288 トンネル開通にゃ~


 東の国に帰る前日、わしは朝からウンチョウを迎えに最速で走り、飛行機もぶっ飛ばして猫の街に戻る。そして各種引き継ぎをし、街の者にウンチョウを紹介する。

 ウンチョウは、わしが留守の間の代理だ。街の管理は各担当者がしてくれるので、その報告を聞くだけでいいと説明している。事実、ここ最近はわしが口出ししなくとも、上手く回っているから何も問題ない。

 問題なのは、ウンチョウが軍の仕事で忙しい事だが、こちらも通信魔道具を多く預けたので、部下も連れて来たからなんとかなると言ってくれた。


 街の者には、わしの代理だから必ず言う事を聞くようにと念を押したが、すんなり受け入れられた。


「猫王様より、威厳があって王様らしいよね~」


 とか聞こえて来たが、無視してやった。


 街の防衛は、ジンリーだけでなく、シェンメイとケンフを残すので、こちらも問題ない。

 ケンフに居残りを言い渡したら、尻尾を下げて「クゥ~ン」と言っていた。なので、頼りにしている旨を伝えると、尻尾を立ててやる気に満ち溢れていた。いまだに犬設定が抜けていないようだ。

 その上、伝説の白牛シユウが居るので過剰戦力だ。ウンチョウのお願いには必ず応えるように頼んだので、帰って来たらドーナツを山ほど用意してやるつもりだ。


 今日は引き継ぎと出掛けの準備を済ますと早めの就寝。ゴロゴロと眠り、翌朝……


 ズーウェイに群がる子供達の姿があった。


「みんな。行って来るわね」

「「「「「うぅぅ……」」」」」

「必ず帰って来るから、そんな顔しないで」


 子供達は、ズーウェイと別れるのが悲しそうじゃな。ずっとそばに居たから、かなり好かれておったんじゃな。わしも、よくぬいぐるみ扱いされておったのに……まぁ母性には敵わないか。


 ズーウェイの別れを黙って見ていると時間が掛かりそうだったので、無理矢理にでもバスに乗せる。子供達の泣き顔は見ていられないので、お土産を買って来ると言ってみたが、ズーウェイには勝てないようだ。

 その後、リータ、メイバイ、コリス、ノエミがバスに乗り込む。


 ちなみにバスとは、コリスの為に新しく作ってあげた乗り物だ。座席は電車のように片方の壁側に横付けし、余っていた畳を敷いたので、大きなコリスが乗っても広々と寝転べる。

 もしも乗り込む人数が増えても、畳に座れば椅子も足さなくてもいいから楽ちんだ。



 皆が乗り込む姿を確認すると、わしは見送りに来てくれたウンチョウや街の住人に声を掛ける。


「それじゃあ、留守は頼むにゃ。にゃにか問題が起きたら、すぐに連絡してくれにゃ」

「「「「「はい!」」」」」

「ほにゃ、行って来にゃ~す」


 皆の力強い返事を聞いて、わしは手を振り、車に乗り込んで出発……


「シラタマさん……」

「ワンヂェン!?」


 出来ずに、リータに首根っこを掴まれたワンヂェンに驚く。どうやら、ズーウェイと子供の別れのどさくさに紛れて、勝手に乗り込んでやがったみたいだ。


「にゃんで乗ってるにゃ~」

「シラタマ~。連れてってくれにゃ~」

「目を潤ますにゃ~! てか、昨日まで行きたいにゃんて言ってなかったにゃ~」

「それは……」


 どうやらワンヂェンは、わしから誘われるのを待っていたようだ。それが一向に誘われないから言うタイミングを逃し、乗り込んで待っていたらしい。


「それにゃら、言ってくれたらよかったんにゃ」

「だって~……シラタマが連れて行ってくれるって言ってたにゃ~」


 あ……前に言った気がするな。忘れておったわ。


「魔法部隊の引き継ぎはしたにゃ?」

「したにゃ! ヤーイーにも言ったにゃ!!」

「……わかったにゃ。一緒に行こうにゃ」

「やったにゃ~!」


 わしは飛び跳ねるワンヂェンを他所に、車から降りてウンチョウに事の顛末を話してから出発する。一回、行って来ると言って外に出るのはかっこ悪いからやめて欲しかった。



 バスで内壁から出ると、飛行機に乗り継いでトンネルのある砦前に着陸。歩いて中に通してもらい、砦の責任者リェンジェに挨拶。バスを取り出すと皆が乗り込んでいる間にトンネルの確認をする。


 あらためて見ると、でかいトンネルじゃな。東の国側の穴を長期間塞いでいたけど、空気は大丈夫じゃろうか? いちおう魔法書さんで、空気を作り出す魔法は見付けておいたけど、念の為、空気の入れ換えをしておくか。


 わしは【突風】を起こしてトンネルに強風を送り込み、中から風が吹き出るのを確認すると、リェンジェに詫びを入れてバスに乗り込む。


「シラタマさん。何をしていたのですか?」

「何人か吹き飛んでいたニャー!」

「ああ……ちょっと確めていたにゃ」

「「??」」


 空気が無いとか言っても通じないかと思い、わしはボカした言葉を使う。リータとメイバイも何か感じ取ってくれたのか、それ以上の質問はなかったが、撫で回さないで欲しい。

 その後、【光玉】を乗せた車は発進。ゆっくりと走り、地面を確認する。


「わりと平らかにゃ?」

「そうですね。揺れは感じないですね」


 もっとでこぼこを覚悟していたけど、かなり整地されておるな。軍隊の移動があるから、しっかり作ったのかな? 壁はでこぼこじゃが、これなら改修の必要はないかも。入口だけかもしれんが、スピードを上げるか。


 わしは皆に、気になる事があるなら報告してと言って、スピードを上げる。初めは皆、興味を持って見ていたが、単調な暗闇に飽きて、わしを撫でるかコリスを撫でるかで時間を潰す。


 コリスは寝ているからいいけど、わしは忙しいのですよ? そんな悲しそうな顔しないで! 猫ならもう一匹いるから、そっちを撫でて? ワンヂェンは運転の邪魔するな!


 わしがワンヂェンに、リータとメイバイを擦り付けると、ワンヂェンが「にゃ~にゃ~」と文句を言って来た。

 車内は、「ホロッホロッ」、「ゴロゴロ」、たまに「にゃ~にゃ~」と声が響き、運転時間が二時間になると停車。わしは危険があるかもと皆を残し、火をつけたロウソクを持って車外に出る。


 うん。ロウソクの火は消える気配はないし、空気は大丈夫そうじゃな。走っていた速度だと、ここで一日ぐらいの距離じゃけど、どこに設置しよう?

 通信魔道具を中継する魔道具は盗まれやすいらしいから、見つからない場所に設置したいんじゃが……角で作ったからバレないかな?

 定期的に補充しないといけないから目印も必要じゃし……高い所に付けておくか。5メートル上に設置して、脚立持参で来てもらおう。



 わしは土魔法で足場を作ると、ノエミに作ってもらった魔道具を壁に設置して、その下に目印の十字のマークを入れる。

 設置が済むと、テーブルセッティングをする。少しお昼には早いが、次のポイントまで車を止めたくないので致し方ない。

 昼食の準備が終わると車内に戻って、皆を降ろす。


「それで、どこに魔道具を設置したの?」


 皆で和気あいあいと昼食を食べていると、ノエミが質問して来た。


「ノエミはわしの国の者じゃないから言えないにゃ~」

「トンネルは共同管理にするかも知れないんでしょ? そうなったら二度手間になるじゃない?」

「たしかにそうにゃけど……盗まれたくないから、もしもの時は黙っておいてにゃ?」

「ええ。約束するわ」


 ノエミが固く約束してくれたので、わしは魔道具を設置した場所を指差す。


「あの上のほうにゃ。わかるかにゃ?」

「岩肌に馴染んで、まったくわからないわね。魔力を補充する時に困るんじゃない?」

「いちおう目印は付けたにゃ」


 わしが壁に書かれた十字の模様を指差してノエミと話をしていると、メイバイとリータが割り込んで来る。


「それじゃあ、わからないニャー。リータ。アレを作るニャー!」

「そうですね。アレが必要ですね」

「アレにゃ? ……にゃ!? アレは必要ないにゃ~!」

「「必要 (ニャー)です!」」


 わしは野生の勘でアレの正体がわかったので、スリスリとデメリットを述べて必死に説得する。

 なんとかわかってはもらえたが、長いトンネルの中では見付けるのは難しいらしいので、少し離れた場所の壁を掘って休憩所を作る事にした。

 それと、トンネル内の衛生面も気になるので、ボットン便所も数個作る。入口にも正面の壁にも落ちるな危険と書いたが、神隠しにあわない事を切に祈る。

 休憩所が完成して戻って来たら、中継魔道具の下に小さな猫又がいやがった。文句を言おうとしたら殺気を放たれたので、見なかった事にした。早く風化する事をマジで祈る。



 皆に出発を告げると続々と乗り込んでバスは発進。リータとメイバイに話し掛けると、何か怒られそうな予感がしたのでゴロゴロ運転。次のポイントに到着するとわしだけ降りて、魔道具の設置と休憩所作り。

 戻って来ると、また猫又がいやがった。とりあえず皆をトイレ休憩にバスから降ろし、その間に壊そうとしたけど、リータとメイバイのどちらかが残っていたから失敗。仕方がないので、皆を乗り込ませて発進。


 皆の寝息が車内に響く中、ようやくわしが埋めた、東の国のトンネル出口に到着した。ここでもロウソクを持ったわしだけ降りて、バスの屋根に乗って移動しながら、ちまちまと吸収魔法で土を取り除く。



 そうして数十分後、ついにトンネルが開通した。



 差し込む光を見た皆の感嘆の声を聞きながら坂を登り、トンネルから出ると、数人の騎士に囲まれた。なので、わしは挨拶をする為にバスから降りる。


「「「「「猫!?」」」」」


 う~ん……騒いでおる。わしの姿を知らん奴らか? まぁいきなりトンネルが開いて、得体の知れない乗り物から、これまた得体の知れない生き物が出て来たら驚くか。ちょっとした宇宙人気分じゃわい。


「猫! 戻ったか」


 わしが周りの反応を見ていると、一人の騎士が駆けて来た。


「あ、オンニ。ただいまにゃ~。まだここに残っていたんだにゃ」

「砦の一時的な責任者に任命されているからな。王殿下から、猫が戻ったら通信魔道具を繋ぐように言われている。こっちに来い」

「わかったにゃ。みんにゃ~、降りるにゃ~」


 わしは、皆が車にずっと乗っていたから体を伸ばせるようにと車から降ろし、オンニのあとに続こうとする。

 だがオンニは、ワンヂェンに二度見し、コリスに三度見し、高速で首を振って脳震盪を起こしたのか、固まった。


「どうしたにゃ?」

「キョ、キョ、キョ……」

「にゃ~~~?」

「キョリスが、何故、ここに……」


 あ……やっちまった。だから砦内がパニックになっているんじゃな。しかし、オンニの二度見はすごかったな。プププ。首がもげるかと思ったわい。

 と、アホなこと考えていると、誰かが攻撃しそうじゃ。ちゃんと説明しないとな。


「こちらに御座おわすは彼のキョリスの娘、コリス様にゃ~。みにゃの者、頭が高いにゃ~~~!!」


 わしの発言に、皆、土下座を……しないで、あわあわするだけ。すると、後方からゴゴゴゴと聞こえて来た。もちろん、リータとメイバイだ。


「シラタマさん! もっときちんと説明しないと、コリスちゃんがかわいそうでしょ!!」

「そうニャー! いっつもいっつも……遊んでる場合じゃないニャー!!」



 オンニ達の代わりに、わしが土下座する事になるのであったとさ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る