095 秘密を共有するにゃ~


「猫さんは転生って信じますか?」


 リータの突然の発言に、わしはリータの顔を見つめたまま固まる。リータは見つめるわしと目が合うと、照れているような仕草をするが、わしは気付けない。


 転生? そんな言葉を、何故、知っている。リータはわしが転生者だと疑っておるのか? 猫らしくは無いけど……


「そんなに見つめないでください」


 おっと固まっておった。何か言い訳しなければ。


「わしは……」

「死んだ人が記憶を持ったまま、違う命に宿るなんて信じられませんよね」


 これは……世間話か? あ~、ビックリした! リータさんは人が悪い。


「家族も村の人も誰も信じてくれなかったけど、猫さんなら信じてくれると思ったんですけどね」


 え? 雲行きが変わった……もしかして、リータの話?


「実は……私は転生して、この地にいるんです」


 リータが転生者? ひょっとして同郷? 転生者ならエミリの母、恵美里さんの例もある。もしかして……


「私の元の世界は何も無い、岩だけの世界。私も岩だったんです」


 岩? 岩って……岩?? 命あるの? あ、たしかアマテラスが、生物が違う進化をした世界があるって言ってたか。


「そこで私は、何十年も何百年も星を眺めて過ごしていたのです」


 何百年? わしより年上……


「何も変わらない景色……そんな景色に飽きて、私は一念発起して転がりました。何年も何十年も……そこで、ついに綺麗な景色の場所に辿り着きました」


 もう何の話かわからん! てか、岩??


「こんな綺麗な景色で死ねたらいいなと思ったら、隕石いんせきが落ちて来て、本当に死んじゃいました」


 岩が隕石とぶつかって死んだじゃと? ついていけん……


「するとまた新しく、それはもう、死んだ場所よりも遥かに綺麗な場所に着いたのです。そこで神様と会いました」


 あ~。やっとわかる話になって来た。


「どうやら、私と隕石がぶつかったおかげで、停滞していた世界が動く事になったそうで、感謝されちゃいました。私は何もしていないんですけどね。それで他の綺麗な世界に行きたいと神様にお願いして、いま、私はここに居ます」


 リータは世界を救ったって事かな? で、徳を積んで転生させてもらったと……でも、元が岩?? あ、だから歩くの下手じゃったんか。体が硬いのもそのせいか……力が強いのは? もう岩だからじゃ!!

 しかし、アマテラスの奴は、チート能力を贈る事は出来ないと言っていたのに、リータの能力はチート能力ではないのか? 元々の能力なら持って来れたって事か? 今度、問い詰めてやらんといかんのう。


「こんな話をしても、信じられませんよね」


 どう答えたものか……わしは猫の中身がジジイだから、気持ち悪がられると思って、秘密にしておいたほうがいいと考えてきた。だから、誰にも話す気は無かった。いや、話してもわかってもらえない、信じてもらえないと思っていたんじゃ。

 リータは自分の秘密を勇気をもって話たんじゃ。それに世界は違えど、同じ転生者と出会ったの嬉しい。秘密を共有出来るしな。わしも話すべきじゃろう。


「信じるにゃ」

「猫さん……」

「ちなみに、神様の名前はなんだったにゃ?」

「えっと~。たしか……ツツカミ?だったと思います」

「ツツカミ……」


 古事記にそんな神の名前はあったかな? ツクヨミならあったけど……


「ツクヨミじゃにゃいかにゃ?」

「そう! それです!! でも、なんで猫さんがそれを……」

「わしも、リータとは違う世界からやって来た、転生者にゃ」

「え……猫さんが?」

「そうにゃ。わしは元の世界では、人間だったにゃ」

「ええぇぇ~~~!」


 リータもわし同様、驚いているみたいなので、落ち着くのを待って続きを喋り出す。


「わしの担当の神様のミスで、この世界に来たにゃ。人間を希望していたのに、猫に生まれ変わったんにゃ……」

「猫さんが人間だった……」

「気持ち悪いかにゃ?」

「いえ、そんな事はないです! 猫さんの秘密を知れて嬉しいです。転生の事は、誰にも話していないのですよね?」

「そうにゃ……」

「《二人だけ》の秘密ですね」


 いい笑顔じゃけど、なんだか言い方が怖い……脅される?


「誰にも話さにゃいでくれにゃ?」

「わかってます。フフフ……《二人だけ》の秘密ですもの」



 その後、リータはわしの元の世界の事をいろいろと質問し、わしの答に嬉しそうな反応をする。

 それから長く話していると、夕日は完全に沈んでしまった。


「星が綺麗にゃ」

「綺麗ですけど、私は見飽きてしまいました」

「たしかに、何百年も見ていたら飽きるにゃ~」

「フフフ。そうですね。でも、猫さんと見る星は、また違ったように見えます。あ、猫さんは、猫さんと呼ばれるのは嫌ですか? シラタマさんとお呼びしたほうがいいですか?」

「どっちでもいいにゃ。ちなみに、わしの元の世界では『シラタマ』って、にゃんの事か、わかるかにゃ?」

「いえ、全然わからないです」

「お菓子にゃ。白くて丸いお菓子の名前にゃ」

「お菓子? プッアハハハハハ。すいません!」

「気にするにゃ。わしも同じ立場にゃら笑っているにゃ。元の世界の女房にも、笑われたにゃ。だから、好きなように呼ぶにゃ」

「う~ん。考えておきます。……猫さんは元の世界で結婚していたんですよね。こちらの世界では結婚をしないのですか?」

「猫だから難しいにゃ」


 猫とつがいになるのは、人間の思考が邪魔をする。かと言って、人間と結婚するのも生まれて来る子供がどうなるかわからないから、こちらも人間の思考が邪魔をする。そうなると、一人ヤモメがちょうどいい。


「私なら猫さんを受け止められます! だって、元は岩ですよ!!」

「にゃははは」

「なっ……なんで笑うんですか!」

「ごめんにゃ。考えていた事の第四案があったのに、驚いただけにゃ」


 第四案……岩と結婚するか。わしより年上だし、アリかもしれんな。元、岩の嫁さんなら、生まれて来る子供がどんな姿でも、受け入れてくれるじゃろう。


「もう! 猫さんのバカ……」

「時間が掛かると思うけど、考えておくにゃ」

「本当ですか?」

「右手を出すにゃ」


 わしは次元倉庫から、余っていた白い鉱石を取り出し、鉄魔法で加工する。

 うろ覚えのデザインで指輪を作り、完成すると、リータの薬指に嵌める。


「これが指輪にゃ」

「これが……婚約指輪ですか!?」

「さあにゃ。その時が来るまでわからないにゃ」

「……猫さんは意地悪です。でも、嬉しいです!!」



 リータは抱きつき、目をつぶると、わしの口に唇を当てる。わしもリータを抱き締め、そのまま王都の近くに転移するのであった。


 ちなみに、リータが目を開けた時には景色が変っていたので、すっごく混乱していた。だからそれ以上の事は、何も無かった。ホンマホンマ。

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