166 デート其の五にゃ~


 デート さっちゃんの場合……



「東の森で、お泊まりしたい!」


 さっちゃんにデートに誘われ、何処に行きたいか聞くと、藪から棒にそんな事を言われた。


「さっちゃんは王女様にゃ。わしの一存では連れ出せないにゃ」

「それじゃあ、お母様を説得する! 説得できたら連れて行ってくれる?」


 さすがに危険な東の森で一泊する外出は、さっちゃんがいくら頼んでも、女王は首を縦に振らんじゃろう。


「それにゃらいいにゃ。でも、怒られたくないから、外出の日は女王に確認取るからにゃ?」

「うん! 絶対だよ!!」


 と、言うやり取りをして当日の朝、女王と謁見えっけんする。


「許可したわよ」

「にゃ……」

「ほらね~」


 嘘じゃろ? 絶対、許可が下りないと思っておったのに……。リータとメイバイにも、晩ごはん一緒に食べると言ってしまった。先日、アイノやイサベレの件で怒られたばっかりなのに……


「約束したのに、いまさら断るもり?」

「にゃ……行かせていただきますにゃ」



 こうして、さっちゃんのデートプランは実行される事となった。



 兄弟達も連れて、わしとさっちゃんは馬車で家に向かい、書き置きをして、離れから東の森の我が家に転移する。

 兄弟達は久し振りに帰った我が家が嬉しいみたいで、お墓参りを終わらせると、早々に走り去ろうとした。

 わしは兄弟達に縄張りから出ないように言い聞かせ、日が暮れる前には戻るように念を押す。そのせいで、「心配し過ぎ!」と、エリザベスにネコパンチをされてしまった。


 二匹が走り去る姿を見送っていると、さっちゃんが後ろから声を掛ける。


「二人とも嬉しそうね。やっぱり連れて来て正解だったわ」

「エリザベスとルシウスの為に、ここを選んだにゃ?」

「ううん。シラタマちゃんの、森での生活を見たかったの。どうやって暮らしてたの?」

「どうって……普通かにゃ? 狩りをして、食べて寝るにゃ。人間にはつまらない生活にゃ」

「え~~~! ぜったい変な事してると思ってたのに~」


 変って……わしは猫じゃぞ? 家のリフォームや巨大な獲物を狩っていたけど、猫なんじゃ。言っててなんじゃが、めちゃくちゃ変じゃな。


「じゃあ、森で普段やってた事を見せて!」

「う~ん……わかったにゃ」


 わしはさっちゃんの要望に応え、プランターで育てている香草の世話をし始める。すると、さっちゃんは面白く無いと言い出し、仕方がないからさっちゃんを抱き抱え、縄張りのパトロール。縄張りの外の植物の採取。鉱物の採取を見せる。

 それも最初は楽しそうに見ていたが、飽きたと言われ、コリスに会いたいとお願いされる。わしは止めたがしつこく揺すられ、渋々、キョリスの縄張りに向かう。


 到着すると、リス家族に念話を繋いで話をする。


「また人間を連れて来たのか、ワレー!」

「まあまあ。みんなに名前を付けてくれた子じゃ。大目にみてください」

「たしかに見覚えがあるな、ワレー」

「キョ、キョリス様、ご無沙汰しております」


 さっちゃんは連れて行けとうるさかったくせに、キョリスに緊張しておるな。まぁ十倍近く大きさが違うから、わからんでもない。ここは助けてやるか。


「ほら~。怖がっているじゃないですか~」

「それがどうしたんだ、ワレー! それより、何しに来たんだ、ワレー!」

「コリスと遊びに来たんです。コリス。さっちゃんと一緒に遊ぶか?」

「うん! あそぶ~。お父さんのいないところ、いこう!」

「あ! 待て……ワレー……」


 キョリスの制止を聞かずに、コリスはわしとさっちゃんを背中に乗せて走り出す。その後、コリスが疲れるまで遊びに付き合わされ、人間のさっちゃんはフラフラになっていた。

 コリスが遊び疲れると巣に送り届け、わしとさっちゃんも我が家に戻る。わし達が戻ると、兄弟達も我が家に戻っていて、日向ぼっこしていた。かたわらには、血塗れの大きな獲物も寝ていたが……。わしはそっと次元倉庫に入れておいた。



「疲れた~~~!」


 我が家の前の芝生に、さっちゃんは叫びながら倒れてしまった。


「だから止めたんにゃ」

「だって、コリスちゃんとの遊びが、あんなにハードだと思わないじゃない!」


 動物の遊びなんて、走り回るのが基本じゃろ? って、人間のさっちゃんにはわからんか。


「お腹すいた~!」

「すぐ準備するから、ちょっと待つにゃ。エリザベス、ルシウス。メシじゃぞ~」


 わしは兄弟達を呼ぶと、我が家の広いリビングに、次元倉庫からテーブルセットを取り出す。そして、皆のリクエストに応えて、森の生活で食べていた料理を並べる。


「どうにゃ?」

「う~ん……美味しくない」

「「にゃ~~~!」」

「さっちゃんと兄弟達が出せって言ったにゃ!」

「だって~」

「「にゃ~ん」」


 さっちゃんはいいとして、兄弟達にまで不味いと言われるとは思っておらんかった。ちょっとショックじゃ。お袋の味ならぬ、わしの味は懐かしくて美味しいんじゃないのか?


「「にゃ~!」」


 くそ! 兄弟達まで心を読みやがる。不味くて悪かったな! 城の味に慣れやがって!!


 わしは文句を言う兄弟達の為に、今度はエミリの料理を並べる。すると兄弟達はバクつく。


「さっちゃんも無理せず、こっちの料理を食べるにゃ」

「ううん。こっちでいい」

「そうにゃの?」

「シラタマちゃんの生態を、レポートにして提出しないといけないからね」

「にゃ、にゃんでそんにゃ事を……」

「お母様に出された、ここに来るための条件よ。きっと勉強の一貫ね」


 あ! だから小まめにメモを取っておったのか。猫の生態なら自由研究になりそうじゃが、わしの生態なんて異様過ぎる。わしの秘密を探りに来たんじゃなかろうか?


「このスープは、そこそこ美味しいわね」

「ああ。それはハンターから教えてもらったレシピで作ったにゃ」


 いま、わしの心を読んで話を逸らした?


「ハンターがシラタマちゃんを狩りに来たの? そのハンターはもう……」

「生きてるにゃ! 道に迷っていたところを助けただけにゃ。さっちゃんも会った事あるにゃ」

「わたしが?」

「猫争奪戦の打ち上げの時にいた、女の子五人にゃ。覚えてないかにゃ?」

「あの人達!? 昔から女好き……っと」

「それはメモを取らにゃくてもいいんじゃないかにゃ?」

「一番重要な生態よ!」


 いや、わしを探りに来たなら、強さの秘訣とかじゃないのか? あとは……やめとこ。さっちゃんも心を読むスキル持ちじゃから、考えるのも危ないな。


「……おしい」

「にゃ? また心を読んでたにゃ~!」

「そんにゃこと出来にゃいわ!」

「ほら! 口調がおかしいにゃ! 絶対出来るにゃ~。どうやってるか、教えてくれにゃ~」

「出来にゃいわよ!!」


 この後、にゃあにゃあと口喧嘩に発展し、エリザベスとルシウスにうるさいとネコパンチされたのであった。



 お昼を済ませたわし達は、やる事も無いので兄弟と追いかけっこや、じゃれあいを行う。


 おいかけっこは、さっちゃんを抱いたわしを兄弟達が追い掛ける。エリザベスが反則で【鎌鼬かまいたち】を放ち、ルシウスが【肉体強化】でわしを追い詰める。

 兄弟達の連携のせいで、ステルス機能付きのエリザベスを見失った。しつこいルシウスに岩場に追い詰められ、エリザベスに虚をつかれ、ついに捕まってしまった。


 捕まったわしは、攻撃魔法を使うのはズルいと異議申し立てをするが、エリザベスに「口答えするの?」と言われ、じゃれあいと言う名の戦闘が勃発する。


 さっちゃんの安全を確保すると、わしは変身魔法を解き、二匹と対峙する。


「わしに勝てると思っているのか?」

「そんなこと思ってないわよ。だから、ハンデをちょうだい」

「おう。いくらでもやるわい」

「じゃあ、魔法は禁止。あ、重くなる魔法があったわよね? あれは自分に掛けてね。それから円の中から出たら負けにしよっか?」


 エリザベスには、重力魔法バレておったのか。だからわしが重たいのが好きだと勘違いして、上に乗っておったんじゃな。やはりエリザベスは魔法に関して天才なのかもしれん。


 わしはエリザベスの注文した円を、キャットカップと同じ大きさで作る。土魔法で色の黒い土を集め、固めたから頑丈だ。そこに乗ると重力三百倍を掛けて準備完了。エリザベスとルシウスに念話で開始を伝える。


「さあ! かかってこい!!」

「オッケー! ルシウス。行くわよ!」

「おう!」


 開幕の狼煙と言わんばかりに、エリザベスの【鎌鼬】がわしを襲う。


 昔より威力が上がっておるな。捕まっていても、魔法のイメージトレーニングをしていたのかな? じゃが、この程度……


 わしは右前足を振るい、【鎌鼬】を爪で切り裂く。すると、その後ろからルシウスが現れる。


 ルシウスも捕らわれてヘタレになっていたけど、エリザベスにしごかれていたのかな? スピードが上がっておる。それとも【鎌鼬】のスリップストリームか?


 わしはルシウスの頭突きを、両手の肉級で受け止める。ルシウスはわしに受け止められても焦る様子もなく、連続でネコパンチを振るう。


 スピードが上がった? 【肉体強化】じゃな。これでもハンデのあるわしより遅いか。


 ルシウスの猛攻を肉球でさばいていると、エリザベスも肉弾戦に加わる。


 これは……イサベレの戦法。空中に出した風の玉を蹴って、多角的にわしに攻撃して来る。エリザベスの奴、イサベレの魔法までパクったか。

 ルシウスも【鎌鼬】を使って来たな。二人とも、わしのあげた魔道具を上手く使いこなしているみたいじゃ。


 わしは二匹の猛攻を、手だけでは足りないので、攻撃の軽いエリザベスの攻撃は二本の尻尾で難なく捌く。すると、エリザベスとルシウスは苦虫を噛み潰したような顔になって、動きが止まった。


「なんで当たらないのよ!」

「わはは。まだまだだね、君達」

「ちくしょ~」

「もうギブアップかね?」

「まだよ! ルシウス、アレやるわよ」

「アレ? 痛いから嫌なんだけど……」

「やらないと噛むわよ!」

「わ、わかったよ~」


 兄弟達は何をする気じゃ? ルシウスが嫌がっているから、ルシウスが痛い目にあうのはわかるけど、かわいそうじゃからやめてあげて欲しい。


 二匹の猫は縦に並び、ルシウスの肉体強化が整うと、エルザベスが【鎌鼬】を放つ。


 最初の攻撃と変わらんけど、これが合体技か?


 わしはエリザベスの【鎌鼬】を右前脚で切り裂き、消し飛ばす。すると、ルシウスの後方で風の爆発が起こる。その爆発に巻き込まれたルシウスは、肉体強化、スリップストリーム、爆発と、三段階で加速する事となった。


 うお! 速い!! が、まだ対応可能。ルシウスが痛く無いように受け止める事は……やるだけやってみよう。


 わしは両前脚を前にかざし、ルシウスが当たった瞬間に速度に合わせて腕を引き、やんわりと受け止める。だが、これだけでは威力を完全に消し去る事は出来ない。


 なかなかの威力じゃな。重力魔法で1トンを超えるわしが、少し動いた。重力魔法を使ってなかったら吹っ飛んでおったのに、惜しかったな。


「お~い。ルシウス。生きてるか?」

「もうダメ。ガク……」

「大丈夫そうじゃな」

「にゃ~~~ご~~~!!」

「へ?」


 突如響くエリザベスの咆哮ほうこう。エリザベスの口に魔力が集まり、おっかさん最強魔法がわしとルシウスを襲う。


 エリザベスさん! それはアカン! 規模は小さいけど、ルシウスが喰らったら死んでしまう。う~ん……負けを認めるか。


 わしは【竜巻】を作り、エリザベスの【咆哮】を巻き上げ、エネルギーを霧散させた。するとエリザベスは、嬉しそうに飛び跳ねる。


「あ~! 反則よ! わたしの勝ち~~~!!」


 いや、ルシウスと共闘しておったじゃろう? しかも、ルシウスの犠牲によっての勝ちじゃ。せめて、私達の勝ちって言ってやれ。じゃが、二人の成長は嬉しい。


「うん。降参じゃ。おっかさんの魔法まで使えるとは、お見逸れしました」

「エッヘン!」


 わしが褒めるとエリザベは胸を張り、子供の頃の口調に戻った。


「フフフ」

「なによ~」

「昔のエリザベスみたいじゃと思ってな。ご褒美じゃ」

「あ! やめて……モフモフ~~~」


 わしはエリザベスに抱きつく。少し抵抗したが、すぐに昔のモフモフ好きに戻った。二匹でスキンシップを取っていたら、ルシウスも仲間に入りたそうにしていたので、手招きし、三匹でじゃれあうのであった。



「そろそろ帰ろうか」

「そうね」


 三匹でじゃれあっていたら日が暮れて来たので、わし達は帰宅しようとする。しかし、少し歩いたところで、三匹同時に足が止まった。


「何か忘れているような……」

「たしかに何か……」

「「「あ!!!」」」


 さっちゃんの安全の為に、のぞき穴を付けた土魔法【お茶碗】に閉じ込めていたわしは、こっぴどく怒られた。そのせいで、さっちゃんが帰るまで許可なく猫型に戻る事は禁止させられた。


 ご丁寧に一筆書かされて……

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