429 お江戸観光にゃ~
夜遊びの件は叱られたが、それほど説教は長くなかったので、そろそろ行動に移す。
江戸の観光だ。
玉藻に観光プランを提出させてみたら、寺院ばっかり……。これだから年寄りは……
これではわし以外面白くないので、娯楽はないかと聞いてみたが、日本古来の娯楽しかないとのこと。コリス達が楽しめそうな物は落語しかないので、ここは食の娯楽に切り替える。
まずは浅草寺。ここでなら、仲見世通りに売店が並んでいると聞いたので、バスで向かってみた。先導には、天皇家の者が馬を走らせてくたれたが、けっこうな注目を集めてしまった。
浅草寺に着いて車から降りると、玉藻のおかげなのか、遠巻きに見る人しかいなかったので、雷門の前で記念撮影。
リータ達の仁王像のマネや、大きな提灯を見て驚く顔も撮っておいた。
そうして雷門を潜ると買い食い。雷おこしやおかきをポリポリ食べながら歩くが、見た目が地味なので面白味に欠けるようだ。いちおう和菓子も買ってあげたが、京で見たし、目新しさもない。せいぜい揚げ饅頭ぐらい。
なので、お参りが終わるとリクエスト。玉藻の案内で
品川湊に来た理由は、食べたい物があるからだ。屋台は当たりそうだから怖いので、玉藻にどこか行き付けの店は無いかと案内してもらい、暖簾を潜った。
席に着くとおまかせを頼み、次々に板に置かれるが、リータとメイバイはあまり好みではないようだ。
「生ですけど、食べて大丈夫なのですか?」
「お腹痛くならないニャー?」
わし達の入った店は、寿司屋。漁港のそばだから、魚はとれたてピチピチのはずだ。
「ビーダールの海で、黒マグロを食べたにゃろ? それと同じようにゃもんにゃ」
「あ! アレは美味しかったですね」
「そうだったニャ! 食べてみるニャー!」
二人は恐る恐るイカの寿司を手に取ると、匂いを嗅いでから口に入れた。
「ん~……ちょっと生臭いです……」
「そうかニャ? これはこれでありニャー!」
リータはいまいち。メイバイは魚好きなので美味しく食べる。ちなみにコリスとオニヒメは、サビ抜きを美味しそうに食べている。
「まぁ慣れない者には、ちょっとキツイかにゃ? 大将。リータには、タマゴ、アナゴ、漬け、巻物を中心に握ってくれにゃ」
「あいよ!」
寿司屋の大将が景気よく返事をして、リータメニューが並ぶと、そこそこ美味しく食べれるようになったようだ。
なので、わしも寿司を堪能する。
うむ……うまい! これぞ、日本の味じゃ。マグロの漬けも、普通のマグロもうまいのう。ウニもまろやかじゃ。イクラ! プチプチした触感で、口が楽しい。
しかし、マグロなんてどうやって手に入れたんじゃろう? 日ノ本の近海は危険だと聞いていたが、陸から釣り上げたのか?
「にゃあにゃあ?」
「なんじゃ?」
とりあえず疑問は、海鮮丼を頬張っている玉藻に聞いてみる。
「それも美味しそうだにゃ~」
「やらんぞ? 食べたかったら、自分で頼め」
「大将! 海鮮丼をよっつ、ちらし寿司をリータに出してくれにゃ~」
「あいよ!」
海鮮丼を見たら食べたくなってしまったので、疑問は忘れた。しかし、半分ほど食べたところで思い出したので質問したら、大将が教えてくれた。
どうやら江戸湾内なら、めったに強くて大きな魚が入って来ないらしく、船を出して漁をしているようだ。船だけでなく、陸からも漁師が釣りをしたり網を投げたりと、多いというわけではないが、そこそこの漁獲量があるらしい。
こんな時代背景だから寿司ネタは保存が利かないし、狙った魚がとれるわけでもないので、メニューは日によってガラッと変わるとのこと。今日はたまたまマグロを釣り上げたラッキーデーだったみたいだ。
ちなみに、白や黒の魚は並ばないのかと聞いてみたら、どちらも扱った事はないとのこと。もしも砂浜に打ち上げられても、徳川家に献上されるから、庶民の口に入らないらしい。
「ふ~ん……じゃあ、黒いマグロの切り身があるから、それで握ってくれにゃい?」
「へ……いいんですかい?」
「大将の腕の見せどころにゃ~」
「てやんでぇ! あっしに任せやがれ!!」
大将は、わしから受け取った黒マグロのブロックを薄くスライスすると、味見をして叫ぶ。
初めて食べたのだから気持ちはわかるが、味見はそれぐらいでいいじゃろ? 自分の分も握って食ってくれたらいいから早くして!!
何度も味見をする大将を止めて、早く食べたいわしはわくわくして待つ。そうして板に並ぶと、リータも美味しく食べられて満足しているようだ。わしも大満足だが、玉藻がうるさい。
「こりゃうまい! まだこんなうまい物を隠し持っておったのか!?」
「別に隠してにゃいけど、わしの虎の子だったんにゃから、味わって食ってくれにゃ~」
「他にも何か持ってるじゃろ!!」
「う~ん……白いタコにゃらあるけどにゃ~」
「そ、それはどれぐらいの大きさだったのじゃ?」
「十七間(ざっくり30メートル以上)ぐらいあったかにゃ~?」
「お、おお! 大将! 頼むぞ!!」
「ああぁいよぉぉお!!」
わしを飛び越して勝手に注文する玉藻。大将もテンションマックスなので、白タコの触手を取り出してやった。
そこそこデカイので、店の職人や客もよだれを垂らして寄って来てしまい、「もう勝手にやってくれ」と言ったら、店をあげた宴となった。
多少納得は出来なかったが、大将の手から握られる白タコ寿司は絶品で、そんな気持ちは吹っ飛んだ。店内に居た者は叫びまくってうるさいのは気になったが、めちゃくちゃ感謝していたから、口には出来なかった。
ようやく騒ぎが落ち着くと、あがりをすすっているわしに、玉藻が感謝して来る。
「誠に美味であった。天晴れじゃ!」
「お粗末様にゃ」
「しかし、十七間のタコと言ったか……どうやって倒したのじゃ?」
「たしか、砂浜で戦ったかにゃ? 海に逃げられそうになって苦労したけどにゃ」
「そうなんじゃよな~。あいつら、劣勢にになると、海に逃げるからなかなか息の根を止められんのじゃよな~」
玉藻ですら苦労するのか。まぁわしも、白マンボウを取り逃がしたから、人の……キツネの事は言えん。
「ここでもそうなんにゃ。てか、そんにゃに白い魚は岸に近付いて来るにゃ?」
「年に数度な。妾が出張っても、既に海に帰っておる事が多いから捕まえられん。何匹か息の根を止めれば、沖に船を出せるのにな」
「ふ~ん……ま、人的被害が出ないにゃら、それに越した事はないにゃ」
「いや……数年前に出た」
「にゃ?」
「陸前にヤマタノオロチが出て、津波で大勢流されたと情報が入っておる。じゃが、徳川が情報を操作しているから、正確な被害がわからんのじゃ」
ヤマタノオロチ? 古事記に出て来る、八つの頭と八つの尾を持つ化け物か……倒したら、
て、人死にが出たと言うのなら、面白がるのは不謹慎じゃ。それに津波で流されたと聞いたのなら、福島の事を思い出してしまう。
たしか陸前って福島の事じゃし、時期も近そうじゃ。もしかしたら、大津波を伝説の化け物が起こした事だと思っているのかもしれんな。
それから少しヤマタノオロチの事を話し合っていたが、時間も時間なので、江戸の観光に戻ろうとする。
大将に頼んでおいたお土産も受け取り、わしが寿司屋の支払いをしようとしたら玉藻が出してくれた。
感謝しろと言って来たが、わしは聞いておったぞ? 白タコの残りをあげたから、タダにしてくれたじゃろ? 言うなれば、わしのおごりじゃ! わしの目を見ろ!!
それ以降、まったくわしの目を見てくれない玉藻の案内で江戸の観光は続き、海をちょっと見て、街中をウロウロしただけで屋敷に戻る。ここでもう一泊してから、京へと飛び立った。
京に飛行機を降ろすと伏見稲荷に足を運び、わしと玉藻は完成している三ツ鳥居を何
リータ達はその辺で観光。どこまでも続く圧巻の千本鳥居に見惚れていたようだ。カメラ係のメイバイもテンション上がって、パシャパシャ撮っていたらしいが、最後まで撮れなかったと嘆いていた。
伏見稲荷での用事が済めば、平賀家に顔を出す。源斉に会うとやりとりが面倒なので、奥さんの元へ直行だ。
そこで頼んでいた物の受け取り。大量に頼んだからまだまだ出来ていなかったが、なる早で頼んでいた物は出来ていたようだ。
特にカメラは嬉しい。これで玉藻からレンタルしていた物が返せる。たぶん、一度も落としたりしていないから、弁償金は発生しないだろう。
ついでに現像液の買い取り。平賀家秘匿の技術であったが、玉藻も同席していたので、すんなり買い取れた。天皇家にキックバックが入る契約になっているから当然の結果だ。
まぁいまはまだ口約束で、正式な契約は先だけど……めちゃくちゃ安くしてやる予定じゃけど……
とりあえず、日ノ本での用事が済めば、猫の街に転移。またミニ玉藻が服にくっついて来た……。害虫認定してやろうか……
今日はもう遅いので、大会議室で皆にお土産で買って来た寿司を振る舞ってから、眠りに就くのであった。
* * * * * * * * *
シラタマが江戸観光を終えた次の日、徳川将軍秀忠は電車に揺られ、日光にある駅に降り立った。そこから四人のタヌキが担ぐ
「父上。参りました」
庭で薬草の調合をしている、5メートルを超える白いタヌキの背中越しに声を掛ける秀忠。秀忠に父と呼ばれた着物を着た白タヌキは、初代将軍、徳川家康。五本の尻尾を揺らしながら振り返った。
「して……海を越えた土地の王とやらは、どのような者だったのじゃ?」
遠路遥々訪ねて来た秀忠を労うよりも先に、シラタマの事を質問する家康。
「京の元城主、永井
秀忠は、シラタマから受け取った国宝級の白い毛皮と獣の肉を縁側に置く。家康はその品をよく見ようと、縁側に腰掛けて毛皮を広げる。
「ほう……買い取ったのか?」
「いえ。いただきました」
「このような品を無償で渡すとは、たしかに国力が高そうだ。それで、関ヶ原はどう言っていた?」
「そ、それが、玉藻に話を変えられまして……」
「なんじゃと……丁重にもてなして、話を聞き出せと言ったじゃろうが……」
どうやら玉藻が疑問に思っていたタヌキ達の歓迎ムードは、家康からの指示だったようだ。その指示が完璧にこなせなかった事で家康は不機嫌な顔になり、秀忠の額に汗が浮かぶ。
「も、申し訳ありません! ただ、もうひとつの国も見に来るらしいので、その事を聞いている内に……」
「忘れたと……しかし、猫の国以外にも国があるのか?」
「はい。西の地には、多々ある模様です」
秀忠は叱責を避けようと、シラタマから聞いた国の話をするが、黙って聞いていた家康はまだ関ヶ原の件を覚えていたようだ。
「猫の国が見に来るという事は、出場する可能性もあるというわけじゃ。その猫の力はどう見た? それぐらいはわかるだろう」
「はっ! 私にはかなり劣るとは思います」
「思う?」
「父上は、元十本刀の人斬り
「人殺しをやらかして、切腹を言い渡したのに逃げた奴か……」
「その者を捕らえて来たのがシラタマです。なので、剣の腕、もしくは呪術の腕、どちらかわかりませんが、伊蔵の上を行っているのでしょう。ただし、奉行の話ではボロボロの姿で現れたらしいので、かなり苦戦したと思われます」
「なるほどのう」
家康は髭を触り、少し考えてから口を開く。
「その程度で苦戦するならば、敵にもならんか……」
「はっ! 今回も、我が徳川が
「いや……念には念じゃ。ボロボロという事は、伊蔵の剣を何度も受けたという事じゃ。かなり体が頑丈に思える。次にこちらに来るのはいつと言っておった?」
「関ヶ原としか……」
「まぁよい。初日に会おう。それで、わしみずから見てやろうじゃないか」
「は、はは~」
こうして心配性な家康はシラタマを危険視し、様々な準備を秀忠に命じて、関ヶ原の開催を待つのであった。
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