300 ビーダールでの仕事にゃ~


「「「「うわ~~~!」」」」

「空を飛んでます~」


 昇級試験の翌日、わし達は空の旅を楽しむ。同乗者は、リータ、メイバイ、コリス、ワンヂェンの、猫の国組。さっちゃんと愉快な仲間達と兄弟達。アイパーティとアダルトフォー、プラス、エミリだ。

 大人数なので、飛行機を横に大きくしたのに席が足りなくなり、後部を少し伸ばす事となった。

 皆の仕事と女王の呼び出しもあるので、三泊四日のスケジュール。アダルトフォーは、わしが帰って来た時の為に、いつでも休みが取れるように今まで休みを少なくしていたようだ。


 三泊四日でもやる事が多いので、時間が足りなくなりそうだからスピードアップ。空気抵抗の少ない上空一万メートルの高度をぶっ飛ばしてやった。

 初めて乗る者もいるので機内はうるさいが、リータとメイバイにはキャビンアテンダントになってもらっているので問題ない。耳が痛くなる者がいれば、耳抜きのレクチャーをしてくれている。



 皆の騒がしい声を聞きながら二時間ほど飛行すると、ぶっ飛ばした甲斐もあり、ビーダール王都が見えて来た。


 着陸すると皆を降ろすが、最初は暑さに驚き、旅行気分が味わえて楽しそうだったのに、すぐに暑いと泣きついて来た。

 「ギャーギャー」うるさいので、準備していた氷魔法の入った魔道具を配布する。これでマントを羽織れば、外気より涼しくなって快適なので静かになった。……全員猫耳が付いている事は無視した。

 コリスとワンヂェンはそれでも暑いようなので、兄弟達と同じく【雪化粧】の入った魔道具を付けさせ、魔力が足りなくなったら自分で補給するように言っておく。


 それからバスに乗り継ぐが、こちらも満員なので、二号車を取り出して連結する。先頭に連結した二号車には、さっちゃん達とワンヂェンを乗せ、ビーダール王都に到着すると、門兵に挨拶する。

 ここで人数分の入国税を払おうとしたら、白猫効果でフリーパス。ガウリカからも話は通っていたので、バスや車も調べられずに中へ通され、わし達を乗せた車は馬に乗った衛兵に案内してもらい、ノロノロと街中を走る。


 その車内では……


「あ! またシラタマにゃ~」

「あそこにもいるよ~」


 ワンヂェンとさっちゃんが、なにやら「にゃ~にゃ~」と盛り上がっている。


 なんでこんな事に……また丸い猫の石像がいやがる。前に、マントを届けに来た時には目に入らなかったのに、その時にもあったのか? うぅぅ。こんな所にもわしが増殖してる~!!


「にゃあにゃあ、シラタマ~?」

「にゃあにゃあ、シラタマちゃ~ん?」

「にゃあにゃあ、うるさいにゃ~!!」


 うるさいと言っても、質問はやまない。何故、猫又石像があるか聞かれても、しらんがな。バハードゥに聞いてくれ。だから、「にゃ~にゃ~」うるさ~い!


 結局、わしも「にゃ~にゃ~」言って喧嘩になり、ソフィ達が耳を塞いでいた。


 そんなうるさい中、女王が予約してくれていた高級宿に到着すると、猫の国組をバスに残して全員を降ろす。そしてチェックインを済ませたら、再びバスで出発する。

 乗組員は、さっちゃんと愉快な仲間達と猫の国組。このメンバーで城に乗り込むが、王都の門とは違い、城の門ではバスから全員降ろされて、黒猫と白リスが検疫に引っ掛かった。

 ひとまずどちらも危険は無いと説得を繰り返していたら、ビーダールの王女、ハリシャが駆け寄って来た。


「猫様!!」

「ハリシャ。久し振りにゃ~」

「わ! 黒猫……かわいいリスちゃんもいます!!」

「にゃ~? かわいいにゃろ~? でも、にゃんか通してくれないにゃ~」

「えっと……そりゃそうですね」


 ハリシャも、コリスのかわいさ以外にも気付いた事があるようだ。だって、デカイもん。だが、わしが居るから安全と主張し、なんとかバハードゥと会える事となった。


「まぁシラタマが、この国に来てくれるのは嬉しいのだが……」


 応接室に案内されたわし達であったが、いきなり愚痴を聞かされた。なんでも、コリスを城に入れるのは困るのだとか。

 わしは、白い猫ならもう入れているんだからいまさらだと釈明し、さらに白象だってたてまつっているのだから、問題ないと力説してコリスを守る。


 わしの態度を見てコリスは抱きつくが、いまはやめてくれ。わしが襲われたと思って、バハードゥがビックリするからのう。


 わしはコリスの気持ちを最優先にして撫で回し、「ホロッホロッ」と機嫌が良くなったところで話を再開させる。


「それで、その黒猫は……」


 ワンヂェンのせいで出来なかった。なので、自己紹介を先にして、今日来た目的も話す。


「我が国と貿易したいと言う事は……」

「そうにゃ。わしが猫の国の王。シラタマ王にゃ」

「「ええぇぇ~~~!」」


 と言う訳で、しばし落ち着くのを待って、ようやく話を再開する。


「砂糖とスパイスを、売ってくれないかにゃ?」

「ああ。シラタマの国になら、売ってもかまわない」

「ありがとにゃ~」

「その前に、友好国の調印をしよう」

「あ、そうだにゃ」


 ひとまず書類が出来上がるまで、昼食をとりながら待つ事となった。



 コリスとワンヂェン、兄弟達は辛い食べ物が苦手みたいなので、辛くない料理を催促し、その間も、食べながらバハードゥと話を詰める。その時、アイラーバの近況を聞くと、どうやらアイラーバのせいで、隣国と摩擦が起きているようだ。


「ふ~ん。アイラーバを戦争の道具にするかもと、周辺国が怖がっているんにゃ~」

「ああ。アイラーバ様を知られてからと言うもの、他国との話し合いが上手くいかなくなっている」

「バハードゥは、そんにゃ事しないにゃろ?」

「当たり前だ。過去の罪に謝罪している最中なのに、人間の戦争に巻き込むわけがないだろう」


 アイラーバを使えば、易々と国を落とせるのに、やはりバハードゥは信用するに足る王様じゃな。さて、何かいいアドバイスは……


「でしたら、猫の国のように、自国を戦争が出来ないように法律で縛ってしまえばいいのではないですか?」


 わしが対策を考えていると、さっちゃんがわし達の話に入って来た。


「さっちゃん?」

「あ、ごめんなさい。お母様に、ビーダールが他国から責められているから、助言してくるように言われたのです」


 おお! さっちゃんが、王族らしい事をしておる。言葉遣いまで変わって、やる時はやる子だったんじゃな。あ、脇腹をつつかないで……


「猫の国の法律とは?」

「わしの国は、法律で侵略戦争を放棄しているにゃ。だから、絶対に他国を攻撃できないにゃ」

「なるほど……」

「まぁ隣国からしたら信じられないだろうから、気休め程度だけどにゃ」

「気休めでも、多少は話がしやすくなるかもしれないな。その法律を教えてくれ」

「わかったにゃ~」


 バハードゥはわしの説明を熱心に聞き、今後、法律を他国に宣言すると言っていた。これで懸案事項がなくなったと思い、海の話を振ると、道は開通して街の建設をしつつ、塩田や漁業に着手したらしいが、まだ問題があったようだ。


「海に化け物にゃ~。アイラーバでも無理にゃ?」

「それが、うにょうにょして気持ち悪いと言って、戦う事は出来ないらしい」


 うにょうにょ? アイラーバは我が儘なところがあるから、見た目で逃げ出したのか。


「見た目は、どんにゃ奴にゃ?」

「アイラーバ様より大きな白い生き物だと聞いている。ただ、遠巻きに見たらしいから、ハッキリとした特長はわからないんだ」

「白でアイラーバよりデカイにゃら、強そうだにゃ~」

「近く、軍を派遣する予定だが、どうなる事か……」


 貿易品のスパイスの中に、塩も含まれているんじゃけど、海にそんな奴が居たら買うのは難しいか。それに軍隊では、多大な損害が出そうじゃな。


「じゃあ、わしが退治するにゃ」

「いいのか!?」

「わしはハンターだからにゃ。緊急依頼で出してくれにゃ。ちにゃみに東の国との協定で、我が軍は戦争に協力しにゃいけど、白い獣の討伐はわしが協力する事になってるにゃ」

「それって、ビーダールでも適用してくれるのか?」

「今回は先払いにゃ。だから、借りは返してくれにゃ~」

「ああ! わかった」


 友好条約の締結は後回しにし、わし達はハンターギルドに向かう。さっちゃんはついて来たそうだったが、バハードゥと話があったようなので、自制を効かせて残る事となった。

 城から出るにはマスコット三匹が目立つので、変身魔法を使ってもらい、街を走るが、わしだけそのままなので拝まれた。ワンヂェンの笑いがムカつくからやめて欲しい。

 そうして高級宿屋に寄って、店主に言伝を頼んでまた走る。拝まれて恥ずかしい思いをしながらギルドに入ると猫騒動。無視するしかないので、受付で急かして依頼を受ける。

 そんな中、アイパーティもギルドを見学していたらしく、からまれて連れて行く事となった。



 街から出ると飛行機に乗って離陸。夕食に間に合うようにぶっ飛ばし、砂浜に到着すると、白い生き物を探す。


 う~ん……空からもそれらしい生き物はいなかったんじゃけど、どこに居るんじゃろう? その前に、アイ達を止めないとな。


「動くにゃって言ったにゃ~!」

「「「「「え~~~!」」」」」

「『え~!』じゃないにゃ~! 危険があるんにゃから、遊ぶにゃらそのあとにゃ! コリスもワンヂェンもにゃ~!!」

「「「「「え~~~!」」」」」


 皆、砂浜から海に駆け出そうとしたので止める。だが、走って行ってしまった……が、全員こけた。わしとリータとメイバイは追い付いて、わしのそばから離れない事を条件に、海に近付く事を許可する。

 わし達はゆっくり波打ち際に歩き、辿り着くと、皆には海に絶対に入るなと念を押し、わし一人で素っ裸になって海に入る。


 探知魔法オーン! ……どこじゃ? あ、これか。遠くに居るな。たしかにデカイ。足の数は違うけど、形状から察するにアレじゃろうな。

 しかし、どうやって戦おう? 向こうまで攻めると、海上で戦う事になってしまう。水を操作しながらじゃから、わしに不利になる。こちらまで来てくれたら手っ取り早いんじゃが……

 チッ。またあいつらは……


「だから勝手にゃ行動はとるにゃ~!」

「「「「「え~~~!」」」」」


 わしは波打ち際で水かけっこをしている皆に怒鳴る。すると、残念そうな声を出し、アイが意見する。


「猫ちゃんだけズルいわよ~」

「この先に、30メートル以上はある生き物が居るにゃ。遊んでいたら、死んじゃうにゃ!」

「30メートル!?」


 わしの言葉に、皆、唾をゴクリと呑み込む。


「浮かれる気分はわかるけど、仕事なんにゃから、気を張ってくれにゃいとダメにゃ。それとも、また全滅したいにゃ?」

「あ……そうね。ごめんなさい。みんな、猫ちゃんの言う通りにしましょう」


 アイパーティは、わしに助けられた時の事を思い出したのか、素直に海から上がって靴を履く。

 ワンヂェンとコリスは言ってる意味がわからないらしく、海から上がらないので、ワンヂェンはリータに首根っこを掴まれて連れ去られて行った。


 コリスは……強いからいいんじゃ! だから、そんな恨めしい目で見ないで!!


 皆のジト目がいたたまれないので言い訳していたら、皆がわしの後ろを指差し、あわあわしだした。


「どうしたにゃ?」

「「「「「なんか出た~!!」」」」」

「にゃ~~~?」


 わしが振り返ると、そこには巨大で白くて丸い物が浮かんでいたのであった。

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