131 ビーダールに到着にゃ~
トントン……カンカン……
ん、んん~……なんの音じゃ?
わしはトントン、カンカンと鳴る音に気付いて目を覚まし、あくびをしながら隣で眠るリータとメイバイの顔を見る。
ふぁ~。三人で寝るにはベッドが狭い。ぎゅうぎゅうじゃ。二人に挟まれた上に乗られているから、身動きが取れない。
昨夜はメイバイに押し倒されて噛まれていたところを、リータに見られて驚かされた。怒られるかと思ったが、怒る代わりに人型で寝させられてしまった。
最初は恥ずかしかったが、なんだか慣れて来たかもしれない。子供や孫と寝ていると思えば、なんともないな。うん。
あ、そこは触らないで……た、退避!
わしは変身魔法を解いて猫型になり、体積を減らしてモゾモゾと二人のロックから脱出する。着流しは助け出せなかったので、スペアを着て二人の寝顔を見る。
リータはわざとやっておるんじゃなかろうか? わしの息子さんの危機を感じる……
ガウリカの姿は見えないが、外に出ておるのかのう?
わしは車から外に出て、ガウリカの姿を探す。だが、ガウリカの姿より先に、村に住む女性の姿が目に映る。
トントン、カンカンと音が鳴っていたのは、村の修復をしておったのか。あんな事があったのに、
「起きたのか」
わしが女性達を眺めていると、それに気づいたガウリカが寄って来て、声を掛けた。
「ガウリカ……これはどうなってるにゃ?」
「見ての通り、村を直している。あたしも移住を勧めたんだけどな」
「女性だけで大丈夫かにゃ?」
「近日中に、商売に出た男の一団が帰って来るらしい。そこからまた考えると言っていた。なるようになるだろう」
「そうにゃんだ」
男が少しでも残っているなら、村の再興も出来るのかな? わしはここに住む者では無いし、仕事で来ている。ガウリカが言うように、なるようになるのを祈るしかないか。
「あ、そうにゃ。
「あたしはいいよ。ハンターは半分引退したもんだしな」
「そんにゃのダメにゃ! 働いたら報酬を貰わないといけないにゃ~」
「……それじゃあ、十匹貰えるか? この村に寄付する」
「報酬になってないにゃ~」
「ウフフ」
「シラタマ殿と一緒ニャー」
ガウリカと報酬の取り分を話し合っていると、車から出て来たリータとメイバイが、わし達の話に入って来た。
「一緒とは?」
「シラタマさんは、いつも貧しい村に動物を寄付しているんですよ」
「それは解体が面倒だから、報酬として払っているだけにゃ~」
「大蟻の時は、寄付してたニャ」
「それは……在庫処分にゃ」
「私の取り分も、シラタマさんの好きにしてください」
「私もニャー」
「むう……わかったにゃ」
「よしよし」
「カミカミ」
「ゴロゴロ~」
わしが渋々了承すると、リータはわしの頭を優しく撫で、メイバイは首筋に噛み付き、わしは反射的に喉が鳴ってしまった。その姿を見たガウリカは、何故か顔を赤くする。
「お前達……朝からイチャイチャするな~!」
これのどこがイチャイチャじゃ? 猫を撫でておるだけじゃぞ? メイバイなんて、噛んでおるし……。怒る事でもないじゃろう。
「ソファーで寝ているあたしの身にもなれって言ってるんだ! ゴロゴロ、ゴロゴロ言いやがって!」
わしのせい? ゴロゴロはあえぎ声じゃないぞ? それに、やめてと言っても、やめてくれないリータとメイバイが悪いんじゃと思うんじゃが……。人のせいにすると怒りが増しそうじゃが、言い訳のひとつぐらいさせてもらおう。
「猫だからゴロゴロ言うのは仕方ないにゃ~」
「ああん!?」
「ごめんにゃさい!」
こわっ! これだから独り者の女は……おおぅ。いまのは無し! 殺意が膨らんでおる。ここは……逃げよう!
「ちょ、ちょっとわしは村長の娘さんと話して来るにゃ~」
「猫~~~!!」
わしは脱猫(兎)の如く逃げ出す。それから一通り探すが、村長の娘スマンは見付からなかったので、村人に居場所を聞いてオアシスに向かう。
オアシスに着くと、小島に掛けた橋の前に、
「やっと見付けたにゃ~」
「猫さん……」
「猫だにゃ~」
「猫よね……」
いまさらこの反応か。昨夜はわしの姿に、疑問を抱く余裕がなかったのかな?
「それより、遺体をどうするにゃ?」
「そうですね。猫さんがオアシスの中に作ってくれた場所で、火葬しようと思うのですが、どうでしょうか?」
「あそこにゃ? 元に戻そうと思っていたにゃ」
「あのままでいいです。水に囲まれた場所なら、死者も安らかに眠れるでしょう」
「それでいいならいいにゃ。準備するから、みんにゃを呼んで来てくれにゃ」
スマンが皆を集めている間に、わしは橋と小島を少し高さを上げて強化する。そして小島の中央に囲いを作って、一人、一人、遺体を並べる。
並べ終わると最後のお別れをしたい人は、この小島に渡るように伝える。遺体の破損が酷い事を念を押して、わしはその場をあとにした。
リータ達と朝食を食べた後、時間が出来たので、丸鼠を保管する氷室を作ってあげた。村人を食べた丸鼠を寄付していいものかと悩んでいたが、スマンに聞くと快く受け取ってくれた。ただ、数が多いので五十匹でいいとのこと。
村の女性達の最後のお別れが済むと、子供と遊んでいたわしを呼びに来たので、重い足を引きずり、オアシスに向かう。
そんなわしを見て、リータとメイバイが、わしの手を握ってくれた。
「火を入れるけど……いいにゃ?」
「……はい」
すすり泣く村の女性の声を聞きながら、わしは【火球】で遺体を包み、
それを見て、わしは土魔法を操作し、全ての灰をかき集めると四角く固める。さらに中央に台座を設けると、四角く固めて石となった灰を置く。
最後は皆を離れさせ、大きな墓石を建てる。砂漠に似合ったピラミッドだ。
わしの弔いを悲しい表情で見ていた皆であったが、途中から驚きの顔に変わって行ったと、あとでリータ達から聞かされたけど、葬式は台無しになっていないはずだ。……と思う。
そうして葬式も終わると、スマンとナンダを呼び寄せて別れの挨拶をする。
「硬く作ってあるから、もしもの時はここに逃げ込むといいにゃ」
「……ありがとうございます」
「ナンダ……お母さんを守ってやるにゃ」
「グズッ……うん」
「それじゃあ、わし達は行くにゃ~」
「待ってください!」
「なんにゃ?」
「この事を忘れない為に、猫さんの石像を建ててくれませんか?」
え……嫌じゃ。自分で
「それにゃら、この建物があれば十分にゃ~」
「いえ。助けていただいた猫さんを、後世に伝えるのに必要です」
「伝えなくていいにゃ~」
わしがやんわりと拒否していると、メイバイがよけいな事を言い出した。
「リータ。作ってあげるニャ!」
「十個でいいですか?」
「ちょ、ちょっと待つにゃ!」
「それぐらい、いいだろ? クックック……」
「出来ました!」
「早いにゃ!!」
小馬鹿にするように笑うガウリカをキッと睨んでいる間に、リータは十個の猫又石像を作り出してしまった。わしがツッコんでいると、スマンは石像を撫でながら頷く。
「二本足じゃないのですね……でも、こちらのほうがわかりやすくて良いですね」
「このままじゃ強度が足りないから、シラタマさん。強化をお願いします」
「えっと~。断る事は……」
なに、その期待のこもった目? うぅぅ。なんでわしが自分のHPを削らねばならんのじゃ~~~!!
わしは渋々、リータの作った猫又石像に強化を施し、配置していく。早く風化するように手を抜いて強化したら、リータに一発で見破られた。さすが、元、岩。
最後にピラミッドのてっぺんにも、大きな猫又石像を配置して、わし達は村をあとにするのであった。
数年後、この地に古くから信仰されていた宗教が衰退し、「白猫教」なる新興宗教が、砂漠周辺の者に信仰され、この村が聖地となるのは、また別のお話……
「アハハハハ」
オアシスの村を出発した飛行機の中で、ガウリカの笑い声が響く。
「笑うにゃ~!」
「アハハ。あの場では笑えなかったから仕方ないだろ。イチャイチャしてた罰だよ」
「あんなにかわいく作ってもらって、何が不満ニャ?」
不満に決まっておるじゃろう! ピラミッドに猫が乗っておるんじゃぞ? それを後世に伝えるんじゃぞ? 恥ずかしいに決まっている!!
「私、シラタマさんに迷惑を掛けてしまいましたか?」
「そんなことないニャ! 妻が夫を立てるのは当然ニャー。愛人の私も鼻が高いニャー」
メイバイよ……まず、わしに返事をさせてくれ。そして、ツッコませてくれ。まだ未婚! 愛人もいない!!
「モテモテだな~。おい?」
くそ! ガウリカめ。わしをずっとからかいやがって……目にもの見せてやる。
わしは変身魔法を解くと、ガウリカの胸に飛び込む。
「うわ! 何するんだ。嘘……なに、このモフモフ!」
「ゴロゴロ~」
「あ! シラタマ殿が堂々と浮気してるニャー!」
「ガウリカさん。返してください!」
「いや、この猫が勝手に……へ?」
「返すニャー」
ガウリカが前方を見て惚けた声を出す中、メイバイはわしを奪い取ろうと手に掛けるが、そんな場合じゃないようだ。
「待て! 飛行機……」
「落ちてます……」
「落ちてるニャー!」
「「「キャ~~~」」」
「にゃ~~~~~~!」
「だから、なんで猫が叫ぶんだよ!」
飛行機墜落の危機で、ガウリカに目にものを言わせられたが、そのせいで皆に、こっぴどく怒られるわしであった。
わしは反省の意味を込めて猫型で飛行機を操縦するが、リータとメイバイに代わる代わる撫でられた。ガウリカも撫でたそうに見ていた気がするが、気のせいだと受け止めた。
オアシスの村から近かったのか、一時間後にはビーダールの王都が見えて来る。なので飛行機を着陸させ、車に乗り換えて王都の入口の列に並ぶ。
車から降りると猫コール。そして猫が検閲に引っ掛かるひと悶着はあったが、女王の書状と門兵がガウリカの知り合いだったので、なんとか王都に入れた。
中に入ると、ガウリカは故郷の景色が懐かしいのか、歩みを止めた。
「あの遠い王都から、二日で着いた……」
「飛行機は速いからにゃ~」
「でも、どっと疲れたのは気のせいか?」
「き、気のせいにゃ! わしをそんにゃ目で見るにゃ~」
「ハハハ。冗談だよ」
ガウリカは笑いながら、わしの頭を撫でる。撫でる。撫でる……
「ゴロゴロ~」
「撫で過ぎです!」
「あ、ああ、すまない」
二人が止めてくれるのは嬉しいんじゃが、代わりに撫で回すのもやめてくれんかのう?
「先に宿を押さえたいにゃ。経費で落ちるから、高級宿屋に連れて行ってくれにゃ~」
「まぁいいけど……」
「にゃに?」
ガウリカが何か言い掛けたのが気になったが、わし達はガウリカのあとに続く。
街並みを眺め、東の国とは文化が違うと感じさせる建物に、わしとリータとメイバイは、目を輝かせてぺちゃくちゃと歩き、そこで変わった集団がいる事に気付いた。
「にゃあ、ガウリカ?」
「どうした?」
「このクソ暑い中、白いローブを着てる奴がいるけど、馬鹿なのかにゃ?」
「ああ。あいつらは白象教の馬鹿だ」
あ、馬鹿で合ってるんだ。
「信者を集めて、金を巻き上げているんだよ」
「お布施じゃにゃいの?」
「どうなんだか……上の者はぶくぶく太っているから、違うと思うぞ」
ふ~ん。宗教なんてそんなもんじゃと思うが、ガウリカはかなり嫌っておるな。
「そんにゃ宗教があるにゃら、街中に象が居てもおかしく無いと思うんにゃけど、象は居にゃいのかにゃ?」
「絵や石像ならいっぱいあるけど、実物は千年以上、誰も見た事が無いって話だ。あの石像が象らしいが、本当のところはわからない」
わしはガウリカの指差した石像に、興味本位で近付く。
耳の形も鼻の形も象で合っておるけど、誰も見た事が無いなら、わしが知っているのはおかしな話か。
わしが象の石像を黙って見ていると、リータとメイバイも興味を持って、ガウリカに説明を求める。
「変な形の動物ですね」
「この長いのは、なんニャー?」
「鼻らしいぞ。そのビラビラした大きいのは耳だってさ」
「なんのために、こんなに鼻が長いのでしょう?」
「耳も大きいのはなんでニャー?」
ガウリカから説明を受けていたリータとメイバイは、わしを見る。
「にゃんでわしに聞くにゃ?」
「「なにか知ってそう(ニャ)です」」
「知らないにゃ~」
「こんな猫が知ってるはずはないだろう。人が集まって来てるし、移動するぞ」
「にゃ!?」
「あ、待ってください!」
「シラタマ殿を離すニャー」
リータは象が、わしの元の世界に居ると思っているのかな? でも、動物の進化の理由なんて、詳しくないから答える事は出来ない。メイバイも何か期待しておったし、話を逸らせて有難いんじゃけど……ガウリカよ。持ち方!!
わしはガウリカに首根っこを掴まれて運ばれて行く。その後、追い付いて来た、リータとメイバイに奪い取られ、わしは二人に交代で抱き抱えられて、高級宿屋に辿り着く。
そして……
「申し訳ありません!」
ペットお断りと断られた。
「やっぱり……」
「わかっていたにゃら、先に言うにゃ~!」
「猫がわかってないほうがおかしいんだよ!」
「にゃんだと~!」
「二人とも、ケンカはあとにして、シラタマさんが泊まれる宿を探しましょう」
「ああ。それなら私の知り合いの宿があるから大丈夫だ」
「それを先に言うにゃ~!」
「高級宿屋に泊まりたいって、猫が言ったんだろ!」
「シャーーー!」
「ぐぬぬぬぬ」
「私もあんな風にケンカしたいニャー」
「メイバイさんまで……もう、行きますよ」
「あ! つぎは私ニャー」
ケンカをしていたわしを、リータが後ろから抱き上げるので、ガウリカとの決着はつかないまま運ばれるのであった。
そうして何度かメイバイと交代し、ガウリカの知り合いの宿屋に到着する。
「空いてる?」
「ガウリカさん! 帰って来たんですか?」
宿屋の扉を開けて入ったガウリカが、カウンターで座る男に声を掛けると、驚きながら立ち上がった。
「いや、向こうで仕事を受けて、仕入れに来たんだ」
「そうだったんですか……それで、そちらの方は?」
「護衛? いや、馬車? う~ん……仲間? まぁそんなところだ」
「なんですかそれは? それに、その大きなぬいぐるみは、東の国で仕入れて来たんですか?」
「これは……」
なんじゃガウリカの奴。変な紹介しやがって……誰が馬車なんじゃ! こいつもわしをぬいぐるみと言いやがって~!
「ぬいぐるみじゃないにゃ! 猫だにゃ~」
「喋った! さすが東の国。最先端のぬいぐるみですね」
「猫だにゃ~。こいつ失礼にゃ!」
「こじれるから猫は黙っていろ!」
「え……会話してる? ガウリカさん。このぬいぐるみは生きているんですか?」
「だからぬいぐるみじゃ……ムグッ」
わしが怒りに任せて否定しようとすると、わしを抱いているリータに口を塞がれてしまった。
「シラタマさん。ここはガウリカさんに任せましょう」
「まぁ見ての通り、変わった生き物だ。害は無いから部屋を用意してくれ」
「はあ……」
「あたしは一人部屋で、お前達はどうする?」
「二人部屋でいいです」
「わしの部屋……ムグッ」
「二人部屋でいいニャー」
「はぁ……そっちの女の子の耳は?」
「こ、これは、東の国で流行っている飾りだ」
「本物……ムグッ」
メイバイが否定しようとすると、ガウリカは慌てて口を塞いだ。
「鍵! 鍵を寄越せ!!」
「は、はあ……」
ガウリカは宿屋の若旦那から鍵を奪い取ると、わし達を部屋に案内する。
「横暴にゃ~!」
「そうニャー!」
「もう面倒なんだよ!!」
「「にゃ~……」」
「ハハハ」
一言で片付けられた! 笑っているって事は、リータもなのか?
「ち、違います!」
また心を読まれた。わしの周りは、心を読むスキル持ちが多過ぎじゃわい。
ひとまずわしとメイバイが落ち着くと、ガウリカは明日からの予定を聞いて来た。
「それで明日からの行動はどうする? あたしは市場を回ってコーヒー豆を仕入れるよ」
「わしも欲しいコーヒー豆があるから、ついて行こうかにゃ?」
「猫達は白い巨象の依頼を受けてるだろ? 要望があれば、あたしが買って来るよ」
「そうだったにゃ! それじゃあ、もっと苦い豆をお願いするにゃ」
「わかった」
「それと依頼主ってのに会ってみたいんにゃけど、いまから会えるかにゃ?」
「この時間だと……あそこかな?」
「にゃ?」
「晩メシがてら、行くとするか」
宿屋から酒場に移動し、わし達は扉を潜る。お約束の猫コールは軽く無視して、奥のテーブルで酔い潰れている老人に近付く。
「じいさん。生きてるか?」
ガウリカが声を掛けると、老人は体をむくりと起こし、キョロキョロしたかと思ったら、わしの顔に焦点を合わせた。
「うぃ~。駄目だ。猫が立って歩いているように見える」
「飲み過ぎにゃ~」
「さらに喋ったな。これは夢だ。おやすみ~」
「夢の中で寝るにゃ~~~!!」
完全に寝た老人はなかなか起きず、わし達は食事をとりながら待たされる事となった。
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