522 ハンターの模擬戦を見学するにゃ~


 ハンターどうしの試合に送り込んだ宮本武志たけしが謎の剣であっと言う間に五人を倒してしまったせいで、しばし訓練場が静まり返っていたが、あの笑い声が聞こえて来た。


「ハーハッハッハッハー」


 バカだ。いや、バーカリアンの声だ。わしはまた空から降って来るのかと見ていたら、宮本の前に砂埃を上げて立っていた。

 おそらく常人ならば、青い光が線上に通り、宮本の目の前で止まるまで何が入って来たかわからなかっただろうが、わしの目はごまかせない。


 普通に扉から出て来て、必死の形相で走っていたのがハッキリ見えた。


「あやつ……何を急いでおったんじゃ?」

「普通に登場するなら、もっと涼しい顔で入ればよかろうに」


 当然、玉藻と家康にもハッキリ見えており、リータ達も見えていたらしく苦笑いしている。


 またあのバカは、変な登場して来たな。普通に走ってもそこそこ速いんじゃから、無理して飛ばさんでもいいのに……。一瞬で宮本先生の目の前に現れたとでも言いたかったのかな??


 わしは皆に、普通の人には見えないからかっこいい登場シーンになっていたはずだと予想を説明する。現に、観客は盛り上がっているのだから、間違いなさそうだ。

 しかし登場したからといって、何をしに来たかここからではわからないので見ていたら、審判をしていたキャットガールのティーサが一度下がり、スティナと共に出て来て、飛び入り参加の試合をすると言っていた。



 数分の休憩の後、バーカリアンと宮本は、剣を交える。


「ほう……一合目で宮本の剣を止めたぞ」


 家康は先のハンターの試合を見て、バーカリアンは一太刀で負けると思っていたようだ。


 マジか……てっきり、ザコキャラみたいに「ぎゃ~!」とか言って倒れると思っておった。宮本先生の剣は侍講習に出ていた者でも、たまに受けられる程度じゃぞ?


「ま、まぁいちおう、こっちでトップハンターだからにゃ……」


 わし達が感心して見ていると、宮本とバーカリアンの試合はリスタート。何やら宮本が一声掛けて無防備に歩き出したら、バーカリアンは大きく後ろに跳んだ。


 きたなっ!? あのバカ、剣を捨てよった。


 宮本の剣には勝てないと察したバーカリアンは魔法に切り替えて、ここからは風の玉を無数に放って宮本を近付かせない。

 それも、肉体強化魔法を使って宮本と距離を取りつつ回るように魔法を放つので、バーカリアンの速度と相俟あいまって、複数人での魔法攻撃のようになっている。


 あいつ……あんなに魔法が上手かったのか。これでは宮本先生でも勝てないぞ。侍の勘を使ってなんとか風の玉を切り裂いているけど、間に合わなくなって何発も喰らっておる。


「なるほどな……剣の腕に加え、呪術の腕前もなかなかじゃ。これでは、十本刀の誰も勝てないかもしれん。ハンターとは、あなどりがたし」

「にゃ? ご老公は汚いとは思わないんだにゃ」

「これは、呪術ありの試合じゃろう? 宮本が呪術に対応できないのが悪い」

「まぁそうにゃんだけど……」


 わしとやった時は、飛び道具なんて使って来なかったんじゃけどな~……。いや、防御する時に使っていたか。補助魔法しか印象に残っていないから、剣でしか攻撃できないと思っておった。


 家康と喋っている間も戦いは続き、バーカリアンの攻撃で宮本は虫の息。なんとか風の玉を避けたところで、膝がガクンと落ちた。

 そこに、バーカリアンの最速の突き。肉体強化と土魔法のベルトコンベア、風魔法で瞬発力を上げて、宮本に襲い掛かった。


 しかし、宮本はそれを待っていた。


 バーカリアンの渾身の突きに合わせて侍攻撃。距離があったから先の先は取れなかったが、後の先で刀を振るった。


『勝負ありで~す!』

「「「「「わああああ」」」」」


 ティーサの勝利宣言に、観客は歓声をあげ、まさかの結末に家康は笑う。


「ポンポコポン。あの速度で変化しよったわ。さすがは、トップハンターじゃな」


 うお~。ぜったい宮本先生のカウンターで斬られると思ってた。まさか自分に風の玉をぶつけて変化するとは……

 当て方も絶妙。自分の下半身辺りにぶつけての前宙。その変な回転の最中、宮本先生の後ろから逆さのままの姿勢で背中を斬りよった。ありゃ避けられんわな。

 てか、バカさんも決めポーズは上手くいったようじゃが、無茶な変化するから悪い。股間にダメージが入って立てないんじゃろう。プププ。痛そうじゃ~。


 わしが笑いをこらえている隣では、リータとメイバイは興奮して試合の感想を言い合っている。


「バーカリアンさん、凄かったですね!」

「私でも、あの速度であんな変化できないニャー」

「やっぱり、元から侍の剣を使えたのでしょうか?」

「そうは見えなかったニャー。この短時間で、覚えたのかもしれないニャー」

「あれが剣の天才……」

「だニャ。凄いニャー!」


 たしかにわしより剣の才能はあるけど、バカを褒める二人を見るのは、ちょっと嫌じゃ。


「わしのほうが、精度が高いにゃ~」

「シラタマさんが嫉妬してます!」

「ジェラシーニャー!」

「「よしよし」」

「ゴロゴロ~」


 ちょっとわしが嫉妬心を見せてしまったせいで、リータとメイバイに死ぬほどモフられていたら、次の試合が始まった。なので、二人はわしを元の席にポイッとして、観戦に戻る。


 相変わらず勉強熱心だこと……でも、次の試合はバカさんほど見るところは無いと思うんじゃけどな~。まさかバカさんが出るとは失敗じゃ。

 宮本先生は手加減しないから、すぐ終わる懸念があったから先に出したのに、大盛り上がりになってしもうた。



 次は、服部半荘はんちゃんの出番。Bランクハンターと闘うようだ。そのハンターは見た事のある顔だと同席していたアイに聞いてみたら、わしがあんちゃんと呼んでいたトーケルだった。


 だからボケてませんって~。覚える気がないだけですって~。


 ややアイ達に冷ややかな目で見られてしまったので言い訳。ただ、試合が始まっていたので、皆はすぐに会場に目を戻していた。


 その試合は一方的。服部が距離を取り、四方八方から針を投げ付けているので、トーケルはまったく動けないでいる。

 しかし、針とは名ばかりの訓練用だから、軽いし尖っていないのでちょっとしかダメージにならず、何十本と投げて、ついに針が尽きてしまった。


 ここでトーケルの反撃。一方的にやられて怒っているような素振りをしていたが、足取りは慎重で、いつでも剣を振れる体勢で近付く。

 トーケルの間合いに服部が入れば剣を鋭く振るのだが、服部は、バク転、側転、ムーンサルト。体操選手のように避けて、トーケルを嘲笑う。


 ただし、トーケルも馬鹿の一つ覚えで剣を振るっていたわけではない。服部を壁に追いやっていた。


 もちろん、服部もそれを狙っていた。


 壁で出来た影にトプンッと身を落とし、姿を消したのだ。


「ふふん。勝負ありじゃな」

「たしかににゃ~。あんにゃキョロキョロしていたら、後ろから斬ってくれと言ってるようなもんにゃ」


 わしと家康が喋っていると、目の前で消えた服部をトーケルが探し、壁に背を向けた瞬間、服部は二本のクナイを握って影から飛び出した。


『勝負ありで~す!』

「「「「「わああああ」」」」」


 ティーサの声に続き、観客の歓声。その声を聞きながら、家康が項垂うなだれる。


「徳川最高傑作の忍びまでもが……」

「にゃはは。御愁傷様にゃ~」


 残念ながら、服部が影から飛び出た瞬間、トーケルに胸ぐらを掴まれて押し倒された。そして剣を喉に立てられて、ギブアップを宣言する事となった。

 おそらくトーケルは、長いハンター生活で似たような魔法を使う獣か人間と闘った事があったのだろう。

 そんな者の目の前で影の中に消えたのだから、ひと芝居打たれて罠に嵌められてしまったようだ。


「ベテランハンターも侮れないってことじゃな」

「日ノ本も曲者揃いにゃけど、こっちも捨てたもんじゃないにゃ~。さてと、面白そうにゃ試合はこんにゃもんにゃし、そろそろ行こうかにゃ~」

「猫さん!」


 わしが立ち上がると、一緒に連れて来ていたリンリーがわしの尻尾を掴む。


「にゃに~?」

「さっきのバーカリアンとトーケルって人は、どっちがお金持ちですか!?」

「知らないにゃ~」


 最近リンリーは、男選びでお金にこだわっている。猫の国ではお金持ちは極一部しか居ないので、この機に東の国で探そうとしているようだ。


「じゃあ、自分で聞くから紹介してくださ~い」

「わかったから尻尾を離してくれにゃ~」



 皆で隣接されたハンターギルドに向かうと、そこでは先ほど闘った者達が休憩している姿があった。とりあえず家康には、宮本と服部を殺すなと釘を刺してから、リンリーと共にトーケルに近付く。


 そしてリンリーを紹介してお見合いさせるのだが……


「はあ? なんで初めて会った奴に、財産を全て話さないといけないんだ。まさかお前も騙す気か!? どっか行け~~~!!」

「そんな~~~」


 残念ながら、リンリーはいきなり嫌われてしまった。

 あまりに酷い言い方だったので詳しく聞いてみたら、Bランクになってモテ期がやって来たから騎士の勧誘は先送りにしたらしいけど、絶世の美女と付き合って喜んでいたら金を持ち逃げされたんだって。

 そんな事もあり、近付く女には警戒していて、いきなりお金の話をして来たリンリーは結婚相手として有り得ないんだとか。いちおうわしも「リンリーはいい子」とフォローしたけど、第一印象が悪すぎて受け入れてくれなかった。


 だが、鉄の心臓を持つリンリーは、すぐさまターゲットを変えてバーカリアンに近付く。


「イサベレ様以外有り得ない。それに、金なんて無いぞ。全て、この子達に管理されているからな」

「そんな~~~」


 三人の取り巻きの女性に看病されていたバーカリアンは、リンリーに興味なし。ハーレム状態の男を口説こうとするリンリーもリンリーだが、バーカリアンが一文無しとは驚きだ。

 なので、女性に詳しく聞いたところ、バーカリアンの浪費癖が酷いから、お金を預かっているらしい。一時期バーカリアンは、金が手に入ったらすぐにイサベレのプレゼントを買って、武器や防具の手入れすらままならなかったんだってさ。


 だからおこずかい制にしているらしいが、その身に付けている数々の宝飾はなんじゃ? あ、イサベレに贈って返された物ですか。でも、それを売れば……金貨で持つより軽いから身に付けているのですか。……本当ですか??


 どうも三人の取り巻きのきらびやかな出で立ちからは信用できないが、この三人がお金を管理するようになってから、バーカリアンの生活が良くなったらしいので深くはツッコまない。

 歳を取ってから、全てをむしり取られていない事を祈ろう。



 こうして即座にフラれたリンリーを慰める為に、わし達は屋台を回りながら無理して笑うのであったとさ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る