465 救助活動にゃ~
わしたち救助隊は関ヶ原を立ち、空を行く。
人数が多いので、飛行機は二機。わしが操縦するキャット号と玉藻が操縦するフォックス号だ。名称は、あとでリータ達が勝手に決めていたと聞いてずっこけた。
フォックス号には、機長の玉藻と十人のキツネ神職。リータ、メイバイ、オニヒメ、エミリも乗っている。これもあとで聞いた話だが、キツネ神職が空を飛んでいると騒ぐ中、猫の国組は白キツネに興奮して撫でまくっていたらしい。
キャット号には、さっちゃん2に変身したコリスの膝に乗る猫又機長。最前列に、断固として座った家康タヌキ耳太っちょおっさんバージョン。それと十人のタヌキ神職。
合計28人……6人と22匹? 見た目は着ぐるみだらけだから、22体?? よくわからなくなって来たから全員人換算で! 合計28人は空を行く。
「おお~! 高いのう。人がゴミのようじゃ」
当然、飛行機初体験の家康はうるさい。後部座席の白タヌキも、騒いでいたり高さに怖がっていたりしているようだ。
人がゴミって……どこの権力者も、思う事は一緒なんじゃな。でも、そんな事を言ってると
わしが空飛ぶ城の事を考えて操縦していると、ようやく落ち着いて来た家康は、わしに話し掛けて来る。
「先を行く飛行機は、玉藻が操縦しているらしいが、お主が教えたのか?」
「そうにゃけど……にゃに?」
「是非とも徳川にもご教授願いたい! 頼む!!」
このタヌキ……天皇家が持ってる物は、なんでも欲しがるな。自分のところの物は隠すくせに……
「鉄砲の情報を教えてくれたら考えるにゃ」
「むっ……鉄砲か……」
「作り方はいいにゃ。どれぐらい持っていて、まだまだ作るのかが知りたいにゃ」
「徳川の戦力が聞きたいというわけか……」
「鉄砲が万もあれば、日ノ本をひっくり返せるにゃろ? やろうと思えば世界制服だって楽勝にゃ~。でも、猫の国に被害が出るようにゃら、ぶっ潰すけどにゃ」
「物騒な事を言うでない。我等は戦など起こす気はない。鉄砲の数だって少数じゃ」
家康が言うには、現在徳川で保有する鉄砲は八丁。わしが二丁とのこと。意外と少ない理由は、玉藻対策で作っていた事と、家康も鉄砲の危険性に気付いていたかららしい。
鉄砲が広まれば西にも技術が伝わり、刀を主体としている徳川の優位が揺るがされると危惧していたので、秘密裏にひとつの一族だけに研究させていたようだ。
「ふ~ん……嘘は無さそうだにゃ」
「正直、考えた事はあった。しかし、侍が刀を捨てる世が来るのは、
「それはお見逸れしましたにゃ~。では、このまま秘密裏に、改良を続けてくれにゃ~」
わしが作り続けて欲しいと言うと、家康は首を傾げる。
「ん? お主は、鉄砲を作りたいんじゃないのか?」
「全然……ただ、同じ事を考える者は必ず出て来ると思うから、その時の為に知っておきたかったにゃ。その時は、頼りにしてるにゃ~」
「フッ……おかしな奴じゃな。誰でも欲しがる技術じゃろうに」
「ちなみににゃけど、大砲も作ってるにゃろ?」
「な、何故それを……」
あら? 引っ掛かった。ちょっとカマ掛けただけなのに……
「鉄砲を大きくするだけだからにゃ~。どっちかと言うと、逆かにゃ? 大砲から作って小さくしたのかにゃ?」
「ぐっ……何故、そんなに詳しいんじゃ」
ヤベ……ちょっと言い過ぎたか。玉藻と違って時の賢者とを結び付けられんじゃろうけど、ごまかしておかないとな。
「わしの構想にあっただけにゃ。わしは空を飛べるんにゃよ? こんにゃのすぐに思い付いたにゃ~」
嘘じゃけど、これで言い訳になるかな?
「そう言えば、猫の国では電車も走っていると秀忠が言っていたな。車も売ってもらったとも……平賀家を超える物を作り出せる国ならば、頷けん事もない」
まだ疑っているようじゃけど、ギリセーフってところか。
「まぁ玉藻には秘密にしておいてあげるにゃ。どうせ玉藻対策にゃろ? 数だけ教えておいてくれにゃ」
「まったく……お主に掛かれば、徳川は丸裸にされそうじゃわい」
それから大砲の話を聞いていると、玉藻から通信魔道具に連絡が入り、家康には静かにしているように言ってから繋ぐ。
「どうしたにゃ?」
「もう見えたぞ。どこに飛行機を降ろすんじゃ?」
「もうにゃ? う~ん……とりあえず、旋回して被害状況を空から確認しようにゃ」
「空からか……たしかにそのほうが、確認がしやすそうじゃな」
「じゃあ、そんにゃ感じでよろしくにゃ~」
通信魔道具を切ると、また家康がうるさくなって、魔道具を販売する事で落ち着いた。飛行機に続いて便利な物が多いから、西の地は科学の発展している土地だと勘違いもしているようだ。
もちろん質問も多いのだが、そんな事よりも、家康は目に映る惨状に言葉を失った。
まっずいのう……関ヶ原の被害どころではない。津波は届いてないようじゃが、城下町全体が崩れておる。これでは、生き埋めになっておる者が大多数じゃ。
生き残りは……西側に人だかりがあるな。怪我人も大多数なんじゃろう……あの辺に降りたほうが、移動距離が減ってよさそうじゃ。
しかし、その先の海にある白い山……アレがヤマタノオロチか? ハッキリとはわからんが、体高が100メートル以上……下手したら200メートルを超えていそうじゃ。
それに、頭らしき物が複数見て取れる。ここからでは数はわからんが、ヤマタノオロチと言うぐらいじゃから、八本あるんじゃろう。
でもな~……あの形状は、アンコウじゃろ? いや、提灯が付いてるからチョウチンアンコウ? でも、形は一般的に食べられているアンコウのようじゃから、新種かな?
それは置いておいて、形はアンコウなんじゃから、どうしてヤマタノオロチだと思ったんじゃ? 東北では食べてるじゃろうに……
それにしても、居なくていいのに、何をちんたらしておるんじゃ。さっさと帰っていてくれたら救助に専念できるのに、どうしたものか……
旋回を続けているとまた玉藻から連絡が入ったので、三人の協議の結果、西側の被災者だと思われる集団の近くに垂直着陸する。
わしから着陸して玉藻の操縦を眺めていたら、さすがは九尾の化け物。上手く着陸していた。
被災者は、空からの来訪者にチラホラと集まっていたが、元の巨大タヌキに戻った家康や玉藻の姿が目に入ると、偉そうな侍が慌てて土下座をするので、被災者もそれに続いた。
わしはその様子を見ていたが、それは無視して、飛行機から降りた者を整列させる。
「空から見ての通り、甚大にゃ被害が出ているにゃ。まずはご老公……使えそうにゃ侍の確保と状況確認にゃ」
「おう!」
「玉藻は、リータ達を連れて直ちに救助活動にゃ。悩んでいる暇はにゃいから、南からしらみ潰しに救助してくれにゃ」
「任せろ!」
「神職の者は、わしと一緒に重傷者の手当てにゃ。軽症者は、にゃんと言われようと無視するから覚悟しておけにゃ」
「「「「「はっ!」」」」」
「さあ、一人でも多く助けるにゃ~~~!!」
「「「「「にゃ~~~!!」」」」」
キツネとタヌキのくせに、「にゃ~!」と言っているけど気にしない。家康まで「にゃ~!」とか言っているけど気にしない。だが、周りの人々が首を傾げている姿は気になるわしであった。
皆が散り散りに動き出すと、わしとエミリは二十人のキツネとタヌキを引き連れてズカズカ歩き、避難所らしき人の輪の中央で音声拡張魔道具を使う。
『え~。わし達は、天皇陛下の指示でやって来た救助隊にゃ。天皇家名代の玉藻と、徳川最長老の家康が身を粉にして救助にあたるにゃ。そして、その統括を任されているのが、このわし。猫の国のシラタマ王にゃ」
簡潔に自己紹介を終えると、家康と玉藻の名を聞いて、驚きと喜びの表情を見せる被災者達。
『いいにゃ? これからみにゃの怪我を治すけど、人材が不足しているから、重傷者を最優先にゃ。ここで治療をしていた人……よく頑張ってくれたにゃ。わし達が代わるから、いまの状況を説明しに来てくれにゃ。さあ、治療に取り掛かるにゃ~!!』
ここで医者を待っている暇は無いので、まずはキツネ神職にトリアージをするように指示を出し、重傷者の割り出しをしてもらう。
その間わしは、土魔法でプールと桶を作り、清潔な水を水魔法で満たす。それとありったけの布を出して、目に付く重傷者の治療を始める。
タヌキ神職にも重傷者の治療を任せ、わしと同じく治療を開始していると、ここで医者をしているという人間が現れた。
とりあえず、聞き取りはキツネ神職。重傷者の集まる区域を教えてもらったようなので、わしの元へ駆けて来た。
話を聞くと重症者の集まる場所へ全員で進み、ここで線引き。その場所が命の線引きとなり、軽症者は逆サイドに集めさせる。
重傷者サイドは、タヌキ神職総掛かりで治療にあたるが、何人かすでに事切れている者も居た。その者に祈っている暇はない。わし達は、生きている者を必死で治す。
しばし治療に集中していると、家康が人間の侍を二十人ほど引き連れてやって来た。
「どこもかしこも、酷い惨状じゃな。関東大震災を思い出すわい」
「その惨状を知っているにゃら心強いにゃ。それで、状況は把握したかにゃ?」
「ああ。城に、かなりの数の侍が埋まっているらしい。儂としては、そこに行きたいんじゃが……」
「たしかに急がにゃいといけないにゃ。こっちで人員整理と炊き出しの準備をしてから向かってくれにゃ」
「わかった」
家康は侍を使って被災者を移動させ、その被災者の中からも炊き出しをしてくれる者を集めさせる。なので、人員整理を手伝っていたエミリを呼び寄せ、炊き出しに必要な釜と鍋、アミを複数作って食材を出すと、あとを任せる。
それからまた、わしは重傷者の治療。使えそうな人材以外は完全に治さず、応急手当程度。完全復活した者は侍の指示で、被災者の誘導や雑用にあてられる。
そうこうしていたら、タヌキ神職の限界が来る。なので、ここでキツネ神職と交替。呪力は無くとも、怪我人の誘導や包帯ぐらいなら巻けるだろう。
ようやく重傷者の治療が終わる頃には、キツネ神職も呪力はとっくに尽きており、わししか治していなかった。
「ここは……こんにゃもんかにゃ? それじゃあわしは、戦地に向かうにゃ。神職の者は、明日も忙しいから、飛行機でよく休んでくれにゃ」
「「「「「はっ!」」」」」
キツネとタヌキには毛皮を支給して、わしは瓦礫の山となった浜松の城下町を走るのであった。
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