436 玉藻のお願いにゃ~


「あははは。変なダンスだったね~。あははは」

「まったく……そちは何をしておるんじゃ」

「「「あはははは」」」

「「「わはははは」」」


 わしが冷や汗を流し、必死に踊りながら会場を突っ切り、オクタゴン観覧場に戻ったらさっちゃんに笑われ、玉藻には呆れられ、その他の王族達にもゲラゲラと笑われた。


「笑うにゃ~~~! わしだって、死ぬほど恥ずかしかったんだからにゃ~~~!!」


 どうやら全員、わしの勇姿を望遠鏡で見ていたようだ。全員分、望遠鏡を配布したのは大失敗。日ノ本の踊り子にまざって、アホな踊りと変な踊りを踊ったわしは、注目の的だったようだ。


「そちが全力で動けば見えないんじゃから、笑われる事もなかったじゃろうに……」

「にゃ~~~!!」


 玉藻に指摘されて、うっかりミスに気付いたわしは、床に頭を減り込ませるのであったとさ。



 心に傷を負ったわしは、放心状態。リータとメイバイが献身的に慰めてくれるが、献身的に撫でられているとしか思えない。なので、なかなか復活できないでいる。

 そのかたわらでは、踊るアホな王族と見るアホな王族。どちらが損しているかわからないが、皆、笑顔なので、誰も損してないと思われる。

 だが、さっちゃんとワンヂェンがわしの目の前で、アホな踊りや変な踊りをマネして踊るから、ついにわしの口から魂が飛び出し、死後の世界に旅立つのであっ……アマテラスと女房にも笑われて、戻って来たのであった。ホンマホンマ。


 そんなこんなで正午となり、東軍と西軍の踊り対決はおしまい。勝敗は本日最後に発表となるらしい。なので玉藻から提案があったので、女王達が許可を出して昼食はお預け。

 それから玉藻がオクタゴンから一度外に出ると、大勢引き連れて戻って来た。


 踊るアホ達だ。


 遠くから見ていたので、阿波おどり隊を近くで見せてくれるようだ。踊りたい王族には、講習もしてくれて至れり尽くせり。

 ただ、さっちゃんがよけいな事をしたようで、大人数でのアホな踊りと変な踊りをやったらしい。

 わしは背を向けてモグモグ。腹がへっているので、手持ちの食べ物で腹を満たしていたから見ていない。


 コリスとオニヒメも一緒に食べような~?


 わしを癒してくれるのは、コリスとオニヒメだけだ。餌付けして、撫で回し、英気を養う。そうしていたら王族も観覧場に戻り、阿波おどり隊も帰って行った。

 ここで少し遅くなったが、大食堂から料理が運ばれて、皆に振る舞われる。わしの前にも料理が並んだので、パクパク。やけ食いして、お腹は真ん丸だ。



 ようやくわしの気持ちが落ち着いた頃に、玉藻がやって来た。


「では、そろそろ行こうか」

「にゃ~?」


 急に手を差し出す玉藻に、わしは首を傾げる。


「いいからいいから。コリスもついて来い。ほれ、大福じゃぞ~?」

「「にゃ~~~!」」


 玉藻は無理矢理手を引いて観覧場から飛び降りたからにはわしは叫び、コリスは大福に釣られて歓喜の声を出したっぽい。何が何だかわからないので文句を言おうとしたら、玉藻に大福を口に詰められて黙らされた。

 そうして控え室のような場所に連れ込まれたわしは、服を剥ぎ取られ、素っ裸にされてしまった。


「いにゃ~~~ん」

「ほれ、これを巻くのじゃ」


 わしが恥ずかしがって、毛で埋もれて見えない恥部を手で隠していたら、玉藻が長い布を渡して来た。


「にゃ? これって……まわしにゃ??」

「そうじゃ。コリスも巻くんじゃぞ」


 はい? なんでまわし??


「ちょ、ちょっと待つにゃ! わし達に、にゃにをさせるつもりにゃ!?」

「何って……見ての通り、相撲じゃ。そち達を関ヶ原の舞台に出してやると言っておるんじゃ」


 は? そんなこと、一言も聞いておらんのじゃけど~?


「いや、わしは頼んでもいないにゃ~」

「なんじゃ? てっきり出たいと思っておったわ。せっかくわらわが頼み込んで、出場させる段取りを組んだのにのう。出たくないのか~。それじゃあ仕方ないのう。他の者に代わってもらうとしよう」


 あ、なんじゃ。玉藻の勘違いか。ちょっと言い方が気になるが、相撲なんて出ても、楽勝すぎて東軍に悪い。帰ろ帰ろ。


「じゃあ、わし達は帰るにゃ~……にゃ?」


 わしは燕尾服を拾ってコリスと帰ろうとしたが、玉藻が服を掴んで離さない。


「にゃんで離してくれないにゃ?」

「そ、それは……」

「いいから離せにゃ~」

「ま、待て! 相撲に出てくれんか? 頼む!!」


 今度は頼みごと? なんか必死っぽいけど、なんでじゃ? そう言えば、徳川がわしに出場して欲しくなさそうじゃったな。出ないと聞いて、何か嬉しそうにしておったし……

 あ! 玉藻から関ヶ原の話を聞いた時、わしを絶対に見に来させようとしていた気がする。確実に裏がありそうじゃ……


「にゃにかたくらんでるにゃろ? それを包み隠さず話すにゃら、出場は考えてやるにゃ」

「うっ……バレてしまっては仕方がない。実は……」


 玉藻の説明では、どうやら関ヶ原とはただの祭りではなく、領土を取り合う戦いだったようだ。その領土は小さいが、とても大事な施設……新津にいつ呪力場だ。

 これを徳川に数十年独占されていて、取り返したいが、戦士の育成が思いのほか上手くいってないので、わしに協力を仰いでいるらしい。


「そんにゃの、玉藻が出れば一発にゃろ?」

「そうじゃが、妾が出てしまうと、一方的になってしまうから控えておるんじゃ。天皇家が勝ちの決まった勝負をするわけにもいくまい?」

「わしだって、一方的になっちゃうにゃ~」

「それは、日ノ本の者は知らないから大丈夫じゃ。一度ぐらいなら大丈夫じゃろう」


 いやいや。一度でも、そんなズルはダメじゃろう。


「てか、そもそもにゃけど、異国の者が、そんにゃ大事にゃ問題に関わっていいにゃ?」

「出場規則に、そんな文言は書かれておらん。民も、異国の者の闘いが見れて盛り上がるじゃろう」

「でもにゃ~」

「報酬だって弾むぞ! なんだって叶えてやる!!」


 報酬って言われてもな~……日ノ本で手に入る物は大概手に入れたしな~。金を貰うのも、王族から大金を貰う予定じゃからな~……あ! 欲しい物があった。


「わかったにゃ」

「まことか!?」

「その代わり、三種の神器を見せてくれにゃ」

「三種の神器じゃと……」

「くれにゃんて言ってないにゃ~。見るだけにゃ~。ちょっと触るだけにゃ~。ちょっと持たしてくれたらいいだけにゃ~」

「見るだけじゃないじゃないか!!」

「嫌にゃら、この話は無しにゃ」

「ぐっ……わかった。それで手を打とう」

「やったにゃ~!!」


 わしが喜んでいたら、玉藻がさっさと準備しろと言って来たが、その前に解決しておかないといけない問題がある。


「にゃんでコリスまでにゃ?」

「力士はデカイから、釣り合いが取れるじゃろ?」

「釣り合いは取れるにゃろうけど……」

「なんじゃ?」

「コリスは雌にゃ~~~!」

「あ……」


 玉藻の凡ミス。リスにしか見えないので、女人にょにん禁制をすっかり忘れていたようだ。自分も昔出場しようとして止められた事も、遠い昔だったから忘れていたんだって。

 とりあえずコリスの出場は無しになったので、元々出場する予定だった小兵キツネに声を掛けて来ると言って、玉藻は走り出した。なので、わしは玉藻の尻尾を掴んでグンッとする。


「何をするんじゃ! 妾は急いでいるんじゃぞ!!」

「まわしにゃんて巻いた事ないにゃ~!」


 オコの玉藻に、オコのわし。何とか納得してくれたので、わしの元へ丸いキツネと丸いタヌキがまわしを巻きに来てくれた。

 「尻尾があるから痛そうだな~」と覚悟していると、どうやって巻いたのかわからないが、痛みも圧迫感もない。ただ、最後に強く締められたので、さっき食べた物が飛び出しそうになった。


 その間、玉藻はコリスをダッシュで送り届け、西軍力士の調整と激励。わしを皆に紹介する。


「こやつはシラタマ王じゃ。小さいが、そち達が束になっても敵わん。妾の決定に、異論があるか?」


 玉藻さん……そんなに殺気を放たれたら手も挙げれんじゃろう。タヌキもキツネも人間も、プルプル震えておるぞ。それにさっき気合いを入れたばかりなのに、テンションだだ下がりじゃわい。致し方ないのう。


 わしは玉藻の殺気で動けない力士の前に踊り出る。


「玉藻~。そんにゃに脅してやるにゃ。みんにゃ尻尾が垂れてるにゃ~。これでは、実力が出し切れないにゃ~」

「あ……しまった……」


 玉藻から殺気がなくなると、わしは力士達に向き直る。


「まぁわしの見た目で不満があるのはわかるにゃ。でも、安心するにゃ。必ず一勝は約束するにゃ~!」


 わしは力強い言葉を掛けてから、右足を高々と上げる。その高さはわしの身長を超え、約一分の長い時間を静止し、勢いよく地面を踏む。

 そして不知火型。四股を踏んだあとに両手を大きく開いてせり上がるのだが、若干の失敗があったので、体が傾いて上手く決まらなかった。


「やっぱり地面が柔らかすぎるにゃ~。これでも手加減したんにゃよ~?」


 わしの失敗とは、右足が膝辺りまで減り込んだこと。力士達は驚いて、わしが足を抜く姿を見ている。


「さて、時間じゃ。先番は……」


 力士が盛り下がる中、玉藻が順番を発表し、わしが異議を申し立てるが、時間が迫っているので無理矢理押されて会場に向かう。

 会場にはセコンドとして玉藻は入れないらしく、わしはキツネ力士、タヌキ力士、人間の力士に囲まれて土俵脇に連れて行かれた。

 その対面にはすでに東軍が揃っており、全員あぐらで座って腕を組み、わしたち西軍を睨んでいる。五人とも、全員タヌキでつぶらな瞳をしているから、全然怖くないけど……



 わし達が向かい合って座ると、行司の老人が声高らかに三役を紹介して土俵入り。東軍から始まったので、わしは隣に座る巨漢タヌキに、コソコソ喋り掛けながら見ている。


「にゃあにゃあ? あいつら全員大関って言ってたけど、こっちに大関はにゃん人居るにゃ?」

「……先日、大関に上がったボクだけです」

「一人にゃの!?」

「シッ……大声出さないでください」

「ああ。悪いにゃ。先日ってことは、京での取り組みで上がった人かにゃ?」

「はい。見に来られていたのですか?」

「見たにゃ~。約束通り、応援もしたにゃ~」

「約束??」


 わしの約束発言に、巨漢タヌキは首を傾げるので、自分の顔を指差して思い出させる。


「ほれ、わしの顔に見覚えないかにゃ? 京で蹴飛ばされて転がされたんだけどにゃ~」

「蹴飛ばされた……あ!」

「にゃははは。大声はダメだにゃ~」


 わし達が喋っていたら行司に睨まれてしまった。なので、話はまたあとですると言って、わしは土俵に目を移す。


 お喋りしていたから四股名を聞き逃してしまったけど、三人並んで四股を踏んでいるタヌキの中で、真ん中の筋肉キレキレのタヌキが一番強いのかな? わしより、足を上げている時間も短かったし、高が知れるのう。

 これが下がって行けば、わし達の出番か。はぁ……なんでわしがこんな目にあわなきゃならんのじゃ。


 東軍の三役タヌキが土俵から降りると、西軍の三役土俵入り。飛び入り参加のわしの出番はないと言いたいところだが、大将に任命されているからには、出ないわけにはいかない。


 どこに立っていいかわからないので、巨漢タヌキと人間の力士に先に入場してもらい、最後にかわいい猫が登場。会場はずっとざわざわしていたが、その声はさらに大きくなった。

 そんな中、前に立つ巨漢タヌキに合わせてぺたんと四股を踏んだわしは、そそくさと逃げる。


 そこそこ決まったと思うんじゃが、こんなに小さな力士はいないもんな。


 ざわめきからブーイングに変わった会場は、試合も始まっていないのに、座布団が投げ込まれるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る