084 孤児院の子供をお風呂に入れるにゃ~


 孤児院にお風呂場を増築したわしは、院長のババアと副院長のマルタに使用法を伝える。

 魔法が無いと使えないのでは意味が無いので、水は井戸から汲んでもらい、薪で沸かせるように作ってある。シャワーは、設備を作るのが難しいので湯船から汲んで使用してもらう。


「使い方はわかったかにゃ?」

「わかったけど、もう湯があるじゃないか?」

「わしの魔法で入れたにゃ」

「この猫は便利過ぎる……」

「猫ちゃん、うちで働いてくれないかな?」

「わしはハンターにゃ。断るにゃ~」

「残念……」

「それじゃあ、男の子から入って来させるにゃ」

「ああ。連れて来るよ」


 わしはババアが連れて来た、騒ぐ男の子達に片っ端からお湯をぶつけ、洗っていく。途中から面倒くさくなったので、湯船に入れて人間洗濯機で洗ってやった。

 そうして何度もお湯を魔法で入れ替え、やっと最後のグループがやって来た。


「エミリで最後かにゃ?」

「うん。みんな楽しそうにしてたけど、なにしてたの?」

「見てたらわかるにゃ。それより、リータとマルタ、それにババア! にゃんでいるにゃ~?」

「猫さんの見張りです」

「猫ちゃんに洗ってもらえるんでしょ?」

「サービスだ」


 ババアはいらぬ事を言って、タオルをはだける。


「おえ~~~!! 殺す気にゃ!? タオルで隠せにゃ~!」

「失礼な猫だねぇ」


 クソババアめ! どうせ見るならマルタのような、大人の女性の体の方が一億倍いいわ。あんまり見てると、リータが睨んでくるから見れないけど……


「それじゃあ、いっくにゃ~」


 わしはこの場にいる全員に、お湯の雨を降らす。


「「「「「わ~。気持ちいい~」」」」」


 そして、石鹸のまざった湯船に入れて掻き回す。


「「「「「すご~い! たのし~い」」」」」


 体重の軽い子供達は湯船に浮き、流れに乗って一緒に回転する。


「目を閉じているにゃ~」

「「「「「は~い」」」」」


 今度は水魔法を操作して、お湯で頭を包み、渦を加えて洗う。


「「「「「キャハハハ。こちょば~い」」」」」

「もうちょっとにゃ~」


 最後に綺麗なお湯を作り出し、お湯の雨を降らして終了となる。


「終わったにゃ。上がっていいにゃ」


 わしが終了を宣言すると、子供達から残念そうな声があがる。


「もう終わり?」

「もっとして~」

「君達だけ長くしたら、他の子が怒るからダメにゃ」

「「「「「え~~~!」」」」」

「コラ! 猫を困らせるんじゃないよ」

「「「「「はい。ねこさん、ごめんなさい」」」」」


 子供達はババアに一喝されると、すぐに謝る。その姿を見たババアは、おそらく優しい顔に変わり、わしに目を向ける。


「さあ、上がろう。猫も晩メシを食って行きな」

「いや、わし達は……」

「猫ちゃん。子供達のために、もう少し居てあげて」

「う~ん。わかったにゃ。ご馳走になるにゃ」


 今日は家で食べようと考えていたが、マルタにも勧められたので、何度も断るのは失礼かと思い、了承する。

 お風呂から上がり、まだ夕食まで時間があるので、氷室のチェックをしてから子供達の相手をする。


 氷室は氷もそんなに溶けておらんし、大丈夫そうじゃな。しかし、人数がいるから一昨日渡した食材はけっこう減っておる。晩メシもいただくし、ちょっと足しとこう。




「ねこ~」

「ねこさ~ん」

「まだ~?」

「いま行くにゃ~」


 氷室のチェックの終わったわしは、急かす子供達に手を引かれ、庭に連れて行かれる。そこで、女の子に撫で回されたり、男の子を空に打ち上げたりして遊んであげる。


 子供の相手は疲れるのう。仕事の時よりしんどいわい。今日だけで、どれだけ魔力を消費したか……いつも戦闘より、他の事で魔法を使っている気がするな。間違った使い方なんじゃろか?

 そう言えば、こないだ庭に作った滑り台やブランコ。土に戻すの忘れておったな。子供達も喜んで遊んでおるし、このままでいいか……

 あれ? 孤児院の子じゃない子供がいる。近所の子供じゃろうか? あとでババアに聞いておくか。


「猫ちゃ~ん。みんな~。ごはんできたよ~」

「はいにゃ~。みんにゃも戻るにゃ~」

「「「「「は~い」」」」」


 マルタに呼ばれたわしは、子供達に囲まれて食堂に入る。


「「「「「いただきにゃす」」」」」


 揃ったのはいいけど、なんだかなぁ。馬鹿にされてるようにしか聞こえないのは、わしの気のせいか? ババアも気持ち悪い顔でニヤニヤしてるから、馬鹿にしているじゃろう。


「ババア。にゃに、ニヤニヤしてるにゃ?」

「ああ。子供達の笑顔が明るくなって嬉しくて、ついな」


 わしを馬鹿にした笑いじゃなかった……でも、わしは謝らん! だって、ババアの笑い顔は怖いもん! 腹黒い奴の笑い方じゃ。


「そう言えば、近所の子供が庭にいたけど、大丈夫かにゃ?」

「それぐらいいいよ。むしろ、仲良くなっていいじゃないか」

「そうだにゃ。てっきりババアの事だから、金でも取ってるのかと思ったにゃ」

「なんだと……」


 うお! なに、その顔……笑顔が邪悪過ぎる。これは怒っているのか、笑っているのか、どっちじゃ? 怖すぎるから、とりあえず謝っておくか……


「失礼にゃこと言って悪かっ……」

「それだ!!」

「子供から金を取るにゃ~!!」


 さっきの邪悪な笑顔は、お金の事を考えていたのか。はぁ……


「いいアイデアだと思うんだが……」


 残念そうに呟くババアに、マルタが意見する。


「院長。孤児院で商売をするなら、許可がいるんじゃないですか?」

「そうだな。孤児院が子供から金をむしり取っていると言われたら、女王陛下に申し訳が立たん」


 ババアの邪悪な笑顔じゃ、絶対に悪評が立つな。だが、援助金だけではまかなえない経済状況もあるじゃろうし、孤児院が独自の収入を持つのは、わしも賛成じゃ。

 商売の許可ぐらいならわしが頼めば、女王に貸しもあるし、なんとかなるじゃろう。あとは稼ぎ方じゃな。入場料で儲けられないなら……閃いた!


「こういうのはどうにゃ?」


 わしが思い付いたアイデアを説明すると、ババア、マルタ、リータは目を輝かせる。


「それだ!」

「猫ちゃん天才!」

「猫さんはいつもすごいです」


 みんなも賛成してくれておるし、うまく行くといいのう。


 この後、子供達に別れを告げて帰ろうとしたら、悲しそうな顔をされたので、また来ると言って家路に就いた。




「ちょっと出掛けて来るにゃ」


 孤児院から戻った次の日、わしはリータに出掛ける旨を伝えて家を出る。


 ガシッ!


「どこに行くのですか?」


 だが、リータにがっしり捕まってしまった。


「私も行きます!」


 最近、リータの束縛がひどくなってきている気がする。本当にどうしたんじゃろう?


「ついて来てもいいけど、城へ女王に会いに行くだけにゃ」

「城? ……女王様? ……王女様じゃなくて、女王様にですか?」

「そうにゃ。だから留守番しているにゃ」

「女王様って、そんなに簡単に会えるものなのですか?」

「どうにゃろ? 会えなかったら、さっちゃんにでも頼むにゃ」

「王女様に会うのなら、私も行きます!」

「う~ん。わかったにゃ~」


 わしはリータに手を引かれ、城へと向かう。途中、子供達に囲まれそうになったので、リータを抱き抱え、城まで走る事になってしまった。

 城に着くと、門にいる男の兵士に挨拶を交わす。


「おはようにゃ~」

「これはシラタマ殿。そちらの女性は彼女さんですか?」

「彼女だなんて……」


 猫又に人間の彼女なんて出来るわけがなかろう。リータは照れまくっておるが、否定はせんのか?


「違うにゃ。パーティ仲間にゃ~」

「パーティ仲間をお姫様抱っこですか……」

「子供達に追われて逃げて来たんにゃ~」

「王女様がそんな姿を見たら悲しみますよ。気を付けてください」

「たしかに怒りそうだにゃ」


 わしはお姫様抱っこをしているリータを降ろす。すると、リータはがっかりした顔をするが、わしは無視する。


「今日も王女様に会いに来られたのですか?」

「今日は女王に会いに来たにゃ。会う事は出来るかにゃ?」

「私の一存ではちょっと……」

「そうにゃんだ……じゃあ、さっちゃんに頼んでみるにゃ。通っていいかにゃ?」

「シラタマ殿のパーティ仲間なら問題無いのですが、いちおう、そちらの女性の身分証だけ、確認させてください」



 リータはハンター証であるペンダントを兵士に渡し、確認が終わると門を潜り、さっちゃんの部屋に向かう。


「お城……二度目ですけど、緊張します~」

「緊張するにゃら帰るかにゃ?」

「いえ……大丈夫です」


 あきらかに無理しておるな。無理するぐらいなら、ついて来なくてもいいのに。


 緊張するリータはわしにくっつき、歩きにくい中、さっちゃんの部屋のドアをノックし、許可を得て中に入る。すると、わしの姿を見たさっちゃんが走り寄って来た。


「おはようにゃ~」

「シラタマちゃん! おはよ~」

「おはようございます」

「リータまで来たの……」


 なんか二人の間に火花が散っているように見えるけど、なんでじゃろう?


「「シラタマちゃん、おはよう」」

「二人とも、おはようにゃ。勉強中、お邪魔して申し訳ないにゃ」


 わしはさっちゃんの勉強を見ていた双子王女に、挨拶と詫びを入れる。


「お姉様。少し休憩をしてもよろしいでしょうか?」

「仕方ないわね」

「わたくし達もお茶にしましょう」


 双子王女はメイドを呼び、お茶の準備を指示する。そうして、皆でテーブルの席に着くと、さっちゃんが嬉しそうにわしを見る。


「朝から会いに来てくれるなんて珍しいね。そんなにわたしに会いたかった?」

「今日は女王に会いに来たにゃ。さっちゃんの力で会わせてくれないかにゃ?」

「ブー! そこはわたしに会いに来たって言うところでしょう? でも、シラタマちゃんに頼られるのも嬉しいから許す! お母様は忙しいから会えるかどうかわからないけど……ちょっと待ってて」


 さっちゃんはメイドに、わしが女王に会いたいと書いた紙を渡し、席に戻る。そこからは、しばしご歓談。さっちゃんと双子王女のお喋りに付き合う。


「それでね~。近々お父様が帰って来るんだって!」

「それはよかったにゃ」

「シラタマちゃんは、いつもモフモフしてて気持ちいいわね」

「毎日お風呂に入って、ブラッシングも欠かさないにゃ」

「わたくし達、姉妹の誰が一番好み?」

「みんにゃ綺麗だから選べないにゃ~」


 三人で違う話するな! 応えるのが大変じゃわい。リータは三人の王女の揃い踏みで固まっておるし……だからついて来なくていいって言ったのに。



 わしが三人の王女の会話を、なんとか応えていると、ノックの音が響き、メイドがさっちゃんに手紙を渡す。


「女王はなんと言ってるにゃ?」

「今から会うからすぐに来いだって。忙しいはずなのに……」

「じゃあ、行って来るにゃ。リータは……そのままそっとしておいてくれにゃ」


 わしは固まっているリータを置いて、メイドの案内で女王に会いに行く。


「なんで私に全然会いに来てくれないのよ! すぐに会いに来てくれると思っていたのに~」


 部屋に入ると、いきなり抱き上げられ、怒られた。


「にゃんでって言われても、女王は忙しいにゃ?」

「忙しいけど……夜なら毎日空いてるわよ」

「女王……旦那さんが聞いたら泣くにゃ~」

「そんなもの関係ないわ!」


 関係ないって……女王はわしをなんだと思っておるんじゃ? ペットならたしかに関係ないかもしれんか……そうじゃ! あの事の文句を言わんといけなかった。


「会いに来なかったのは、嫌がらせのお返しにゃ」

「嫌がらせ?」

「街にわしの事を知らせる立て札を立てるって言ってたにゃ!」

「た、立てたわよ……」


 わしが怒って文句を言うと、女王は目を逸らしながら応える。なので、次の追及でトドメを刺す。


「にゃんで横書きじゃなく、縦書きなんにゃ!」

「嘘……気付いたの? ハンターギルドのマスターしか気付かなかったのに……」

「スティナにはわしが教えたんにゃ! おかげで宿屋に全然泊まれなかったにゃ!」

「だからすぐに帰って来ると思っていたのに……あ!」


 そんな事じゃろうと思っておった。やっぱり会いに来なくて正解じゃったな。


「ごめ~ん! 謝るからもっと私に会いに来て~」


 うお! 予想外に謝られた! 女王を謝らせる平民ってどうなんじゃろう? 平民ではなく妖怪じゃけど……さすがに国のトップに謝らせるのは気が引けるのう。


「わかったにゃ。もういいにゃ。わしも忙しいから頻繁には来れないけど、会いに来るにゃ。それと、これあげるにゃ」


 わしはフレヤに無理を言って売って貰った、猫又ぬいぐるみを次元倉庫から取り出し、女王にプレゼントする。


「シラタマが増えた! 分身??」

「ぬいぐるみにゃ!」


 ツッコンで見たものの、わしも似たようなモノだと思ってしまい、自分で自分のHPを削る事となってしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る