677 超人の遊びにゃ~


 アメリカ横断旅行を終えてわしがゴロゴロしていたら、べティが何かとうるさい。チョコを寄越せとか日ノ本に行きたいとか、チョコを寄越せとか訓練に付き合えとか、チョコを寄越せとか……

 チョコを渡しさえすれば静かになるだろうが、大量に食べてしまうから幼女の体では心配。仕方がないのでチョコ以外のお願いは聞いてあげた。


 日ノ本に行ったらべティは京の街並みを見て、まるで子供の頃に戻ったようだとはしゃいでいた。わしとほぼ同年代なので、明治、大正時代の街並みは懐かしいようだ。


 でも、本当に子供に戻っているのを忘れているな?


 いちおう仕事のていで京にやって来ているので、ちびっこ天皇にも謁見。べティはカチンコチンに緊張していたが、天皇陛下が七歳と幼いのですぐに緊張は解けていた。

 なので皇室に入ってみるかと聞いたら、堅苦しい暮らしは嫌らしい。ちびっこ天皇は好きなタイプでもないのにいきなりフラれたものだから、いつもフラれまくっているクセに怒っていた。


 子供どうし、仲良くしてくださ~い!


 喧嘩してギャーギャーうるさい二人は放っておいて、お玉から日ノ本発電計画の進捗状況を聞いていたら静かになった。

 どちらも子供なので、活動限界が早いみたいだ。べティとちびっこ天皇は仲良く寝息を立てていたので、カメラで激写してからお暇した。



 江戸にも連れて行ってあげたけど、こちらは江戸村みたいだとはしゃいでいたので、サービスで徳川将軍秀忠に会わせてあげたら、べティはわしの後ろに隠れて出て来なくなった。

 べティは白い獣に殺された経験を持っているので、2メートルの白いタヌキは怖いみたいだ。


 え? それもあるけど将軍様だからですか。ちびっこ天皇にもそれぐらい敬意を払えないの? チビだからか~……べティのほうがちっさかったよ??


 ここに居てもべティは面白くなさそうだったので、秀忠に江戸城天守閣に入らせてくれとお願い。なんとか許可は下りたけど、わし達が見学を終えたあとの秀忠は、げっそりしたタヌキになっていた。

 わしとべティが騒ぎ散らして走り回っていたので、子供の相手は大変だったとのこと。まぁわし達は五歳なので子供で間違いない。「ごめんね」と謝って猫の国に帰るのであった。



 ゴロゴロしたり遊んでいたら時は過ぎ、わしの待っていたイベントが近付いて来たのでそわそわしていたら、べティに感付かれて連れて行けとうるさい。仕方がないので猫ファミリーと共に、西の国に遊びに来た。

 その日はパーティに出席してガツガツ食べたら、用意されていたゲストハウスで一泊。


 その翌日には『第一回超人ゴルフ大会』の開幕だ。


 ゴルフ自体は西のじい様が普及活動を頑張り、各国でも盛んにゴルフ大会は開かれるようになったのだが、わしの元へは観覧のお誘いは来ても参加は断られていたので、一度も足を運んでいない。わしだってやりたいんじゃもん。

 しかし今回は、ゴルフが十分に周知された事と、西のじい様が試行錯誤したルールがあるので、ようやくわしの元にも参加状が届いたのだ~!


 この日の為に、三日ほど練習したので準備万端。わしはリータ達の応援を受け、意気揚々と一番ホールに立つのであった。


「にゃんで玉藻が居るんにゃ……」

「久方振りに会ったのに、酷い言われようじゃのう」


 しかし玉藻が同じ組に居たので、わしのテンションはダウン。玉藻アダルトバージョンはもう見慣れているのだが、九本の尻尾はスイングの邪魔になるから消しており、さらに男物の洋服を来ていたから発見に遅れてしまったのだ。

 せっかくの気合いが台無しになってしまったが、たしかに言い方は悪かったので挨拶はやり直して、参加の経緯を質問してみた。


「西の地を旅していたら面白いイベントをやると聞いてのう。わらわも参加させてくれないかと頼み込んだのじゃ」

「ちゃんとルールは読んだにゃ~? わしの邪魔したらペナルティがあるんだからにゃ~?」

「そちではなく、選手じゃろうが。そちも妾の邪魔をするでないぞ」


 玉藻とゴルフをした時は風魔法の応酬になった経験があるので、お互い牽制。まぁルール上、他の選手を邪魔したらペナルティはあるし、故意ではなくとも二回もやれば退場になってしまうので、そんな馬鹿な事はしないだろう。

 ちなみにそれ以外のルールは、肉体強化魔法は各コースで一度だけ使える。その他ボールを操るような魔法も、各コースで一度だけ発動していい事になっている。

 ただし、コースを傷付けるような魔法は御法度。これは一発退場になるので、土魔法や大きな魔法は使わないほうがよさそうだ。


 それらの魔法のチェックに、魔力視の魔道具を持った監視員が選手一人に対して一人つくのだが、わしと玉藻には、なんか三人ずつついている。

 白猫と九尾のキツネの驚異度を考えたらわからない事もないが、ズルをすると思われているのは心外だ。


 なので玉藻と「やらないよね~?」と喋っていたら、玉藻の順番が来た。


「フフン。呪術さえ使わせてくれたら、こんなもんじゃ」


 玉藻の第一打は、ドライバーによるホームランからの急カーブしてからのベタピン。強く打ち過ぎても風魔法で戻せば、穴に寄せるぐらいわけがないと玉藻は笑みを見せている。


「次はわしにゃ~! チャ~シュ~にゃ~~ん!!」


 わしの一打目は、サンドウェッジを使ってのテンプラ。ボールは高々と上がり、誰もが空を見上げて見失った。


 カッコーン……


 そして、グリーンから金属音が鳴ると、皆の視線はわしではなくグリーンに行った。


「やったにゃ~! ホールインワンにゃ~~~!!」


 わしが飛び跳ねて喜ぶと、監視員が走って行って、何やら合図が出たかと思ったらアナウンスが聞こえた。

 もちろん、わしの顔が描かれたボールが穴の中に入っていたとのアナウンスなので、観客は拍手でわしを称えてくれた。


「クソッ……その手があったか」


 この場に居る者で何が起こっていたかわかるのは、玉藻と猫ファミリーぐらいしか居ないだろう。

 わしがサンドウェッジで高々と打ち上げたのは、何もミスショットじゃない。穴に入りやすい角度に上げて、風魔法で微調整しながら直接穴に落としたのだ。


 皆の拍手に応えてわしが手を振り歩いていたら、グリーンに到着。玉藻はベタピンなのでパットを外さずアルバトロス。その他もアルバトロスとイーグルとなり、2番ホールに移動する。

 ここもわしは、高々と上げてホールインワン。次のアルバトロスを出した貴族っぽい男は、肉体強化魔法で強打したボールをグリーンの端に乗せたので、パットを風魔法で操作したらイーグルを取りそうだ。


 そして次は同率の玉藻が打ったのだが……


「よっし!」


 カッコーンと、ホールインワン。


「わしの戦法をパクるにゃよ~」


 玉藻はわしの苦情は無視。観客の声援に応えて聞いてくれないので、何度も文句を言ったらやっとこっちを見てくれた。


「ほれ、次の者がアドレスに入ったぞ」

「チッ……」


 ルールを盾にわしを黙らそうとするので、移動中に「にゃ~にゃ~」文句。しかし玉藻は、西の地の旅の話しかしてくれないので諦めた。

 そうこうしていたら、9番ホールまで終了。わしは全てホールインワン、玉藻は一打遅れてお昼休憩となった。



「このまま逃げ切ってやるにゃ~」

「ぬかせ。そちは集中力が無いから、いつかミスするはずじゃ」


 クラブハウスでは、わしと玉藻は「にゃ~にゃ~」喧嘩。リータ達は何か言いたげな顔でわしを撫でているから、褒めてくれているのだろう。コリスはいつも通りモリモリ食ってる。

 そんな中、わしと玉藻の喧嘩に割って入って来る強者が現れた。


「タマモさんって、シラタマ君に負けず劣らず魔法が上手いんですね! 感動しました!!」


 べティだ。わしの実力を知っているので、まさかついて来られる者が居るとは思っていなかったから玉藻を褒めているようだ。


「この幼子はよくわかっておるのう。妾のほうが魔法では、シラタマの上を行っておるんじゃ」

「そうなんですか! 純粋な人間でそこまでになれるなんて、いったいどうやっているのですか??」

「人間……??」


 べティの質問に玉藻が首を傾げているので、わしが答えてあげる。


「玉藻は人間じゃないにゃよ?」

「はい? すっごい美人の日本女性じゃない??」

「玉藻の本来の姿は、九尾のキツネにゃ~」

「へ? 九、尾の…キツネ……あっ! シラタマ君。ちょっと顔貸して」


 玉藻の正体を教えてあげたら、べティにクラブハウス裏に呼び出されたので渋々続く。そしてスケバンべティの壁ドン。


「九尾のキツネって、玉藻前!?」

「お~。よくあの場でその名を出さなかったにゃ~」

「何を暢気のんきなことを……」

「てか、小説の関ヶ原で出て来たにゃろ~?」

「覚えることが多すぎて忘れてたわ! フィクションだと思ってたし~~~!!」

「わしに当たるにゃよ~」


 べティがわしをわしゃわしゃするので、玉藻の情報を入れてから担いで戻る。するとべティは玉藻から距離を取って、コリスの腹に埋もれていた。

 玉藻が5メートルの白いキツネと教えたから今ごろ怖くなったようだけど、べティ、後ろ後ろ!


 最近コリスとべティは仲良しだから、白い獣でもコリスは別物らしい。べティの美味しい料理で骨抜きにされているから……



 食事を終えてぺちゃくちゃ喋っていたら、中間順位発表があるらしいので、そちらへ移動。そこでは背の高いボードに名前が書いてあったので、わしは一位だとわかりきっているから一番上を見るのだが、わしの名前は無い。

 一番下まで見てもわしの名前が無かったので、やっぱり一位だろうとまた上に目を移すと、玉藻の声が聞こえて来た。


「おい……妾の名前が無いんじゃが……」

「奇遇だにゃ……わしの名前も無いにゃ……」

「「にゃんでにゃ~~~!!」」


 二人で運営に殴り込んだところ、毎回ホールインワンでは、他の選手がやる気を無くすとのこと……

 手加減するからと訴えてみたけど、わし達は大会から追い出されて、トボトボとリータ達の元へ戻るのであった。


「やっぱりね」

「やりすぎニャー」


 何か言いたげだったリータとメイバイは、この事態を予想していたからそんな顔をしてたっぽい。

 それならそうと言ってくれたら最初から手加減していたのにと「にゃ~にゃ~」言っていたら、スコアボードを見ていた玉藻がわしの頭をドコドコ叩くので、少し埋まった。


「さっきからにゃに? 痛いんにゃけど~」

「自分の名前に気を取られていたから気付かんかったが、あの三位の名前……」


 玉藻が指差しながらそんな事を言うので、わしもスコアボードを見る。


「にゃ!? ご老公の名前があるにゃ!!」


 そう。玉藻はローマ字で書かれていた徳川家康の名前があったから、わしをドコドコ叩いていたのだ。わしもローマ字では気付かずに見逃してしまっていたのだ。


「ようやっと気付きよったか」

「「にゃ!?」」


 その直後、後ろから声を掛けられたのでわしと玉藻が振り返ったら、ハンチング帽を摘まむ、如何にも英国ゴルファーっぽい服装の徳川家康太っちょオッサンバージョン(尻尾無し)が立っていた。


「目障りな二人が消えたとなったのなら、そろそろわしも本気を出して行こうかのう」

「ま、まさか……こうにゃる事態を見越して手を抜いてやがったにゃ!?」

「ポンポコポン。なんのことかのう?」

「とぼけるにゃ~~~!!」


 どうやら家康は、あまり実力を見せてしまうと途中で追い出される可能性を見越して、周りの選手を見ながらゴルフをしてたっぽい。

 わし達と会うのは上位組に入ってから驚かそうとしていたらしいが、消えていたからこのタイミングで現れたっぽい。

 そして今は、正しくタヌキとなってとぼけてるっぽい。


「おっと出番のようじゃ。儂が優勝する様を、しかと目に焼き付けるのじゃぞ」


 こうして家康は挨拶は早々に立ち去り、有言実行で『第一回超人ゴルフ大会』の優勝者となり、歴史に名を刻んだのであった……

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