350 プチ籠城戦にゃ~


 ふぅ……なかなかの強敵じゃったな。リータ達はどうかな?


 わしは大白フクロウを斬り捨て、刀を鞘に収めながら皆の戦闘に目を向ける。


 うん。皆、わし同様、白フクロウが飛んでなければ楽勝っぽいな。飛んでいればてこずったが、地に落ちた鳥など、強さは同等の獣以下。戦いにくくしておるから、半減もいいところじゃ。

 すぐに終わるじゃろう。


 わしが皆の戦闘を安心して見ていると、まずはコリスの決着がついた。


 二匹の強さは同等なのだが、地上の戦いに慣れていない白フクロウBは、風魔法で応戦するのみ。しかし、コリスの素早い動きについていけず、あっと言う間に回り込まれ、ジャンプしたコリスのリス百烈拳で地面に押し潰される。

 そしてトドメは首への噛み付き。身動きの取れないまま、徐々に目から光を失い、命は尽きた。


 リータ達は、格上相手だが、白フクロウAが【風の刃】を放ってもリータの盾で防がれ、その隙に回り込んだメイバイが光の剣で傷を負わす。

 その痛みで白フクロウAがメイバイに標的を移せば、リータが鉄魔法で操作した鎖を脚に巻き付けて、動きを阻害。それだけでなく、力任せに引っ張った事によって、白フクロウAは前のめりに倒れた。

 そこをメイバイが飛び乗り、回転しながら首元を斬り裂き、絶命させた。



「みんにゃ~。わし達の完全勝利にゃ~!」

「「「にゃ~~~!」」」


 皆の戦闘が終わるとわしは勝利の雄叫びをあげ、皆も応える。それから撤収の準備に取り掛かる。

 ここで眠りたいところだが、血を流したので獣が寄って来る可能性があるからだ。朝起きて、頭上に大型の獣が寝ていたら身動きが取れなくなってしまうので致し方ない。


 白フクロウとバスを次元倉庫に仕舞うとわし達は走り、安全なところまで移動すれば、もう一度お風呂に入る。

 シャワーだけ浴びて汚れを落とし、さっさと地下に潜って夜食。コリスが寝惚けてわしをモグモグするハプニングはあったが、無事、一日を終えた。



 翌朝は、皆で寝坊。昨夜は眠るのが遅かった事もあるが、一週間の疲れが出たようだ。とりあえずブランチをしてから移動を開始する。

 今日は逃げ回るのも戦闘も面倒なので、獣や虫が囲んで来たら、わしが威嚇して追い払う。そうして空と地上を移動して、昼過ぎにおやつ休憩。コリスはもっと食べたそうだったから、サンドイッチを支給した。


「さすがに疲れますね~」

「毎日こんなに戦ったのなんて、初めてニャー」

「シラタマさんはハンターなのに、週三日しか仕事をしませんでしたもんね」

「王様になっても、休んでばっかりニャー」


 うっ……なんかわしがディスられてる。森の我が家に居た時なんて、一人で休まず働いていたんじゃけどな~。服を作ったり、家具を作ったり……うん。また違う記憶じゃな。

 しかし、休んでいた理由は、ハンターは十分過ぎる稼ぎがあって、王様はやりたくないだけなんじゃがな~。言い訳しても怒られそうじゃし、違う話に持って行こうか。


「明日はどこで休もうかにゃ?」

「「やっぱり……」」


 話が逸れていなかったので、リータとメイバイに睨まれてしまった。


「ほ、ほら、決めてた休みの日にゃ~。二人も疲れているし、ゆっくりしようにゃ~」

「あ……もうそんなに日にちが過ぎていたのですか」

「再出発して六日ニャ? どうりで疲れるわけニャー」

「にゃ~? 一日は静養しようにゃ。いや、今日は早めに切り上げて、ゆっくりしにゃい?」

「「う~ん……」」


 わしのナイスアイディアに、二人は即答してくれない。自分達も疲れているが、わしを休ませていいものかと悩んでいるみたいだ。

 そうして二人の返事を待っていると、わしの探知魔法に賑やかな反応があり、近付いて来てしまった。


「むう……にゃんか来たにゃ。せっかく帰ろうとしてたのににゃ~」

「そうですね……この戦闘をしてから帰りましょうか?」

「今日は一度も戦ってないし、ちょうどよかったニャー!」

「戦わずに帰ると言う選択肢はにゃいですかにゃ?」

「ありません」

「ないニャー」


 こうしてわしの意見はすかさず却下されて、いそいそと戦闘の準備に取り掛かるのであった。



 今回の敵は大物が三匹、小物が五十匹以上。小物と言っても、2メートルから5メートルはあるから、猫の国周辺の森とは段違いの危険度。小物だけで、ハンターの指定依頼Aランクを超えているだろう。

 普段なら四方を仲間で固めて戦うのだが、今日は発見も早かった事もあり、わし達を取り囲むように魔法で土の壁を設置し、砦を建ててみた。

 皆の疲労もあるので、プチ籠城戦をしてやろうという作戦だ。


 準備が整い、皆でぺちゃくちゃ喋っていると、黒い獣が木の間からガサガサと現れて壁を取り囲む。その少しあとには、白くて巨大な獣が三匹現れた。


「あれはなんでしょう?」

「熊かにゃ?」

「アナグマじゃないかニャ?」

「じゃあ、メイバイのアナグマって名称に統一するにゃ。ひとまずわしだけ出るから、みんにゃは魔法で数を減らしてくれにゃ」

「「はい(ニャ)!」」

「うん!」

「それじゃあ、行っくにゃ~!」

「「「にゃ~~~!」」」


 わしは壁から飛び降り、二本の白い刀を握って黒アナグマの群れを縦断する。

 狙うは白アナグマ。ボスは尻尾を五本も保有し、体長20メートル近くあるので、引き付けておかないと籠城している意味を成さない。お供の二匹もキョリスクラス。こいつらに暴れられると、土の壁なんてあっと言う間に潰されるだろう。


 わしは猫一直線で進み、三匹の白アナグマと睨み合うのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 一方その頃リータ達はと言うと……


「はい、はい、はい、はい」


 リータは硬い土の玉を魔法で作り続けていた。


「ほっ、ほっ、ほっ、ほっ」


 コリスはその土の玉を、前脚と尻尾を使って器用に投げ続けていた。


 プチ砦は円形に壁があり、その中央は高く土が盛られ、コリス砲が回転しながら発射されている。シラタマの作った石の玉も多くあるのだが、コリス砲は発射口がよっつもあるからすぐに尽きそうなので、リータの補充は必須。

 魔法で攻撃しろとは言われたが、何も魔力で飛ばす必要はない。こっちのほうが省エネなので、間違いではないはずだ。


 その回転コリス砲の弾丸は、まさに弾丸。黒アナグマにぶつかると、骨も砕け、石の玉も砕け散る。避けられる事も多いが、着実に数は減っているので問題ない。


「ニャニャニャニャニャー!」


 壁に張り付く黒アナグマがいれば、メイバイが対応。コリスの回転に合わせて白魔鉱の槍を持ったメイバイが弾き飛ばす。

 メイバイは槍を使えないが、切れ味の良い白魔鉱の刃先を下にして走り回れば、勝手に黒アナグマに傷が付いて壁から落ちてくれる。


「土の玉はここまでです。無くなったら、コリスちゃんの風魔法でお願いしますね」

「わかった~!」


 リータは魔力が半分ほど減ると、弾丸補給はやめてメイバイと共に、壁に張り付く黒アナグマに対応。金棒を持って弾き飛ばす。

 金棒は、自分にも何か扱える武器は無いかと、リータがシラタマに作らせた一品。三倍圧縮の黒魔鉱を芯にして、白魔鉱でコーティング。トゲトゲまで白魔鉱なので、かなりの攻撃力になっている。

 材料費はケチッたみたいだが、ぶっといから折れる事はない。ただ、リータが不器用で上手く扱えないのが問題なのだが、今回は来る方向も速度も限られているので、何も問題はない。


 リータが壁の担当をする事で、メイバイも風魔法を使って遠距離攻撃に参加。コリスが風魔法に変更した事で、手数が減ったからの、臨機応変の対応だ。



 そうして黒アナグマは傷を負い、戦線離脱する者、そのまま息絶える者と分かれて数が減って行く。


「そろそろ私達も出ましょう!」

「わかったニャー!」

「うん!」


 黒アナグマの数が半分を切り、その半分もほとんどが手傷を負って動きが鈍る中、リータの合図で掃討戦に移行する。


「行きますよ……いま!」

「「「吸収にゃ~!」」」


 リータは壁にへばりつく黒アナグマを確認して飛び降りると、三人同時に吸収魔法を使う。すると、シラタマの魔力で作られた壁は一瞬で消え去り、宙に浮く黒アナグマ達。


 そこを三人は、一気に叩く。


 リータは金棒を投げ捨て、浮いている黒アナグマを数匹殴り飛ばす。

 メイバイは素早く光の剣を走らせ、数匹を斬り裂く。

 コリスも鋭い爪で、数匹引っ掻いて切り裂いた。


「さあ、シラタマさんの応援に行きますよ~!」

「「にゃ~~~!!」」


 こうして、ボトボトと黒アナグマ達が地面に落ちる音が鳴り響き、ほとんどが動かなくなるのであった。



  *   *   *   *   *   *   *   *   *



 リータ達が壁を消し去る少し前、わしは白アナグマ三匹と死闘を繰り広げていた。

 大白アナグマはわしより弱いのだが、キョリスクラスの白アナグマ二匹も残っていたので、苦戦をいられている。


 ボスである大白アナグマの前脚が振り下ろされれば、地がぜ、土や石が飛び散る。わしはもうそこには居ないのだが、横に回り込む途中で、白アナグマ二匹が両側から迫る。

 その白アナグマには刀を走らせて傷を負わせるが、その間に向きを変えた大白アナグマから前脚が落ちて来る。白アナグマ二匹は合図があったのか、同時に跳び退き、残されたわしは刀をバッテンに構えて受ける事となった。

 凄まじい重さの攻撃に耐えるには、地面が柔らか過ぎる。なので土魔法を使って固めるが、そのせいで白アナグマ二匹が戻って来てしまった。このままでは、前脚を上げた瞬間に狙われる。


 わしはもう一本の剣……【光一閃】をおへそから長く伸ばし、一回転させて防御兼カウンター。残念ながら、二匹の白アナグマには、かする程度で避けられてしまった。

 なので、縦回転に変えて大白アナグマの前脚を斬り付け、痛みで力を緩めた瞬間に脱出。一気に後方に回り込んで突っ込む……が、五本の尻尾で弾き返されてしまった。


 くっそ~……一対一なら楽に勝てそうなんじゃが、キョリスクラスが二匹いるからそうもいかん。

 下手な攻撃は痛手を受けそうじゃし……リータ達が来る前に一匹ぐらい減らしたいんじゃが……

 致し方ない。奥の手を使うか。



 わしが一息ついて突っ立っていると、三匹の白アナグマは同時に襲い掛かる。


 その同時攻撃をまともに受けて、わしは切り裂かれるのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る