087 リータの村に向かうにゃ~


 キャットランドの説明を受けたさっちゃん達は、今度はリータと子供達が運んで来た料理に興味を奪われた。


「これはなに? 初めて見る食べ物だわ」

「ハンバーガーにゃ」

「どうやって食べるの?」

「行儀は悪いけど、このままかぶりつくにゃ」


 わしは、さっちゃん達に教えるようにかぶりつく。さっちゃん達もわしのマネをしてかぶりつく。


「んん~! 美味しい!!」

「本当に美味しいです」

「この柔らかい物は肉ですか?」

「ソースも美味しい」


 さっちゃんだけでなくソフィ、ドロテ、アイノも気に入ったみたいじゃのう。城の美味しい料理を食べ慣れた、さっちゃんが褒めてくれるなら名物になるかもしれん。


「これも美味しい!」

「それはフライドポテトにゃ。ジャガイモを油で揚げて、塩を振っただけにゃ」

「それだけですか……」

「ホクホクして美味しいです」

「私でも作れそう」


 ハンバーガーとポテトは切っても切り離せんからのう。甘い果汁ジュースを付けて、どこぞのセットメニュー丸パクリじゃわい。わしがパクったのではなく、エミリのお母さんのレシピじゃ。


「もうなくなっちゃった……」

「おかわりは無いのですか?」

「私もいいですか?」

「みんなが頼むなら私も……」

「いいけど、食べ過ぎたら太るにゃ」


 ピシッ


 ん? なにかガラスの割れた音が聞こえたような……


「太るの?」

「太るのですか?」

「本当ですか?」

「なんて物を食べさせるのよ!」


 キレイに平らげといて、いまさら何を焦っておるんじゃ? 年頃の女の子には禁句じゃったか。


「食べ過ぎたらにゃ。にゃんでもほどほどが一番にゃ」

「こんなに美味しい物を出されたら、食べたくなるよ~」


 わしに言われても……褒めるならエミリに言って欲しいもんじゃ。いきなり王女様に褒められたら、エミリの心臓に悪いかもしれんな。


「う~ん。じゃあ、これあげるから我慢するにゃ」


 わしは次元倉庫から、ある物を取り出し、この場にいるさっちゃん達とリータに手渡す。


「デザートに、これを食べるといいにゃ。口がすっきりするにゃ」


 わしの渡した物を、さっちゃん達はスプーンですくって食べる。


「冷たい! けど、美味しい!!」

「初めての食感です」

「これはオレンジですか?」

「誰が考えたの!?」


 試作段階じゃが、オレンジシャーベットも好評みたいじゃのう。これもエミリのお母さんのレシピにあった。もう暑くないけど、わしが食べたかったから作ってもらった物じゃ。

 残念ながら砂糖が高くつくし、氷代金がいくらになるかわからないから、子供がターゲットの売店では出せないじゃろうな。わしが魔法で氷を作れば少しは安く作れるじゃろうが、わし頼りで商売をやって欲しくない。


「レシピはトップシークレットにゃ」

「これは売ってるの?」

「砂糖が高いから売れないにゃ」

「「「「「そんな~」」」」」

「みんにゃ、そんなに悲しそうにゃ顔しないでくれにゃ。たまに持って行くにゃ~」


 なんでリータまでまざっておるんじゃ? リータはわしの味方じゃないのか? 飼い犬に手を噛まれた気分で悲しくなる。猫が犬を飼うのもおかしな話じゃが……


 わしが気落ちした表情で考え事をしていると、さっちゃんが尋ねて来る。


「シラタマちゃんまで、なんで悲しそうな顔になってるの?」

「それは……」


 リータに裏切られたと言うより、いい言葉が浮かんだ!


「みんにゃの期待に応えられないからにゃ」

「ゴメン! シラタマちゃんを困らせるつもりはなかったの。もう我が儘言わないから、そんな顔しないで!」


 相変わらずチョロイのう。でも、嘘をつくのは気が引ける……すぐに思った事を口にするのはやめておこう。


 こうしてさっちゃんと愉快な仲間達の襲撃は、のらりくらりとかわし、料理を堪能させて追い返す事に成功した。貸し切りの日には一緒に遊ぶと約束したから、問題は無いだろう。



 その夜……


 いつものように縁側で、わしは星空を見上げ、酒をチビチビとたしなんでいたら、リータが隣に腰掛ける。


「私もご一緒していいですか?」

「いいにゃ。でも、あんまり美味しくないにゃ」

「猫さんと一緒ならなんでも美味しいです」


 またそれか……最近リータは、必要以上にわしと一緒に居たがる。こんなにべったりしてくるのはなんでじゃろう? 聞けばいいだけの話か。


「リータ……最近、執拗にわしと一緒に居たがるのはどうしてにゃ?」

「それは……」

「にゃにか悩み事があるなら言ってくれにゃ。わし達はパーティ仲間にゃ。それとも、わしにも言えない事かにゃ?」

「いえ、そんな事では……ただ、つまらない話なので……」

「つまらにゃくてもいいにゃ。聞かせてくれにゃ」

「……わかりました」


 リータはわしにべったりな理由を、ポツリポツリと話し始める。


 事の始まりは、わしがリータをアイのパーティに入ってはどうかと言ったところだ。わしに捨てられると、かなりのショックを受けたみたいだ。

 その時は、わしが捨てるなんてしないと言ったから落ち着いていたけど、わしがリータの目を盗んで、こっそりキョリスの所へ行った時に悲しさが蘇ったらしい。


 なのでリータは、わしの行きそうな場所をしらみつぶしに探したそうだ。だが、なかなか見付からず、出会った人に、その都度「猫に捨てられたのか?」と言われ、何度も泣いたらしい。

 泣かせた人はリータに謝り、とっておきの男の口説き方を教えてくれたとのこと。

 だから現在、わしと離れ離れにならないように、実演中と言うわけだとさ。


 そして、わしは最後まで聞いて思う。


 これってわしのせい?


 前半はそうじゃろうけど、会う人、会う人に捨てられたなんて、なんで言われるんじゃ。そんなに悲痛な顔で探しておったのか? それとも、段ボールの箱に入っていたとか? 箱はわしのほうが似合いそうじゃな。

 それに、なんでみんな男の口説き方を教えるんじゃ? リータの実演から察するに、全員、押せ押せ! この世界の女性は引くことを知らんのか? 女王制じゃし、男は尻に敷かれているのかもしれん……

 聞いたところ、リータの心配事は、わしと離れるのが心配になっているだけじゃし、安心させてやれば解決するって事じゃな。


「そんにゃに心配しなくても大丈夫にゃ。ずっと一緒にいるにゃ」

「本当ですか? 言葉だけでは不安だから、形が欲しいです!」

「う~ん。にゃにかプレゼントする物でも考えておくにゃ」

「物じゃないです。これです……ん~」


 なんじゃ? 目をつぶって口を尖らしておる……接吻か? このタコみたいな顔に接吻しろと? その前に猫と接吻するのか……


「それは誰の入れ知恵にゃ?」

「ん~……スティナさんです。疲れてきました。早く……ん~」

「リータ……やめるにゃ。それには効果が無いにゃ」

「でも、スティナさんが……」

「考えて見るにゃ。スティナに男にゃんていないにゃ。これはことごとく失敗しているって事にゃ。あんにゃヤツ、一生、男が出来ないにゃ!」

「シラタマちゃん、お風呂借りに来たわよ~」


 こ、この声は……


 わしはギギギと首を回し、声の主に視線を向ける。


「ス、スティナさん!?」

「どうしたの?」


 よかった。聞かれていなかったみたいじゃ。


「どうぞどうぞにゃ。今から新しいお湯を入れさせてもらうにゃ~」

「今日はいやにサービスがいいのね。それじゃあ、お風呂でお酌でもしてもらおうかしら」

「にゃ? それはちょっと……」

「私と一緒に入るのは嫌だって言うの? 一生、男が出来ないかわいそうな私を慰めなさい!!」

「聞いてたにゃ~~~!」


 その後、スティナにわしの体をスポンジ代わりにして洗われたり、お酌をし、朝までやけ酒に付き合わされるのであった。





 うぅ、頭が痛い。今日は仕事に行く予定じゃったのに、完徹してしまった。休もうかな? いやいや、ただでさえ週三日しか働いておらんのじゃから、行かねば!


 わしが気合を入れる為に、頬をパンパンと……モフモフと叩いていたら、リータが居間に入って来た。


「おはようございます」

「おはようにゃ。リータはよく眠れたかにゃ?」

「はい。猫さんは大丈夫ですか?」


 スティナのやけ酒に付き合ったせいでボロボロじゃ……と、言いたいが、ここはグッと我慢じゃ。


「大丈夫にゃ」

「そうですか。ひとつ聞いていいですか?」

「なんにゃ?」

「スティナさんは、なんで裸なんですか?」

「知らないにゃ。本人に聞いて……いや、寝たら脱ぐ習性があるにゃ」


 危なかった。スティナに聞かれたら、有ること無いこと言われそうじゃ。わし、グッジョブ。


「たしかに、こないだも脱いでましたね。猫さんはそんな事はしません」


 今日のリータはそんなに心配しない? 昨日はスティナのせいで、うやむやになったけど、吹っ切れてくれたらよいが……


「それよりスティナをどうしようかにゃ?」

「起きるでしょうか?」

「やってみるにゃ。スティナ~。起きるにゃ~」

「ん、んん……男がなんだ~!」

「そんにゃこと言ってないにゃ~。このままだと仕事に遅刻するにゃ。ギルドマスターが遅刻していいのかにゃ?」

「仕事!?」

「起きたかにゃ?」

「今日は休みだから寝かせて~」

「ダメにゃこりゃ。仕方ないにゃ。スティナは置いて、わし達は仕事に行くにゃ」

「そうですね」


 わしはスティナを抱き抱え、客室に放り込んで寝かせる。そして書き置きと家の鍵を置いて、ハンターギルドに向かった。

 ギルドの扉を潜ると、出遅れたみたいで、ハンター達はまばらに残っているだけだった。


「ティーサ。おはようにゃ」

「おはようございます」

「ギルマスのスティナって、今日は休みかにゃ?」

「はい。休みになってます。ギルマスに何かご用ですか?」

「いや、本当に休みか聞いただけにゃ。いまはわしの家で寝ているにゃ」

「ギルマスが猫ちゃんの家で? ギルマスにもやっと春が……」

「そんにゃんじゃないにゃ! 朝までやけ酒に付き合わされたにゃ~」

「あ~。それは災難でしたね」


 一発で疑いが晴れた……。スティナの行動って、ティーサから見たら当たり前の行動なのか? まぁスティナの休みは本当の事じゃったし、早く仕事をして帰ろう。



 わしとリータは依頼ボードの前に立ち、仕事を探す。


「う~ん。いいのが無いにゃ~」

「あの……これを受けたいのですが……どうでしょうか?」

「にゃ?」


 リータが依頼を決めようとするなんて珍しい。どれどれ……緊急依頼? イナゴの大量発生? 馬車で五日? 依頼料も安い……

 却下したいところじゃが、リータが珍しく自分の意見を言っているし、なんでこれを選ぶのかを聞いてからじゃな。


「にゃんで、こんにゃ悪条件の依頼を受けるにゃ?」

「その……私の……」

「なんにゃ?」

「この依頼は私の家族がいる村なんです。猫さんは避ける依頼だとわかっています。でも、この依頼を受けさせてください!」

「それを早く言うにゃ! 行くにゃ~!」

「はい!」


 わしは依頼用紙をベリッと剥がし、ティーサのいるカウンターに持って行く。


「緊急依頼ですか……」

「わしが受けるのに、にゃにか問題があるのかにゃ?」

「依頼を受けるのは問題無いのですが……」

「ですにゃ?」

「この依頼は昨日から貼り出されていまして、言ってはなんですが、馬車で五日も掛かるので、行っても、その……」

「ハッキリ言うにゃ!」

「行っても村は壊滅的被害を受けているかと……」

「嘘……そんな……」


 リータは青い顔をして座り込む。そんなリータの代わりに、わしがティーサを問い詰める。


「にゃんで誰も助けないにゃ!」

「それは……依頼額もそうなんですが、イナゴの買い取りが安いからです」

「そんな事を聞いて無いにゃ! 国は! 領主はにゃにをしているにゃ!!」

「動物の狩りは基本ハンターの仕事です。ハンターが受けなければ、領主や国が動きます。予定では、明日に報告し、それから騎士が派遣されるはずです」


 それじゃあ、遅い! 遅過ぎる!!


「猫さん……」

「わかっているにゃ。この依頼、わしが受けるにゃ!」

「失敗扱いになりますよ?」

「いいにゃ! 早く手続きをするにゃ!!」

「は、はい!」


 わしの剣幕に押されて、ティーサは受付作業を始める。なので、わしはリータの腕を取って優しく語り掛ける。


「リータ、大丈夫にゃ。わしが絶対にゃんとかしてやるにゃ」

「猫さん……わ、私も頑張ります!」

「猫ちゃん、終わりました」

「ティーサ。怒ってすまにゃかったにゃ。行って来るにゃ~」



 わしとリータはハンター証を受け取ると、走って王都の門を出る。門を出ると、わしは土魔法である物を作り出す。


「猫さん! そんな物を作っていないで、早く車を出してください!」

「まぁ待つにゃ。これが出来たら、車より早く村に着けるにゃ」

「ほ、本当ですか!?」

「ただし、ぶっつけ本番にゃから、怖い思いをするかも知れないにゃ。覚悟はしておくにゃ」

「大丈夫です! 早く着くならなんでも我慢できます」

「完成したにゃ。乗り込むにゃ~!」

「はい!」


 わしとリータは完成した乗り物に乗り込む。そして、わしは風魔法を使う。


「【突風】にゃ~~~!!」

「キャーーー!!」


 わしの作った乗り物とは……そう。飛行機だ。その飛行機を風魔法で強い上昇気流を起こし、浮上させる。


「さらに全速前進。【突風】にゃ~~~!!」

「キャーーー-ーー!!!!」



 リータの悲鳴と共に浮き上がった飛行機は、リータの悲鳴と共に、王都を凄い速さで離れ、リータの村に出発したのであった。

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