110 ローザと再会にゃ~


 ローザの街に車で乗り付けて驚かれ、車から降りたわしの姿を見られてさらに驚かれ、西門の前では大きな騒ぎが起こる。


「猫!!」

「猫?」

「ぬいぐるみ?」

「立ってる」

「喋ったぞ」

「ホワイトダブル?」

「かわいい」


 この感じ、久し振りで恥ずかしい……王都では収まっていたから忘れておった。わし、猫じゃったんじゃなぁ。


「シラタマ殿、すごい騒ぎニャ。私の時よりすごいニャー! ……ニャ!?」


 わしが遠い目をして騒ぎを見ていると、次に降りて来たメイバイに視線と興味本意な言葉が降り掛かる。


「猫耳!!」

「尻尾もある」

「本物か?」

「動いているぞ」

「猫さんの子供?」

「親猫よりデカイぞ」


 いつからわしは子持ちになったんじゃ。逆ならわからんでも……いや、わからん。わしのほうが、猫の遺伝子が強すぎる。て言うか、猫じゃった。


「シラタマさん。大丈夫ですか? ……ヒッ!」


 最後に出て来たリータにも視線が集まる。


「人だ」

「人ね」

「普通だ」

「普通ね」


 なんかガッカリしてる? 三段オチでも期待していたのか。それは申し訳ない……って、バカなこと考えてる場合じゃないな。


「これ、ハンター証にゃ。リータもメイバイも出すにゃ」


 わしはペンダントを外しながら門兵に近付き、リータ達も続く。


「たしかに……」

「じゃ、入るにゃ~」

「はい……いやいや、待て待て!!」


 チッ。復活しやがった。兵士が呆気に取られている内に、速攻で入ってやろうと思ったのに……


「王都でも入れたにゃ。ここは入れてもらえないのかにゃ?」

「王都で!?」

「わし達は王都のハンターギルドに登録してるにゃ」

「猫がハンター??」


 またあっちの世界に行ってしまった。このままじゃ、らちかん。どうしたものか……


「シラタマさん。ローザ様の名前を出してみてはいかがですか?」

「その手があったにゃ! 賢いにゃ~」

「エヘヘ。褒められました」

「いいニャー」


 わしはリータの頭を撫でたいが届かないので飛び付き、抱っこされながら頭を撫でる。それから兵士達に向き直り、ローザとの関係を言い放つ。


「わしはこの街の領主の娘、ローザの友達にゃ! ひかえおろうにゃ~!!」

「言い方! そんな言い方したら、ローザ様に迷惑が掛かりますよ!」

「偉そうニャー」


 うっ……リータにさとされてしまった。わしのほうが常識人のはずなのに……


「猫がローザ様と友達のはずがないだろう。嘘を言うな!!」


 あ、兵士も復活した。


「嘘じゃないにゃ~。ローザからは王都で家を借りているにゃ。あと、一緒にお風呂に入った仲にゃ~」

「家を借りているからと言って友達にはならんだろう。お風呂だって証拠はあるのか?」


 うっ……正論じゃ。何か他に良い言い分はないものか……あ!


「ちょっと前にローザが盗賊に捕まった事があったにゃ。ローザを助けて連れて来たのはわしにゃ!」

「たしかに事件はあったが……」

「そう言えば、尋問した盗賊が猫にやられたって言っていたな。あの話は、とても信じられなかったが……」


 もうひと押しってところか。


「盗賊の数は二十人、解放された女性は、ローザとミラを合わせて六人にゃ。盗賊は、山の洞穴に閉じ込められていたはずにゃ。どうにゃ!」

「なぜそれを……」

「解決した本人だから知っているんにゃ」

「………こちらで少々お待ちください」


 ついに門兵はわしの言葉を聞く体勢になり、わし達は門の詰所に案内される。車は次元倉庫に仕舞った時にまた驚かれたが、わしの話を信じたのか、兵士達の扱いは丁寧になった。

 お茶まで出してもらい、待つこと三十分。息を切らしたローザが詰所に入って来て、わしに抱きつく。


「ねこさん!」

「久し振りにゃ~。元気にしてたかにゃ?」

「はい! それより、街の兵士がご迷惑をかけたみたいで、申し訳ありません」

「猫だから仕方ないにゃ。ちゃんと仕事してる証拠にゃ」

「そう言ってくれてありがとうごさいます。リータもお久し振りですね」

「ロ、ローザ様! お久し振りですにゃ!!」

「そんなに緊張しなくていいですよ。ねこさんみたいになってます。フフフ」


 緊張すると、わしみたいになるって……


「それで、そちらの方は?」

「わしのパーティ仲間のメイバイにゃ」

「メイバイですニャ。よろしくお願いしますニャー」

「ニャ? にゃ?? その耳! その尻尾!! 本物ですか!!?」

「そうですニャ」

「てことは……ねこさんのお子さんですか??」

「「違うにゃ(ニャ)~」」

「シラタマ殿の愛人ニャー!」


 はあ? 何をおっしゃるウサギさん。いや、猫さん……ん? わしも猫……ローザと一緒で、わしもパニックじゃ。


「ねこさんに、また新しい女が……」

「違うにゃ~! 遠い親戚を預かっているだけにゃ~」

「いえ、あいじ……モゴッ」

「ちょっと黙っているにゃ。にゃ?」

「は、はいニャ……」

「ご親戚の方ですか……それで耳や尻尾があるのですね」


 この説明で納得できるのか……猫が立って喋っているほうが納得できないから、些細な問題なのかも知れないな。



 猫耳娘問題が落ち着いたところで、ローザが丁寧な挨拶をする。


「今日はこんな遠い我が街までお越しいただき、ありがとうございます。それで、どういった用件で来られたのですか?」

「ハンターギルドにちょっと用があるにゃ……」


 ローザは露骨に悲しい顔をするな……


「もちろん、ローザに会いに来るのが大事な用件にゃ」

「本当ですか?」


 ちょっと復活した。でも、まだ疑っておる……もうひと押しかな?


「これを渡しに来たにゃ」


 わしが次元倉庫から取り出したモノに、ローザは目を輝かせる。


「これはねこさんです! ねこさんそっくりなぬいぐるみです!!」

「大事にして欲しいにゃ~」

「はい! ありがとうございます。毎日一緒に寝ます!」


 満面の笑み。いただきました!


「そのぬいぐるみは……」

「私も欲しいニャー」


 あっちを立てれば、こっちが立たず。


 ローザの笑顔と引き換えに、リータとメイバイには拗ねられた。もう持っていないと言うと、今度はゴネられた。その結果、また夜に人型で寝る事を約束させられてしまった。


 そっちが立たないか心配じゃ。





「着きました!」


 ローザと再会を果たし、これからハンターギルドに向かうと言うと、ローザが案内してくれる事になった。移動には乗って来た馬車を使うと言うので、街中を歩くより騒がれないので、有り難くローザの申し出を受けた。

 道中は馬車でわしの姿は見えないから騒がれないが、ハンターギルドの扉を潜れば聞こえて来る猫コール。


「みなさん、猫、猫、言って見てますね。なんだか私が見られてるみたいで恥ずかしいです」

「見られるのが恥ずかしいにゃら、馬車で待ってるにゃ」

「せっかくねこさんと会えたから離れません!」


 ローザはわしの腕に組み付く。わしは久し振りに会ったから好きなようにさせるが、後ろにいるリータとメイバイの顔は怖そうだから、けっして振り返らずに買い取りカウンターに向かう。


 しかし、ガラの悪いハンターにからまれた。


「ホワイトダブルがハンターギルドを堂々と歩いてるんじゃねえ!」

「猫のくせに女なんかはべらせやがって!」

「俺達が狩ってやる!」

「女は俺達がかわいがってやるから安心しろ」

「「「「ギャハハハ」」」」


 おお! 絵に書いたようなテンプレイベント発生じゃ。孫にも見せたかったな……おじいちゃん頑張る!


「わしを狩るのは百年はや……」


 わしがかっこよく口上を述べていると、ローザが前に立ち塞がった。


「下がりなさい! 私は領主の娘、ローザ・ペルグランと知っての狼藉ですか!!」

「あ、わしの……」

「この方に手出しする事は、私が許しません!」

「出番にゃ……」

「領主様の娘様!?」

「「「「大変失礼いたしました!」」」」


 ガラの悪いハンター達はローザの剣幕に押され、すごすごと逃げ出して行った。その姿を見送ったリータとメイバイは、暴漢を撃退したローザを褒め称える。


「ローザ様、かっこよかったです」

「いえ、そんな……」

「それにひきかえシラタマ殿は……」


 わしだってヤル気満々だったんじゃ! この手のハプニングが起きると、事如く潰されるんじゃ! わしの日頃の行いが悪いのか?

 いや、いいから回避されるのか……わしの鬱憤うっぷんは溜まってしまうが、良い方向に考えよう。


「ローザ。ありがとにゃ」

「当然の事をしたまでです」

「さあ、行くにゃ~」



 ハプニングは去ったが、騒ぎはまだまだ収まらないギルドの中をわし達は買い取りカウンターに向かい、空いているカウンターのおっちゃんに話し掛ける。


「ちょっといいかにゃ?」

「猫が喋ってる……」

「あ、そう言うのはもう間に合ってるにゃ。仕事をするにゃ~」

「お、おお……それで、何の用だ?」

「買い取り一覧に乗っていない生き物でも、買い取ってくれるのかにゃ?」


 白い蟻のクイーンとキング。それと、黒い蟻は確実に買い取ってもらえるが、ザコの蟻は買取一覧に載っていない。じゃが、気持ち悪い思いをしてせっかく狩ったんじゃから金に換えたい。

 森の動物達も食っておったし、食料になるかもしれんから、二束三文でも売れればありがたい。


「おう。一覧は一例だからな。未知の動物なら、物によっては高く買い取るぞ。査定して、食料にも素材にもならない奴は買い取らないがな」

「じゃあ、査定よろしくにゃ~」


 わしは次元倉庫から、ザコ蟻と精鋭蟻を一匹ずつ買い取りカウンターに乗せる。


「収納魔法か。それよりこれは……大蟻じゃないか!? お前! ギルマスに大蟻が出たと報告して来い。急げ!!」


 わしが蟻を見せると買い取りカウンターのおっちゃんは顔色を変え、隣に座っていた若い男をギルマスの部屋に走らせた。


「どうしたにゃ?」

「どうしたもこうしたも……大蟻はどこにいた!?」

「東の山の中にゃ。それより査定してくれにゃ~」

「それどころじゃねえ!」

「おっちゃんの仕事にゃ~」


 わしがおっちゃんに叱られシュンとしたその時、二階から男がドタバタと買い取りカウンターまで走って来た。


「大蟻が出たって本当か!?」

「ギルマス。これだ」

「本物か?」

「俺も初めて見たが、デカイ蟻だろ?」

「ああ、蟻だ……」


 アイツがギルマスか……なんか深刻そうに話しておるけど、わしには関係ない話じゃ。


「で、買い取ってくれるのかにゃ?」

「お前が持ち込んだのか……って、猫!?」

「猫だにゃ~」

「喋った!!」

「ローザ~。買い取ってくれないにゃ~」


 なかなか買い取ってくれないギルド職員にヤキモキして、子供のローザにわしは泣き付く。


「ねこさん。わたしに任せてください!」

「ローザ様!?」

「ギルマスさん。落ち着いてください。ねこさんは、この蟻を買い取ってもらいたいのですが、何か問題があるのですか?」

「はい。大問題です。この蟻はその昔、この地方に多大な被害を出した生物です。その時には国の軍隊、ハンター総出で戦いを挑み、壊滅させたみたいですが、半数の人間は帰らず人となったと、当時のギルマスの日記に書かれています」


 ふ~ん。そんな事があったんじゃ。でも、もう一匹残らず駆除したから、やはりわしとは関係ない話じゃな。


「で、買い取ってくれるかにゃ?」

「ねこさんは黙っていてください!!」


 あれ? なんで怒られるんじゃ??


「ローザにも怒られたにゃ~」

「いまのはシラタマさんが悪いと思います」

「私もそう思うニャー」


 リータとメイバイに泣き付いてみたが、こう言う始末。わしは拗ねながら黙って様子を見る事にする。


 それから買い取りカウンターのおっちゃん、ギルマス、領主の娘のローザの緊張が周りに居たハンター達に伝わり、皆、固唾を呑んでわし達を見つめる。


「それで、どうしたらよろしいのですか?」

「ローザ様は領主様に報告してもらえますか? 私は各ハンターギルドに報告します。それと発見者は……」

「わかりました。母には私から伝えます。発見者は、こちらのねこさんです」

「猫が……今はそれどころではないな。この蟻を何処で見つけた?」


 黙っていたわしであったが、質問されてはそうも行かず、渋々答えてあげる。


「東の山の中にゃ」

「それなら討伐隊を編成するには、まだ時間が取れるな。しかし、山に入っての討伐になるのか……」

「行っても、もう蟻はいないにゃ」

「そんな数の蟻なら、食料調達に出た蟻だろ? 巣には千匹近くいるはずだ」

「倍以上いたにゃ」

「そんなにか!? 貴重な情報をよく持ち帰ってくれた。だが、悪い情報を各支部に伝えないといけないな」

「全部殺したから伝える必要ないにゃ~」

「数匹殺したところで数にもならん」

「二千匹、全部殺したにゃ」

「ハハハ。それなら嬉しいんだがな。嘘の報告はギルマスとして許せないぞ?」

「嘘じゃないにゃ~!」

「じゃあ、クイーンを出せ。それなら信じてやるよ」


 わしは黙って次元倉庫からクイーンの死体を取り出す。ギルドの中は広いとはいえ、8メートルはあるクイーンをいきなり出したせいで、何人かのハンターが下敷きになってしまった。


「これで信じてもらえるかにゃ?」


 皆はクイーンに驚いて口をパクパクしていたので、わしのほうから声を掛けてやったら、全員の声が揃う。


「「「「「持ってるなら、先に言え~~~!!!」」」」」


 わしはこの場にいた全員から、総ツッコミを受けるのであった。


「これもわしが悪いのかにゃ?」

「「う~ん……半々(ニャ)??」」


 残念ながら、リータとメイバイの裁定は厳しいのであったとさ。

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