533 伊勢海老大会にゃ~
白イルカの縄張りの決定は、しばし保留。白いサンゴ礁での縄張り争いが落ち着いた頃にまた来て、巨大魚の弱体化を調査する予定だ。
もちろん、わしは調査なんて参加するつもりがない。エリザベスキャット号は貸してやるから、玉藻と家康だけで勝手にやってくれ。もう、わしの力は必要ないはずだ。
しかしながらリータ達は戦いたいようなので、調査する際にはハンターギルドに依頼を出すように言っていた。巨大魚が弱体化すれば、自分達も主といい勝負が出来ると思っているようだ。
とりあえずリータ達だけで行かせるのは怪我する可能性もあるので、わしも調査の際には付き合う事となってしまった。
そもそも、それがリータ達の狙いだったようだ。いつもわしが嫌そうにするから、進んで「うん」と言わせたかったんだってさ。
白いサンゴ礁で一泊すると、また北上してトローリング。次の白いサンゴ礁に入って主を倒し、さらに北へ。その翌日には、太平洋側は白いサンゴ礁が少なかったおかげで、前回より短い期間で北海道まで辿り着いた。
これでわしの仕事は終了。さっさと帰ろうと言ったが、前回主を倒した白いサンゴ礁がどうなっているか見てみたいと言う大多数の声に負けて、わしも付き合わされる。
北海道と青森の間をエリザベスキャット号で抜け、巨大魚が現れれば白イルカやリータ達で対応。わしはまた戦闘機で空を飛び、海図を頼りに目的の白いサンゴ礁までナビゲート。
念のため白イルカを甲板プールに収納したら、白いサンゴ礁に侵入する。少し進めば例の如く海が盛り上がって来たが、前回より明らかに小さい。
「伊勢海老にゃ~。60メートルってところかにゃ?」
「前の主と比べれば、およそ半分ってところか」
「本当に弱体化しておるな。しかし傷が酷いのう」
白伊勢海老は、おそらくハサミが六本あったように見えるが、三本のハサミの先が取れてなくなっている。それに右目も落ちて、甲羅も傷だらけだ。
「激しい縄張り争いが起きたようだにゃ~」
「そちの予想通りか。さて、今回は
「ここまで手傷があるのなら、玉藻で余裕じゃろう。さっさと始末して来い」
「いいから二人で行って来いにゃ~」
ボロボロの敵とはやりたくなさそうな玉藻と家康は譲り合いを始め、「脱皮したあとに来れば治っているかも?」とか言い出す始末。
二人は戦いを楽しみたいらしいが、いま出来る事を後回しにされると、また誘われた時に面倒だ。
なので、二人がやらないと言うのなら、わしがやる……
「「「「「はいはいはいはい!!」」」」」
やると言おうとしたら、リータ達がめちゃくちゃ手を上げて寄って来た。
「みんにゃには、まだ早いにゃ~」
「わかってます。ですので、シラタマさんが引き付け役に回ってください」
「私達は体内からの攻撃に集中するニャー!」
「もしも攻撃が通じないなら、すぐに撤退します」
「お願いニャー」
リータとメイバイは、しっかりしたプランを提出してわしを説得するので致し方ない。若干顔が怖かったので、皆に譲ってあげる事にする。
まずは、わしが海面を走り回りながらの【青龍乱舞】。巨大なリングが完成すると、白伊勢海老は氷を割りながら上がって来た。
そこでリータに合図を出してから、わしは白伊勢海老の左側に移動し、リータ達は目が潰れている右側に移動する。
配置に就くと、わしと白伊勢海老は魔法合戦。白伊勢海老の【水鉄砲】を【水玉】でガードしたり、前に出て【猫干し竿】での気功斬り。
白伊勢海老は強敵だが、怪我だらけで本来の強さの半分程度しかないから敵ではない。余裕を持って攻撃を捌き、小さなダメージを重ねて行くのであった。
* * * * * * * * *
一方リータ達は、白伊勢海老の死角に回ると後方へ全力疾走。見付からない内に尾から飛び乗った。
「これだけ傷があるのです。深い傷……出来るだけ弱点に近い場所から体内に攻撃を加えましょう!」
「ん。賛成」
リータの案にイサベレが応え、メイバイ、コリス、オニヒメも頷いて白伊勢海老の背を進む。多少揺れるが、皆は振り落とされないように進み、オニヒメとイサベレの意見を聞いて足を止める。
「あっちがじゃくてん」
「こっちが早い」
どうやら二人は、頭に近い位置でほどよい亀裂を見付けたのだが、どこから中に入るかで意見が割れたようだ。
ただ、白伊勢海老の上は常に揺れているので、早く体内に侵入したいリータは決断する。
「ここはふた手に分かれましょうか。コリスちゃんはオニヒメちゃんを守ってあげてね」
「うん! ヒメまもる!」
「私とメイバイさんはイサベレさんと組みましょう」
「ん。わかった」
「では、行きましょう!」
「「「「にゃ~~~!!」」」」
こうしてふた手にわかれた猫パーティは、リータ班は近くの亀裂に向かい、コリス班は頭の辺りにある亀裂に走るのであった。
リータ班は亀裂に到着すると、まずはリータの気功パンチ。その一撃で、白伊勢海老の甲羅にヒビが入った。
「硬いけど、なんとかなりそうです」
「さすがリータニャー!」
「ん。もう少し大きくしてくれたら掘りやすい」
「わかりました!」
亀裂は人間が入るには少し小さかったので、リータは何度も気功パンチで殴って穴を広げる。そうして人ひとりが入れる大きな穴になると、バトンタッチ。
イサベレが無酸素斬りで白伊勢海老の身を切り分け、疲れたらメイバイに交代。バトンタッチしたメイバイも一呼吸で凄まじい回転斬りを繰り出して切り刻む。
ちなみに白伊勢海老の身は、リータが外に放り投げていた。どうも生臭いから、収納袋に入れたくないようだ。
こうしてリータ班は、白伊勢海老の弱点に向けて掘り進めるのであった。
一方、オニヒメとコリスも亀裂に到着し、亀裂を広げようとしていた。
「おねえちゃん。ここ。ぶわ~ってやって」
「お姉ちゃんにまかせて! ホロ~~~!!」
コリスはオニヒメの指差した亀裂に向けて【
「あれ? かたい……」
オニヒメの選んだ亀裂は小さい上に、一番硬い場所だったので、コリスの【咆哮】では大きく穴を開けられないようだ。なので、オニヒメにいいところを見せたかったコリスは、少しテンションが下がってしまった。
「おねえちゃんならできる。ガンバ!」
「うぅぅ……ホロ~~~!!」
しかし、コリスはオニヒメにどうしてもいいところを見せたいらしく、気を取り直して、何度も【咆哮】を撃ち続けるのであった。
* * * * * * * * *
う~む……やはり、リータ達には早かったか?
わしは白伊勢海老の攻撃を捌きながら、皆の心配をする。
いっそ、わしがさっさとトドメを刺すか? この程度なら【レールキャット】で一発じゃし……。でも、すでに皆が体内に入っていたら
白伊勢海老にダメージを与え過ぎると逃げられかねないので、わしは慎重に小さなダメージを積み重ねる。
そう言えばアレ以降、アホ毛が立つ事がないな。何が発動条件なんじゃろ? アレをホイホイ使えたら、白銀猫とだって対等に戦えるはずなんじゃけど、何をしてもアホ毛が立たないしな~。
わしの体をイジッたツクヨミに聞いてみるか? いや、あいつなんて呼んだら、愚痴の嵐にあいそうじゃ。
――呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャーン!
言ってるそばから登場して愚痴って、スサノオに通信を切られたな。ツクヨミの奴、愚痴を言う暇あったら謎を教えてくれよ。てか、あっと言う間に切られたから無理か。
たぶんスサノオに鉄壁マークされておるな。これでは、ツクヨミの口から一生謎の答えを教えてもらえそうにないわい。
お? やったかな??
わしがツクヨミの事を考えていたら、白伊勢海老の攻撃が止まったのであった。
* * * * * * * * *
時は少し戻り、白伊勢海老の背中、二ヶ所で
リータ班は横穴を開け、コリス班は縦穴を開け、二班はほぼ同時に心臓の前に辿り着いて、先頭に居たコリスとイサベレの目が合った。
「いまの、どっちがはやかった?」
「ちょっとだけコリス」
「やった! ホロッホロッ」
「おねえちゃんすごい! ホロッホロッ」
実際には、イサベレのほうが一秒ほど早かったのだが、大人なイサベレは勝ちを譲ったようだ。それで気を良くしたコリスとオニヒメは「ホロッホロッ」と喜び合い、皆は微笑ましく見ていたが、そんな場合ではない。
「さあ、シラタマさん達を待たせているのですから、早くトドメを刺して戻りましょう!」
「「「「にゃ~~~!」」」」
これよりリータ達は、穴が狭いので交代で心臓に一太刀ずつ入れて、白伊勢海老の鼓動を止めたのであった。
* * * * * * * * *
「モフモフ~!」
動きの止まった白伊勢海老を見ていたら、コリスの声が聞こえて来たので、わしは緊張の糸を解く。
「わたしがいっぱいがんばったんだ~」
「おねえちゃんつよい!」
「ホロッホロッ」
一番始めにやって来たのは、コリスと背に乗ったオニヒメ。何やらテンションが高いから撫でてあげたいけど、エビ味噌が付いているからあまり触れたくない。
なので、【お湯玉】に入れて洗っていいかと聞いてから、二人をシェイク。そうしていたらリータ達も走って来たので、「ストーップ!」と止めて、全員仲良くシェイクして綺麗になってもらった。
「見たニャー? 私達でも、あんなに大きな獲物を狩れたニャー」
「これで、次回からは私達に任せてくれますよね!」
「その時は、また女王様に休みをもらう」
【お湯玉】でクールダウンさせたけど、メイバイ、リータ、イサベレもテンションが高い。
「だから~。次回からは玉藻達に任せようにゃ~」
「「「「「ええぇぇ!?」」」」」
「これは日ノ本の問題にゃ~!」
やる気のないわしは、猫の国が手伝う必要が無いと主張するが、まったく聞く耳持たず。いろいろ引っ張られて、渋々「うん」と首を縦に振った。
だってイサベレが……恥ずかしいから言わんとこ。
それから白伊勢海老は身を切り分け、船に戻ったらお疲れ様会だ。
「そんじゃ、ま、いろいろあったけど、今回の成果は十分果たせたにゃろ。それと新しい仲間、ヒュウガとマヤの加入も祝してかんぱいにゃ~!」
「「「「「かんぱいにゃ~!」」」」」
終わりの挨拶は毎回わし。いちおう断っているのだが、わしがキャプテンらしいので、言わないと食事にありつけないから渋々やっている。
寿司屋で宴会したかったところだが、白イルカも居るので仲間外れはかわいそうだ。それに、しばらく釣りはやりに来ないと思うので、その時までは大人しくしてもらわなくてはいけない。
白伊勢海老のお造り、焼きエビ、ついでにヤマタノオロチ肉も食わせておいたので、餌付けはバッチリ。これで玉藻と家康がいなくても、誰かを襲ったりしないだろう。
白イルカのしばらくの住み処はどうするかと聞いたら、少しの間、京の沖合いとのこと。白いサンゴ礁ほど魔力が豊富な海ではないが、危険はかなり減っているので過ごしやすいはずだ。
あとは勝手に京の沖合いに行ってくれるだろう……
「にゃ? わし達で連れて行くにゃ??」
「イルカに地図など見せてもわからんじゃろうが」
「え~~~!!」
残念ながら、玉藻の指摘で白イルカを京に送る任務が生まれてしまい、エリザベスキャット号は南に舵を取り、最高速で走り続けるのであっ……
「ついでに、白いサンゴ礁も見て行きましょう!」
「それいいニャー。もう少し戦いたかったニャー!」
「え~~~!!」
本当に残念ながら、リータとメイバイの発言から戦闘狂の多数決に負けて、白いサンゴ礁巡り延長戦が行われ、もう数日お家に帰れないわしであったとさ。
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