722 時の賢者の手記パート1(猫抜粋)
俺は時の賢者。いつの間にか人々からこう呼ばれていたから、この二つ名で俺が生きた証を手記に残そうと思う。
10XX年〇月×日……
16歳という若さで俺は死んだ。科学の発展した俺の世界では、ありえない交通事故死だ。
死後聞いた話だと、整備AIでも見付けられないわずかな故障と様々な偶然のせいで、空飛ぶ無人タクシーが俺の上に降って来たらしい。
そんな事を誰から聞いたか気になるところだろう。おそらくこれを一番最初に読む事になる者は転生者だからわかるはずだ。
イザナギノミコトだ。
そう。俺も転生者なのだ。
ただ、俺の場合は少し特殊だ。死後、イザナギノミコトに、俺をスカウトしている者が居る事と、嫌なら断ってくれてもかまわないと言われた。
しかしこれを蹴ると、俺の徳では次の輪廻転生先が猫だった……。いちおう俺の名誉の為に言わせてもらうが、この年齢からしたらかなり高いほうらしいぞ。
さすがに元人間が猫だなんて、精神的に耐えられそうにないのでスカウト先の話を聞いたら、記憶を持ったまま魔法が使える異世界に行けると言われたので、答えはひとつしかない。
俺はイザナギノミコトに、異世界へと送られたのであった。
そこで待ち構えていたのは、俺をスカウトしたスサノオノミコト。第一印象はデカイ男だ。背が高いとかではなく、山と対話している印象を受けた。
俺をスカウトした理由を聞くと、どうやら俺はIQが高く知識があるからだそうだ。自慢じゃないが、俺は天才の上に知識欲も強く、様々な技術に精通している。
この知識を使って、発展の遅れているスサノオノミコトが管理している世界を良くして欲しいというのが俺のミッションだった。
その報酬の先払いで、魔法書なる物を与えられたが、この俺を持ってしても半分も理解できない。なんなら多すぎて、どこに何が書かれているかなんてさっぱりわからない。
ここはもう少し検索しやすいように出来ないかと頼んだら、俺の世界では10世紀の半ば辺りに使われていた検索エンジンのような機能を付けてくれた。
しかしこれでも使いにくかったから、俺の知識にあるアルゴリズムを使わせてくれと頼んでみたら、スサノオノミコトは一瞬で理解して改造してくれた。
さすがは神と呼ばれる存在。俺の世界のAIを超える演算速度だ。
この魔法書と知識があれば、世界を作り変えるなんて余裕だ。俺はスサノオノミコトに感謝の言葉を送り、転生したのであった。
転生先は貴族の三男。お願いした通り美男子だ。家督を継ぐ必要もないし、両親が甘やかして育ててくれるから、まずまずだ。もう、なんなら、このまま魔法書を読みながら引きこもりたい。
これは魔法書なんて生易しい物ではない! 世界の……いや、宇宙……いやいや、この世の
……少々興奮した事を書いてしまったが、この俺を持ってしても、生涯を掛けて研究したビッグバンの謎が半分もわからなかったのだから、素晴らしい物だと理解してくれ。
そんな本を与えられたのだ。読み漁っている内に、赤ちゃん、幼少期なんてあっと言う間に時が過ぎて、13歳となってしまった。
ここまで俺は何もしていない……。なんなら、引きこもりのせいで体型はまん丸。ちょっと動いただけでも息が切れる。友達も居ない……
両親が金持ちの上に優しいから甘え過ぎてしまったのだ。しかし13歳ともなると、この世界では大人扱いされる。両親は一生引きこもっていていいと言ってくれたが、そんな一生はダメだと俺にだってわかる。
俺は一念発起して、魔法学校に通う事にした。
俺には魔法書があるのだから、首席で卒業してやる!!
……と、思っていた頃もありました。俺、魔法書読んでただけで使った事が無いから、八歳の子より魔力がありませんでした。
もちろん体育の授業なんて最悪。一番年下の子にも勝てませんでした。泣きました。イジメられました。それで学校辞めました。
これは自分が招いたことだ。自堕落に引きこもっていた俺が悪い。両親が心配してくれたが、一念発起してひと月もしない内に逃げるわけにはいかない。
そもそも俺の真骨頂は高いIQと知識だ。技術者として成り上がればいいのだ~~~!!
……と、思っていた頃もありました。この世界、俺が生きていた頃にあった物が何もないんだ。いや、食器や服はそこまで変わらないが、それですらハイテクノロジー盛り盛りだったから、俺の知識ではこの世界の物が一切作れないんだ。
その素材を作るにしても、レアアースや科学薬品がたっぷり必要なのに、どこにも売ってないどころか、調べる道具すらない。
詰んだ……
また引きもろうと考えた矢先、スサノオノミコトの顔が浮かび、祈ってみたら夢の中に現れた。
もちろん「何もしてへんやないか!」って、めっちゃ怒られました。
ただ、スカウトした手前、少しは手助けしてくれるとの事なので、元の世界にあった物体に光を当てるだけで成分を分析してくれる機械を持って来て欲しいと頼んだのだが、調子に乗るなと怒られた。
どうも手助けするにしても、限度があるらしい。それならばソーラー時計ぐらいならいけるかと思ってお願いしてみたらこれも断られて、機械時計ならいけるとのこと。
そんな古代の時計でも無いよりはマシなので、五個ほどいただく事にした。それと魔力の増やし方を教えてもらい、夢から目覚めたのであった。
機械時計を五個も貰ったのは、一個は分解して構造を理解する為だ。しかし、合う工具がないので、これは追々考える。
魔力の増やし方は、学校に通った時に子供でも大人より多くの魔力を持っていた奴がいたから、不思議に思っていたから。考えたらわかるだろうが、ちょうど聞く相手が居たから、わざわざ実験に時間を使う必要もなかったからだ。
それさえわかれば、なんのことはない。四六時中魔法を使えばいい。魔法書で見付けた収納魔法と、吸収魔法を同時に使い続ければいいだけだ。
本当は次元倉庫なる魔法を使えれば荷物持ちは楽なのだが、いまの俺の魔力量では使えないので追々だ。
それよりも、少ない魔力量でも使える魔法陣を学んだほうが得策だろう。これを数多く用意しておけば、あの生意気なガキにも勝てる! 待ってろよ、クソガキ~~~!!
そんな事を思っていた頃もあったが、魔法の勉強が楽し過ぎてどうでもよくなった。
たまたま傭兵ギルドでクソガキを見掛けたが、俺はこの一年で体型も変わっていたから気付いていなかった。だから、俺の前を通り過ぎて行く時に、バレないように物がちょっと重くなる魔法陣を片方の靴に張り付けただけだ。
この傭兵ギルドとは、獣を狩って持ち帰るとお金が稼げると聞いたから登録した。もちろん戦争が起こった際にはお声が掛かるので、俺にはちょうどいい。
スサノオノミコトから、黒い森が作られる理由を聞いていたからな。
別に戦争に参加するつもりはないが、キナ臭い情報を早くに手に入れるには手っ取り早い。貴族の親からも戦争が起きそうになると辞めるように声が掛かるはずだから、確実な情報になるだろう。
ただし、イジメを受けた事もあって、パーティに属する事は怖くて出来なかった……
まぁ俺には、魔法書から学んだ魔法陣がある。下手に仲間を引き連れていたら、巻き込んで殺していただろう。
まさかウサギを一匹狩るだけで森が燃えるとは……
魔法陣製作が楽しくて、杖に仕込んだ魔法陣を少々重ね過ぎたようだ。もちろん事件になったが、ソロの新人がこんな馬鹿げた出力の魔法を使うと思われなかったから、なんとかバレずに済んだ。
こんな事があったからと言うわけではないが、別の街に行って傭兵の登録を偽名でやり直した。親に迷惑を掛けるわけにはいかないからな。
ただ、出力調整で時間を喰って、金が無い!
獲物はいつも消し飛ぶから売り物にならないのだ。なので、魔法で何か売れる物を作れないかと考え、砂時計を作ったらどうかとの結論に至った。
機械時計もあるし、正確な時間を計る事は
試しに、一時間と十分の砂時計を商業ギルドに持ち込んだら、綺麗なオブジェという扱いで買い取ってくれた。この時は、砂時計の価値に気付いていなかったのだが、次回持ち込んだ時には大量発注を受ける。
やはり、正確な時間を知れるという事は、誰しもが欲しい技術なのだろう。
生活の基盤が出来た頃には魔法陣の調整も上手くいったので、傭兵としても活躍をするようになって来た。ただ、ソロで大量に獲物を持ち込むので、勧誘が凄かった……
どうも、俺の事を荷物持ちにしたいようだ。そんなパーティが大半なので、イジメをしていた奴等の顔を思い出してしまい、踏ん切りが付かない。町を転々として、パーティ勧誘からは逃げ回った。
そんなある日、親から手紙で王都に呼び出された。貴族の務めでもあるのかと思って出向いたら、俺が砂時計製作者だと女王陛下にバレたそうだ。
特に隠していたわけではないのだが、偽名を使っていたから目立ちたくないと思われ、親から口利きをしたほうが得策だと考えて、こんな呼び出しの仕方をしたそうだ。
初めて会う女王陛下は少し怖かったが、民を大事にする良き君主だった。
俺を呼び出した理由は、王都や町に大きな砂時計を作りたいがため。一日の時間を正確に知れたら、民の暮らしが豊かになると考えたそうだ。
その為に、大きな砂時計を作ってくれと女王陛下に頭を下げられたので、俺も断る事は出来なかった。家族が目をキラキラさせて見てたから……
この時代の時間表記は太陽の出ている時間を三分割している程度なので、24時間という概念を教えるのは苦労したが、王都には二個の砂時計を設置した。
これで毎日砂が落ち切ると同時にもう片方をひっくり返せば、ほぼほぼ正確な時間になるだろう。目盛りも一時間毎に付けたから、好きな時間に区切って鐘でも鳴らせば、民も合わせて動けるはずだ。
この砂時計を設置した建物は「時の鐘」と呼ばれ、俺が初めて世界を発展させた第一歩となったのであった。
完成披露式典にはいちおう出席したが、あまり目立ちたくないのでその日は家族と過ごし、それからは街を回っては、砂時計の設置。お金は女王陛下からいくらでも貰えるから、生活に困る事はなくなった。
これなら国を出て、旅をしても余裕で暮らして行けるのではと思った矢先、キナ臭い情報が入って来た。
隣国が、この国に戦争を仕掛けると……
親からの手紙でも、隣国は時の鐘を狙っているから気を付けるように言われたのだが、この戦争って……俺の取り合いか??
ならば俺を差し出せば終わる事なのだが、女王陛下が俺を守る為に護衛の騎士まで寄越して来たところを見ると、ヤル気満々だ。
しかし戦争が起こると、スサノオノミコトに怒られるかもしれない。せっかく発展に一歩踏み出したのだから、ここで止まるわけには行かない。
俺は護衛を
とある草原……
開戦十分前に両国の代表者が何やらお互い言い合いをして、自陣に戻って行ったそこを俺は狙った。
ドッカァァーーーンッ!!
と、大爆発。衝撃波と爆風が吹き荒れ、空には巨大なキノコ雲が作られた。
俺は煙が引く前にその下に陣取り、この日の為に作っていた音声を拡張する魔法陣を付けたマイクを握って叫ぶ。
『我は時の賢者! 戦争によって両国が発展することはない! これから世界中に砂時計を届けるから、戦争はやめるのだ~~~!!』
これが、「時の賢者」爆誕の瞬間であった……
* * * * * * * * *
「お前が言わせてるにゃ~~~!」
手記の最初に、二つ名は自然に付いたと書いてあったのに自分で声高らかに叫んでいたのでは、わしのツッコミの声は大きくなるのであったとさ。
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