079 猫争奪戦、打ち上げにゃ~
アイパーティは、わしに全ての攻撃をかわされ、出会った時と同じように、疲れ果てて地面に座り込んでしまった。
「わしの勝ちって事でいいにゃ?」
「うぅぅ……猫さんをモフモフしたかった」
わしの台詞に、マリーは悲しそうな声を出す。
「それにゃら、わしの家にいつでも遊びに来たらいいにゃ」
「猫ちゃん。王都に家があるの!?」
「賃貸だけどにゃ」
「私達でも宿屋暮らしなのに~」
「やっぱり収納魔法ね……」
わしが家を借りていると言うと、アイは驚き、エレナは妖しくわしを見る。
「安く借りているだけにゃ。それより、負けを認めてくれにゃ~」
「マリー。これから猫ちゃんとはいつでも会えるからいいわよね?」
「……はい」
「みんなもパーティ勧誘は諦めましょう」
「力の無い私達が悪い」
「こんな条件じゃ、誰にも無理ね」
「収納魔法が~~~!」
エレナは諦めていないけど、勝ちって事でいいのかな?
諦めの悪い一名の了承は取れなかったが、スティナの側に駆け寄り、事の顛末を報告する。
「……と言うわけで、終わったにゃ~」
「やった~! 勝者、シラタマよ~~~!」
スティナの絶叫のような勝ち名乗りで、ようやく試合が終了するのであった。
わしの勝利宣言より喜びが先に来るって……いくら賭けておったんじゃ? わしもリータに預けていた賭け金がいくらになっているか楽しみじゃから、気持ちはわからんでもないか……
その後、スティナは猫争奪戦の終わりを告げると、観客は笑顔で感想を述べながら訓練場を後にする。
わしをパーティに加えられなかったハンター達は、悔しそうにする者、肩を落とし、悲しそうにする者と、様々な顔を見せ訓練場を後にする。
「イベントの大成功を祝して、かんぱ~い!」
「「「「「かんぱ~い(にゃ)」」」」」
猫争奪戦が終わり、わしの家で祝勝会を行う事となった。参加者はさっちゃんと愉快な仲間達。アイパーティに加え、リータと、乾杯の音頭を取っていたスティナだ。
イベントって……スティナが勝手に始めた事じゃ。大成功って事は、ギルドにどれだけ金が入って来るのじゃろう? ちゃんとわしの取り分をくれるか心配じゃ。
まぁわしに賭けた金が、うん十倍で戻って来たから困っておらんけどな。
「あの……猫ちゃん?」
わしが賭け金の総額を頭に思い浮かべていると、アイがコソコソと話し掛けて来た。その他のアイパーティも静かなもので、わし達の話に聞き耳を立てている。
「どうしたにゃ?」
「あそこにいるのは、サンドリーヌ王女様じゃないの?」
「そうにゃ」
「どどど、どうしてそんな人がいるのよ!」
「友達だからにゃ」
「「「「「え~~~!!」」」」」
みんなおとなしいのは、さっちゃんがいるから緊張しておったのか。マリーがわしにくっついて離れないのも、そのせいかのう。でも、そんなことするからさっちゃんが
スティナは……浮かれて気付いてなかったのか? 今頃、驚いておるな。
わしが皆の驚く顔を眺めていると、さっちゃんが怒鳴りつけて来る。
「シラタマちゃん! また女の子が増えているわよ。どう言う関係なのよ!」
たしかに女子率は高い。男はわししかおらん。わしを男とカウントしていいのかは判断できんが……
「昔、山の中で助けた事があるにゃ」
「シラタマちゃんらしいけど、シラタマちゃんは誰にも渡さないわよ!」
さっちゃんは、ビシッと宣言をする。すると、さっちゃんの王女オーラのせいか、アイパーティはわしから離れ、壁際まで追いやられてしまった。
「わしは誰の物でも無いにゃ~。それと、さっちゃんは王女様なんだから、そんにゃこと言うと、みんにゃ怖がるにゃ」
「だって~」
「権威を振りかざす子供は嫌いにゃ」
「シラタマちゃ~ん! 捨てないで~」
捨てるもなにも、さっちゃんはわしの物では無い。もちろんわしも、自由を愛する猫じゃから誰の物でも無い。
「泣くにゃ~。さっちゃんとわしはずっと友達にゃ~」
「死が二人を分かつまで?」
「それは結婚の時のセリフにゃ!」
「バレた……エヘヘ」
まったく……どうして人間のさっちゃんが、猫なんかと結婚したがるんじゃ。じゃが、少しは機嫌は直ったかな?
さっちゃんは泣きついて来たが、わしの友達発言で機嫌を直して撫で回す。そのやり取りを見ていたアイ達は、さっちゃんの一喜一憂する姿がおかしかったのか顔が緩み、少し緊張が解けていたので、さっちゃんを紹介する。
「さっちゃんはちょっと変わっているけど、優しい良い子にゃ。みんにゃも仲良くしてあげて欲しいにゃ」
「えっと……よろしくお願いします」
アイ達がペコリと頭を下げた後、わしが間に入って皆をさっちゃんに紹介して、しばらく飲み食いすると、笑い声が聞こえるぐらい祝勝会がいい雰囲気になって来た。
そうして緊張の解けた、マリー、アイ、リータとで、わしは話を弾ませる。
「ねこさんと王女様は、すっごく仲がいいのですね。ビックリしました」
「まぁ喧嘩するほど仲がいいってやつにゃ」
「ビックリと言えば、猫ちゃんはリータを面倒見てくれてるのね」
「知り合いなのかにゃ?」
「はい。アイさん達にはハンターになった時に、お世話になりました。ビッグポーターもくれたんですよ」
前に言っていた先輩って、アイ達じゃったのか。世間は狭いのう。
リータがアイ達に感謝の目を向けると、皆は照れくさいのか、アイ、エレナ、ルウと言い訳を口にする。
「それは猫ちゃんのおかげでもあるわね」
「そうそう。毛皮が高く売れたからね」
「おかげでポイントも付いて、Cランクに早く上がれたわ」
「その話、聞き捨てならないわね。あなた達、人の……いや、猫の手柄でポイント取ったの?」
わしとアイ達の会話に、ギルマスのスティナが割り込んで来た。ポイントの不正取得は、ギルマスとして許せないみたいだ。
「いえ、その……」
さすがにギルマスに睨まれては言葉も出ないか。王女のさっちゃんもいるし、緊張の連続でかわいそうじゃのう。ここは助け船を出してやるか。
「わしと一緒に戦ったから、不正ってわけじゃないにゃ」
「……本当に?」
「本当にゃ。それで今日のわしの取り分の話なんにゃが……」
「シラタマちゃんがそう言うなら本当ね。そろそろお風呂入ろっかな~」
わしが話を変えたらスティナも話を変えよった! 払うって言ったのに、払う気ないのか? 怪しい……
「シラタマちゃ~ん。お風呂の準備よろしく~」
「この家はお風呂もあるのですか?」
「猫さんは、いちから家を建てたんですよ」
「やっぱり便利ね」
「私達のパーティに……」
「その話はもう終わったにゃ。準備してくるにゃ~」
スティナの台詞から、各々口を開き、またパーティ勧誘となりそうだったのでわしは逃げ出し、お風呂の準備をする。
いそいそとお湯を作っていると、さっちゃんが風呂場の扉を開けて声を掛ける。
「シラタマちゃん」
「あ、さっちゃん。さっちゃんも入って行くかにゃ?」
「それが……お姉様達に無理を言って、シラタマちゃんの応援に行ったから、これから勉強しなくちゃいけないの。だから、今日は帰るね」
「偉いにゃ! さっちゃんにゃら、立派な女王様になれるにゃ~」
「お姉様のどちらかがなってくれたら、シラタマちゃんと、もっと一緒にいれるのにな~」
「前言撤回にゃ……」
「なんでよ~!」
結局、さっちゃんは、ブーブー言いながら城へ帰って行った。
さっちゃんが城に帰り、お風呂の準備が終わると、スティナとアイ達はお風呂に入る。わしも誘われたが、人数が多いと言って断った。
そうして縁側に腰を降ろし、酒を片手にくつろぐ。すると、リータが嬉しそうな顔でわしの隣に座った。
「嬉しそうだにゃ。どうしたにゃ?」
「猫さんが、他のパーティに入らなくてよかったです~」
「負けるわけがないにゃ~」
「そうですね」
「リータはどうするにゃ?」
「何がですか?」
「リータも戦えるようになってきたにゃ。もう少ししたら、他のパーティに移ってもやっていけるにゃ」
「え……」
「アイのパーティなんかどうにゃ? みんにゃを守りながら、土魔法でサポートするとバランスもいいにゃ」
「………」
「にゃんだったら、わしから頼んであげる……にゃ??」
わしは思いつきでリータの将来を話し出した。するとリータは黙り、大粒の涙をぽろぽろと落とす。
「なんで、そんなこと……言うんですか……」
「にゃ……」
「私が邪魔なんですか? もう一緒にいてはダメなんですか?」
「いや……そう言うわけじゃないにゃ。リータの将来の事を考えてにゃ。わしにゃんかと居ても、周りからにゃにを言われるか……それにわしは、いつか遠くに旅立つかも知れないにゃ」
「何を言われてもかまいません! どこでもついて行きます! 私は猫さんと一緒に居たいです!」
うっ……泣かせてしまった。元々、ちょっとの間のパーティのつもりじゃったんじゃが、ずいぶん懐かれてしまっていたか。泣いている女の子を突き放す事も出来んし、この話は一旦保留かのう。
「もう泣くにゃ~。リータの好きな様にするにゃ」
「一緒に居てもいいのですか?」
「いいにゃ。でも、お風呂と寝室は分けるにゃ」
「え……そんな……うぅぅ」
なんでそこで泣くんじゃ? さっきより泣いておるぞ? まさかわしを、バススポンジや抱き枕とか思っておるのか。その為に、一緒に居たいってわけじゃないよな?
「わかったにゃ~」
「うぅぅ。もう離しません~」
「わかったにゃ。わかったから離すにゃ~」
わしが泣いて抱きついて来たリータを宥めていると、お風呂から上がって来た、スティナとアイ達に抱き合っている姿を見られてしまった。
「シラタマちゃんが、リータとイチャイチャしてる!!」
「人(猫)聞きの悪いこと言うにゃ!」
スティナの台詞に文句を言っていると、その後ろでは、アイ、ルウ、エレナでコソコソと話し合っている。
「猫ちゃんとリータってデキていたの?」
「さっき一緒に暮らしていると言っていたよ」
「怪しいと思っていたのよね~」
「そこ! コソコソ言うにゃら聞こえない所で言うにゃ!」
三人にツッコミを入れると、今度はマリーが手を上げる。
「私もねこさんと付き合います!」
「にゃんでそうなるにゃ~!」
「シラタマちゃん、モテモテね」
「でも二股はいけないわ」
「尻尾は二本あるからいいんじゃない?」
「王女様の分が足りないわ」
「だから、コソコソは聞こえないように言うにゃ! もうわしがどっか行くにゃ~!」
皆でコソコソとわしのゴシップで盛り上がるので、いたたまれなくなったわしは居間から逃げ出し、風呂場に向かう。リータもまだ入っていなかったので、いつも通り普通に入って来たが、何故かマリーまで入って来た。
二度目だし、何故かと聞くと「リータだけズルい」とのこと。結局、マリーはわしの寝室までついて来て、リータとマリーの間で眠る事となった。
それから数日……アイパーティは、わしの家に居着いている。今日も居間でゴロゴロしてやがるので、眉間に怒りマークが浮かびそうだ。
「……宿屋はどうしたにゃ?」
「引き払ったわよ。どうして?」
「ここはわしの家にゃ。そろそろ出て行くにゃ!」
「え~! 部屋も余ってるんだからいいじゃない」
「宿屋より居心地がいい」
「お風呂代も掛からないから経済的よね」
「料理は作らないといけないけど、冷蔵庫にいい肉入ってるしね」
「ねこさんも抱き放題!」
こ、こいつら……出て行く気が無いな。部屋と風呂は金が掛かっておらんが、食事代が高い。
ルウの料理は上手いけど、肉の消費が酷い。ルウ一人で、五人分以上食っておるし……次元倉庫に黒い動物の肉はまだまだあるけど、タダで振る舞うのは
「うちを宿屋代わりにするにゃら、お金を払うにゃ~!」
「「「「え~~~!」」」」
「え~っじゃないにゃ! 食費だってタダじゃないにゃ。それが嫌にゃら、出て行くにゃ!」
「みんな。猫の言い分も、もっともだ」
「モリーは猫ちゃんの味方するんだ?」
「一般常識の話だ」
「わかったわよ。いくら払えばいいの?」
「考えていなかったにゃ」
「それじゃあ、私達の一日の生活費の半分のこれぐらいでどうかしら?」
エレナはサラサラと一日の宿代、食費、雑費を人数で掛けた額を紙に書いて、わしに見せる。
う~ん。いまの食費を差し引くと、少ないが利益が出る。これだけ利益が出るなら、黒い動物の肉をご馳走してもいいか。本当はギルドで売りたいが、食べさしで気が引けていたし、騒ぎが起きそうじゃしな。
「これにゃらいいにゃ」
「じゃあ、契約書を交わしましょう。ここにサインをちょうだい」
エレナの奴、やけに慎重じゃのう。わしも口約束だけじゃ不安じゃし、ありがたいか。
「ほい! 書いたにゃ」
「やった~! これでお風呂代が浮いて毎日入れる!」
「にゃ……」
エレナの狙いは風呂か! 大衆浴場じゃ、毎日行くとなると結構な出費になる。さっきの雑費の中にはお風呂は週一ぐらいで、後は体を拭くお湯の費用ぐらいじゃった。してやられた……
「契約したんだから変更は認めませ~ん」
「わかったにゃ~。でも、わし達が他所に泊まる時は用意できないにゃ」
「それぐらいならいいよ」
「もうしばらくしたら他所の街に行くから、王都にいる間だけお願いね」
エレナとのやり取りが終わると、アイが期間を指定するので、わしは何故かと質問する。
「どっか行くにゃ?」
「王都からじゃ、最前線の街は遠いのよ。Cランクに上がってからは、違う街を回っているの」
「最前線にゃ?」
「開拓地って言った方がわかりやすいかしら? 森を切り開いている場所は、仕事が多いの」
なるほど。依頼ボードにも、王都から五日掛かる場所が多いのは、そう言う事か。王都周辺はたいした獲物が居ない。だから強いハンターも見かけないのか。
「Aランク、Bランクハンターも最前線に居るのかにゃ?」
「Bランクハンターなら、少ないけど見掛けるかな?」
「Aランクは居にゃいの?」
「ハンターはBランクに上がると、ほとんどの人は城や貴族にスカウトされるから、Bランクハンターも、そもそも少ないの。城勤めになれば待遇もいいから、残っているのは変人か冒険好きな人だけよ」
ふ~ん。日雇い労働者より、安定的な仕事に就く人が多いってとこか。まぁ死の危険が付きまとうよりは、護衛任務をする方が危険が少ないか。
わしも騎士なんてお堅い仕事はしたくないから、Bランクに上がったらどちらかに見られるのかな? そもそもBランクの人に会った事がないから、どちらかと決めつけるのはかわいそうじゃな。
あ! 一人だけ会った事がある……
「バーカリアンはどっちにゃ?」
「「「「「変人!!」」」」」
全員一致ですか。そうですか。
こうしてアイパーティから、金銭とハンターの情報を貰いながら、わいわいと共同生活が始まるのであった。
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