085 ファンクラブ創設を阻止するにゃ~
「かわいい! ありがとう」
どうやら、猫又ぬいぐるみは女王のお気に召したようじゃな。わしの心にはダメージを受けておるが……。
さっちゃんの事件で貸しはあると言っても、女王に頼み事をするのに手ぶらで来るわけにもいかんしのう。ぬいぐるみじゃなく、わしを膝の上に乗せているのなら必要なかったかもしれんが……
立派なお胸が当たって恥ずかしいから降ろして欲しいが、久し振りに会ったんじゃし好きにさせるか。すっごく降ろして欲しいけど……ホンマホンマ。
そんなことより、そろそろ本題に入るとするか。
「今日、女王に会いに来たのは頼み事をしに来たにゃ」
「わかった!」
「まだにゃにも言ってないにゃ~」
「聞かなくてもわかるわ。私のペットになりたいって事でしょう?」
なんでそうなるんじゃ! ペットで思い出した。忘れておったのに……ハンター証の職業欄を変えてもらわねば! じゃが、本題が全然進んでおらんし、あとにするか。
「違うにゃ。女王は孤児院の事を、どれぐらい知っているにゃ?」
「孤児院? あそこには悪いことをしたわね。シラタマが関わった事件で、処刑した貴族が着服していたのよ」
「それは孤児院で聞いたにゃ」
「援助金をもっと出してあげたかったんだけど不作がね……。それと、もうひとつの案件もあるから、資金を調達できないのよ」
ん? お金が無いのは、不作だけが原因じゃないのか。
「もうひとつの案件にゃ?」
「その話は、シラタマの話のあとにしましょう」
「言いづらい事なら話さなくていいにゃ。女王も援助金は多く出したかったとわかって安心したにゃ」
「それで頼みって……孤児院の援助金を増やせってこと?」
「違うにゃ。孤児院は援助金だけでは食料品の値上げで、服もろくに買えないにゃ。だから孤児院で商売をする事を許して欲しいにゃ」
「なんでシラタマが、そんなお願いするの? 院長に頼まれた?」
「わしの独断にゃ。これから院長が申請するから根回しに来たにゃ」
「別にそんな事しなくても許可を出したわ。報告書では、家もボロボロなんでしょ? 修繕費も出せないから私には断れないわ」
女王も孤児院の事を気にかけておったのかな? ちょっと見直した。わしを膝に乗せて、撫でながら話すのをやめたら、もっと見直すんじゃが。
「いちおう隠さず報告しておくにゃ。家はわしが直したから、しばらくは大丈夫にゃ。それと服も少ないけど、寄付を受ける事になったにゃ。だからって援助金を減らさないでやってくれにゃ」
「……わかったわ。でも、なんでシラタマがそこまでするのよ?」
「ただの偽善にゃ」
「偽善……か。それでも、サティや子供達の笑顔を守ってくれるのはありがたいわ」
「気にするにゃ」
「それじゃあ、私も笑顔にしてもらおうかしら」
「断るにゃ~」
「なんでよ!」
「もう笑っているにゃ~」
「シラタマが来てくれているんだから笑顔になるわよ~」
なに? わしの姿がおかしいと言っているのか?
「そういう事じゃなくて、私の頼み事を聞いてくれたらって意味よ」
また心を読まれた……そんなに顔に出ておるのか? まぁそんな事より、女王の頼み事は面倒な予感もするし、却下じゃな。
「もちろん断るにゃ」
「いつも聞く前に断らないで!」
この王族に関わると、ろくな事にならん気がする。断るのが正解じゃろう。
わしと女王が言い争っていると、コンコンと執務室にノックの音が鳴り、白髪の紳士が入って来た。
「陛下。そろそろお時間です」
「もうそんな時間? 仕方ないわね。ゴホンッ」
女王は抱いていたわしを降ろし、軽く咳払いをして真面目な顔になると、わしに語り掛ける。
「シラタマ。この話は次回にする。近い内に使いを送るから、必ず来るのだぞ」
「なんにゃ? その話し方は?」
「来・る・の・だ・ぞ?」
なんじゃ? 急に女王オーラマックスにして……家臣がいるからかのう。仕方ない。乗ってやるか。じゃが、作法がわからん。アレでいいか?
わしは女王の前で両膝を床につけ、両手をついて頭を下げる。
「へ、へへ~~~」
わしはお代官様に土下座をする農民をマネて、女王の問いに答えた。これなら失礼も無いと思ったが、怒られて、執務室から追い出されてしまった。
なにがいけなかったんじゃ? わしの最上級の返答じゃったのに! しかも、職業ペットを直してもらうの忘れてた! くっそ~。
わしはぷりぷりしながらリータを迎えに、さっちゃんの部屋に入る。
「ただいまにゃ~」
「おかえり~。あれ? シラタマちゃん、なにか怒ってない?」
「にゃんでもないにゃ……と、ところで、そ、それはなんにゃ?」
わしはテーブルに乗っている物を指差し、尋ねてみる。
「シラタマちゃん人形(猫型)よ! リータに作ってもらったの。シラタマちゃんファンクラブの会員証代わりにする予定よ!」
聞いたわしが馬鹿じゃった! なんじゃそのファンクラブ? いつの間に作ったんじゃ! 双子王女も同じ物を持っておるけど、双子も会員なのか?
「ちなみに会員って、にゃん人いるにゃ?」
「わたしが会長で、副会長のローザでしょう。御姉様方にソフィ達、リータ、きっとお母様も入りたがるから、九人ってところかしら?」
「いますぐ解散するにゃ~!!」
「「「「ええ~~~!」」」」
なんで双子王女とリータまで驚くんじゃ!
「これからもっと会員を増やしていくつもりだったのに~」
「にゃんで増やす必要があるにゃ~!」
「そりゃ、王女の作ったファンクラブなんだから、人数は必要でしょう?」
そうなの? いや、そんなわけない! ぬいぐるみだけでも精神を削られておるのに、人形まで普及させてたまるか! なんとか食い止めねば……
「じゃあ、頑張って広めるにゃ。でも、広まったら、さっちゃんと会う時間が減りそうにゃ。寂しいにゃ~」
わしは寂しそうな演技で
「会員の皆様……只今を持ちまして、シラタマちゃんファンクラブは解散します!!」
さっちゃんはチョロイのう。
ファンクラブ創設を阻止したわしは、帰ろうとしたが、勉強に疲れたとさっちゃんの泣きが入ってお昼まで滞在する事となった。
さっちゃんの勉強を邪魔してしまったので、双子は怒っていたが、軽くすり寄ってみたら許してくれた。
そうして昼食をいただき、緊張から解放されたリータと次の目的地に向かう。
「次は商業ギルドですか?」
「そうにゃ。リータは帰っているかにゃ?」
「どうして置いて行こうとするのですか!」
「リータが行っても面白くないと思ったからにゃ」
「そんな事ないですよ。猫さんと一緒にいるだけで楽しいんですから」
「じゃあ、ついて来るにゃ~」
「はい!」
いい笑顔じゃ……でも、歩き難いから、もうちょっと離れて欲しい。
リータはわしにくっつくように歩き、商業ギルドに入るまで離れなかった。ギルドは忙しい商人なのか、相変わらず人の出入りが激しい。そのせいで、猫騒動が起こってしまった。
ハンターギルドと違って、こっちはわしを見て驚く人が多いのう。他の街から来たのかな? まぁやる事やって、さっさと帰ろう。
エンマがまたわしに声を掛けてくれたら、別室で話を聞いてもらえると期待しておったが……どこじゃろう?
わしはキョロキョロとギルド内を見渡す。そこである違和感に気付く。
ここのシステムって番号札を取って、受付から呼ばれて、各受付に行くんじゃよな? なんであそこのの受付だけ、行列が出来ておるんじゃろう? ……気になる。
「リータ。ちょっと高く持ち上げてくれにゃ」
「はい。たかいたか~い」
わしは子供か! そんなこと口に出さなくてもいいんじゃぞ? まぁ今はあの列の謎じゃ。どれどれ……
「にゃ!?」
「シラタマさん! 少々お待ちください。すぐに参ります!」
行列の先にはエンマが受付をしており、わしと目が合った瞬間、大きな声でこちらに来ると言うのでしばらく待つ。そうすると、小走りでエンマはやって来た。
「お久し振りです。さっそく別室に行きましょう」
エンマはわしの返事も聞かず、手を握って別室に移動する。
「はぁ……」
「お疲れだにゃ。どうかしたのかにゃ?」
「最近、私が受付に立つと行列が出来てしまうのです。ちょっと前にはこんな事はなかったのですが……」
「あ~」
「何故かわかるのですか?」
「眼鏡のせいにゃ。前は目付きが悪くて怖かったからにゃ」
「そんな事でですか?」
「エンマは美人だから、男が並んでいたんにゃ」
「美人だなんて……シラタマさんはお世辞が上手いのですね」
わしが適当にエンマを褒めていると、リータが割って入る。
「私も眼鏡を掛けたら、美人になりますか?」
「リータはそのままでも十分かわいいにゃ」
「猫さん……」
またか……。リータは本当にどうしたんじゃろう? 今度しっかり話をしたほうがいいかもしれん。
「あんにゃに並んでいたのに、わしの為に抜けても大丈夫なのかにゃ?」
「代わりの者がいますから大丈夫です。むしろ助かりました。それで、今日はどの様な用件でしょうか?」
「今度、孤児院が商売をするから、手続きをお願いしに来たにゃ」
「孤児院ですか? 代表の方は、今日は来られていないのですか?」
「院長の代理にゃ。この書類があればいけると聞いたにゃ」
「拝見させていただきます」
わしは院長から預かった書類をエンマに渡す。するとエンマは、一枚一枚しっかり目を通してから顔を上げる。
「はい。結構です。手続きをしておきますので、また後日来てください」
「わかったにゃ。ついでに、これもお願いするにゃ~」
今度は、フレヤから貰った書類を渡す。
「これは特許申請書ですね……ぬいぐるみですか? 差し支えなければ、どの様なぬいぐるみなのか教えてくれませんか?」
「う~ん。わしの姿のぬいぐるみにゃ。売れるかどうかわからないにゃ」
「シラタマさんの? それは売れそうですね。私も買いに行きます」
エンマも買うの? なんの為じゃろう? ストレス溜まってそうじゃから、サンドバッグ代わりにされそうじゃな。
「殴るためにゃら買わないで欲しいにゃ~」
「なんでそうなるのですか? 私はシラタマさんのファンですから、そんな事はしませんよ」
いつの間にファンに……べっぴんさんにそんな事を言われると、さすがに照れるな。
「むぅ。猫さんは譲りません!」
リータよ。何を張り合っておるんじゃ……
「こちらも売上があれば、シラタマさんの口座に振り込むと言うことで、よろしいでしょうか?」
「それでお願いするにゃ」
「わかりました。手配しておきます。それと家賃の件ですが、シラタマさんも口座を持っているのですから、口座からの引き落としにしてはどうでしょうか?」
「にゃ! それいいにゃ。お願いするにゃ~」
「了承しました。まだ入金がありませんので、念の為、二ヶ月分の家賃を入金してください」
「はいにゃ~」
わしは次元倉庫から、家賃二ヶ月分を取り出し、エンマに手渡す。エンマはお金を数え、なにやら石板を操作する。
「これで手続きは完了しました」
「ありがとにゃ~」
「でも、たまには顔を出してくださいね」
エンマはわしに優しい笑顔を見せる。
今のはドキッとしたのう。べっぴんさんの笑顔は心臓に悪い。あと、リータの
「わかったにゃ。それじゃあ失礼するにゃ~」
その後、各種手続きと孤児院での打ち合わせや製作物で、一週間の時間が掛かり、無事「キャットランド」がオープンした。
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