606 リハビリにゃ~
「ちょっと待ってって言ったにゃ~」
猫ファミリーにボコスカ殴られたわしは涙目。気功は使ってなかったけど、素の力でもちょっと痛かったから当然だ。
「てっきり殴らせてくれているのかと……」
「滅多に当たらないからこの機会に……」
「わたしもあたったからうれしくて……」
「パパに攻撃当たらないもん……」
「わざとやってたにゃ!?」
リータの言い分はまだわからなくはないが、メイバイとコリスとオニヒメは確信犯。だから「にゃ~にゃ~」文句を言っていたら、リータがやっとストップを掛けた理由を聞いて来た。
「たしかにいつものシラタマさんと違いましたね。調子が悪いのですか?」
「にゃんか後の先が上手く出来なかったにゃ~」
「それはおかしいですね……」
「にゃにその顔……」
「何が悪いんでしょうね~?」
「にゃんでみんにゃして同じ顔してるにゃ? その顔はやめて欲しいにゃ~」
リータ達はニヤニヤしながら取り囲むので、わしに悪寒が走る。
「「「「覚悟にゃ~~~!!」」」」
「にゃ~~~!!」
思った通り、リータ達は一斉攻撃をして来るので、わしは本気の逃走を見せるのであったとさ。
「ズルイです~」
「ズルイニャー」
「「ズルイズルイにゃ~」」
わしの速度について来れなかったリータ達は非難轟々。四対一で侍攻撃を使っているくせに、どこがズルイかわかりかねる。
「だっていまはスランプにゃ~。ちょっとは考えさせてくれにゃ~」
とりあえずわしは皆から離れた所で座禅を組み、一人の世界に入る。
おかしい……リータ達の攻撃はビビビッと感じていたのに、対応が遅れておる。これはどゆこと?
考えられる可能性として、わしの侍攻撃が劣化しておるとかか……うそ~ん。やっとこさ手に入れた達人の域なのに、なんで劣化するんじゃ。
これはちょっと仕事をし過ぎで訓練をサボり過ぎたかも……強くなろうとしていたのに弱くなってるとは泣きそうじゃ。トホホ。
考えがまとまったら訓練の再開。リハビリの為に一対一から始めさせてくれと頼み込んで、なんとか了承してもらえた。
対戦相手は、まずはスピードの遅いリータから。素手で相手をする。
うん? わりと受けられる。いまの侍攻撃の精度は、ほぼ一緒という感じか。一斉攻撃さえされなければ、なんとかなるってところじゃな。
リータのパンチは肉球でなんとか受けられるので、スピードを上げた次の対戦相手、メイバイだ。白い模擬刀を握って二本のナイフを受ける。
うむ。速い……が、ギリギリ間に合う。この速度がリハビリには丁度良さそうじゃな。ポポルには見えてなさそうじゃけど。
メイバイのナイフを受け続けたら調子が上がって来たので、オオトリ。コリスの出番だ。両手両尻尾のリス拳法には模擬刀ではついていけないだろうから、わしも素手で相手取る。
ぐおっ! ま、間に合わん……半分ガードするのがやっとじゃ。コリスも強くなったのう。いまならキョリスに勝てるんじゃなかろうか?
いまの実力がわかると、わしを殴りまくって嬉しそうなコリスに餌付け。そうでもしないと止まらないんじゃもん。
そして感謝の言葉を掛けていたら、オニヒメもやりたいとか言い出したので相手する。
「にゃ!? どうなってるんにゃ~~~!!」
オニヒメは魔法で侍攻撃を再現するからわしは混乱中。【千羽鶴】の全てが先の先を取って来るので、多人数相手にしているようなもの。気付いたら折り紙の鶴がぶつかっているので避けようもない。
さらにこれまたどうやっているかわからない気功が【千羽鶴】に乗っているのでけっこう痛い。なので意識を鶴のひとつひとつに移して、単体に後の先で握り潰してやった。
「うぅぅ……私のツルちゃんが……うぅぅ」
「にゃ!? ごめんにゃ~。これあげるからにゃ」
ちょっと
「では、最後は
オオトリのコリス、延長戦のオニヒメとの模擬戦も終わると、玉藻が何故か嬉しそうに寄って来た。
「いや、今日の乱取りは終わりにゃ」
「なんじゃと!? 妾をオオトリにしたのはそちじゃろ!!」
「オオトリはコリスだったんにゃ~」
「ここまで期待させてそれはないじゃろ~~~!!」
玉藻ご乱心。わしにタックルして鯖折りするので、仕方なく訓練相手になってもらうのであった。
だって、リータ達にアダルトな玉藻の巨胸を楽しんでると思われたんじゃもん。怖かったんじゃもん。あと、わしと玉藻の闘いにも興味津々なんじゃもん。戦闘狂の顔が怖かったんじゃもん。
玉藻と模擬戦をするには地下空洞では危険なので、お昼を食べたら日ノ本への道中に通った黒い森に転移。リータ達だけでなく、ポポルも見たいらしいので目隠しして連れて来てやった。
「まずはこのままやろうかにゃ?」
「そうじゃな。でも、そちも本気で相手するのじゃぞ?」
「訓練だと言ってるにゃ~」
玉藻は強烈な殺気をわしにぶつけながら両手に鉄扇を構えた。わしはその殺気を受け流しながら白い模擬刀をダラリと構える。
その刹那、辺りに衝撃波が発生。遅れて衝突音が辺りに響く。
おいおいおい……玉藻のヤツ、マジでわしの首を取りに来ておらんか? 手加減抜きにも程があるじゃろう。
玉藻のファーストコンタクトは、凄まじい突撃からの扇二刀流。胴体と首を時間差で斬ろうとしたので、わしは冷静に侍の勘を使って二撃とも模擬刀で守った。だが、速すぎて音はひとつしか鳴らなかったようだ。
「ふはははは。さすがシラタマじゃ!」
「にゃんか悪者みたいに見えるにゃ~」
笑いながら鉄扇を振る玉藻は、ラスボスにしか見えない。わしは一歩も下がらず玉藻の猛攻を模擬刀で受け続けるが、皆に見えているかわからない。
なかなかどうして……これはこれでリハビリには丁度いいかも? かなり速いが、下手に先の先をやられるよりは受けやすいな。
それに手数も信じられないぐらい多いから、一日も受け続けたら元の精度に戻りそうじゃ。
わしは単純に受けているだけだが、玉藻が後ろを取ろうとしたり飛び跳ねたりして動き回るので、辺りには暴風が吹き荒れるのであった。
* * * * * * * * *
一方リータ達は……
「……メイバイさん。見えてます?」
「打ち合った一瞬だけニャ……」
「私もそこだけです……」
暴風に耐え、目を凝らして見ていても、シラタマと玉藻の速度についていけず、二人の足が止まった一瞬しか見えていないようだ。
「コリスちゃんはどう?」
「せんがね~。ぐるぐる~ってなってるの」
「ちょっと見えてるんだね。凄いね~」
「ホロッホロッ」
コリスはシラタマ達の動きが線上に見えているので、リータが褒めたらご満悦。それとは違い、オニヒメは肩を落としていたのでメイバイが慰める。
「あんなの見える人は少ないから気にするニャー」
「うん……パパってすっごい猫だったんだね」
「あはは。ただの
いつも不甲斐ない姿しか見せないシラタマの本気を見たオニヒメは、初めて尊敬の念を抱くが、メイバイは褒めているのか
「あの……なんであそこだけ旋風があるのですか?」
当然ポポルも見えていないからまったくわからない。コリスの尻尾に包まれていなかったら、今ごろ遠くに飛んで行っているだろう。
「タマモさんの攻撃を、シラタマさんがその場から動かずに受けているんです」
「うそ……人間にあんな動きが出来るなんて……」
「タマモさんはキツネでシラタマ殿は猫ニャー」
「まぁこれじゃあ参考になりませんし、私達は狩りでもしましょうか?」
「賛成ニャー! ポポル君の初実践ニャー!!」
「え……まだ心の準備が……」
頂上決戦は見る事もままならないので、ポポルと話をしていたリータの案に乗っかったメイバイ。コリスとオニヒメも賛成のようなので、唯一乗り気でないポポルも狩りに無理矢理参加させられるのであった。
* * * * * * * * *
ガッキーーーンッ!!
玉藻と打ち合っておよそ五分。手加減抜きの玉藻の攻撃では鉄扇のほうが持たず、粉々になってしまった。
「しまった……妾の武器が……」
「ありゃりゃ。壊れちゃったにゃ。でも鉄製にゃのに、よくもったほうにゃろ」
「そうじゃのう……金は払うから、白魔鉱で作ってくれんか?」
「そっちの鍛治師に頼めにゃ~」
「ここは、妾が一発でも入れたら、褒美で貰うとしよう」
「それ、玉藻にしかメリットなくにゃい?」
「そろそろ本気と行くかのう」
「はぁ……」
玉藻はわしの話を聞かずに5メートルはある九尾のキツネに変身するので、わしもため息を吐きながら元の姿の猫又に戻る。
「行くぞ! ゴーーーン!!」
気合いを入れ直した玉藻は先程よりも速い突撃。わしは肉球を前に出して鼻を受け止め、九本の尻尾の連続攻撃も簡単に受け止める。だが、これでは訓練にならないので一旦距離を置くと、玉藻の尻尾が地面を割った。
「動いたということは、そちの負けということか?」
「上からの攻撃ばっかで単調すぎるにゃ~。もう負けでいいから帰ろっかにゃ~?」
「そういうことか……ちょっと待っていろ」
念話で喋っていた玉藻が何をするのかと見ていたら、変化の術。煙が消えると、わしより少し大きな九尾のキツネが現れた。
「これでよかろう?」
「弱くなってなければにゃ」
「
「にゃ!?」
わしが挑発すると、玉藻は横に跳んで
そこからは手技の応酬。二人でお座りしたまま両前脚をバタバタ動かす。猫とキツネが両前脚を合わせている愛らしい姿なので、きっと動画サイトにアップしたらバズるはずだ。
「にゃはは。これはいいにゃ~」
「笑ってられるのはここまでじゃぞ!」
玉藻は手数を……いや、尻尾を増やして合計十一刀流。わしも負けじと尻尾を合わせた五刀流。凄まじい手数の攻撃に侍の勘で耐える。
うむ。いい感じじゃ。サイズが合うと攻撃が多彩になっているから受けにくい。侍の勘がなければ、間違いなく喰らっておるわ。
玉藻の攻撃は、縦横斜め、色々な角度から飛んで来るので、わしはひっきりなしに両前脚、三本の尻尾を動かして受け続ける。
そうして十分が経つと、わしも玉藻も息が上がって来た。
ヤバッ……長時間の侍攻撃は疲れる。まだリハビリ中なのに、こうも長いと集中力が切れそうじゃ。
「くそっ……これならどうじゃ!」
わしの集中力もそうだが、玉藻のスタミナにも限界が近いのか、後ろを向いて必殺技を繰り出す。
「【
なんかどっかで聞いた技名なんじゃけど~? ……どわっ!!
わしがいらんことに気を取られていると、九本の尻尾の一斉攻撃。同時に四方八方から振って来るので手数が足りない。
「ホ~……フニャ~~~!!」
なので、回し受け。空手の回し受けと言いたいところだが、後ろを向いて三本の尻尾を高速で回しただけだ。
「ぶに゛ゃんっ!!」
技名の九本の尻尾を受けた事で気を抜いてしまったわしは、玉藻の後ろ蹴りをケツにまともに受けて吹っ飛び、何本もの黒い木を折って止まるのであった。
「はぁはぁ……大丈夫か??」
わしを追いかけて来た玉藻は、わしがのたうち回っているので心配してくれる。
「こ、腰をトントンしてにゃ~」
「なんじゃ? きんた……」
「みにゃまで言うにゃ~~~」
そう。多少の痛みなら我慢できたのだが、ローブローに入ったならばレフリーストップだ。
玉藻が前脚で腰をトントンしてくれる中、闘いの最中に気を抜くとは、わしも平和ボケしたもんだと自覚させられるのであったとさ。
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