616 クリフ・パレスの改造にゃ~


 ポポル親子の送別会が終わった翌日……


 三ツ鳥居集約所から、クリフ・パレスに移動する。今回のメンバーは、イサベレを含む猫パーティ。ポポル親子プラス、カレタカと代表と三十人のウサギ。さらに、狩り部隊からソウハと女性三人。


 この大量のウサギは、これからクリフ・パレスで働く職員。猫の国の料理に心を折られず、故郷を良くしたいと誓った精鋭だ。それらを指揮するのはカレタカだけど、二人の代表の補佐役として頑張ってもらう。


 ソウハはと言うと、誰かアメリカ大陸で狩りを教えてくれる人を募集したら、一番に手を上げたから連れて来た。どうも、西の地に居ない獲物を狩りたいようだ。

 猫の街狩り部隊トップ自らの出陣に少し迷ったが、猫の街はソウハの弟子みたいのがいっぱい居るから大丈夫らしい。

 まぁソウハが居なくても、ハンターギルドから買えば獣に困らないので反対する必要はないだろう。三人の女性とハーレム生活を送りながら、しばらく常駐してもらう。女性はウサギハーレムが目的だと思うけど……


 大人数だったが三ツ鳥居を走って通り過ぎると、制限時間以内に、無事、クリフ・パレスに到着。アメリカ時間の朝にやって来たのだが、ちょっと前まではウサギだらけだったのに、ウサギっ子ひとり見当たらないので歩きやすい。

 ゾロゾロと歩いてヨタンカの家に着いたら、連れて来た者の役割の説明。この辺はカレタカに任せて、わし達は別行動。

 狩りに行きたい人はポポルを連れて行くように頼んだら、ウサギ以外の人は消えてしまった……


「コリスはいい子だにゃ~。お菓子あげるにゃ」

「やった! ホロッホロッ」


 コリスは人ではないから消えていなかったので、めっちゃ褒めて撫で回してやった。若干、お菓子が目的な感じもしたけど、気のせいだろう。

 本当はリータとオニヒメにも残って欲しかったのだが、居ないものは仕方がない。後悔するぐらい、コリスを褒めてやろう。


 リータとオニヒメが必要だった理由は、クリフ・パレスの改造。ヨタンカには指示を出していたのだが、魔法使いが少ないので作業が遅れていたのだ。

 この素晴らしい遺跡の外観はそのまま残したいので、わしとコリスは一軒一軒家に入って、小分けされ過ぎた壁や扉や床を取り払う。ついでに強化して、広々として安全な家に作り替えた。

 これは、クリフ・パレスが千人規模の適正人数に戻ったから、小分けにする必要が無いからだ。ウサギが増えたら猫の国に送ればいいだけなので、その時が来たらまた話し合って行く予定だ。


 コリスと一緒に作業を進めるが、なにぶん壁や扉や床が無駄に多いので作業がなかなか進まない。ランチを食べたところで、コリスに限界が来てしまった。


 飽きたの? もうちょっと頑張ろうよ~。メガロドン食べたら頑張れそうな気がする? みんなには内緒じゃぞ??


 エミリ特性メガロドンバーガーを食べたコリスはご満悦。でも、集中力がなくなって作業スピードは半減。これでは今日中に終わらないので、別作業に変更。

 空き家を改造して王様が滞在する別荘を作ったら、コリスはベッドでお昼寝。わしも寝たいところだが、頑張って作業の続行。


 兵士駐屯所も空き家を改造し、ラビットランド2は壁をくり貫いて作ってやった。このラビットランド2は、猫の街にある物と似ているが、二階のVIPルームは無し。旅行者の為に解放する予定だ。

 ただ、旅行は一年後を目途に考えているのでしばらくは出番が無いから、ヨタンカにはもしもの為の避難所に使うように言っておいた。



 役場改造も終わった頃には日が暮れて来て、狩りに出た者が戻って来た。けっこうな量の収獲で、ウサギからチヤホヤされているようだが、わしは無視。コリスばかり撫で回す。


「なんで口をきいてくれないんですか~」

「ウサギさんに嫉妬してるニャー?」

「パパが拗ねてる……」


 リータとメイバイに何を言われようと、わしはコリスを撫で回す。オニヒメに言われても、ここは断固として譲れないのだ!


「リータ達にはこっちを手伝うように言ったにゃ~。そのせいで今日中に終わらなかったにゃ~」

「「「……あっ!!」」」


 口に出して、やっとわしが怒っていた理由がわかった三人。誠意ある謝罪と撫で回しをして来たが、突っぱねると死ぬほどモフられるだけだから、わしは許すしかなかった。


 今夜は、猫の国加入式典とクリフ・パレス改造完成披露式典を行う予定だったが、予定は狂ってしまったので、加入式典と大猟を祝しての宴会だ。


「え~。長らく掛かった移住は滞りなく終わり、ここを正式に猫の国とするにゃ。街の名前はウサギの街にゃ。みんにゃで猫の国を盛り上げてくれにゃ~。かんぱいにゃ~!」

「「「「「かんぱいにゃ~!!」」」」」


 今日は、お酒やジュース、その他料理はわしの奢りだ。めくるめく猫の国料理を堪能するウサギ達は満面の笑み。その料理を作っているのもウサギ。料理教室で習ったので、そこそこの物が作れるのだ。

 ちなみに街の名前の由来は、リータ達の様々な案をぶっ潰して決めたもの。「ウサギと猫の街」じゃ、意味不明なんじゃもん。


 わしたち猫ファミリーは、ウサギの輪に近付いては声を掛け、感謝の言葉を受け取る。その時、猫の国に移住したいと直訴するウサギがいた。理由は料理がうまいから……

 その者には、これから猫の国から食材が運ばれると安心させる。しかし、タダではない。頑張って仕事をすれば、美味しい物が食べられると言っておいた。

 これらはすぐにウサギ達に広まり、わしへの忠誠心は爆上がり。ヨタンカみたいに神様とわしを崇め奉あがめたてまつるので、王様と呼べと怒った。


 でも、陰では「短い耳の神」と呼んでるらしい……。でもそれって、悪口じゃなかったの?



 一通り回ったらヨタンカ達の場所に戻り、世間話。カレタカから聞いたであろう猫の国の暮らしをどう思ったか質問。おおむね高評価……と言うか高すぎる。


 神の国じゃなくて猫の国な? 猫と書いても神と呼ばないからな? 死んだら猫の国に来れないからな! いや、マジで!!


 ヨタンカは妄信的すぎて、ちょっと怖い。これは早目に信仰心を削がなくてはならないだろう。


 猫会議の際には、長期滞在させてわしの生態を見せたらいけるかな? 仕事をしないところや、リータや双子王女に怒られているところを見せたらなんとかなるじゃろう。


 ヨタンカの話を聞いたら、次はポポル。狩りの感想を聞いてみた。


「黒い獣は強かったですけど、なんとか倒せました……」

「にゃ? いい成果にゃのに、にゃんで暗い顔してるんにゃ??」

「だってリータさん達は一発なんですも~ん」


 どうやらポポルは、猫パーティのマスコットとして連れ回されたようだ。そこでオニヒメがポポルでも倒せそうな黒い獣を当てたらしいが、本当にギリギリで倒したらしい。

 ポポルも最初は浮かれていたようだが、その獲物より、倍、三倍と大きな黒い獣を一撃で倒して行くリータ達を見て、三本目の鼻っ柱も叩き折られて自信喪失なんだって。


「わし達が異常なだけにゃ。明日はソウハの組に入れてもらえにゃ~」

「はい……」


 ポポルと話していたら、母親のルルもめっちゃわしにスリ寄って来たが、わしをたぶらかそうとする雌兎めうさぎは、モフモフ罪でメイバイに逮捕された。

 たぶん罪をでっち上げれば、撫でてもいいのだと思って警察のような事をしているのだろう。ちょっと職権乱用だが、わしが助かるから黙認している。


 こうして猫の国加入式典の宴は笑い声が絶えず、夜は更けて行くのであった……



 翌日は、リータ達も家屋の改造を手伝ってくれたので、わしも少し余裕が出来る。なのでソウハ達には出勤前に家の使い心地を聞き、ウサギ達からも聞いておく。

 まだ一日と言う事もあってよくわからないらしいが、不便さは感じなかったようだから、このまま続行。リータ達は壁と扉の多さに苦労しているが、作業員が増えたので着々と進んでいる。


 リータ達も慣れて来ると、わしは違う仕事。ずっと気になっていたクリフ・パレスまでの道の整備に着手した。

 ほぼ山登りの道では、滑落事故で死ウサギが出てしまう。そんな危険な道を、ウサギ達は毎日上り下りするのだ。

 ここは安全に出勤してもらえるように、手摺付きのなだらかな階段に変更。何度も切り返しする踊り場を付けたから、転んでも一番下まで落ちる事はないだろう。


 階段を設置したら、元の仕事に参加。リータ達はてこずっていたようだが、オニヒメが居るせいかコリスがやる気に満ちていたので、昼までにはクリフ・パレスの改造が終わった。



「これでしばらく様子を見てくれにゃ」

「はは~。モグモグ」


 昼食の席でヨタンカに報告をしたが、食べながらでもわしへの崇拝は止まらない。まぁウサギ族の中でも群を抜いて細いのだ。それぐらいの不敬は許してやる。すぐに死なれてはわしが楽できんからな。


 お腹がいっぱいになったら、これからのこと。ウサギの街をどうやって発展させて行くかだ。


「正直、産業がにゃにもないんだよにゃ~。せいぜいバーボンぐらいにゃ」

「も、申し訳ありません……」

「観光客は来てくれると思うけど、猫の街でも同じ事をしてるから少ないだろうしにゃ~」

「そうですか……我等は神様の役に立てないのですか……」

「う~ん……」


 皆でウサギ族発展を話し合っても、たいしてアイデアが出て来ない。ヨタンカも謝るだけでアイデアを出してくれないので、ふと頭に浮かんだ事を口にする。


「ウサギ族って、夏場はどう暮らしているにゃ?」

「どうとは??」

「毛皮って、暑くにゃい?」

「まぁ暑いですけど、神様と同じく夏用の毛に生え替わると思うのですが……」

「それにゃ! 毛を集めて売ろうにゃ! うちでも集めさせるから、ウサギの毛を使った布団や防寒具をここで作ろうにゃ~」

「は、はい! このヨタンカ、丸刈りになる覚悟です!!」

「そこまでしろとは言ってないにゃ~」


 たしかに六千人のウサギを毎年丸刈りにすれば、産業としてはかなりいい線行くと思うが、大量の丸刈りウサギが猫の街を歩いている姿はちょっとキモイ。

 それに、モフモフではないウサギを作ると言うと、猫の街で暴動が起きそうだ。ウサギ以外の住人から……


 カミソリを取りに行こうとするヨタンカは必死に止めて、話し合いを続けるわしであったとさ。

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