289 ローザの街に寄るにゃ~


 コリスショックで固まったオンニ達を、土下座しながら宥め、落ち着くとノエミを連れて小屋に入る。

 その他には、休憩して待っていてと言ったが、メイバイがついて来た。なんでも、わしが調子に乗らないかのお目付け役らしい……


 小屋に入ると魔法使いがオンニの命令に従い、通信魔道具で王のオッサンに繋いでくれた。

 そこでノエミと共に戻って来た報告と、明日の朝に城に行くと告げる。オッサンは嬉しそうな声を出していたが、メイバイに肘でつつかれてコリスの説明をしたら急変。かなり焦っていたので、他の報告は聞いてくれたか微妙だ。

 最後は準備をすると言われ、一方的に切られてしまった。


 う~ん……通話の先では、てんやわんやじゃったけど、ちゃんと聞いておったのか? まぁ漏れ無く説明したから、メイバイには怒られないかな? これでいいですよね? うん。心は読んでくれたが、微妙な顔をしておるな。


 その後、オンニの態度が少し変わったので、気持ち悪いから今まで通り接しろと言って皆の元へ戻る。

 すると、とんでもない物が目に入った。


「リ、リータさん? にゃにをしているのですかにゃ~??」

「あ! シラタマさん。いい出来だと思いませんか?」


 いや、わしが質問しておるんじゃ! なんでまた、大きな猫又がトンネルの前に鎮座しておるんじゃ! しかも、二匹も……


「それは、にゃんの為に作ったのですかにゃ?」

「猫の国に行く、唯一のトンネルですからね。必要じゃないですか?」


 だから、わしが質問しているんじゃ! うん。めっちゃ睨まれた。ここは、やんわり拒否してみよう。


「いらないと思うにゃ~」

「キャットトンネルには必要です」


 は? 名前付いてるの?? いつの間に……


「ワンヂェンさんと一緒に強化したので、崩れる心配もありません!」


 あ……それって、トンネルの中もですか? 頷いてますね。そうですか。壊しに戻……りません!


 わしの心の声に、リータだけで無くメイバイまで反応し、両手を上げてポコポコの体勢を取ったので、逃げ出してトンネルに潜る。

 二人は追い掛けて来てわしを問い詰めようとしたが、やる事があるからと言って戻らせる。


 だから、壊しに行くんじゃないですって~!



 キャットトンネルって……嫌がらせにしか思えん。今度来た時に、石像をコリスに変えて、リストンネルに名称を変えてやろうか? でも、埋められる未来しか待っておらんのじゃよな~。はぁ……

 壊せないのならば仕方がない。ちゃっちゃとやってしまおう。日が暮れる前にローザの街に入りたいしのう。


 猫の国の入口は横穴じゃったが、東の国の入口は下に向いておるから角度が気になる。これでは、馬車で物を運ぶには不便じゃろう。

 土魔法でちょちょいと坂を緩やかにしてっと……こんなもんかな? 長い距離を坂にしたから、ほぼ平地になったな。

 入口が狭くなったからここも広げて、屋根も付けて雨が入り込まないようにしておこう。よし! 完成じゃ。


 わしがトンネル入口を作り変えると、騎士や魔法使いの呆気に取られる顔が目に入ったが、無視して皆をバスに乗り込ませる。そして、オンニに一声掛けて砦の門から出発する。

 車内では、ノエミが変な事を言っているが気にしない。


「そう言えば、あの反応が普通だったわね。シラタマ君と長く一緒に居たから忘れていたわ」

「「「そうそう」」」

「モフモフ~」


 味方がコリスしかいないが気にしない。この際、コリスだけ味方でいてくれたら、わしは幸せだ。


 わしの不穏な考えがリータとメイバイに伝わったのか、激しい撫で回しを受けながらひた走る。かなり運転の邪魔であったが、ローザの街に、無事、到着した。


 いつも通り、バスに乗ったまま街に入る列にしれっと並んでいると、馬に乗った門兵が走って来た。なので誘導に従い、貴族専用の門に案内される。

 そこでわしだけ降りて、ローザに連絡を取ってもらい、問題を解決する為に車内に戻る。


 そう。大問題……。巨大リス、コリスと黒猫ワンヂェンだ。


「二人は変身魔法を使ってくれにゃ」

「どうしてにゃ~?」

「どうして~?」

「これから街を歩くかもしれにゃいから、騒ぎになりそうだからにゃ」

「それにゃら、シラタマもダメにゃ~」

「モフモフもダメ~」


 あぁ猫ですよ~だ! だからじゃよ!


「わしはこの姿しかできないにゃ~。二人は人間に変身できるんだから、無駄にゃ騒ぎを起こす必要はないにゃろ?」

「う~ん……でも、うちもコリスちゃんも長時間維持できないにゃ」

「領主の屋敷まで持てばいいにゃ。コリスも頼むにゃ~」

「うん!」

「わかったにゃ~」


 なんとか説得に成功し、コリスはさっちゃんの髪の毛の白版。リスの耳と二本の尻尾を付けたリス人間に変身し、専用のワンピースを着せる。ワンヂェンはヤーイーの姿に髪の毛だけ色を変えて、猫人間に変身する。

 二人の変身が終わった頃に、馬車から降りるローザの姿が目に入ったので、わしもバスから降りて歩み寄ると、抱き抱えられてしまった。


「モフモフです~」


 モフモフ? マリー語で翻訳すると、久し振りってところか?


「久し振りにゃ。元気にしてたかにゃ?」

「はい! ねこさんが無事に戻って来てよかったです~」

「にゃ~?」

「山向こうに乗り込んだと聞きまして、わたし、心配で心配で……」

「ああ。心配してくれてありがとにゃ。無事、怪我なく帰って来れたにゃ」


 目を潤ますローザの頭を撫でて、落ち着いたら屋敷への移動方法を話し合う。ローザは馬車で来ていたらしいが、わし達を全て乗せきれないので、バスのまま街に入れないかお願いしてみたら、了承してもらえた。

 バスの大きさに驚いていたので、どちらかと言うと乗ってみたかったようだ。なので、ローザを車内にご案内。すると……


「サンドリーヌ様!?」


 コリスを見て驚いた。


「似てるけど、違うにゃ。この子はコリスって名前で、わしが預かっている子供にゃ」

「そうなのですか……耳や尻尾が付いていますけど、猫耳族の方ですか?」

「ちょっと違うにゃ。ロランスさんにも説明が必要になると思うから、話はそこでもいいかにゃ?」

「……はい。じゃあ、撫でます!」

「ゴロゴロ~」


 こうして、ローザに撫でられながら街に入る。馬の居ない馬車は目立つかと思えたが、ローザの馬車の後ろにピッタリ付けてノロノロ走ったから、そこまでの騒ぎにはならなかった。

 ローザの屋敷に着くと、ロランス達に出迎えられる。ここでもコリスが驚かれていたが、これからもっと驚くからと念を押して、応接室に通してもらった。



「猫ちゃん……それで、驚くことってなに?」


 皆が席に着くと、ロランスが鋭い目で質問して来た。


「ああ。その前に、ここに残していた猫耳族の事を聞きたいにゃ」

「驚く事を先に聞きたいんだけど……」

「それを聞いたら、話が進まないかもしれないにゃ~。ズーウェイも、早く仲間に会わせてあげたいにゃ」

「……わかったわ」


 ロランスさんいわく、猫耳族はこの街に残って簡単な仕事をさせているそうだ。家は空いていた屋敷を使い、共同生活を送っているとのこと。

 人数が多いから少し窮屈な生活らしいが、元奴隷なので、それでも感謝されているらしい。

 それを聞いてわしは安心し、ズーウェイを猫耳族の元へ案内してもらうようにお願いする。


 そうして、使用人の案内でズーウェイが出て行くと、話を再開させる。


「猫耳族を良くしてくれて、ありがとにゃ~」

「いいえ。でも、奴隷とは悲しい制度なのね。最初は笑顔もなく、死んだような目をしていたわ」

「でも、最近はそんにゃ事ないんにゃろ?」

「ええ。ようやくってところね」

「ホント、ロランスさんに頼んでよかったにゃ~」

「モフモフ~。もうむり~」


 わしとロランスが話し込んでいると、コリスが念話でギブアップを伝えて来た。


「にゃ!? ちょっと待つにゃ!」

「どうしたの? その子は何も話していないじゃない?」

「念話にゃ! コリス。こっちにおいでにゃ~」


 ロランスが不思議そうに質問して来るが雑に返事をし、広い場所に移動すると、ボフンッとコリスの変身魔法が解けてしまった。


「「「キョ、キョリス!!」」」

「違うにゃ~~~!」


 ワンピースを破って大きな白リスが現れると、ロランス達はもれなく叫んで固まった。わしは安全なリスだと説明し、ワンヂェンも辛そうにしていたので、変身魔法を解いていいと伝える。


「「「黒猫!?」」」


 う~ん……コリスショックより、少しマシか? まぁわしの黒版じゃしな。わしで慣れておるから、もう撫でようと手を伸ばしておる。でも、コリスには手を伸ばそうとしないのは、怖いのかな?


「ローザ。おいでにゃ~」

「は、はい」


 わしは手招きしてローザを呼ぶと、抱き抱えてコリスの腹に埋める。するとローザは……


「モフモフ~」


 と、だらしない顔でモフモフロックにあう。

 次にロランスには、ワンヂェンを捕まえて膝に乗せる。こっちは、ロランスロックで動けなくなって、潤んだ目で見て来る。


「と、こんにゃ感じで、おとなしいにゃ」

「モフモフの海です~」

「あらあら。ワンヂェンちゃんも、なかなか気持ちいい撫で心地ね~」

「シラタマ~! にゃにするにゃ~。ゴロゴロ~」

「我が国との友好を育んでもらおうと思ってにゃ。そうにゃ! せっかくだし、ワンヂェンには友好大使をやってもらおうかにゃ~?」

「にゃんでうちが~! ゴロゴロ~」

「猫の国の大使にゃんだから、一番適任にゃ。にゃ?」

「ゴロゴロ~。それにゃら、王様のシラタマがやればいいにゃ~!」


 わしは皆の顔を見たが、「お前も猫だろう?」と言う目に負けて目を逸らす。ワンヂェンの意見にも「うんうん」頷いていたっぽいから、どっちが友好大使に任命されるかは、熱い闘いになるだろう。


 一通り、コリスとワンヂェンのモフモフを堪能していたローザとロランスであったが、わしとワンヂェンの口喧嘩に反応する。


「ねこさん。我が国ってなんですか?」

「それに王様って呼ばれているけど……」

「あ、山向こうの国、帝国は滅びて、猫の国となったにゃ。その王様として、わしが即位したにゃ」

「「え~~~!?」」


 うん。ローザとロランスさんは、コリスショックより驚いておるな。そりゃ、猫が王様なんじゃから、驚くか。はぁ……


「だから、ペットや婿にしようとしちゃダメにゃ~」

「「ええぇぇ~~~~~~!!」」


 そこが一番驚くところ? ローザは保留にしていたからわからんでもないが、ロランスさんは、まだペットにしようとしておったのか……

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