521 二年振りの女王誕生祭にゃ~
ハンター協会と揉めたせいでわしは東の国を歩けなくなってしまい、用事で出掛ける以外、猫の国に引き込もっていたら、もう年の瀬。女王誕生祭になってしまった。
揉めたのは一ヶ月前だったから、今年中にハンター協会から何かしらの接触があると思っていたが、音沙汰は無し。こちらから連絡するつもりもないので、接触があるまで無視だ。
なので、猫の国組と日ノ本組を引き連れて、女王誕生祭を大いに楽しむ……ことはもちろん出来ず、わしは常に誰かに抱かれてぬいぐるみになっている。
ハンター協会問題もそうだが、小説問題があったのを忘れていて、わしとコリスが歩いたらファン達のサイン攻めに押し潰されたからだ。
小説には顔写真は載せていないから、リータとメイバイとオニヒメは顔バレしてないが、わしとコリスは顔バレとかじゃなくて、バレバレ。
だって、猫とリスが歩いているなんて、わし達しかいないんじゃもん。
せっかく二年振りに楽しむ為に来たのにこれでは楽しめないので、わしはぬいぐるみ。コリスはさっちゃん2でマント。皆も念の為、ニット帽やキノコ帽で変装して移動している。
ただ、ワンヂェンとつゆがサイン攻めにあっていたけど、相変わらず黒猫と茶タヌキを白猫と間違う理由がわからない。どちらにしろモフモフだから、撫でたいだけかもしれない。
モルモットで、一人で歩かせたキツネ少女お春も撫で回されていたから、ようやく答えが出たかもしれない。
このような事もあったので、モフモフ組も人型の姿で歩く事になった。
お春のキツネ耳姿は見た事があるけど、つゆのタヌキ耳姿は初めて見たのだが、意外とかわいらしい顔をしていた。もっともっちゃりした子が出て来ると思っていたのに……
つゆは16歳と聞いていたのに背が低いので、お春やオニヒメと同じ子供にしか見えない。そのせいか、お春と共に道行く人に尻尾を撫でられていたので、二人とも完全に人間の姿に
ちなみに玉藻と家康も、女王誕生祭では耳と尻尾を隠している。いっぱいある尻尾をフリフリしていたら、道行く人にモフられたんだって。
二人は女王から正式に招待状を受け取り、ちびっこ天皇の代わりにやって来ている。ちびっこ天皇は何をしているかと聞くと、宮中催事で忙しいようだ。まぁそれじゃあ仕方がないけどかわいそうに思っていたら、来年は強行するらしい。
なんでも、玉藻かお玉がちびっこ天皇に化けて、宮中催事を執り行うとのこと。そんなのでいいのかと聞いたら、その為の名代だと言われた。
いちおう皇太子は居るのだが、代理は名代の仕事でもあるようだけど、遊びに来るだけじゃろ? あ、ちびっこに泣き付かれたからですか。案外、甘いんですね。
ちびっこ天皇は、まだ子供。たまには我が儘を聞いてあげるようにしているようだ。
「おお~。凄い人じゃな~」
「関ヶ原が霞んで見えてしまいそうじゃ」
おのぼりさんの玉藻と家康は、辺りをキョロキョロ見つつ質問が多い。
「関ヶ原とは規模が違うからにゃ~。これほど多くの国から参加する祭りは、ここぐらいにゃ」
「聞いた通り、東の国が一番財力があるのか……」
「金だけで、これほど人が集まるのか?」
「お金があれば、やれる事が増えるにゃ。これから見に行くサッカー大会も、わしの国では、まだ十ヶ国も呼び込めないにゃ~」
今回の女王誕生祭の目玉は、各国対抗サッカー大会。サッカー協会会長のさっちゃんが普及活動を頑張って、14チームで行うトーナメント戦の開催となった。
もちろん猫の国からも参加しているので、皆で開会式を見に来たわけだ。
サッカー会場は土地を必要とするので王都内とはいかず、外壁の外にグラウンドがふたつ作られている。どちらにも四方を囲う
そのグラウンドは平行に並び、雛壇が並列する場所の最上段は貴賓席があり、ここからは同時に二試合見られる超VIP席となっている。
もちろんVIP席なので、招待状を受け取った他国の王族や、チケットを高値で購入した貴族しか入れない。あとで値段を聞いて目玉が飛び出しそうになったので、さっちゃんと友達でよかったと心底思った。
よくもまぁ、見栄だけで買えるものじゃ。わしだったら、自国のチームを応援するのに、ぜったい一般席を買うわい。
そんな事を思いながら貴賓席で猫の国用のテーブルを探していると、挨拶回りをしているさっちゃん発見。声を掛けようとかと思ったが邪魔になりそうなので、とりあえず見付けた自国の席に皆で腰掛ける。
ただ、東の国の一際立派な席と隣り合わせだった事もあり、王族揃って開会式を見に来ていたので、わしだけで挨拶に向かった。
わしは顔も知れているので護衛からたいしたチェックは受けずに、女王の前に立つと声を掛ける。
「さっちゃんは忙しそうだにゃ~」
「ええ。でも、ようやくここまで漕ぎ着けて、楽しくやってるみたいよ」
「アレから一年かにゃ? 押し付けるようにゃ形になったけど、楽しんでいるにゃらよかったにゃ」
「去年、猫の国に大差で負けたのがよかったみたい。それで火がついて、もっと大きな舞台で猫の国を倒すと息巻いてたのよ」
「にゃはは。さっちゃんらしいにゃ~」
そうしてしばし女王達と喋っていたが、さっちゃんは戻って来ず、開会式が始まった。
東の国の子供達から入場して来たので、わしも席に戻って猫の国の子供が入場して来るのを待つ。西の国、南の国、小国と続き、最後に入場して来た猫の国の子供が見えると、わし達は大声で応援する。
一般席からも応援の声が聞こえるところを見ると、猫の国の富裕層や誕生祭ツアーの団体も来てくれたようだ。
誕生祭ツアーとは、各街10人を募集し、大多数の中から抽選で選ばれた一般人の集団。いまだに猫の国は、旅行するほどの富裕層は少ないので、わしがポケットマネーを出して連れて来てあげたのだ。
14チームが入場し、グラウンドに整列すると、主催者のさっちゃんが設置された壇上に立ち、音声拡張魔道具を使って語り始めた。
『皆さんがこのサッカーを知ったのは、およそ一年前……昨年の誕生祭の事でした。その際、我が国のチームは不甲斐ない結果となりましたが、問い合わせは多くあり、各国でも盛んにサッカーが行われるようになって、私は今日のこの日を迎えられました。皆様の御協力、心より感謝いたします』
さっちゃんが深くおじきをすると、温かい拍手が送られる。
『選手宣誓!』
「「はい!」」
拍手が落ち着き、さっちゃんは選手に体を向けて声を掛けると、元気よく東の国と猫の国の子供がさっちゃんの目の前に走る。
『『選手宣誓! 我々選手一同は、スポーツマンシップに
二人の子供の声に頷いたさっちゃんは、またこちらに向き直り、大声をあげる。
『さあ! これより第一回各国対抗サッカー大会を開始します! どうか皆さんも、汗を流す子供達の試合を見て、温かい応援をしてくださ~い!!』
「「「「「わああああ」」」」」
大歓声の中、さっちゃんは手を振りながら貴賓席に戻ると、審判の笛の音が鳴り響き、第一試合が始まった。
「さっちゃん。お疲れ様にゃ~」
試合は我が国ではなかったので、わしは五分ほど見たら、また東の国の席に顔を出した。
「あ、シラタマちゃん! 今回は負けないんだからね!!」
「にゃはは。うちも最強チームを送り込んだから、そう上手くいくかにゃ~?」
さっちゃんはわしが労いの言葉を掛けても、敵意満々で寄って来たので、挑発で返してやった。
「ぜったい勝ちますぅ~。シラタマちゃんのチームは、去年の主力が半分も居ないじゃない? うちは今年を見越して、全員ひとつ年下にしてたんです~」
「そうにゃの!?」
やられた。まさか去年の大敗は、今年の布石じゃったとは……。でも、世代交代はあったけど、各街4チームずつは出来て裾野は広がっているから、そう心配する事でもないか。
「てか、うちと東の国はシードなんにゃ。すぐに見れると思っていたにゃ~」
「いろいろ考えたんだけどね~。やっぱり始めたのが遅いと、不利になるじゃない? 一回戦でうちと猫の国に負けたチームはかわいそうだし、今回はこれがベストだと思うわ」
「たしかににゃ~。一勝したら、それで気分が乗って、ダークホースがそのまま優勝にゃんて事もあるからにゃ~」
「えっ……そんなのあるの?」
「まさか……不公平だけを正して、その可能性を考えていなかったにゃ?」
「ど、どうしよう……シラタマちゃんのチームに当たる前に負けちゃうかも!?」
「自分のチームを信用しろにゃ~!!」
サッカー協会会長としてはさっちゃんは有能だったようだが、どうやらそれが仇となって心配事が生まれてしまったらしい。
そのせいでわしはぐわんぐわんと揺らされたので、必ずお互いのチームが残ると安心させるのであったとさ。
今日は自国の試合がないという事もあり、開会式と一試合を見たら、わし達は引き上げる。東の国王族も忙しい身なので、わし達と同時に腰を上げて、結果はあとで聞くようだ。
そうして王都内を見て歩き、人だかりが出来ている場所で行われている出し物を見学しては楽しみ、我が家に帰ったらドンチャン騒ぎ。
アイパーティやアダルトフォーと一緒に騒ぎ散らし、疲れて眠ったら、次の日はハンターギルドの出し物を見る。
席はスティナに頼んでおいた猫の国王族専用VIP席。猫の国組だけでなく日ノ本組やアイパーティも連れて来てあげたから若干狭いが、見やすいから文句は出ていない。
スティナに二日通し券を格安にすると言われたから即購入。年明けにある、騎士とハンターの模擬戦も見に来る予定だ。
「宮本先生が出て来たにゃ~」
ハンターどうしの試合に、スティナからはわしの出場を求められたが、ハンター協会と喧嘩中なので出るわけがない。
それならば猫の国から誰か出してくれと言われたけど、喧嘩中と断っているのに引いてくれなかったので、日ノ本の出場者として、宮本
ただ、日ノ本の者の実力を知らないスティナでは対戦相手に困っていたので、宮本にはCランクハンターを一度に五人。服部にはBランクハンターを一人ぶつけたらちょうどいいと助言しておいた。
キャットガールのティーサの号令と共に試合が始まったのだが、メイバイとリータは残念そうな声を出す。
「あ~あ……宮本先生は手加減してくれないからニャー」
「あっという間に終わっちゃいましたね」
「あいつらも、もうちょっとやり方があったのににゃ~」
残念ながらCランクハンターは、宮本に一蹴されてしまった。五人がかりが仇となって舐めて掛かり、数の優位を使えず、一人斬られ、二人斬られ、残り二人になったところでようやく二対一の斬り合いに持って行ったが、時すでに遅し。
剣を振るう間もなく、宮本に斬られてしまった。
観客は、突っ立ったまま斬られて倒れるハンター達を見て、何が起こっているかはわからずじまいで声を発しない。
当然、審判をしていたティーサも勝敗を告げないので、宮本もどうしていいかわからなくなっているようだ。
なので、わし達で拍手を送って皆を引き戻そうとの話をしていたら、静寂を掻き消すあの笑い声が聞こえて来るのであった。
「ハーハッハッハッハー」
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