第二十章 冒険編其の二 さっちゃんの大冒険にゃ~
548 赤い宮殿の補修にゃ~
我輩は猫又である。名前はシラタマだ。オニヒメの父となった。
オニヒメのルーツを発見できた事はよかったのだが、記憶が戻ったので、実父を殺した事を謝罪する事はさすがに
しかしオニヒメは許すような言葉を掛けてくれたので、わしの心が少しだけ救われた。これからさらなる謝罪の為に、甘やかして育てようとわしは心に誓った。
オニヒメの両親のお葬式も終わると、途中だった赤い宮殿の探索に戻り、お宝をざくざく発見した。
王冠に宝石、剣に鎧。魔力濃度の高い地で三百年も放置されていたからか、金属の全てが白魔鉱にレベルアップしており、宝石も全て魔道具となっていたのでウハウハ。
サビてボロボロの物も多少あるが、猫の国では何十年もの採掘量になるはずなので、笑いが止まらない。ただ、オニヒメが冷めた目で見ていたから、全てオニヒメにあげると言っておいた……
だって、さっき謝罪したばっかなのに、笑ってるなんてバツが悪いんじゃもん!
ただ、オニヒメは貰ってもどうしようもないようなので、返して来たから有り難く頂戴する。
「いつも通りにして……」
「う、うんにゃ……にゃ~はっはっはっはっ」
「「「「にゃ~はっはっはっはっ」」」」
オニヒメに注意されたわしが無理して悪い顔で笑ったら、コリスはいいとして、何故かリータとメイバイ、それとイサベレまで悪い顔で笑う。
「お姉ちゃんはわかるけど、ママ達はそんな笑い方しないでしょ~」
あんな事もあったから、皆も少しギクシャクしてしまったようだ。
オニヒメにツッコまれたせいでさらにギクシャクして来たので、ここは共同作業。赤い宮殿の修復作業に着手した。
内部を一階から順番に、壁や床、柱や天井を土魔法で補強。出来るだけ元の形のまま、協力して直して行く。
土魔法の得意ではないイサベレとメイバイは、現場監督とカメラ係。後日、写真で、内装の模様が間違っていないか確認する予定だ。
皆でわいわい作業し、最上階に到達してランチを食べる頃には、オニヒメと話をしても変な緊張は解けていた。
内部が終わると外に出て、外壁の修理をしたいところだが、どうやって赤く着色されているかわからない。なので剥がれ落ちた壁の一部を持ち帰り、素材に何を使っているか調査する事にした。
とりあえず、外はお堀の土を材料に頑丈な城壁を作って、ちょっとでも赤い宮殿が長持ちするようにしておく。
お堀だけ作り、皆には残った土で城壁を見本通り作るように指示を出したら、わしは骨の仕分け。阿修羅は獣と人間の骨をぐちゃぐちゃにしていたからまったく見分けがつかないので、人間の頭蓋骨だけを集めて埋葬する。
ただ、獣の骨の中にかなりの数の人骨がまざっていると予想がつくので、こちらにもお墓を作っておいた。
その時、魔道具に加工できそうな角や骨を発見。多く手に入ったので、辺りを確認してから悪い顔で笑っていたのだが、いったいいつ近付いたかもわからないオニヒメにジト目で見られていた。
若干バツが悪いが、オニヒメに普通にしろと言われている手前、笑いを止めるわけにもいかない。なので、悪い顔で笑い続けたら、オニヒメも悪い顔で笑い出したから吹き出してしまい、二人で大笑いする。
仕分けをしていたらオーガらしき頭蓋骨もあったので、オニヒメに角は回収して調査に回したい旨を説明したら快く受け入れてくれた。
それから二人で慰霊碑に手を合わせていたら、もう日が暮れそうだと皆が呼びに来たので、全員で死者の冥福を祈る。
今日はどこで寝ようかとの話になったら、城壁はまだ完成していないらしいので、ここで一泊。今日中に終わっていてもいいと不思議に思ったが、オニヒメが抜けたせいだとわしは受け取った。
皆で赤い宮殿のダンスホールだったと思われる場所に移動し、バスやキッチン、お風呂も出して、皆でキャッキャッと騒いでから就寝となった。
翌朝も、城壁の建設から。ただ、わしは探し物があるからと言って、一人で白い木の群生地から出る。しばらく走り「この辺かな?」と立ち止まったら、お尻に何かがぶつかった。
「にゃ? にゃんでオニヒメがぶつかってるにゃ??」
振り向いたら、わしのお尻に顔をぶつけて痛そうにするオニヒメの姿があった。ソリみたいな物に乗っているところを見ると、わしの尻尾を握って犬ソリ……猫ソリにしていたようだ。
「ついて来ちゃった。てへぺろ」
てへぺろって……記憶が戻って、オニヒメがお茶目になって来たな。お母さんがそんな人だったのかな?
それよりも、昨日からオニヒメが時々見えないのはなんでじゃ? さっきなんて、尻尾を握られていたのに気付かなかったぞ??
「ついて来るのはいいんにゃけど、リータ達に言ったにゃ?」
「ううん」
「にゃ!? 今ごろリータ達が心配して探し回ってるかもしれないにゃ!!」
「あ……」
「まぁこの距離にゃら通信魔道具が届くはずにゃ。帰ったら、リータ達に謝るんにゃよ?」
「うん……ごめんなさい」
オニヒメは聞き分けよく謝って来たので、頭を撫でてアメちゃんをあげる。それから通信魔道具でリータ達に連絡を入れたら、ちょうどオニヒメが居なくなった事に気付いたところだったので、めちゃくちゃ大声で叫んでいた。
耳にキーンと来たが、わしと一緒に居ると説明したら、ホッとした声に変わっていた。
「さてと、向こうも問題なさそうにゃし、さっさとやるにゃ~」
「何するの?」
「刀を落としてしまったにゃ。出来れば回収したいんにゃけど、見付かるかにゃ~? オニヒメも一緒に探してくれにゃ~」
「うん!」
オニヒメのいい返事を受けて、【白猫刀】捜索を始める。しかし、阿修羅との戦闘は広範囲となっていたからなかなか見付からない。
黒い森は所々巨大なクレーターがあり、木が数百本と倒れ、地面はボコボコ。地形が変わっている。オニヒメもこの惨状に驚いて質問が多い。
なので、皆に秘密にしてもらう事を約束して、本当は死に掛けたと教えてあげた。秘密の共有、共犯者になれば、仲がぐっと近くなるはずだ。現に、オニヒメはわしの体の心配をしてくれた。
「こりゃ無理だにゃ。帰るとするにゃ~」
【白猫刀】捜索を開始して一時間。まったく見付かる気配がないので、わしは諦めようとする。
「待って……何か掴めそうな気がする」
しかし、オニヒメは両手を前に出して、わきゅわきゅしながらわしを止めた。
何をしておるんじゃろう? わしの鼻でも探知魔法でも無理なんじゃから、オニヒメでは見付けられんと思うけど……
わしが不思議そうにオニヒメを見ていると、手をわきゅわきゅしながら歩き出したので、わしも続く。そうしてしばらく歩き、数本の倒木をどけろと言われたのでどけてみる。
「どけたけど……にゃにもないにゃ」
「おっかしいな~。何か感じたんだけど……埋まってる?」
「たしかに元の土じゃなさそうだにゃ」
地面は雪の上に土が重なって見える。なので、土魔法と雪魔法で一気にどけてやった。
「にゃ! あったにゃ~!!」
「やったにゃ~」
【白猫刀】の柄の部分を発見すると、わしとオニヒメは「にゃ~にゃ~」言いながら手を握って踊る。残りもオニヒメが見付け出してくれたので、感謝しながらとっておきの大福を食べさせてあげた。
「ところで、さっきのって、どうやって探していたにゃ?」
「う~ん……気配??」
気配か……。また特殊な魔法を使っているのかな? オニヒメの危険察知も、この気配が関係しているのかも?? イサベレの説明はわからんし、エリザベスは教えてくれないし、オニヒメから教われたらいいんじゃが……
「それって、わしも使えるのかにゃ?」
「たぶん……気配を感じ取るの」
「そのやり方を教えてくれにゃ~」
残念ながらオニヒメも説明できる口を持ち合わせていなかったので、危険察知の修得は、まだまだ先になるのであった。
【白猫刀】捜索が無事終わると、オニヒメを背負って赤い宮殿に走る。オニヒメはわしを猫ソリにしようとしていたが、揺れて気分が悪くなるからと言って止めた。
だって、わしは猫であって、犬でも馬でもないんじゃもん。
背中にいるオニヒメを揺らさないように気を付けて飛ぶように走り、赤い宮殿に近付くと問題勃発。
「わしにゃ! あそこにもわしにゃ! にゃんでこんにゃにいっぱい居るんにゃ~~~!!」
そう。城壁建設はリータ達に任せっきりにしたせいで、城壁の上には、立ってポーズを決めるわし。寝転んでゴロゴロしているわし。人型や猫型のわしがそこかしこに居た。
どうやら昨日、作るのが遅いと思ったら、こんな無駄な物を作る事に精を出していたから遅かったようだ。
わしは叫びながら城壁に飛び乗り、石像を作っているリータとコリスを止める。
「にゃにしてるにゃ~!」
「あ、シラタマさん。どうですか?」
「モフモフいっぱいつくった! エライ~?」
わしが怒っているのに、リータは意見を求め、コリスは褒めて欲しそうにしやがる。
「にゃんでそんにゃもん作るんにゃ~! すぐに壊すにゃ~!!」
「「「「「ダメ~~~!!」」」」」
わしが壊そうとすると、全員で止めようとする始末。イサベレに至っては……恥ずかしいから言うのはやめとこ。
皆も興奮してめちゃくちゃに撫でて来るので、フラフラとなったわしは、対話でもって説得を繰り返す。
「そうは言っても、この文化遺産にわしは邪魔にゃろ? これじゃあ、わしが帝国を作ったみたいにゃ~」
「猫帝国……歴史の1ページに……」
「刻んじゃダメなんにゃ~~~!!」
メイバイがボケるので、その先は言わせねぇよ!
「オニヒメちゃんはどう思う? オニヒメちゃんの故郷なんだから、オニヒメちゃんが決めるといいよ」
わし一人で揉めていると、リータがオニヒメに意見を求めるので、これならば大丈夫……
「う~ん……このま……」
「このままじゃ嫌だよにゃ~? 猫帝国が故郷じゃ恥ずかしいもんにゃ~?」
オニヒメも石像を壊す事に反対していたので、わしはカットインして、その先は言わせねぇよ!
「というわけで、石像は破壊する事でけっ……むぐっ!」
無理矢理決定を言い渡そうとしたわしであったが、リータが口を塞いでその先を言わせてくれねぇよ!
「オニヒメちゃん?」
「ムームー!!」
「このままでいい。なんなら少ないぐらい」
「では、作業続行です!!」
「にゃんで~~~!!」
こうして帝国は、猫帝国として生まれ変わり、嘘の歴史として刻まれるのであった。
「シラタマ殿。丸みが足りないニャー。全部作り直しニャー」
「パパ、真面目にやらないと怒るよ」
もちろんわしも作業に駆り出され、せめてもの抵抗でスレンダーに作っていたのだが、現場監督のメイバイとオニヒメに怒られて、自分の石像を作らされる屈辱を受けるのであったとさ。
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