086 キャットランド、オープンにゃ~


 どうしてこうなった……何が悪かった?


 「キャットランド」がオープンし、子供達の楽しそうな声が響く中、わしは頭を抱えていた。なぜ頭を抱えているかと言うと、さかのぼること一週間前……



「孤児院の庭に遊具を作るにゃ。どんにゃ遊具を作るか、みんにゃもアイデアを出して欲しいにゃ」


 わしは孤児院の子供達を集めて相談する。子供達は様々なアイデアを上げ、実現可能な物をメモしていく。

 その中に、遊具作りの才能を発揮する男の子がいた。名前はカーポ、歳は十二歳。来年には働き先を決めないといけないが、カーポをリーダーに任命してあとは任せた。



「次にエミリ。お母さんのレシピの中から子供が喜びそうで、安く作れる物を選ぶにゃ」


 エミリは真剣な表情で、ああでもない、こうでもないと言いながら、レシピの中から使えそうな料理を書き出していく。


「マルタは会計するかにゃ? それとも計算が出来る子供に任せるかにゃ?」

「私は孤児院の仕事もあるから、誰かに頼もうかしら。レーア、出来る?」

「わ、わたしですか!? 自信ないです……」

「私も出来るだけ手伝うから、孤児院のためにお願い」

「孤児院のためですか……自信ないけどやってみます」

「ありがとね」


 レーアは自信なさそうじゃな。まだ十一歳じゃ無理はないか。じゃが、これで最低限必要な役職は揃ったかな?



 孤児院がどんな商売をするかと言うと基本は飲食店だ。ただし、遊具で子供を集め、エミリの売店で稼ぎを得る方法を取っている。

 遊具の入場料でお金を稼ぎたいところだが、それだと貧乏な家庭の子供は遊ぶことが出来なくてかわいそうだ。そこで、売店で飲食物を販売し、利潤を得る考えに至った。この世界では水も有料だから、儲けは少ないが、赤字にはならないずだ。


 子供達が話し合う姿を微笑ましく見ていると、カーポが紙を持ってやって来た。


「シラタマさん。みんなの案をまとめて、配置を絵にしてみたけど、どうかな?」

「にゃ……なんにゃこれ!」

「なにかおかしい?」


 カーポ……絵がうますぎじゃ! 立体的な絵は某ネズミの国のマップみたいじゃ。こんな才能があるのか? 将来は一級建築士じゃな。


「いや。うまくてビックリしたにゃ」

「どこか変える所はある?」

「う~ん。基本はこれでいいけど、売店はどこにするにゃ?」

「あ! 忘れてた。ちょっと考える」

「この辺に足したらどうかにゃ?」

「それだとバランスが……」


 完璧主義者か……一から書き直しておる。


 カーポの書く絵を後ろから見ていると、今度はエミリが寄って来た。


「ねこさん。メニュー決まったよ」

「どれどれ……多いにゃ! もっと絞るにゃ~」

「え~! お母さんの料理ならどれでも美味しいから売れるよ~」

「カレーにゃんて香辛料が高くつくにゃ。マルタ、レーア。エミリに価格面のアドバイスをして決めるにゃ」

「はいはい」

「わ、わかりました」


 カレー……食べたいな。今度、家に作りに来てもらおうか? どうせなら米で食べたいんじゃが、売っているところを見た事ないんじゃよなぁ。無い物ねだりしてもしょうがないか。



「シラタマさん。出来ました」

「うん。いいにゃ。それじゃあ、庭に作るからカーポはわしに指示するにゃ」

「俺が指示?」

「カーポの頭の中のイメージが必要にゃ。一緒にいい物を作るにゃ~」

「はい!」


 わしとカーポは庭に出て、様々な遊具を作っていく。だが、完璧主義者のカーポは、何度もわしに、やり直しや変更をさせて困らされた。


「これでどうにゃ?」

「遊具はこれでいいと思うけど、何かが足り無いんだよな~」

「そうかにゃ? いい出来だと思うにゃ」

「う~ん……」

「かわいさじゃないでしょうか? 猫さんの石像を、いっぱい作ってみてはどうですか?」


 わしとカーポの製作を見学していたリータが、とんでもない事を言い出した。


「それだ!」

「それじゃないにゃ!!」


 わしはカーポの肯定をすぐさま否定する。


「こんな感じでどうですか?」


 だが、リータがわしの元の姿、猫又石像を各所に配置していく。


「うん! すっごくいい。あそこにもお願いします」

「猫さん。私の魔力じゃ固い石像を多く作れないので、強化をお願いします」

「そんにゃにいらないと思うにゃ~」

「シラタマさん! 必要だからさっさとやる!」


 わしはささやかな抵抗をしてみるが、カーポに怒られた。リータは指示通り、嬉しそうにわしの石像を作り、わしは渋々それを固めていく。


「完成だ! イメージ通り!!」

「かわいく出来ました!」

「お、おつかれにゃ……」


 うぅぅ。わしがいっぱい居る……。オープンしても、わしはもうここに来たくない。二人共やりきった顔をしておるし、今更、破壊する事もできん。徐々に減らしていけばバレないかのう?


「うわ~」

「すご~い」

「かわいい~」

「わたしもねこさんほしい」

「もっと作らないの?」

「少ないよね?」


 大人気か! これでは減らす事もできん……


 わしが子供達の様々な声を、肩を落として聞いていると、院長のババアが出て来て声を掛ける。


「なんだい、この変な猫の石像は?」


 お! ババアには不評か? ババアが嫌がれば壊せるかもしれん。これは乗っかるしかない!


「わしは反対したにゃ。それを無理やり……」

「あんたは反対だったのかい?」

「そうにゃ! ババアも変だと思うにゃ?」

「あたしは……」


 うっ。ババアが邪悪な顔になっておる。あれはババアの笑顔じゃったよな? 乗っかり方を失敗したかもしれん……


「……いいと思うよ。せっかくだし、この場所に名前をつけてやるよ」

「や、やめるにゃ~!」

「『キャットランド』。いい名前だろう?」

「にゃ~~~!!」


 こうしてわしの叫び声の中、孤児院の庭に、子供達の遊び場「キャットランド」が誕生したのであった。



 キャットランドがオープンすると、わしはしばらく見廻りで園内を歩いていたが、ゆるキャラと勘違いされた子供達に、もみくちゃにされてしまった。あまりにも騒ぎがひどくなってしまったので、孤児院内に逃げ込むハメとなった。

 なので、何か問題が起きてはいけないので、監視しやすいバルコニーから園内を見渡す事にした。


 そうして、遠い目をして園内を見ていると、誰かが声を掛けて来た。


「猫さん、猫さん……」

「……リータ。今日の晩ごはんはなんにゃ?」

「もう! 寝惚けているんですか!? まだお昼にもなってませんよ!」


 そうか、まだ朝じゃったか……。キャットランドのせいで現実逃避しておった。はぁ見るのも目に悪い。なんじゃ、あの石像は! わしか……


「猫さんってば~」

「ゆするにゃ~。どうしたんにゃ~?」

「やっと戻って来ました。入口で何か揉めてますよ」

「ほんとにゃ。ちょっと行って来るにゃ」

「私も……」

「すぐに戻って来るから待っててにゃ」

「あ……」



 わしはリータを置いて、バルコニーから屋根に飛び乗り、屋根伝いに入口に移動する。わしは入口に到着すると、大声で騒いでいる人物が何者か、すぐにわかった。


「だから~! なんで入れてくれないのよ!!」

「少し、少しだけ待ってください。いま、院長を呼びに行かせていますから……」

「そんなのいらないって言ってるでしょ。遊びに来ただけなの!」

「いえ、王女様に何かあったら、なんとお詫びしてよいかわかりません」


 騒ぎの原因はさっちゃんか……。しかし、なんでここにおるんじゃ? 絶対来たがると思って教えていなかったのに……ひとまず対応に困っているマルタの救出が先じゃな。


「マルタ、代わるにゃ」

「猫ちゃんが?」

「シラタマちゃん! こんな面白そうな物を作って、なんで私に言わないのよ!」

「にゃんでって……それより、どこで、ここの事を聞いたにゃ?」

「こないだ街の広場で宣伝してたじゃない? それをドロテが教えてくれたのよ。さあ、入れてちょうだい!」


 たしかに宣伝したけど、ドロテがあの場におったのか? ドロテがいたら気付きそうじゃから弟か? しまったな。弟がいたのを忘れてたおった。


「さっちゃんは王女様だから、庶民の子供が困るにゃ。だから今日は帰ってくれにゃ」

「なんでよ~。わたしも遊びたい~」


 子供か! 十一歳じゃから子供で合っておるな。でも、王女様の振る舞いとしては0点じゃろうな。


「あの……猫ちゃんは王女様と親しそうだけど、どういった関係なの?」


 わしとさっちゃんのやり取りが不思議なのか、マルタが耳元でつぶやく。


「ともだ……」

「フィアンセよ!」

「あらあら。猫ちゃんも隅に置けないのね」


 地獄耳……なんで聞こえるんじゃ! マルタも信じるな!


「友達にゃ。さっちゃんも変なこと言うにゃ~」

「事実じゃない!」

「いつからにゃ! はぁ……もういいにゃ。みんにゃに迷惑になるから、帰ってくれにゃ~」

「い~や~! 遊ぶの~~~」

「これはこれは、王女様。ようこそいらっしゃいました」


 わしとさっちゃんの押し問答に、ババアが割り込んで来やがった。


「コラッ猫! なんで王女様を中に入れないんだ!」

「にゃんでわしが怒られるにゃ! ババアは王女様と庶民を一緒に遊ばせるつもりにゃのか!」

「それもそうだね……もしよろしければ、後日、貸切りとさせていただきますので、今日は見学という事にしていただけませんか?」

「うぅぅ……わかったわ。それで手を打つわ」

「猫! 王女様にご案内と説明をしてあげな!」

「にゃんでババアが偉そうに指図するにゃ!」

「それじゃあ、あとは任せたよ」


 ババア……逃げやがった。言うだけ言って面倒事を押し付けていきやがったな。


「仕方にゃい。行くにゃ」

「やった~!」


 わしはリータの待つ、バルコニーにさっちゃんと愉快な仲間達を案内する。


「王女様!!」

「リータ……追い返せなかったにゃ」

「なんで追い返そうとするのよ~」


 まったく……なんで追い返されないと思っておるのじゃ。


「ちょっと早いけどお昼でも食べるかにゃ? ソフィ達も食べて行くといいにゃ」

「シラタマ様、ありがとうございます」

「なんでソフィ達には優しいのよ!」

「リータ。すまにゃいが、ランチセットをエミリに用意してもらって来てにゃ」

「……わかりました」

「無視するな~!」

「わかったにゃ~。落ち着いて席に着くにゃ。それじゃあ聞きたい事があったら、にゃんでも聞くにゃ」

「それじゃあね~。あれはなに?」

「あれは目玉の……」


 わしはさっちゃんの指差す物を、次々と説明していく。


 キャットランドにある遊具は、わしの作った遊具を参考に、カーポが子供達のアイデアを元に、改良と配置をマップに書き示した。わしは縮尺を考慮し、カーポの指示で遊具を土魔法で作っていった。

 ブランコ、シーソー、雲梯うんてい、滑り台、その他子供達のアイデアの詰まった遊具。詰め込み過ぎて、キャットランドはフィールドアスレチックと化した。


 目玉はふたつ。ひとつ目は巨大滑り台。カーポの考えた巨大滑り台は、カーブやS字カーブ、くるくると回転するカーブ等、子供達が楽しめるアクションてんこ盛りで、走行距離は広い庭を一周する、かなり長い滑り台となった。


 試作段階で孤児院の子供達に滑り心地を確かめてもらったが、カーポの設計した滑り台から、コースアウトする子供が続出した。

 カーブで曲がりきれず、空中に投げ出される子供。アップダウンがある場所では、そのまま空に投げ出される子供。回転が続く場所でも遠心力で空中に投げ出されてしまった。

 その都度、わしは慌てて風魔法でクッションを作り、受け止めた。そのせいか、孤児院の子供の半数は怖がって、巨大滑り台で遊ぼうとしなくなった。

 長距離だから出来るだけ、ツルツルになるように強化したわしのせいではないはずだ。子供達の犠牲……ゴホゴホ。協力によって、巨大滑り台は安全な物となって完成した。



「楽しそう! いますぐ滑りたい!!」

「今日は勘弁してくれにゃ~。貸し切りの時にわしも付き合うからにゃ。にゃ?」

「うぅぅ」

「あ! もうひとつの目玉が来たにゃ。美味しいから食べてくれにゃ~」


 さっちゃんが機嫌を損ね掛けたその時、タイミング良く、リータと子供達が料理を運んで来たのであった。

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