312 その日、発見したもの


「リータ! メイバイ! コリスにしがみつくにゃ!!」

「「はい(ニャ)!」」

「コリス! 二人を頼んだぞ!!」

「わかった~」


 飛行機の墜落の最中、わしは念話をまじえて指示を出し、二人がコリスに抱かれるのを見て、視線を前に戻す。


 くっそ! 白い鳥に追われているから、スピードを落とすわけにもいかん。川にも届かん。まぁコリスクッションがあれば、ある程度の衝撃でも二人も耐えられるじゃろう。わし達なら頑丈だから、大丈夫じゃしな。


 わしが視線を戻すと森が目の前まで迫り、黒い木に突っ込む。飛行機の機体はすでに両翼は無く、突っ込んだ衝撃でガラスは割れる。

 飛行機は凄い速度で勢いよく突っ込んだものだから、木にぶつかっても止まらず、何本もの木を薙ぎ倒し、ようやく止まる事となった。


「コリス! 大丈夫か!?」

「うん!」

「二人はどうにゃ!?」

「はい。私は大丈夫です~」

「つつつ……なんとか大丈夫ニャー」

「よし! 飛行機からすぐに脱出にゃ~」


 わしが土魔法で飛行機の左側を大きく開けると、コリスは二人を抱えたまま飛び出し、わしはそのあとに続いて飛び出す。


 その直後、飛行機に無数の【風の刃】が降り注いだ。


「にゃ~~~。わしの飛行機が~~~」


 無惨に壊されるその惨劇に、わしは悲痛な声を出す。


「シラタマさん。そんな事を言っている場合じゃないでしょ!」

「鳥はまだ旋回してるニャ。どうするニャー?」

「う~ん……」


 飛行機の恨みを晴らしてやりたいが、なかなかの大物。20メートルぐらいないか? 形はさっきちらっと見たところ、ペリカン? デカイから、プテラノドンかと思ったわい。

 たしか、角と、四本の脚があったような……空は鳥の独壇場で面倒じゃし、わし達を見失っている内に逃げるか? その前に、探知魔法オーン! 

 わ~お。10メートルオーバーが近くにいる。騒ぎを聞いて寄って来たのか? 一度、転移魔法で戻って、また来るか?

 せっかく川を見付けたのに、逃げ帰るのはもったいないな。少し無理をするか。


「デカイのがもう一匹いるにゃ。みんにゃはその一匹に注意して、空も気を付けていてくれにゃ」

「どっちの方角ですか?」

「北東ってところにゃ。出来るだけ早く戻るにゃ~」



 わしはそれだけ言うと、ボロボロになった飛行機の屋根に飛び乗り、【鎌鼬】を放つ。すると白ペリカンはわしを見付けて、複数の【風の刃】を放って応戦する。

 わしはその攻撃を掻い潜り、リータ達と離れるように黒い森に隠れ、そして木に登る。


 白ペリカンは、わしを追うように【風の刃】を放っていたが、見失っていたので当たるわけがない。だが、木のてっぺんにわしを見付けたならば別だ。

 狙い澄ましてわしに【風の刃】を放つ……が、少し遅い。わしは飛び上がり、【突風】に乗って、白ペリカンの後方に打ち上がる。


 白ペリカンは慌ててわしの方向に体を向けるが、わしは待ってやらない。【突風】で、右に左に移動しながら近付く。

 白ペリカンの放っていた【風の刃】は全て避け、目の前まで辿り着くと白ペリカンは大きな口を開け、わしに食い付こうとする。


 でっかい口じゃな。こいつでも食ってろ! 【風猫】!!


 【鎌鼬】渦巻く風の猫は、空を走り、白ペリカンの口の中に吸い込まれる。わしは食われまいと【突風】で少し移動すると、その横ではくちばしの閉じる音が鳴り響く。


 よし! 食ったな。辛そうにバタついておる。落ちてくれたら楽だったんじゃけど、そうは上手くはいかんか。


 わしはすかさず白ペリカンの背に飛び乗り、苦しんでもがいている白ペリカンの背中にネコパンチ。重たいネコパンチを喰らった白ペリカンは、墜落し掛かったが耐えられた。なので背中を走り、首元に近付いて【白猫刀】を抜く。


 【光一閃】斬り!!


 刀にまとった長い光の剣は、白ペリカンの太い首を、一刀両断に斬り落とした。


 次元倉庫~~~!


「にゃ~~~!!」


 墜落する白ペリカンは急いで次元倉庫に入れ、空高くから落ちるわしは集中力を切らし、悲鳴をあげて着地する事となった。



 あ~~~。怖かった~。やはり高い所は苦手じゃ。そんな事よりも、探知魔法オン!

 あら? リータ達から、かなり離れておる。だが、獣とはまだ接触しておらんし、急いだら間に合いそうじゃ。


 わしは周りを確認すると、木を縫いながら走り、リータ達の元へ戻るのであった。





 その頃、リータ達はと言うと……


「なんだか、ドスンドスン聞こえませんか?」

「聞こえるニャ……何が近付いているのかニャ?」

「さっきは白い鳥でしたけど、またって事はないですよね?」

「リータ! そう言う事は、言わないほうがいいってシラタマ殿が言ってたニャー」

「あ……」

「ほら~」


 リータとメイバイが暢気のんきなやり取りをしていると、ドスンドスンと木を薙ぎ倒しながら、白く巨大な生き物が姿を現した。


「おっきいです……」

「トカゲかニャ……」


 その生き物は二本足で歩き、リータ達は見上げて顔を見る。そんな中、コリスが威嚇の声をあげ、リータ達も我に返り、盾やナイフを構える。


 その直後、白い猫が現れた。


「ただいまにゃ~」

「シラタマさん!」

「シラタマ殿!」

「待たせて悪かったにゃ。それじゃあ、一緒に戦おうかにゃ?」

「私達で、攻撃が通じますか?」

「う~ん……」


 敵は……恐竜? ちょっと違うか。爬虫類では間違いないんじゃけど、鎧みたいな体じゃな。アルマジロか? 二本足で歩いているから、これも違うか……あ! テレビで見た事あるかも?

 たしか……センザンコウじゃったかな? 鉄砲の玉をも跳ね返すうろこの持ち主だったはず。

 キョリス並みにデカイし、角五本か……強さはキョリスの半分くらいか? コリスより強いから、わしが相手するしかないな。


「わしがやるにゃ。コリスは二人を守ってくれ」

「うん!」


 コリスと共に皆が離れると、わしは【白猫刀】を抜いてダラリと構える。白センザンコウは、ジッとわしを見つめるだけで、動きを見せない。


 出会ってからけっこうな時間が経っているけど、攻撃をして来ないな。やる気がないのなら、念話で交渉してみるか。

 お~い? ……反応が無い。繋がっていると思うんじゃがな~。とりあえず、逃がしてくれんか? ……ダメじゃ。まったく取り合ってくれん。

 いちおう、交渉は決裂したって事で、【鎌鼬】!


 わしの放った【鎌鼬】は、白センザンコウの顔に当たったが、傷すら付けられずに霧散した。


 硬い! 強さはそれほどではないが、防御力は白い巨象並みか? それならば、【光一閃】!


 わしは刀に光をまとって駆ける。白センザンコウはわしが近付いても動きを見せないので、無防備な足に刀を振り下ろす。

 しかしこの攻撃も、白センザンコウの硬い鱗に弾かれた。わしはその可能性があると思っていたので驚く事もなく、飛び跳ねながら何度も刀を振るう。

 黒い木に取り囲まれているので、足場には困らない。木を蹴って腕を斬り付け、背中を斬り付け、ピンポールの玉のように跳ねながら攻撃を加える。


 手応え無し! 次は鱗の繋ぎ目じゃ!!


 わしは鱗が重なる場所へ、薄い光の剣を滑り込ませるように狙って刀を振るう。すると当たった瞬間、白センザンコウに痛みが走ったのか、小さく声を出した。

 弱点を発見したと思い、わしは同じように鱗の隙間を狙うが、今まで動かなかった白センザンコウが小さく動き、狙った隙間に刀が当たらない。

 それでもわしは、何度も飛び跳ねて隙間を狙う。白センザンコウは、わしの速度に付いて来れないのか、体を小刻みに動かして全身の隙間を守る。


 そのやり取りが何度も続き、なかなかダメージを負わせられないので、わしは着地して次なる戦闘方法を考える。


 ふぅ……これほど手応えが無いのは、巨象のとき以来じゃ。さて、どうやって倒そうか。

 火なら聞くかな? 【朱雀】の熱で倒すか……森の中では大火事になるかもしれんから、却下じゃな。

 氷はどうじゃ? 【青龍】を巻き付ければ、爬虫類ならさぞかし効くじゃろう。


 あ……


 わしが動きを止めて考えていると、ついに白センザンコウが動く。倒れ込み、大きな体でわしを押し潰そうとして来た。

 わしにそんな遅い攻撃が当たるわけがなく、さっと避けて事なきを得る。


 やっと動いた。しかし、何がしたいのかがわからん。考えられる可能性は、わしが疲れるのを待っていたとか? 動きが遅いから、待ちの狩りなのかもしれんな。

 ならば、タコ殴りにしてやろう。


 【青龍】! 行け!!


 わしの放った氷の龍は、飛ぶ軌跡を凍らせ、白センザンコウに巻き付く。わしはその攻撃で終わるかと見ていたが、白センザンコウは暴れて【青龍】を引きちぎる。

 さらに転がって、わしに攻撃するついでに【青龍】を完全に消滅させられた。


 多少は効いたようじゃが、毎度、転がって木を薙ぎ倒されると、リータ達が怪我をしそうじゃな。ここは、一気に決めるか。


「コリス! リータ! メイバイ! 出番じゃ!!」


 わしは念話で皆を集めると作戦を言い聞かせて、白センザンコウと戦ってもらう。

 と言っても、白センザンコウは攻撃をして来ないので、回りをチョロチョロしてもらうだけ。時々攻撃魔法を使えば、攻撃していると勘違いするだろう。


 そうこうしているとわしの準備が整い、皆を散開させて、極大魔法を使う。


「にゃ~~~ご~~~!!」


 突如響く咆哮ほうこう。極大魔法【御雷みかづち】だ。

 今回の魔力量は三割。雷への変換に一分ほど掛かるので、その間をリータ達に頑張ってもらったと言うわけだ。


 【御雷】は、わしの口を発射口に、雷のビームを発射させる大技。雷鳴と共に、白センザンコウの胸に大穴を開けて、空に消えて行った……



 人型で初めて撃ったけど、三割ぐらいなら楽勝じゃな。今回は顔も焼けてない。変換に時間が掛からなければ、動きながらでも使えるんじゃけどな。

 いや、口から何かを吐くのは、化け物みたいじゃからやめておこう。すでに妖怪ってツッコミはいらん!


 わしが無駄なツッコミをしていると、白センザンコウはゆっくり倒れ、リータ達がわしの元に到着した頃に、大きな音を出して地に倒れ伏した。


「シラタマ殿~。さっきの凄かったニャー」

「凄い音でしたけど、ビーダールで聞いた事があるような……」

「ああ。巨象に一度使った事があるにゃ」

「モフモフ~。わたしにもおしえて~」

「コリスにはちょっと早いかな?」

「うぅぅ」

「いつか出来るようになるから、ゆっくり覚えていこうな?」

「うん!」


 皆の労いの言葉を聞いて、ここでお昼休憩。白センザンコウと壊れた飛行機を次元倉庫に入れると、テーブルを出してエミリに作ってもらったお弁当を食べる。

 コリスはドカ弁をがっつくが、リータとメイバイは何やら考え込んで、食事の手が遅い。


「どうしたにゃ? どこか怪我でもしたにゃ?」

「いえ……私達はシラタマさんの足手まといになっていると思いまして」

「そんにゃ事ないにゃ。さっきは助かったにゃ~」

「あんなの手助けにも入らないニャー。誰でも出来るニャー」

「そうですよ。私達はコリスちゃんに守られていただけです」

「まぁそれはしょうがないにゃ~。種族が違うからにゃ~」

「もっとシラタマさんの役に立ちたいです!」

「私も強くなりたいニャー!」

「二人は十分強いし、いつもそばに居てくれて助かっているにゃ。それに、王妃が強くなってどうするにゃ?」

「「だって~」」


 二人はわしの異論に、身を寄せてわしの両頬をぷにぷにする。


「食べづらいにゃ~」

「「だってだって~」」

「わかったにゃ~。にゃにか練習メニューを考えるから、早く食べてしまおうにゃ~」

「「やった~!」」


 二人のおねだりに応えると弁当を堪能し、わし達はデザートを食べてから、川の探索に向かう。



 皆でピクニックを楽しむようにぺちゃくちゃ喋りながら歩くと、ようやく森が切れた。


「「「うわ~~~」」」


 飛行機墜落現場から少し離れていたが、二匹の白い獣と戦って以降、強い獣と出会う事もなく、大きな川がわし達の眼前に現れた。


「水があんなにあるニャー!」

「大きいです~」

「モフモフ~。入っていい~?」

「流されるかもしれないから、足を入れるだけならいいぞ」

「わかった~」


 コリスは聞き分けが良く川に走って行ったが、飛び込みやがった。わしは慌てて近付いてみたら、浅瀬で流れも緩やかだった。

 ここでならいいかと遊ぶ許可を出すが、向こう岸に渡ろうとしないで!


 わしはコリスの尻尾を掴み、それ以上行かないでとお願いして、なんとか止める事が出来た。

 そうこう遊んでいると、リータ達も靴を脱いで川に入り、わしに水をぶっ掛ける。コリスもマネして大量の水を掛けるので、全員、服がびちゃびちゃになってしまった。



 しばらく遊んでいたら、リータとメイバイに限界が来たので、川辺にテーブルセットを出してティータイム。濡れた服は、水魔法で水分を弾き飛ばし、川のせせらぎを聞きながらお茶を楽しむ。


「これだけ水があれば、雨が少なくても作物が育ちそうですね」

「そうだにゃ。でも、この川を猫の国まで引くのが難しいにゃ~」

「遠かったもんニャー」

「東に向かって流れているのも厄介にゃ。強い獣も居たし、どうしよっかにゃ~?」

「シラタマさんなら出来るんじゃないですか?」

「出来るだろうけど、わし一人でやっていいのかが悩みどころにゃ」

「また雨が降らなくなった時の為に、頑張ってニャー!」

「う~ん……他の水場を調べてから、猫会議で決めようにゃ。国の決定にゃら、わし一人でやる事にならないからにゃ」


 わしの案に、リータとメイバイは渋々納得し、川の流れを眺める。


「……あれ?」


 時間を忘れて川を眺めていると、メイバイが何かに気付いたのか、声を出した。


「どうしたにゃ?」

「もうじき夕方になるニャー?」

「あ、もうそんにゃ時間だったにゃ。そろそろ帰ろうかにゃ」

「そんな事を言ってないニャー。あそこ、太陽が反射してるニャー」

「にゃ~?」


 わし達は、メイバイの指差す場所を凝視する。


「本当です。丸い光がありますね」

「心なしか、さっきより大きくなってるニャー」


 たしかに……丸く光っている箇所がある。太陽が真上に来ているなら、この現象も説明できるが、ここは大きな木に囲まれている。川は西から流れているけど、少し曲がっているからか、ここは西からの太陽の光で日陰になっているんじゃけど……


 わし達は不思議な現象に、空を見上げる。


「にゃ……」

「太陽ニャー!」

「なんで? どうなっているんですか?」

「わからないにゃ~」

「やっぱり大きくなってるニャー!」

「太陽が降って来てます……」

「そんにゃわけ……」


 わしは空を見上げ、近付く光に、畏怖いふの念を抱く。


 この気配は……。ま、まさか……


 光はさらに大きくなり、わし達は目も開けられなくなる。


「シラタマさん!」

「シラタマ殿!」

「モフモフ~」



 その日、空から降って来た強烈な光に、世界は包まれるのであった。

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