554 ブリザードにゃ~
オーロラを見て、しばし感動で言葉の出なかったわし達であったが、誰かが「綺麗」と声を漏らしたあとは、「にゃ~にゃ~にゃ~にゃ~」騒ぎ倒して感想を言い合った。
「ほい。あったかいのにゃ~」
皆、騒ぎ倒したあとは、わしの作ったベンチに寝転んでぐったりしていたので、ミルクティーを振る舞って飲ませる。
わしもウィスキーのお湯割りを入れたら、ベンチに座ってオーロラを眺めながらの一杯だ。
はぁ~~~。感動じゃ……オーロラとは、生で見ると、こんなに綺麗だったんじゃな。写真や映像なんて、とてもじゃないが比べられない。
たいした苦労もせずに北極に着いたし、【熱羽織】でわし達の一帯を囲っているから寒さすら感じない。魔法様々じゃ~。
「カメラ貸してニャー」
わしが物思いに
「いいんにゃけど……撮れるかにゃ?」
「目で見えてるんだから撮れるに決まってるニャー」
「それがだにゃ~……」
メイバイのカメラの話から、オーロラ講座。オーロラは光量が足りないから、普通に撮っても写真として残らないと説明したが、信じてくれない。
もちろん光の屈折や反射の話をしてもちんぷんかんぷん。なんだか皆の頭から煙が上がる始末。
なので、カメラ教室の開催。カメラを空に向けて土魔法の三脚で固定すると、メイバイに教えながらシャッターを切る。
「いまのは、普通の撮り方にゃ。シャッタースピードが速いから、たぶん真っ暗な写真になっているはずにゃ」
「うんうん」
「次は、ゆっくり……」
残念ながら平賀家の作ったカメラでは速度調整が付いていないので、手作業で調整するしかない。
幸い、シャッターボタンを一番奥まで押し込まないとシャッターが切れない作りなので、シャッターが落ちないギリギリ手前までボタンを押し込み、そこで待機。時計を見ながら10秒待てば、一気に押し込んでシャッターを切る。
これで撮れていると思うが、現像してみない事にはわからない。念の為、シャッタースピードをもっと遅くして、メイバイに写真を撮らせてみる。
「うぅぅ……難しいニャー!」
何度か失敗するメイバイは悔しそうにするので、わしはこの撮影の仕方のメリットを説明する。
「そうだにゃ。もっとシャッタースピードを変えられる作りだったら楽だったんだけどにゃ~」
「シラタマ殿~。そんなカメラ作ってニャー」
「作るにしても、時間が掛かるにゃ。いまはテクニックで乗り切るしかないにゃ。でも、このテクニックを覚えたら、面白い写真が撮れるにゃ~」
「どんな写真ニャー?」
「例えば星にゃ。シャッターを開けたまま日が暮れてから日が昇るまで待てば、星は点じゃなくて、線となって写るんにゃ。こう幾つもの星が……」
例え話をしても伝わらないので、ノートにペンで弧を描いて教えてあげた。
「こんなの撮れるニャ!? 撮ってみたいニャー!」
「ここじゃ寒いからにゃ~……今度、近場で撮りに行こうにゃ~」
メイバイとキャンプの約束をしていると、皆も行きたいと言っていたので、当然連れて行く。ただ、イサベレは東の国での仕事もあるので、応相談となった。
それからオーロラ撮影を続けると、メイバイもなんとかコツを掴んだようなので、わしも練習。シャッターボタンに土を
さすがは魔法様々。何枚でも、何分でも、指が疲れずに撮れた。
「うぅぅ……ズルイニャー! 私も土魔法教えてニャー!!」
指をプルプルさせて写真を撮っていたメイバイから苦情が入ったので、土魔法を教える約束をしたが、カメラの改良と、どっちが早く出来るかはメイバイ次第だろう。
「さてと……けっこう写真も撮れたし、そろそろ寝ようにゃ~」
「「「「「もうちょっと~」」」」」
時刻は夜の十時頃、普段ならとっくに寝ている時間なのに、常に色や形の変わるオーロラ劇場が楽しくて、皆は寝てくれない。
わしが魔力を消費して皆を【熱羽織】で包んでいるから、わし一人で寝るのも許されない。なので、しばらく頑張って付き合っていたが、コリスに続き、オニヒメが寝たところで強制終了。
これ以上続けたらわしの魔法が解けるし、皆も寝落ちしてしまったら、魔道具の魔力が切れて凍死してしまう可能性があるからの判断だ。
全員キャットハウスに入ったところでわしの眠気もマックス。玄関で落ちてしまった。
翌朝起きたら、全裸でモフられていた……
「いにゃ~ん! 助けてにゃ~! ゴロゴロゴロゴロ~」
イサベレがわしの四本目の尻尾を掴んでいたから助けを求めたら、コリスが助けてくれた。いや、わしの頭を丸かぶりみしやがった。だから、焦ったリータとメイバイが助けてくれた。
どうやらコリスはお腹がすいていたけど、寝るのが遅かったから寝ぼけてわしを食べたようだ。
朝から犯されかけて、食べられるトラブルはあったけど、コリスに助けられたのは代わりない。感謝の高級串焼きを山積みにして、朝風呂に入って綺麗さっぱり。
皆の高級串焼きをつまんでいる席にまざり、全員分の適当なお弁当を出して腹を満たす。
それから出掛ける準備をして、キャットハウスの引き戸を開けた。
「わ! 吹雪です」
「まったく見えないニャー!」
残念ながら、今日の北極の天気は大荒れ。ブリザードが吹き荒れている。
「すごいすご~い!」
「私も~」
コリスは庭を駆け回って消え、オニヒメもちょっと進んだ所で消えた……
「にゃ!? 二人ともどこに行ったにゃ~~~!!」
「コリスちゃん! オニヒメちゃん!」
「私も探すニャー!」
わしが焦ってキョロキョロすると、リータとメイバイが走り出した。
「ストーップにゃ~!」
なので、わしは二人のマントを掴んでグンッとする。
「なんで止めるんですか!」
「すぐに助けるニャー!」
「だから慌てるにゃ~。みんにゃで行ったら二次遭難にあうにゃ。わしが行くから、イサベレも動かず待機にゃ」
たった数メートル進んだ所で見失うほどのブリザードだ。普通の人間とは言い難いが、いちおう人間には代わりないリータ達が遭難したら凍え死にしかねない。
三人から了承を得ると、わしは探知魔法を駆使してコリスとオニヒメの救助に向かう。
くっ……この吹雪では、【熱羽織】が役に立たん。雪が体に直接積もるから、体が冷えてしまう。リータ達を止めておいてよかった。
しかし、探知魔法にコリスの反応はあるけど、オニヒメの反応が見付からん。どこに行った??
コリスはキャットハウスの近くをグルグル走っているからオニヒメの救出を先にしようと歩いていると、雪とは違う感触が足に伝わったのでその場で止まる。
むぎゅ? なんか踏んだ。
「パパ、ひどい……」
「にゃ!? こんにゃ所に居たんにゃ! ごめんにゃ~」
どうやらオニヒメは、キャットハウスから数メートル進んだ所で、雪に足を取られて転んだらしい。立ち上がろうにも、横風が強くて飛ばされそうになったので、うつ伏せのまま救助を待っていたようだ。
とりあえずオニヒメは回収できたので、背負ってキャットハウス送り届ける。
オニヒメをリータに預けると、次はコリス。風に飛ばされないように走るが、コリスはどんどんキャットハウスから離れて行く。
ヤバイ! なんかの縄張りに入った!!
コリスはパニくっているのか、危険地帯に入ってもスピードを落とさず、何かの縄張りの中央、大きな山に近付いて行く。
わしは焦ってスピードを上げたのだが、風に吹き飛ばされて上手く走れない。なので、二本のソードをストック代わりにして、ザクザク突き刺して進む。
なんとか飛ばされずにスピードを上げて走れるようになったが、コリスから離れていたので必死に追いかけていたら、大きな山に着いた。
すんごい圧力があるから、強い敵がそばに居ると思うんじゃけど……山の反対側かな?
コリスは……山を登っているっぽい。動かず待っていてくれたら救出も楽だったのに、何をしておるんじゃ。あとで、遭難した際の対処法を教えておかないとな。
わしも山を登ろうとしたが、山は凍り付いているのか、ソードが突き刺さらない。無理して押し込もうとしたら、折れてしまった。
折れてしまったものは仕方がない。わしも猫型に戻って四つ足で山を登る。多少滑るが、爪を立ててなんとか進み、ようやく角度が緩やかになって来たので、頂上付近に近付いたと思われる。
「モフモフ~! モフモフ~~!!」
猛吹雪のなか山の頂上では、コリスが悲しそうにわしを呼んでいた。
わしも山頂に着くと探知魔法を頼りに進み、コリスを視界に収める距離まで近付いて声を掛ける。
「まったく、にゃにをしてるんにゃ~」
「あ! モフモフモフモフ~~~!!」
わしを見付けたコリスは、泣きながら殺猫タックル。わしは肉球で防御するが、何十メートルも地面を削った。
「まえがみえなくてこわかったよ~。え~~~ん」
「そうかそうか。もう大丈夫だからにゃ」
しばしコリスの頭を撫でながら泣きやむのを待って、遭難したら動かないのが鉄則と教え込む。その時、探知魔法を使っていたら、キャットハウスはすぐに見付けられたと言ったら、パニックで忘れてたんだって。
「さてと……寒いし帰ろうにゃ~」
「うん! ホロッホロッ」
コリスがご機嫌となって、キャットハウスの方向に歩き出そうとしたら、急に山が動いた。
『はあぁ~っくょ~~~ん! こんちくしょ~!!』
山の正体は、巨大生物。大きなくしゃみと共に目覚めたようだ。
「「にゃ~~~!!」」
当然、そんな動きをされたからには、わし達は飛ばされる。
「コリス! これを掴めにゃ~!!」
せっかく合流したコリスと分断されては困るので、わしはコリスに土魔法で作った鎖を飛ばし、お互いの胴体を繋いだ。
そうしてコリスを手繰り寄せ、風魔法に乗ってふわりと着地。
「………」
「「………」」
着地した場所には、巨大な顔。おそらく全長300メートルぐらいある白いセイウチと目があった。わしとコリスは驚きのあまり声を出しそうになったが、二人して口を塞いで白セイウチの動きを注視する。
やっちまった……まさか地上に、こんなデカイ生物が居るとは想定外じゃ。でも、ヤマタノオロチが山みたいだったんじゃから、山も生き物だと認識しろよ。わしのアホ~!
強さもヤマタノオロチ級。なんだか、ゴゴゴゴ効果音が聞こえるくらい睨んでいるから超怖い。せめてスーパー猫又になる隙さえあれば、なんとかなるんじゃが……
わし達は睨み合い、緊張していたら、白セイウチの念話が届く。
「超寒くね?」
「う、うんにゃ……寒いにゃ」
「「………」」
それだけ? もっとこう、縄張りに入ったから怒るとかないのか??
またお互い黙っていると、白セイウチが念話を送る。
「天気、超悪くね?」
「うんにゃ。悪いにゃ……」
「「………」」
「超寒くね?」
「それだけか~~~い!!」
こっちは緊張の糸を張り巡らせているにも関わらず、白セイウチは天気の話しかしてこないので、ついにわしはツッコンでしまうのであったとさ。自分が盗賊にやった事は棚に上げて……
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