149 乗っとり騒動、完にゃ~


 盗賊の親分を拷問し、無駄な情報を引き出していたわしは、皆から総ツッコミを受けて拷問担当から降ろされてしまった。

 ただし、わしが近くにいるおかげで盗賊の親分はロランスの質問に素直に答え、日記の解読も滞りなく終わったようだ。


「なるほどね。このマークは時間と場所、数字を表すものだったのね」

「わしも質問していいかにゃ?」


 解読の終わったロランスにわしの復職を頼んでみたら、若干嫌そうな顔をした。


「また関係ない事を聞くんでしょ~?」

「ち、違うにゃ~。あの質問も必要な事だったにゃ~」


 まったく関係ない質問をしていたのは、石の重みと痛さを刻み込ませる為じゃ。その痛みを覚えさせ、何度も繰り返すと素直に吐くって寸法じゃ。

 盗賊のアジトで同じことをしたから必要は無かったが、ローザに拷問の仕方を勉強させようと思ったからで、楽しむためではない。ホンマホンマ。


「どうだか……」

「本当にゃ~。猫、嘘つかないにゃ~」

「その言い方が……はぁ。いいわ。好きにして」


 なんじゃその諦めたようなため息……まぁ許可は出たし、親分に質問をしよう。


「お前はにゃんで、貴族の名前を暗号にしなかったにゃ?」

「あ、たしかに気になるわね。まともな質問も出来るじゃない」

「失礼にゃ~! さっさと答えるにゃ!」

「それは……仲間に見られた場合に備えてだ」

「にゃるほど。もしも日記を見た子分が捕まっても、情報漏洩は減るにゃ。それと子分に、嘘の給料支払でもしていたと言うわけにゃ」


 わしの推理に、親分は正解とは言わなかったが、軽く頷いた。しかしロランスとローザは、わしが賢い事を言った事が納得いかないようだ。


「いまの答えでそこまでわかるんだ。それがなんで最初から出来ないの?」

「ねこさんは、たまに賢いです」

「もう二人には撫でさせないにゃ!」

「冗談に決まっているじゃない。ね?」

「はい。冗談です!」


 まったく……言ったそばから撫で回すし……


 盗賊の親分から情報を仕入れたわし逹は、屋敷に戻る事にする。盗賊の檻は、人数が多いと出す時に危険になりそうだったので、檻を八分割にして振り分けてから、その場をあとにした。

 盗賊はこのあとどうなるかと聞くと、犯罪奴隷になり、刑期を鉱山での労働で過ごすとのこと。かなりキツい仕事で死者が多いと聞いたが、犯罪者をあわれむわしではない。



 それから屋敷に着くとフェリシーに抱きつかれ、ローザ親子に撫で回される。


「撫でてないで、これからの話をしようにゃ~」

「「ハッ! つい……」」

「モフモフ~」


 なんだかこの親子も、女王親子に似てきたな。小さい子供はエリザベスの小さい頃に似て来るのは、なんでじゃろう? どちらにしても、わしのせいではないはずじゃ。


「ロランスさんが、このあとの処理をしてくれるって事でいいにゃ?」

「ええ。貴族の問題に庶民?のシラタマちゃんを巻き込むわけにはいかないわ」


 庶民にクエスチョンマークが付いていたような気がしたが、わしが貴族の問題に首を突っ込む必要が無くなって、結果オーライじゃ。王族の問題には首を突っ込んでいたけどな。


「フェリシーちゃんはどうするにゃ?」

「しばらく家で預かって、時期を見て、父親に返すわ」


 フェリシーがしばらく滞在すると聞いたローザは、笑顔でフェリシーの手を握る。


「妹が出来たみたいで嬉しいです」

「おねえさま?」

「かわいい! 今日は一緒に寝ましょうね~」

「うん!」


 これで全て解決かな? ロランスさんに面倒事を押し付けたみたいで悪い気がするな。まぁこんだけ撫で回しているんじゃから、料金を払ったって事にしよう。


 わしを膝の上に乗せて撫で回しているロランスは、世話係のお姉さんと騎士のおっちゃんを見る。


「あなた逹もそれでいいわね?」

「はい。お嬢様が殺されていたら、亡き奥様に申し訳が立ちません」

「騎士の本分としても、次期領主様を亡くすわけにもいきません」

「よろしい。あなた逹も、この屋敷に残ってフェリシーを守りなさい」

「「はっ!」」


 やっぱりペルグラン家は優しい領主様じゃな。じい様も孤児に施しをしておったし、ローザも領民に優しい。こんな領主の元で暮らす民は嬉しいじゃろうな。


 わしが微笑ましく皆のやり取りを見ていたら、ローザが撫でに近付いて来た。


「ねこさん。笑っていますけど、どうしたのですか?」

「ローザのお母さんは、優しくて、立派な人だと思っていたにゃ」

「はい!」

「それじゃあ、わしは帰るにゃ」

「「「ええぇぇ~!」」」


 うむ。うるさい……全員近いんじゃから、大声を出さないで欲しい。しかし、ロランスさんは置いておいて、ローザとフェリシーちゃんの悲しそうな顔はこたえるな。


「また来るから、そんにゃ顔しないでくれにゃ~」

「そう言えば、前に来たのって、十日ぐらい前でしたっけ?」

「この街から往復で十日は掛かるのにね」

「にゃ~? わりと会ってるにゃ?」

「そうですね……」


 ロランスはわしを抱いているから表情は読み取れないが、ローザは今にも泣き出しそうだ。なので、今日来た用件のひとつを思い出したので、話をそちらに持っていく事にする。


「あ、お土産を忘れていたにゃ。ビーダールで買って来たドーナツにゃ」

「え? ビーダールって南の小国の……ここに居るって事は、まだ行ってないんじゃなかったのですか?」

「もう行って帰って来たにゃ」


 テーブルの上にドーナツを置くと、ローザの頭にいっぱいクエスチョンマークが浮かんでしまった。


「往復、三十日掛かるのに……なんでここに居るのよ!」


 ローザとは違い、ロランスさんは旅の辛さを熟知しているのでツッコム。


「まあまあ。美味しいから食べるにゃ。フェリシーちゃんもどうぞにゃ」

「ありがと~」


 フェリシーちゃん以外、ブツブツ言っておるが、ドーナツはおおむね好評かな?


「あと、ローザには、これをあげるにゃ」

「指輪……綺麗です。婚約指輪ですか?」

「違うにゃ~!」


 どうしてそうなる? わしは猫じゃぞ?


「これは魔道具にゃ。風の攻撃魔法が入っているから、もしもの時は魔力を流して使うにゃ。風の玉が出て、ローザを守ってくれるにゃ」

「魔道具? こんな小さな物は、見た事がありません」

「宝石で魔道具を作るのは、どうやら新発見みたいにゃ。いま調べてもらっているから、将来的には流行るかも知れないにゃ」


 ローザは受け取った指輪をいろいろな角度から見ていたが、ため息を吐きながら左薬指に嵌めていた。


「はぁ~……本当にねこさんといると驚かされてばかりです。肌身離さず付けさせていただきます。ありがとうございます」

「猫ちゃん。私には?」

「ロランスさんには、ドーナツをあげたにゃ」

「え~~~!」

「お母様。ねこさんは私のお婿に迎えるのですから、当然のプレゼントですよ」

「たしかにそうね。娘を末長くよろしくね」


 これは婚約者と決まってしまったのか? どう返答すれば正解じゃ? 返答をミスれば、婚約者になってしまいそうじゃ。え~い。南無三!


「ローザとわしは、ずっと友達にゃ~」

「むぅ。いまはそれで我慢します。でも、絶対振り向かせて見せます!」

「ローザ。頑張るのよ!」


 だから猫と結婚していいのか! ローザは当主になるんじゃろう? 当主の旦那が猫って……ロランスさんは応援しないで止めて! だが、今回はかわす事が出来たみたいじゃ。



 その後、帰ろうとしたらフェリシーがゴネ出し、眠るまでローザの屋敷にお邪魔した。二人はその間わしを撫で回し、恍惚こうこつな表情になっていた。

 フェリシーが眠ると逃げ出すように屋敷をあとにした。そのせいで、街は猫騒動になったそうだが、しらんがな。

 ローザの街から脱出すると、人気ひとけの無い場所で転移魔法を使い、王都の近くに飛ぶ。そして門を潜り、ハンターギルドに依頼達成の報告に行く。


「にゃ!?」

「「シラタマ(殿)さん!」」


 ハンターギルドの扉を開けた瞬間、リータとメイバイが立っていた。


 しまった。この時間はギルドが混む時間じゃった。フェリシーちゃんには悪いが、もっと早く帰って来ればよかった。いや、明日のすいている時間に来ればよかったんじゃ。


「ひゅ~~~。わしは何も見てないにゃ~。さて、帰るとするかにゃ~。ひゅ~~~」


 わしが鳴らない口笛を声で表現したら、リータとメイバイはあからさまに呆れた顔になった。


「シラタマさん……いまさら遅いです」

「口笛は鳴ってないニャー」

「どうせバレているのですよね?」

「にゃんの事かにゃ~?」


 わしがとぼけ続けると、二人は真面目な顔に変わる。


「もういいニャ。シラタマ殿に内緒で仕事をしているのは、私達も気が引けていたニャ。のけ者にして、ごめんニャー」

「そうですね。いままで黙っていて、ごめんなさい!」

「昨日も言ったけど、にゃにか目的があるんにゃろ? 謝る事じゃないにゃ」

「シラタマさん!」

「シラタマ殿~」

「にゃ! ここではやめるにゃ!!」

「「あ……」」


 二人はわしを抱き上げようとするので、慌てて止める。公衆の面前でそんな事をされると、イチャイチャしていると思われて恥ずかしいからだ。ペットを撫で回しているようにしか見えないけど……


「すみません。それで、シラタマさんはギルドに何をしに来たのですか?」

「依頼報告にゃ」

「一人で受けたニャ!?」

「私達も誘ってくださいよ~」

「昨日、予定を聞いたけど、先約があったんにゃろ?」

「そうですけど……」


 わしが昨日の話を持ち出すと、リータとメイバイの顔が曇る。その姿を見ていた一組のハンターが、わし達の会話に入って来る。わしの家に来た事がある新人パーティだ。


「リータさん。メイバイさん。シラタマさんと仕事をしたかったのに、俺達に付き合ってもらって、すみませんでした!」

「君達が謝る事じゃ無いニャー」

「そうですよ。私達が決めた事です」


 エスコの謝罪を二人が宥めていると、セルマがわしの元へやって来て謝罪する。


「猫さん。猫さんのパーティ仲間を取ってすみません」

「そんにゃこと思ってないにゃ。いつもリータとメイバイと、仲良くしてくれてありがとにゃ」

「「いつも?」」


 わしの発言に、リータとメイバイは振り返ったが、わしは気付かずにセルマと喋り続ける。


「いえ、二人のおかげで稼がせてもらっています。助かっているのは私達のほうです」

「気にするにゃ~」

「シラタマさん……いつもってなんですか?」

「知ってたニャー?」


 セルマと喋り続けるわしに、リータとメイバイが詰め寄って来た。


「えっと~……知らないにゃ! 依頼報告に行って来るにゃ!!」


 わしは二人から逃げ出して受付の列に並ぶ。だが、二人はわしと一緒に並び、愚痴愚痴と何故知っているかを聞いて来る。もちろんわしは守秘義務を主張し、逃れようとする。

 そうこうしているとわしの順番が来て、呼ばれた受付に依頼報告をするが、残念な事に受付は、ティーサを引いてしまった。


「猫ちゃん! もう終わったのですか!?」

「そうにゃ。これ、依頼証明書にゃ」

「たしかに……でも、盗賊が五十六人!? それを一人で全て生け捕りって!!」

「声が大きいにゃ~!」

「すみません……これ、かなりの額になりますよ?」

「そうにゃの?」

「基本、盗賊は犯罪奴隷になります。犯罪奴隷は人件費節約になりますから、盗賊一人に対して、報償金が付くのですよ」

「へ~~~」

「これが見積もりです……」

「にゃ!? こんにゃに!!」


 マジか……生活費半年分になっておる。一回の仕事で、いつもは半月分ぐらいなのに……


「今回は振り込みって形でいいですか?」

「特に困ってないからいいにゃ」

「わかりました。……確認ですが、今回は一人でやられたのですよね?」

「そうにゃが……」


 ティーサがわしの後ろに立つリータとメイバイを見るので、わしもモゴモゴ言いながら振り返る。


「ティーサさんですよね?」

「ティーサ以外、いないニャ!」

「リータちゃん、メイバイちゃん……どうしたのですか? 何か怒ってます??」

「シラタマさんに、私達の行動を報告していたのですよね!」

「そうニャー! だからシラタマ殿にバレたニャー!!」

「え? え? 猫ちゃん!」

「ティーサ。にゃにも言うにゃ!」


 わしが怒鳴ると、ティーサは口を両手で塞ぐ。


「「やっぱり……」」

「あっちで話そうにゃ? ティーサの仕事の邪魔になるにゃ。にゃ?」

「「はい(ニャ!)!」」


 わしはティーサに食って掛かろうとした二人を宥め、空いてるテーブルに移動させる。


「わしが無理言って聞き出したらから、ティーサに罪は無いにゃ」

「そうなんですか?」

「どうしてそんな事したニャー?」

「それは二人の事が心配だったにゃ。二人に怪我が無いのはわかっているけど、変にゃ男に捕まっていないか心配だったにゃ」

「変な男って……嫉妬ですか?」

「シラタマ殿が嫉妬してるニャー」

「いや……」


 うっ……マズイ事を言ったかも……。リータとメイバイの目が燃えたぎっていて、ちと怖い。


「シラタマさん!」

「シラタマ殿~」

「にゃ!? ……ゴロゴロ~。それは帰ってからにゃ~。ゴロゴロ~」


 この後、撫で回す二人をなんとか宥め、ティーサに詫びを入れてギルドをあとにする。そして二人の心を静める為に、新人ハンター達には先輩として食事を奢ると無理矢理誘って食事を楽しみ、帰路に就いた。


 それでも、その夜の二人が激しかった事は言うまでもない。

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