

「違うと言っているにゃ~」

「じゃあ、私とシラタマさんの子供は、メイバイさんみたいな姿になるのですか?」


 それは気になるけど、リータに質問して欲しくない。


「そこは、いつからかは言い伝えられていないニャ」

「そうですか……」

「シラタマちゃんも、いっぱいお嫁さんを取るの?」


 さっちゃんは嫌な質問をしよるな。ハーレムは猫基準なら問題無いが、人間基準ならアウトじゃ。じゃが、男としては憧れる……こんな猫又と結婚したがる奇特な女性が現れわけがないか……いや、けっこう居たよ。


「シラタマちゃんの正妻はわたしにして!」

「いえ! シラタマさんの正妻は私です!」

「どっちもまだ結婚できる年齢じゃないにゃ~」

「私は来年には出来ますよ~」

「わたしが女王になったら、贅沢な暮らしが出来るわよ。それまで待ってて!」

「王女様、それはズルいですよ」

「権力はこういう時こそ使うものよ!」

「二人とも喧嘩するにゃ~」

「私は十五歳だから、いつでも結婚出来るニャー」

「「むぅ。新たな敵……」」

「メイバイまで!? やめるにゃ~」



 こうして厄日は、まだまだ終わりを迎えないのであった。



 城から家に帰ると部屋割りをキッチリ決める。そうしないとリータに怒られるからだ。

 夕食はメイバイが作ってくれると言うので任せてみた。リータも料理の腕が上がってはいたが、メイバイのご主人様は貴族だったらしいので、なかなかの腕前だった。正直に美味しいと伝えたせいか、リータが膨れる。

 食べ終わるとお風呂を二人に先に入ってもらおうとしたら、ひと悶着あって、猫型になって全員で入る事になってしまった。

 わしの元の姿を見たメイバイは驚いていたが、すぐに受け入れて撫で回された。そのせいでゴロゴロ言ってしまい、リータがまた膨れてしまったので、ご機嫌取りで、仕方なく胸に収まる事で機嫌は直ったみたいだ。


「こんなお風呂に入ったのは初めてニャ。気持ちいいニャー」

「メイバイは奴隷だったにゃ? それにしては、人を恐れたり敵意を向けたりしにゃいんだにゃ」

「多くの同胞はひどい扱いを受けているニャ。でも、私を買った主様は優しい方でそんなこと、一切しなかったニャ。子供の奴隷を見つけると、すぐに買っちゃうもんだから大所帯になって、服や食事は貧しい物だったけど幸せだったニャ。だから、人族にも優しい人がいるのを知ってるニャ」

「ふ~ん。でも、にゃんでメイバイは危険な山を越えて、一人でこんにゃ所にいるにゃ?」

「主様が奴隷解放運動の先導者だったニャ。帝国にたてついていたから、お家はお取り潰しになったと思うニャ」

「思うにゃ?」

「危機を感じた主様は、私達を逃がしてくれたニャ。だから、その先はわからないニャ。主様は逃がしてくれる時に、この国に居てはいけないと言ったから、みんなで山を越える事にしたニャー」

「他の仲間はどうしたにゃ?」

「それは……みんな山で亡くなったニャ。一人、また一人と倒れていって、私達は逃げるので精いっぱいだったにゃ……」

「にゃるほど……」


 これ以上聞くのは辛い事を思い出させてしまうか……。それにしても、あの山を越えるとは、大冒険をして来たんじゃな。低いところはあるけど、それでも富士山より高く見えるのに、歩いて越えるなんて、いったい何日かかったんじゃろう?

 それに強い獣の多い山じゃ。山だけでも時間が掛かるのに、獣にも足止めされた事も多々あったじゃろう。一ヶ月以上、山に居たのかもしれんな。


 しかし、山を越えた国では奴隷がまかり通っているのか。この国も文化レベルが低いから奴隷が居てもおかしくないと思うんじゃが、奴隷は犯罪を犯した者だけじゃったな。

 国民性なのか、女王の手腕なのか……きっと国民性じゃろう。間違い無い。


「メイバイの名前は、そっちの国では一般的にゃの?」

「そうニャ。珍しい名前ではないニャ」

つづりりはどう書くにゃ?」

「こうニャ」


 肉球に書かれると、こちょばい。中国人っぽい名前じゃと思ったが、ローマ字か……。英語を使っているから当たり前か。

 メイバイと聞いた瞬間、漢字が頭に浮かんだんじゃが、思い違いじゃったみたいじゃ。だいたい気になる事は聞けたかな? ひとつを除いて……


「ところでメイバイは、にゃんでわしの尻尾に、自分の尻尾を絡み付かせるにゃ?」

「これは私達一族の愛を伝える方法ニャ。シラタマ殿も応えてくれて嬉しいニャー!」

「シ、シラタマさん!?」

「し、知らにゃかったにゃ~」

「あんなに激しいの初めてだったニャー」

「何したんですか~!!」


 最後の最後までリータに怒られて、わしの厄日は終わるので……


 あ! 忘れてた。


 まだ終わらないのであった。





 その夜……


 しめしめ、リータは寝たようじゃな。


 わしはリータが眠りやすいように人型で布団に誘い、頭をナデナデしていたら、すぐに眠りに落ちてくれた。リータが眠るとわしは猫型になり、行動に移す。



 目的地に行く前に、兄弟達の居る、さっちゃんの部屋に寄るか。


 わしは静かに、かつ、迅速に城壁を駆け登り、さっちゃんの部屋に忍び込む。


「エリザベス。ルシウス……」

「何よ? こんな時間に」

「眠い……」

「シー-ー! 外で話そう」


 わしはぐずる兄弟達を宥め、バルコニーに連れ出す。


「なんなのよ」

「今日の事じゃ。おっかさんの仇を殺さなかった事を、兄弟達はどう思っているか、聞きに来たんじゃ」

「そんなこと?」

「怒っておらんのか?」

「まぁね。あいつらを殺したところで、お母さんは戻って来ないしね。あんたがあいつらを負かしてくれただけで、スッキリしたわ」

「あの男の顔を見たか? 笑ったぞ」

「あの女もお母さんぐらい強いんでしょ? それなのに簡単に負けを認めさせるんだもん。やっぱりモフモフはすごいね」


 エリザベスは優しい顔で、わしの顔に頬ずりする。


「エリザベス……いま、モフモフって……」

「なんでもないわよ!」

「こいつ、お前の事をすっごく心配してたんだぞ」

「噛むわよ!」

「ハハハ。ありがとう」

「フンッ」


 優しい顔から、すぐに鬼の形相に変わったエリザベスは、ルシウスに飛び掛かろうとしたが、わしが感謝すると、不満そうに飛び掛かるのをやめた。


「おっかさんの毛皮、取り戻したけど、ルシウスが持ってるか?」

「俺はいい……お前が持っていろ」

「いいのか?」

「あんたが一番頑張ったんだから、あんたが持っていなさい」

「わかった。大事にする」

「用事はすんだ? ご主人様が起きるといけないから戻るわね」

「ああ。さっちゃんのこと、よろしくな。おやすみ」



 兄弟達がさっちゃんの眠るベットに戻るのを見届け、わしは目的地に向かう。


 たしかこの辺じゃったはずじゃけど……あの窓かな? 遅くなったけど、ちゃんと開けて待っていてくれたか。出来れば、もう寝ていてくれたほうがいいんじゃけどな。


 わしは兵士宿舎の、窓の開いている部屋に飛び込み、人型に変身する。


 あれ? もう寝てる? これなら帰ってもいいかな。じゃが、約束は約束じゃし、一声ぐらい掛けるか。それで起きなかったら帰ろう。


 わしはベッドに眠る人物に近付き、声を掛ける。


「イザベレ。イサベレ……寝てるのかにゃ? お~い」


 ガバッ!


「にゃ!?」


 わしがベッドにさらに近付くと、ベッドの中に引き込まれてしまった。


「遅い」

「遅くにゃってすまないにゃ」


 見てもいないのに、正確にわしを捕らえよったな。そう言えば、イサベレは探知持ちじゃったか。こいつのせいで兄弟達の奪還作戦が、ことごとく潰されたんじゃった。


「あの~。にゃんでベッドの中に引き込むにゃ?」

「夜這いに来てくれたから? 準備万端」

「にゃんで服、着てないにゃ?」

「準備万端だと言った」

「にゃんの準備にゃ!?」

「子作りに決まっている」


 念話で拾った言葉は本気じゃたのか……。猫とまぐわうなんて、正気の沙汰とは思えん。そんな人に、数人心当たりはあるけど……


「ちょっと待つにゃ。話! 話をしようにゃ」

「む……ピロートーク」

「それは終わったあとにゃ!」

「じゃあ、さっさとしよう」

「にゃんでそうなるにゃ!」

「夜這いに来たから」

「違うにゃ~! そう言う事をするには、もっと段階を踏んでだにゃ。まずはお互いの事を知る事から始めるにゃ。にゃ?」

「なるほど」


 たしかソフィが、イサベレは百年生きていると言っていたが、本当じゃろうか? それが本当じゃとして、この対応……もしかして生娘か? ま、まさかな……


「まずは自己紹介をするにゃ。わしの名はシラタマにゃ。御年、二歳にゃ」

「私はイサベレ。百十八歳」

「次はお互いに質問するにゃ。イサベレは、にゃんでそんなに長生きなんにゃ?」

「わからない。それでは、こちらから質問する。シラタマはどんなプレーが好き?」


 おおい! 始めての質問がそれかい! いや、その前にわしの質問にも一言って……。そもそも会話が淡白過ぎるし、表情も一切変わらない。


「まだその質問は早いにゃ~。もっとお互いの事を知ってからにゃ」

「では、質問を変える。子供は何人欲しい? 私はおそらく一人しか産めない」


 変わっておらん! 下から離れろ! これしか興味無いのか? 生娘じゃなく経験豊富なのか? こっちの話題でなんとか情報を引き出さないといけないのか……


「どうして一人しか産めないにゃ?」

「お母さんもお婆さんも、一人しか産んでいない」

「もう少しその説明を詳しくしてくれないかにゃ?」

「わかった。結婚するなら知ってもらわないといけない。私の一族は……」


 イサベレはせきを切ったように話し出す。

 イサベレの一族は、代々王家の守護者として仕えている。その先祖は女系で、生来、短命の一族であったらしい。

 母親もイサベレを産んで十年後には、若くして他界した。何歳で死んだかと聞くと二十七歳とのこと。イサベレも当然若くして亡くなるものだと思い、どうせなら強い夫をもらい、強い子供を産もうと思って、今日に至るらしい。


 こじらせたか~。百年こじらせたのか~。じゃが、これって子を産んだら死期が早まるんじゃね?


「それって、子供を産んだら十年で死ぬ一族って事じゃないのかにゃ?」

「新事実……」


 気付いて無いんか~い!!

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