150 穏やかな一日にゃ~


 はぁ……昨夜は一段と激しかったな……


 盗賊討伐の翌日、わしは目を覚ますと、隣に寝ているリータとメイバイを見つめる。


 みんな着流しも乱れておる。こんな姿、さっちゃんに見られたら、また怒られそうじゃわい。いっそ、この二人のどちらかと結婚して体裁ていさいを保つか?

 いや、そんな事をしてしまったら何が起こるか想像がつかん。それにわしも覚悟が決まっておらんしのう。

 それにしても、二人とも今日は仕事に行かないのかな? 昨日は夜遅くまでわしを撫で回していたから寝坊しておるのか? まぁこんな朝もいいか。



「ん……シラタマさん?」

「ふニャー……」


 穏やかな時間が過ぎ、二人を見つめながら頭を優しく撫でていると、二人も目を覚ました。


「おはようにゃ」

「おはようございます」

「おはようニャー」

「さて、起きて行動を起こすにゃ」

「もう少しこのままで……」

「幸せニャー」

「そうだにゃ~」

「「!?」」


 わしの発言に、リータとメイバイは目をパチクリさせて見つめ合う。


「どうしたにゃ?」

「シラタマさんは、いつもなら、無理にでも抜け出そうとします」

「私達と居て、幸せって言ったニャー!」

「そうだったかにゃ?」

「シラタマさん!」

「シラタマ殿~!」

「にゃ!? 朝からそんにゃこと……ゴロゴロ~。首を噛むにゃ。ゴロゴロ~。リータもそこは触らにゃいで……ゴロゴロ~」


 今日も朝からめちゃくちゃにされて一日が始まる。撫で回すのに気の済んだ二人は恍惚な表情をし、毛並みの乱れたわしは、また朝からお風呂に入る事となった。

 二人に洗ってもらい、二人もわしで洗う。バススポンジも慣れたモノだ。お風呂から上がるとブラッシングをしてもらい、簡単な朝食を済ませる。そして、二人には家の掃除を頼み、わしは庭に出て、旅の準備を行う。


 まずは飛行機からいこうかな。横に広げるだけじゃからすぐに終わりそうじゃが、ガラスが割れないように慎重にやらねば。


 わしは次元倉庫から取り出した飛行機を、土魔法で横に広げる。そして中に入って椅子を設置。椅子はこのままでは硬いので、毛皮で作ったクッションを配置していき、完了となる。


 う~ん。縦長の飛行機が太ったように見えてバランスが悪い。とても空を飛びそうに見えん。羽をもう少し大きくして……これでも変じゃな。先を伸ばして空気抵抗を少なくして……こんなものかな?

 ちょっと不細工じゃが、元の形に戻す事を考えたら,こんなもんじゃろう。


 飛行機の改造が終わり、わしがしげしげと眺めていると、縁側にリータとメイバイがやって来た。


「シラタマさん。掃除終わりました~」

「何してるニャー?」

「二人とも、ありがとうにゃ。移動に使う乗り物を用意していたにゃ」

「大きくなりましたね」

「こんな物で、空が飛べるのが不思議ニャー」

「女王も乗るから人数が増えるにゃ。形は変だけど、にゃんとかなると思うにゃ」


 わしは話しながら飛行機を次元倉庫に仕舞い、盗賊からカツアゲした……仕事の報酬で手に入れた剣を取り出す。


「あ……いつ見てもシラタマさんの収納魔法は凄いです。あんなに大きな物が消えました」

「剣もいっぱい出て来たニャー。それはどうしたニャ?」

「盗賊から没収して来たにゃ。にゃ! そうそう。これ、二人にプレゼントにゃ」

「この鞄はなんですか?」

「収納袋にゃ」


 わしが収納袋と言うと、リータとメイバイの顔が曇った。


「収納袋って高いんじゃないニャー? シラタマ殿に貰ってばっかりニャ……」

「これも盗賊の持ち物にゃ。お金は掛かってないから貰ってくれにゃ」

「それなら……ありがとうございます」

「ありがとニャ。大事に使うニャー」


 二人はタダだと聞くと、渋々だが受け取ってくれた。


「リータはその中に入っている宝石の鑑定をしてくれるかにゃ? ちょっと気になる物があったから持って帰って来たにゃ」

「はい。わかりました」

「いまから車を作るから時間が掛かるにゃ。鑑定が終わったら、二人は外にでも遊びに行くかにゃ?」

「いえ。見ています」

「シラタマ殿を見ているのは、飽きないニャー」

「じゃあ、最近冷えて来たし、焚き火を用意するにゃ。体を冷やさないようにするにゃ」

「ありがとうございます」

「はいニャー」


 わしは縁側の側に薪を置いて、魔法で火を点ける。そして盗賊の剣を鉄魔法で次々とスプリングに変え、数が揃うとサスペンションとソファーに組み込む。

 次に土魔法で車の形を作り、サスペンションを組み込む。外観が完成すると中に入り、ガラスを取り付け、固定の椅子とテーブルを配置し、ソファーも固定する。


 女王用に作ったけど、少し飾りっ気が無いか? まぁ猫のわしに貴族の豪華さを期待されても困る。運転席は右に二席寄せ、キッチンやベットも無いから広く使えて、ゆったり出来るからこれでいいか。


 完成した車の中をチェックしていると、リータとメイバイも乗り込んで来た。


「シラタマさん。出来ましたか?」

「うんにゃ。出来たにゃ」

「こっちは広いのですね」

「女王用だからにゃ。さすがに街中を歩かせるわけにも、いかないからにゃ~」

「このソファー、弾力があって楽しいにゃ~」


 リータの質問に答えていたら、メイバイは奥まで進み、ソファーで飛び跳ねていたので慌てて止める。


「そんにゃに乱暴に扱うにゃ~。壊れちゃうにゃ~」

「ごめんニャー……」

「わかってくれたらいいにゃ。二人とも、ソファーを作るの手伝ってくれてありがとにゃ。おかげで早く終わったにゃ」

「シラタマ殿~」

「少しでもお手伝い出来てよかったです」

「さっきの宝石はどうだったにゃ?」

「このひとつだけ普通の宝石で、あとは悲しい感じがします」


 お! リータが言うなら間違いないな。気になったから持って帰って来たけど正解じゃった。


「やっぱり当りだったにゃ。そのひとつは、わしも気にならなかったにゃ」

「シラタマさんも、わかるようになったのですか?」

「いや、気になっただけにゃ。リータのように感情まではわからないにゃ」

「いいニャー。私もリータのように、シラタマ殿の役に立ちたいニャ……」


 メイバイは先ほど怒られたからか、しゅんとしながらリータとわしを見る。


「これは適材適所にゃ。メイバイもいつか必ず、違う形でわしを助けてくれると信じているにゃ」

「シラタマ殿~。私、頑張るニャー」

「にゃ!? 泣くにゃ~。メイバイは笑っている顔が、一番好きにゃ~」

「うぅぅ。そんなこと言われたら、嬉しくてもっと泣いちゃうにゃ~」

「わかった。わかったからにゃ?」

「メイバイさん。いいな~」

「もちろんリータの笑顔も好きにゃ。いつまでも、わしのそばで笑っていてくれにゃ」

「シラタマさ~ん」


 わしが笑顔が好きだと言うと、二人は泣き出す。矛盾しているが、嬉し涙とわしは受け取った。そうして二人が落ち着いた頃には、太陽が真上に近付いていた。


「そろそろお昼だけど、外に食べに行こうかにゃ? みんにゃどこがいいにゃ?」

「「どこでもいい(ニャー)です」」


 それが一番困るんじゃが……まぁいいか。


「それじゃあ、広場の露店を冷やかしに行くにゃ~」

「「にゃ~!!」」


 メイバイはわかるけど、リータまで……


 気の抜ける掛け声に、わしはズッコケそうになったが耐えて、広場に向かう。広場の露店で買い食いしながら、露店の人、道行く人と言葉を交わし、お腹を膨らませていく。

 リータとメイバイは終始笑顔で、わしも釣られて笑顔になる。そんな笑顔に釣られたのか、広場も笑い声が包み込む。お腹も脹れ、おばちゃんの店でも買い出しの終わったわし達は、広場をあとにした。



 ぺちゃくちゃと話しながら家に戻ると、離れでコーヒーをれる。リータとメイバイも珍しくわしに付き合い、畳に座っている。


「二人は無理に付き合わなくてもいいにゃ」

「だいぶ慣れて来ましたから大丈夫です」

「そうだニャ。嗅ぎ慣れてなかっただけかもしれないニャ-」

「じゃあ、ミルクと砂糖を多目に入れてカフェオレにするにゃ」

「「カフェオレ?」」


 初めて聞いた単語に、二人の声が重なった。


「ああ。元の世界の飲み物にゃ。英語とは違う言葉で、コーヒーとミルクを半分って意味にゃ」

「へ~。シラタマさんの元の世界では、言葉がいっぱいあるのですね」

「文字もいっぱいあるニャ?」

「そうにゃ。それで摩擦が起きる事もあるにゃ」

「言葉がわからないですもんね」

「はいにゃ。カフェオレ、出来上がりにゃ」


 二人と話している間も手を動かしていたわしは、二人の前にコーヒーカップを並べる。二人は匂いを嗅ぎ、それから口を付ける。


「あ! 飲めるかも?」

「うん。甘くて美味しいかもニャ?」

「にゃはは。食べ物にゃんてそんなもんにゃ。あと、これもカフェオレに合うから食べるにゃ」


 わしは次元倉庫からチョコを取り出し、二人に勧める。


「苦い? 甘い? でも、美味しい……」

「不思議な味で美味しいニャー」

「これはコーヒー豆の苦みを使ったお菓子。チョコレートにゃ。本当は、前回の旅の目的がこれだったにゃ」

「そうだったのですか!」

「てっきり、女王様の誕生日の品を探しに行ったんだと思っていたニャ」


 二人は驚きながらもチョコに手を伸ばし、わしはコーヒーをすすりながら軽く愚痴る。


「まぁコーヒー豆は、わしが欲かっただけで、ガウリカに任せていたからにゃ。エンマはいいとして、スティナに無理矢理仕事を押し付けられたから、大変な目にあってしまったにゃ」

「シラタマさんは、スティナさんに、よく酷い目にあってますもんね」

「ホントにゃ~」

「私はフレヤが苦手ニャー」

「にゃはは。着せ替え人形にゃ~」


 わしの愚痴にリータが「うんうん」と頷き、メイバイは被害にあっていたので愚痴に乗っかる。


「もう! リータは誰が苦手ニャー?」

「私は……しいて言えば、エンマさん?」

「エンマは、特ににゃにもしないにゃ」

「それです! シラタマさんは、エンマさんを庇うところがあります!」

「そうそう。よく脚を見てるニャー!」

「そんにゃこと……」

「「「にゃ!?」」」


 わし達が悪口に花を咲かせていると、突如、離れの扉が開き、アダルトフォーが登場した。


「なんでみんな驚くのよ?」

「そ、それは……いきなり扉が開いたからにゃ~。にゃ?」

「そ、そうです」

「びっくりニャー」


 スティナの問いにわし達が言い訳すると、エンマ、フレヤ、ガウリカは疑いの目で見て来た。


「「「怪しい…」」」

「「「そんにゃことないにゃ~」」」

「ほら。みんなシラタマちゃんの口調になっているじゃない」

「「「にゃ!?」」」


 何故かわしをマネするリータとメイバイ。納得のいかないわしは二人の顔をキョロキョロ見ていると、エンマは微笑みながらわしの頭を撫でる。


「フフフ。息ピッタリですね。妬けちゃいます」

「シラタマさんは渡しません!」

「そうニャー! シッシッ、ニャー」


 リータとメイバイはわしを守り、エンマを追い払おうとする。しかしフレヤとスティナが、わしとメイバイに襲い掛かって来た。


「メイバイちゃん。新作の服よ~」

「ニャー! シラタマ殿、助けてニャー」

「シラタマちゃん、朝まで飲むわよ~」

「にゃ~! わしも助けて欲しいにゃ~」

「わ! 猫、あたしに抱きつくな!」


 一番わしに害がないガウリカに助けを求めたが、そのせいでリータとメイバイの目が怪しく光ってしまった。


「「新たな敵 (ニャ)です」」

「ち、違う!」

「にゃはははは」


 ガウリカも二人の目が怖かったのか、焦って言い訳するので、わしは大口開けて笑ってしまった。すると、スティナを筆頭に、皆に笑いが伝染する……


「何笑っているの……フフフ」

「「「「フフフフフ」」」」

「「「「「アハハハハハ」」」」」


 穏やかな一日がアダルトフォーの登場で、笑い声の聞こえる一日と変わる。わしは穏やかな一日も好きだが、こういう一日も悪く無いと思ってしまった。


「さあ、飲むわよ~」

「首を持つにゃ~」

「じゃあ、抱いた方がいい?」

「いえ。首でいいですにゃ……」


 これが無ければ……


 その後、エミリの料理に舌鼓を打ち、笑い声の絶えない夜を終え、眠りに就く事のであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る