704 フロアボスにゃ~
ダンジョン攻略を始めて間もなく、妖精ゴーレムのノルンちゃんがわしの作業の邪魔ばかりするので、しばらく作業はメイバイとオニヒメに変わってもらった。
「至る所に目があるとか言ってたけど、どういうことにゃ?」
「またスリーサイズなんか聞いて……エッチなんだよ」
こ、こいつは……暇とか言って邪魔して来るから親切に質問してやっているんじゃろうが! てか、なんで目がスリーサイズになるんじゃ!!
……待てよ? さっきわしが聞いたスリーサイズのひとつ目は、エネルギーに関することじゃったな。んで、今回はカメラがどこにあるかの質問……つまり、こいつの構造に関する事は聞いてはいけないってことか?
「ちにゃみにノルンちゃんの頭の中はどうなってるにゃ? 高性能のPCが入ってるのかにゃ~??」
「だからスリーサイズは秘密なんだよ。
おっ! ビンゴじゃ。構造関係は守秘義務のロックが掛かっているから、スリーサイズと言うように設定されておるんじゃな。でも、そこは激オコって言って欲しいわ~。
「ごめんごめんにゃ。てか、にゃんでわしばっかりかまってくるにゃ?」
「だって、データベースに無い生き物なんだよ。腹をかっさばいてでも調べないといけないんだよ」
「怖いこと言うにゃ~。もしかして、コリスも候補に入ってたりするにゃ?」
「コリスってなんだよ??」
そう言えばわし達は誰ひとり名乗っていなかったと思い出し、簡単な見た目と自己紹介。その結果、コリスはリスだから解剖候補に入っていなかったが、猫耳メイバイと角のあるオニヒメも解剖候補に入っていた。
「わしの家族に手を出したら、ノルンちゃんを分解するからにゃ」
「あら、怖いんだよ。怒ったんだよ?」
「見ての通り怒ってるにゃ~」
「ふむふむ。怒っても、とぼけた顔は変わらず……だよ」
ノルンはわしの痛いところを突いてメモを取る仕草をしていたので、わしは「ハッ」とする。
「試しやがったにゃ?」
「ふむふむ。アホそうな顔のわりには意外と賢い……だよ」
「わしのデータを取るにゃ~」
「もうここに入った時点で、データの集計は始まってるんだよ。レントゲンデータもあるんだよ」
「マジにゃ!?」
レントゲンはヤバイので、懐に開いた次元倉庫から放射能測定器を取り出したら辺りの数値を計る。しかし、放射能は一般的な場所の数値と同じぐらいなので、エックス線は使っていないと思われる。
「ホッ……ビックリさせるにゃ~」
「ふむふむ。安心したり驚いたりする猫なんだよ」
「だからデータを取るにゃ~」
わしがノルンと喋っている間も、迷路を進んでいるメイバイとオニヒメは壁を右手に歩いて矢印を書いたりノートを取り、たまにわしチラッと見て来る。
その目は「手伝えっ!」と言ってるように見えたから、ノルンとのやり取りを早く終わらせたいが一向に終わらない。なので、せめてノルンの情報を引き出せないかとわしは頑張っている。
「てか、暇とか言ってたけど、ゴーレムに暇なんて概念あるにゃ?」
「そりゃあるに決まってるんだよ。ノルンちゃんは時の賢者様の最高傑作なんだよ!」
答えになっておらん……でも、ノルンは特別なゴーレムなのかな?
「それじゃあ、千年も一人で寂しかっただろうにゃ」
「千年? 寂しい……だよ??」
「ほら、ここって千年前に作られたにゃろ?」
「そうなんだよ? スリープモードで居たからわからないんだよ」
「にゃ? 年月の概念はないにゃ?」
「わからないんだよ」
う~ん……幸か不幸か、それともわざとそんな機能を付けていないのか。これだけ知能のあるゴーレムが一人寂しく千年も過ごしたとなると、どうなっておったか……
「寂しいとか悲しいって概念はあるにゃ?」
「言葉と感覚はデータにあるんだよ」
「にゃるほど……時の賢者はもう死んでるのはわかっているにゃ?」
「うんだよ。人間の寿命は長くて百年前後とデータにあるんだよ。それより倍も長く生きた時の賢者様は偉大なんだよ」
データはあるが、人間のような悲しみはないのか……うっ。なんだか悲しくなって来た。ゴ-レムに感情移入してしまうなんて、どうかしておる。
「なんで泣いてるんだよ?」
「にゃ~。ノルンちゃんはいい子にゃ~。にゃ~~~」
「ふむふむ。猫は喋っているだけで涙が出るんだよ」
わしが「にゃ~にゃ~」泣いていたら、メイバイとオニヒメが戻って来て怒られた。なので、ノルンとの話の内容を聞かせたら二人とも目を潤ませ、ノルンを励ましていたけど、ゴーレムではわし達の悲しみまでは伝わらなかった。
ノルンとの話は尽きないが、わしも出来る事をやりながら迷路を進んでいたら、リータ達から通信魔道具に連絡が来た。どうやらこの施設内は通信可能のようだ。
なので通信魔道具を繋いだら、当たりはリータ達。ゴールに着いたそうなので、わし達は元来た道を戻り、リータ達が残した矢印を頼りに合流するのであった。
「パパったら、ノルンちゃんとずっとお喋りしてるんだよ~」
「オニヒメ~? ノルンが悪いの知ってるにゃろ~??」
「ノルンちゃんだよ」
ゴールらしき壁に四角い穴の開いた場所でリータ達と合流したら、オニヒメがさっそくチクリ。ちゃん付けを強要するノルンは無視して、先程の会話を聞かせてあげたら、リータ達も目を潤ませていたのでわしの命は助かった。
「なんでみんな泣くんだよ……」
「ごめんにゃ。わからないんだよにゃ。それに、勝手にノルンちゃんをかわいそうに思ってごめんにゃ~」
「謝ってるのもわからないんだよ……」
機械的で孤独もわからないノルンに同情するのはお門違いだろうが、感情移入してしまっているので仕方がない。わし達は気を取り直して、フロアボスの部屋に入った。
「このフロアのボスはアイアンゴブリンだよ。まだ一回戦目だから弱いボスだけど、気を付けて戦うんだよ」
ノルン
「誰か見える人いるにゃ?」
「さっぱりニャー!」
「擬態してるみたいですね」
リータとメイバイだけでなく、誰も見えていない。モンスターまで真っ白なので、壁と床の白に同化していて見えないのだ。
「ほら? 来てるんだよ。パーティで協力して倒してもいいんだよ」
ノルンはどうやって見ているかわからないが、見えているらしい。
「あ、影があるにゃ。探知魔法ではあの上にゴブリンが居るんにゃけどにゃ~。とりあえず、わしから行ってみていいかにゃ?」
「「「「「ダメにゃ~」」」」」
「次は譲るから、にゃにとぞ!!」
こんな見えてもいない何かもわからない物体相手に、リータ達を戦わせるわけにはいかない。わしは心を鬼にして、皆に見えない速度で消えてアイアンゴブリンをネコパンチ。
かなり近くまで来ていたので、まずは吹っ飛ばしてやったのだ。その音で、皆はわしが立つ場所に気付いた。
「シラタマさん。そこで殴ったのですか?」
「そうにゃ。だいたい10メートルはぶっ飛ばしてやったんにゃけどにゃ~」
「うっ……そんなに近付いていたんニャー」
「これはマズイですね。様子を見ましょう」
「じゃ、ちゃっちゃっと仕留めて来るにゃ~」
リータとメイバイがようやくわしに譲ってくれたから皆も頷いたので、わしは心置きなくゴブリンに突撃。探知魔法を飛ばしながら相手取る。
う~む……侍の勘が働かん。殺意も意思もないんじゃ、この方法を使うのは無理なんじゃな。リータ達の前に戦えてよかったわい。
アイアンゴブリンは右手に持った棍棒を振っているが、小まめに飛ばした探知魔法で動きを予想しながらわしはひょいひょい避けてのネコパンチ。今度は少し手加減したので、さっきより半分後退させた。
かなり硬いんじゃよな~……色から察するに、こいつも白魔鉱で出来てるのは確実じゃ。次は気功を……
アイアンゴブリンが棍棒を振りかぶったところで一気に間合いを詰めて、気功ネコパンチ。一瞬で顔面と胸と腹に入れてやった。
亀裂が入って、ようやく黙視できる程度。リータ達が戦うには、せめて見える工夫をしてからか……そろそろトドメと行こうかのう。
またアイアンゴブリンが棍棒を振りかぶったら、わしは刀を抜いて通り過ぎる。その刹那、アイアンゴブリンは縦と横に切断され、崩れ落ちるのであった。
「わしにゃら余裕なんにゃけどにゃ~」
リータ達の元へ戻ったら、フロアボス攻略法の伝授。かなり戦い難いが、この程度ならリータ達でもなんとかなると言っていた。
「シラタマは強いんだよ。速さもついていけないんだよ」
わし達が喋っていたら、ノルンがパタパタと飛んで来たので手を前に出して肉球に乗せてあげる。
「分析は終わったにゃ?」
「何をやっているかわからないところがあったからまだなんだよ」
戦闘が終わってすぐにノルンが近付いて来なかったから予想を言ってみたら、当たっていたようだ。
「下のフロアの参考になったりするにゃ?」
「ノーコメントだよ」
「あ、これも当たってたんにゃ。じゃあ、出来るだけ情報を出さずにクリアしたほうがいいんだにゃ~」
「アホ面なのに、ホント賢いんだよ」
「ひどいにゃ~。これでもモテモテにゃ~」
もちろん女性に! モフモフされるだけじゃけど……あと、ワンヂェン以外の雌猫にもモテモテじゃけど、言い寄られても困るから威嚇して追い払ってるけど……
「それは100%嘘なんだよ。データには、人間の女性は時の賢者様のようなイケメンがタイプとなってるんだよ」
「本当にゃ~。リータとメイバイはわしの妻にゃ~」
「ちなみに私は愛人」
「あ……ありえないんだよ……猫と人間が……ピー、ピー。エラーエラー。しばらくスリープします」
「それはそれで失礼じゃにゃい??」
自己紹介で省いたリータ達の関係を教え、イサベレまで乱入したら、ノルンはフリーズ。わしの肉球の上で動かなくなるのであったとさ。
「とりあえず、先に進んでみようにゃ」
ノルンが役立たずになってしまったので、わしはリータ達を連れて入口とは逆に移動。途中にゴブリンの残骸があったので、皆の攻撃が通じるか少しだけ試してから一番奥にまで進んだ。
『おめでとうございます。次の小部屋に宝箱がありますので、忘れずに受け取ってください。先に進むか戻るかは、そこで審査員にお尋ねください』
アナウンスが流れると、わし達は何が貰えるのかと話し合いながら小部屋へ入る。そしてウキウキしながら真っ白な宝箱を開けたのだが……
「クリスタルスカルにゃ……こんにゃの入口に山程あったにゃ~!!」
残念な結果。しかし素材は高価な白ダイヤで出来ているので、わしは人数分のクリスタルスカルを、大事そうに次元倉庫にしまうのであったとさ。
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