066 リータがピンチにゃ~
「お~つ~り~」
わしの前に現れたおばちゃんは、ズンズンとわしに歩み寄る。どうやら昨日、食料品を買った時に、チップとして渡したお金を返しに来たようだ。
「それは迷惑料って言ったにゃ~」
「そんな物、貰えないと言ってんだよ!」
「ありがたく貰うにゃ!」
「だから要らないって言ってんだよ!」
「シャーーー!」
「ぐぬぬぬぬ!」
わしとおばちゃんのお金の押し付け合いは、接近戦に持ち込まれた。しばらくわし達が、お金の押し合いを繰り広げていると、リータが一石を投じる。
「あの~? そのお金で、今日もおばさんの店で買ってはどうでしょうか」
「う~ん……そうするかにゃ?」
「う~ん……それで手を打つか」
勝敗はドロー。わしはおばちゃんとガッシリ握手をする。そしておばちゃんと一緒に露店に向かう。
「わしのような猫が買ったら、迷惑にならにゃかったかにゃ?」
「まぁ驚いたけどね。そのあと人が集まって来て、猫が何を買って行ったか、しつこく聞いて来たのさ」
「ほら、迷惑かけたにゃ~」
「だから言ってやったんだ。何か買うなら教えてやるってね。昨日はあんたのおかげで儲かったよ」
わしは招き猫か! いや、おばちゃんの商魂がたくましいのか……
「最近、食料品の値上がりが続いているから、久し振りの大繁盛だよ」
「そうにゃんだ。それじゃあ今日は……」
「猫さん。私に料理させてくれませんか? 私、猫さんから貰ってばかりで……料理ぐらいさせてください!」
「わしは助かるんにゃけど……出来るにゃ?」
「はい! お母さんと一緒に家族の料理を作っていたから出来ます!」
「じゃあ、頼むにゃ~」
リータはおばちゃんと話しながら、今夜のメニューを決めるみたいじゃな。おばちゃんの露店は、穀物や野菜が中心でパンも売っている。
他の店では、いちいち猫のやり取りが面倒じゃし、ご用達にするか。招き猫になるのは
「まいどあり~」
買い物を終えるとやる事も無いので、少し早いが仕立屋に向けて歩き出す。周りの人は、相変わらず騒ぎながらも遠目に見ている。
「少しマケてくれましたね。あとはお肉があればよかったのですけど、高いみたいです」
「肉ならわしが持ってるにゃ。帰ったら出してあげるにゃ」
「はい。腕を振るって作ります!」
「楽しみにしてるにゃ~」
仕立屋に着くと、ちょうど出来上がっていたので受け取り、家路に就く。リータに値段をしつこく聞かれたので安めに言ったが、それでも驚かれた。王都の服は高いみたいだ。
家に着くとリータはさっそく料理に取り掛かる。わしはリータをキッチンに連れて行き、調味料と必要な肉を次元倉庫から取り出す。
調理に必要な物を出し終わると備え付けの
「出来ましたよ~」
ベッドで手作りの
「「いただきにゃす」」
この味は! ……普通。うまくも無ければまずくも無い。一言で言うなら質素。これなら、ルウのレシピで作ったスープの方が数段うまい。塩も香草も好きなだけ使っていいって言ったのに……リータの性格の問題か?
「猫さん。どうですか?」
うっ……難しい質問が来てしまった。じゃが、こういうのは最初が肝心じゃ。ちゃぶ台をひっくり返して……って、わしは昭和のオヤジか! 昭和のオヤジじゃった……けど、そんなもったいない事した事はない!
「美味しいけど、もう少し塩や香草は使った方がいいかにゃ~?」
「お口に合いませんでしたか……」
悲しませてしまった……でも、女房に何年も後に言ったら怒られたし、この意見は曲げてはならんはずじゃ。
「美味しいにゃ。美味しいにゃ。もう少しだけにゃ。にゃ?」
「猫さんのお口に合うように精進します!」
ホッ。なんとかなったかな? 明日からに期待しよう。
夕食が終わるとお風呂に入る。一人で入ったのにリータがついて来て、一緒に入る事になった。
慌てて猫型に戻ったら、「なんで? どうして?」と質問責めにあった。だから、リータの洗い方が気持ち良かったから、猫の方で洗って欲しいと嘘をついた。リータの仕事にわしを洗う事が増えたが、本人は毎日洗うと燃えていた。
わしを洗い終えると、リータは自分の体を昨日と同じように洗うが、何度も洗おうとしたので一回でいいと教える。
寝る時にはこれまた同じく、一緒のベッドで寝る事となり、リータの腕の中で朝を迎える。
「行っくにゃ~」
「はい!」
今日は仕事。朝早く起きて初心者の森の奥に行く予定だ。門に居た兵士は、また半分男だったが、軽くやり過ごして外に出る。
リータは昨日、買った服を着て行進で歩き、わしはその後を追う。森に入るとわしが先頭になり、探知魔法を使いながらどんどん奥に進む。
すると看板を発見したので、またティーサの説明し忘れがあったのかと、リータに尋ねる。
「Fランクは、ここまでって書いてるにゃ」
「この先から危険だから、Fランクの人はギルドから入るなと止められています」
「ふ~ん。まぁわし達はEランクだから関係ないにゃ」
「そうですね。それに猫さんは強いですから安心です」
「開けた場所に出たら、リータは訓練にゃ~」
「はい!」
さらに森の奥へ進み、ちょうどいい森の切れ目を見付けたので小休憩とする。何も無い場所なので、わしは魔法で休憩に必要な物を作り出す。
「お水が美味しいです。私も水魔法が使えたらな~」
「まだ始めたばっかりにゃ。そのうち使えるかもしれないにゃ」
女の子に格闘家はさすがにかわいそうじゃと魔法を教えてみたけど、自分の魔力をまだ感じ取れておらん。出来たとしても、人間の魔力は少ないみたいじゃし、上手くいくかどうか……
わしがアマテラスから貰った魔法書を上手く伝えられたらいいんじゃが、数式やら公式が難しいから伝えられる自信が無い。
「わしは狩りに行くから、リータはここで訓練しとくにゃ。危険にゃ獣が来たら、そこの穴の中に入って扉を閉めるにゃ。水も置いておくから遠慮なく飲むにゃ。あとは……」
「猫さんは心配し過ぎです。ちゃんと猫さんの言い付けは守りますから、大丈夫ですよ」
「わかったにゃ。それじゃあ、行って来るにゃ~」
「いってらっしゃ~い」
リータは手を振り、わしを送り出す。リータの姿を後に、わしは探知魔法を使い、真っ直ぐに獲物に近付いていく。
リータは心配するなと言うが、戦う手段の乏しいリータを、森の中に置いていくのは心配じゃ。さっさと狩りをして家の木材を集めよう。
わしは小走りに、探知魔法に引っ掛かった獲物を狩っていく。狙いは買い取り価格の高い動物。探知魔法の感覚で大きさを見定め、二匹の鹿と一匹の猪を狩る。
大きさもまずまずじゃし、これで狼五匹の二倍ってとこじゃな。こんなもんでいいか。おっと、お昼の分を忘れておったな。お、ちょうどいい大きさの鳥がおる。あれでいいな。
わしは鹿と猪を次元倉庫に入れると、静かに鳥に近付き、【鎌鼬】で首を落とす。
昼メシもゲット! あとは木を何本か切り倒すだけじゃな。フローリングに家具と使うから、多めに倒しておくか。真っ直ぐで太い木はないかな~?
わしはキョロキョロと森の中を歩き、目的の木を見付けては【鎌鼬】で切り倒し、次元倉庫に入れていく。これで最後と切り倒した木の近くの湿地で、ある物を発見した。
この懐かしい匂いは……イグサ? この草は昔、旅行先で見た、田んぼに生えてた背の高い草にそっくりじゃ。あの時は田んぼに草が生えておるだけじゃと思ったが、聞けばイグサと言われて、こんな栽培方法なんだと驚いたもんじゃ。
これで
わしはルンルン気分で【鎌鼬】を放ち、イグサを刈り取っては次元倉庫に入れていく。湿地にあったイグサを半分ほど刈り取ると、鼻歌交じりでリータの待つ場所に戻る。
「にゃにゃにゃにゃ~ん♪」
いい物が手に入ったわい。イグサの場所はマーキングしておいたし、いつでも転移魔法で取りに来れる。大量に刈って来たけど、畳作りで失敗するかもしれんしのう。
「きゃぁっ……」
ん? 小さいが叫び声が聞こえた? 探知魔法オーン! リータのいる場所に人が……六人? 危険な動物はおらんから、からまれておるのか? 急いで戻ろう!
わしはスピードを上げて、リータの元に戻る。すると、すぐにリータの倒れた姿と、リータを取り囲む五人の男を発見する。
「や、やめてください……」
「人が優しく言っていれば調子に乗りやがって! 戻って来る気にさせてやる!」
一人の男はリータを踏み付けるような蹴りを出す。わしは急いでリータの体を後ろから抱き、そのまま後ろに跳ぶ。
蹴りを出した男は、目標物が無くなった事によって空振り、足を伸ばしたまま地面に落ちる事となった。
「ぐあっ」
「猫!!」
「てめー!」
あらら。今のは痛そうじゃのう。股間を押さえてのたうち回っておる。プププ。おっと、それよりリータじゃ。
「大丈夫にゃ? 怪我はないにゃ?」
「は、はい」
見たところ怪我もないし、突き飛ばされただけか。じゃが、女の子に寄ってたかって暴力は許せん!
「で……誰がリータに暴力を振るったにゃ?」
「ハッ。そいつが勝手に倒れただけだ」
「言う気がないにゃらいいにゃ。全員相手してやるにゃ」
「お前がか?」
「「「ギャハハハハ」」」
「何がおかしいにゃ?」
「俺達はDランクだぞ。Fランク如きが敵うわけがないだろう!」
「たったのDランクにゃ。楽勝にゃ~」
「テメー!」
沸点が低いのう。しかし、こいつらどっかで見た事があるんじゃが……思い出せん。
「おい! やめろ!」
「インモ!」
「なぜ止める!?」
「こいつには人前で恥をかかされたからな。いま殺すよりも恥をかかせてから殺そうじゃないか」
わしに恥をかかすじゃと? もうこの猫の姿で恥はかいておるんじゃが……この姿より恥ずかしい事なんてあるのか?
「ああ、アレか」
「なるほど……面白い」
「行くぞ!」
そう言うと男達は去って行った。残されたわしはと言うと……
勝手に納得して帰るな! わしの出番は? これから見せ場だったじゃろう!!
全く納得いっていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます