617 本物の神様は違うにゃ~
「とりあえず、こんにゃもんかにゃ?」
話し合いの末、ウサギの街の産業は三本柱。観光業、バーボン製造業、ウサギの毛の加工業だ。
観光業は移動費が高いからそこまで多くの旅人は来ないと思うが、やってみない事にはわからない。だが、製造業もたいした量は作れないと思うので、やって損ではないだろう。
バーボン製造業は、猫の街でウイスキーを作っている者を派遣する。その者とウサギ族の担当者で、うまいバーボンが出来てから量産に持って行く予定だ。
最後の加工業は、どれぐらいの毛が集まるかわからないので、小規模から始める。それに、どんな商品に向いているかわからないので、一年後を目処に開発をして行く予定だ。
あとはお金の話。当然のようにウサギ族はお金を使っていなかったので、これは猫の街初期に使った制度があるから、ボチボチ普及させる事で落ち着いた。
「あ、それとにゃ。ウサギの街には寄付金が入って来るからにゃ。覚えておいてくれにゃ」
「寄付金……ですか?」
「猫の街で働くウサギ族からにゃ。みんにゃ故郷を良くしたいと、給金から払ってくれるんにゃ」
わしが額を言ってもよくわからないようなので、大まかな食料の量を説明したら、ヨタンカは焦り出した。
「そ、そんな……貰えません! 移住した者には、そのお金で幸せに暮らすように言っておいてください!!」
「心配するにゃ。一人にしたら微々たる額にゃ」
「そう……なのですか?」
「猫の街で売っている一番安い食べ物程度にゃ。人数が多いから、額が大きくなっているだけにゃ。本当は、自分達はこんなに幸せに暮らしているのは悪いとか言って、給金の半分を送ろうとしていたんだからにゃ。ウサギ族って、故郷を愛し過ぎにゃ~」
「うっ……うぅぅ。皆に、どう感謝していいか……うぅぅ」
「これも、ウサギ族の為に尽力したヨタンカの力にゃ。その力をこれからも振るえばいいだけにゃ。頼んだからにゃ」
「はい……うぅぅ」
涙するヨタンカの復活にはしばらく掛かりそうだったので、わしはヨタンカの肩をポンっと叩いて席を外すのであった。
手が空いたわしは、エルフ夫婦と面談。地図を見ながら話し合う。
話し合いの内容は、メサ・ヴェルデ遺跡の調査。狩りのついでに、他にも遺跡が無いか探してもらっていたのだ。
そもそもメサ・ヴェルデ遺跡は、広大な敷地に岩窟住居が多数存在している。空から発見するには難しいので、航空写真を大きな紙に転写して地図にし、調査した場所は塗り潰すように指示を出しておいた。
こんな調査をしている理由は、わしが見たいから!
……ってのもあるが、口減らしで新天地に旅立ったウサギ族が、ひょっとしたら他の岩窟住居に居着いて生き残っている可能性がゼロではないからだ。
残念ながらいまのところ見付かっていなかったが、何年掛かっても調査は続けさせるつもりだ。
わしのポケットマネーをいくら注ぎ込んでも!!
それほどわしは、ウサギ族を大事に思っているのだ……
「ウサギさんが増えるのですか!?」
「やったニャー!!」
「う、うんにゃ。かもしれないにゃ……」
リータとメイバイが、わしの心を読んでツッコンでくれないので心苦しい。
本当は、遺跡が見たいだけなんじゃ……ゴメンよ……
エルフ夫婦には猫の街のトウキン宛の封筒を何通か預け、生き残りのウサギを見付けたら手紙を送るように言っておいた。わしが外出が多いからもあるが、この二人は英語を使えないので、翻訳が必要だからだ。
それに、ウサギ族が迎えに行ったら敵対するかもしれない。恨まれている可能性もあるので、わしが間に入ったほうが賢明だろう。
これは、けっして遺跡を早く見たいわけではない。マジじゃからな?
エルフ夫婦には任期が終わったら、後任にも全ての仕事を伝えるように指示を出す。奥さんはモフモフパラダイスから帰りたくなさそうだけど……もう半月ほどしかないけど、帰ってくれるかな?
エルフ夫婦は少し不安だけど、ヨタンカと少し話をして猫の国に帰り、二日のお休み。休みと言ってもアメリカ時間に体内時計を合わせるリータ達だけ。わしは半日も仕事をして惰眠を貪る。
「暇なら訓練見てくれませんか?」
「お昼寝ばっかりしてたら、また侍の勘が鈍るニャー」
いや、リータ達は訓練ばかりして、休みを取らなかった。必然的に、わしも半日は休みが潰れたので、トータル一日しか休みが取れなかった……
二日の訓練と休日の後、イサベレ含む猫パーティで、双子王女に旅立ちの報告。それからウイスキー作り担当の猫耳族の女性と、裁縫関係の仕事をしていた猫耳族の女性を連れて、三ツ鳥居集約所からウサギの街に移動。
猫耳族の女性二人をヨタンカに紹介し、ウサギの街の専門職とも顔繋ぎ。二人用の家に案内したら、わし達は別荘にて一泊。
ちなみに猫耳族には男性を発注したのだが、女性が断固として行きたいとなったらしい。理由はもちろんウサギパラダイス。尻尾や耳がモフモフしてるくせに、全身モフモフも好きみたいだ。
その夜、別荘の寝室で明日からの旅の英気を養おうと全員でゴロゴロしていたら、リータとメイバイが楽しそうに喋っていた。
「東に何があるのでしょうね?」
「神様のことだから、またモフモフと出会えるんじゃないかニャー?」
「さあにゃ~? でも、あの二人のことにゃ。絶対に面倒事にゃ~」
「「たしかに……」」
リータだけでなく、最近ツクヨミのせいでうなされる事が多いメイバイまで肯定している。わし達が暗い顔をしていると、神様の話を唯一知らないイサベレは疑問を口にする。
「神様って、なに?」
「知らないほうがいいにゃ」
「教えて。じゃないと……」
「脅すにゃ~!」
イサベレは卑猥な手付きで脅して来るので、仕方なくわし達が神様に取り憑かれて困っていると説明したが、信じてくれない。
「ま、信じないほうが身の為にゃ。にゃ?」
「はい! 絶対に会いたいなんて思っちゃダメです!!」
「毎日愚痴を聞かされたら、ノイローゼになるニャー!!」
「パパ達、すっごく苦しそうにしてるから知らないほうがいいと思う」
「たべれないよ~?」
わしがリータ達に話を振ると、リータ、メイバイ、オニヒメ、コリスが止めてくれた。
ちなみに以前オニヒメにも聞かれたから同じように止めたら、わし達のうなされ方が酷いので、安眠できないなら知りたくないとのこと。コリスは食べ物じゃないから興味なし。
しかし、わし達がこぞって止めるので、逆に信用する事になったイサベレ。わしの下腹部をわさわさしようとするので魔の手をぺちぺち叩いて説得していたら、メイバイが一柱の名をポロッと言ってしまった。
「ツクヨミ様……」
「にゃ!? 絶対に会いたいなんて思うにゃよ!」
「おおお、思わない……」
「マジで知らないからにゃ~~~!!」
たぶんもう手遅れ。イサベレは口には出さなかったが、心の中で強く願ってしまったのだろう……
イサベレの夢の世界にアイツが降臨した。
「呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャ~ン! イサベレさん。僕があなたのアイドル、ツクヨミです! 初めましてのあなたには、これを贈りましょう!!」
今回は一般男性ぐらいの背丈のツクヨミだ。そのピカピカ光るツクヨミが手をかざすと、イサベレの左手薬指に嵌められた指輪が白銀に輝いた。
「知らない人が夢に……」
イサベレはまだ思考が追い付いていないので、ツクヨミと指輪を交互に見ている。
「それを使って、東の国にもツクヨミファンクラブを作ってくださいね! 作らないと、
しかしツクヨミはお構いなし。愚痴が始まってしまった。それも一向に止まらないので、イサベレは早くもツクヨミへの信仰心は無くなって、第三者に助けを求める。
「ダーリン……この愚痴、いつ終わるの??」
「にゃんでわしだけ巻き込まれているんにゃ~~~!!」
そう。わしがイサベレに襲われるという怖い夢を見ていたら、ツクヨミという悪夢に飲み込まれたのだ。
「そりゃイサベレさんとの繋がりが無かったので、シラタマさんの夢を繋げましたからね。謎も解けたようですし、それよりも愚痴を。
「そんにゃことより鬼化の説明をしろにゃ~」
「
「もう帰ってくれにゃ~~~」
わしの質問には答えてくれないので半べそで祈りを捧げても、ツクヨミは帰る素振りを見せない。なんならお茶やお菓子まで出て来たので、イサベレと一緒にズズズッとすする。
「それで……この愚痴、いつになったら終わるの?」
「いつもはそろそろ二柱が乱入して終わるんにゃけど……」
「フッフ~ン。侵入の痕跡を完全に消しましたから、スサノオも姉さんも、まだ気付いていないようですね。
「よ、よけいにゃことを……」
アマテラスとスサノオの助けは来ないと知って絶望するわしであったが、なんだかホッとしている自分もいる。
よくよく考えたら、神頼みしても夢の世界が崩壊するだけ。それならば、人間を頼ったほうがよっぽど平和的に解決してくれる。
「リータ~! メイバ~イ! 助けてくれにゃ~~~!!」
わしの心からの祈りは二人に届き……
「
「もう一時間は聞いてるんだけど……」
「諦めたにゃ」
いや、届くわけもなく、ツクヨミの愚痴を永遠と聞かされるのであった。
それからさらに一時間……
「待ってにゃした!!」
アマテラスとスサノオの乱入だ。
「アマテラス様! スサノオ様! やっちゃってくださいにゃ~~~!!」
「いや、これ、ダメでしょ!? ダーリンも走って~~~!!」
夢の世界は三柱のどつき合いの喧嘩で、空間に多数の亀裂が入って、てんやわんや。
ツクヨミの愚痴にムカついていたわしは近くで応援していたのだが、めちゃくちゃ焦ったイサベレに首根っこを掴まれて逃げ惑うのであったとさ。
「ごめん……」
夢の世界から生還したイサベレは土下座。しかし、わしに謝ったところでもう遅い。
「まぁ一人だけレアアイテム貰ってなかったんにゃし、結果オーライにゃろ」
「あ、これ?」
「その指輪、とんでもなく強くなってるから気を付けて使うんにゃよ」
「うん……あんな地獄、一回で貰えたら安いもの」
「……誰が一回で終わると言ったにゃ?」
指輪を見て微笑んでいたイサベレは、ギギギっと首を回してわしを見る。
「ま、まさか……」
「それじゃ、おやすみにゃ~」
あんなに止めたのに、わしだけ巻き込まれたんだ。イサベレの悪夢なんて知らんがな。
こうしてツクヨミは、イサベレの夢の中にもちょくちょく現れて愚痴るようになったとさ。
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