680 ウサギの街のその後にゃ~


 大蟻の掃討戦も終わると、締めはわし。倒した大蟻を全て次元倉庫に入れたら、【玄武】をドタドタと走らせて大蟻の巣を完全に埋めてしまう。

 それからキャットトレイン改に揺られて猫の街に帰ったら、オッサンの音頭でお疲れ様会の開始だ。


『え~。今回は初の合同軍事演習ともあり、反省する点はいくつもあった。猫軍に助けられる場面も多々あり……ほにゃらら……ほにゃらら……あっ!』

『長いにゃ! かんぱいにゃ~~~!!』

「「「「「かんぱいにゃ~~~!!」」」」」

「「「「「かんぱいにゃ~~~??」」」」」


 挨拶が長すぎるオッサンから音声拡張魔道具を奪い取ってやったら、わしの音頭で宴の開始。猫兵はいつもの挨拶で応え、東兵も首を傾げながら応えてくれた。

 ただ一人、納得できないとオッサンが文句言って来たが、反省会は明日にでもやってくれ。コリスがお腹ペコペコでかわいそうでしょうが!


 コリスだって我慢できるいい子。わしをモグモグしなかったらもっといい子なんじゃけどな~?


 コリスが口寂しいとわしをモグモグするから、オッサンからマイクを奪い取ったと言うわけだ。それに東兵はオッサンの挨拶にうんざりしているように見えたので、いつも長くてうんざりしていたのだろう。

 わしが労いの言葉を掛ける為に各テーブルを回ったら、何故か東兵からめっちゃ握手を求められたし……


 へ? あと30分は続いた可能性があるのですか。そうですか……長すぎるわ!!


 音声拡張魔道具を奪い取ったのは大正解。しかし、猫ファミリーのテーブルに戻ったらリータとメイバイの説教。

 ちょっと言い訳したら、コリスとオニヒメがめっちゃ味方に付いてくれたのでお菓子をあげた。若干お菓子が目的に見えたけど、いつもの気のせいだろう。

 その時、べティが目に入ったのでペロペロキャンディをプレゼント。


「甘いのあげるにゃ~」

「子供か! 食べるけどね!!」


 べティは子供扱いされてツッコんでいるが、ペロペロキャンディを幸せそうに舐めているから、子供で間違いなさそうだ。

 しばしここでモリモリ食べて、首脳陣の元へ戻って反省会はウトウト聞き流す。


 こうして合同軍事演習のお疲れ様会は、わしが寝ているうちに終わりを告げるのであった。



 東軍は、一日の休養と反省会をしたら、キャットトレインに揺られて帰って行った。これでわしはしばらく暇になるので、お昼寝し放題だ。


「また寝てる……」


 べティが付きまとわなければ……


「リータ、メイバイ。王様がこんなのでいいの?」

「シラタマさんは仕事しない病をわずらっていまして……」

「不治の病だから治らないんニャ……」

「「オヨヨヨヨ」」


 それと、リータとメイバイが涙しなければ……


「にゃ! やることあったんだったにゃ~。忙しいにゃ~」


 二人が嘘泣きしているのはわかっているのだが、べティが不憫ふびんな目を二人に向けるので、仕方なく仕事に向かうわしであったとさ。



 本日のお仕事は無理矢理作り出したので、ウサギの街の視察と銘打って、お昼寝の予定。しかしお昼寝の場所が悪かったので、猫ファミリープラスべティもくっ付いて来た。

 ウサギの街は時差のせいで真っ暗だったが、役場から光が漏れていたのでまだ働いてくれていたようだ。


「ヨタンカ。やってるにゃ~?」

「はっ! はは~」


 なので役場に顔を出したら、代表のヨタンカは土下座。そんな事をされても無駄なだけなので、首をムンズと掴んで立たせてやった。


「お~。けっこう太って来たんじゃにゃい? 体調はどうにゃ??」

「はい。ここ最近、すこぶる調子がいいです。これも神様のおかげです。はは~」

「土下座はいいから椅子に座れにゃ~」


 再度土下座をしようとするヨタンカは、ガシッと掴んで抱き上げて椅子に下ろす。それからもう一人の代表とカレタカを呼んだらその辺に居たので、三人と世間話。


「にゃ? コリス。リータ達はどこ行ったにゃ?」

「らびっとらんどにいくっていってたよ~」

「そうにゃんだ。言伝ありがとにゃ~。お菓子あげるにゃ」

「ホロッホロッ」


 わしには仕事をしろと言っていたクセに、いいご身分だ。でも、ここはまだ服を着るように指導していないし旅行は禁止してるから、ラビットランド2はやってないと思うんじゃけどな~?


 コリスを褒めながら、ヨタンカ達と世間話の再開。「最近どう?」って感じで話を聞くと、食料が増えたのでウサギ族全体が健康になったそうだ。

 ただし、猫の国に属する事で、いろいろと問題が出ているらしい。その中で一番は文字。二番はお金の計算だ。


 ウサギ族は文字を使って暮らしていなかったので、現在はローマ字と数字で対応して、その後はウサギ族独自の文字を開発する予定なのだが、ローマ字と数字の勉強だけでも難しいとのこと。

 したがって、同時並行で行っているお金の勉強も難しいらしく、何度計算してもどこの店も金額が合わなくて困っているらしい。


 まぁまだ練習段階だから、土下座して謝らなくていいんだよ~?


 わしが優しく言ってもヨタンカが切腹ものだと嘆いているので、仕方なく王様の仕事。いまのところ数字だけをなんとかしたらいいので、商人とソロバンの講師を何人か派遣する事に決めた。

 これでお金問題は解決。文字問題はウサギ族が覚えるしかないないので先送り。世間話に戻って楽しく話をしたいところだが、問題山積。仕方がないからひとつずつ解決案を提示するわしであった。



「「「はは~」」」

「そういうのいらないにゃ~」


 ちょっと賢いところを見せたら、ヨタンカ達はわしがめちゃくちゃ賢い神様と拝み倒すので恥ずかしい。

 なので、土下座を禁止してから次に移動。用心棒で雇ったエルフの家にやって来た。


 ドアをノックして誰も出て来なかったら別の場所に行こうと思っていたが、女性が出て来てくれたので中に入れてもらった。

 この女性は以前雇ったエルフ奥さんじゃなかったので、ちゃんと交代していてくれたとホッとしたが、ダイニングには二人のウサギがソファーに座っていた。

 女性はそのウサギに挟まれるようにソファーに座って、わしは椅子。ヨタンカ達と違ってわしへの敬意が低い。まぁ神様扱いされるよりマシなので、そのまま世間話。


 まず旦那は起きていないのかと聞いたら、寝室で寝ているとのこと。いまは寝る前のウサギタイムらしい……


 毎晩取っ替え引っ替えしてるのですか。特別報酬と聞いてるのですか。それ、だれ情報??


 どうやら前用心棒のエルフ奥さんがそんな事を言って引き継いだようなので、ウサギ族にそんなことしなくていいと言ったのだが、いつも守ってくれているから感謝の気持ちらしい。

 別に嫌がっているように見えなかったので、まぁいっか。あとでヨタンカから話を聞いて、無理矢理させているなら止めよう。


 無駄な話はここまでにして、わしが頼んだ調査依頼の報告。どうやら今日、遺跡を発見したらしいが日が落ちる間近だったので、明日調べてから報告書を書く予定だったようだ。

 それはちょうどよかったと地図を広げて詳しい場所を聞き、マジもんの特別報酬を払う。と言っても、べティ料理とチョコだけ。


 でも、ウサギさんばかりに食べさせていないで、旦那にも渡してね? ……まさかわしが送った高級肉を食べさせてないじゃろうな? わしの目を見ろ!!


 わしの決めたルールを破っていたとなっては仕方がない。エルフ旦那を叩き起こして聞き取り調査。

 その結果、わしの送った高級肉は食べさせていなかったが、夫婦で狩った黒い獣を貯蔵してウサギに振る舞っていたから、夜な夜なウサギタイムなるパーティを開けていたのだ。


 かなりグレーだが、自分達の自由時間でやっているならわしが止めるのは筋違いな気がする。

 しかし、もしもウサギが嫌がっているような嘆願書が出されたなら、止める法律を作ると言って、先送りにした。



 エルフとも世間話のつもりだったのに王様の仕事をさせられてしまったが、次へ移動。ポポル親子の家にやって来て、ここもノックして誰も出て来ないなら移動しようとしたら、意外な人物が上半身裸で出て来た。


「ソ、ソウハ……にゃにしてるにゃ??」

「ね……猫陛下!?」


 まさかのソウハ登場で、世間話をしに来ただけなのに、また王様の仕事。寝ていたポポルも起こして、素っ裸のルルからも話を聞いてみた。


 その結果、ソウハとルルは結婚を前提に付き合ってるんだって。


 どうやらポポルが狩りの上手いソウハを尊敬している感じになり、食事に誘って何度も家に呼んでいたら、なんかそんな関係になったらしい……

 いちおうソウハからも本気なのかと聞いたら、マジらしい……。もっと詳しく聞いたら、ソウハに与えた宿舎に住む女性が、毎晩のようにウサギを連れ込んでいたから孤独感があったらしい……

 てか、浮いた話を一度も聞いた事がないと思っていたら、ソウハは獣を愛するケモナーだったから、ルルの事がめちゃくちゃタイプだったらしい……狩りまくってるクセに……


「もしかしてにゃけど、お母さんはそこを付け込んだんじゃにゃい?」

「と言うわけで、私……シラタマ様とは結婚できません。申し訳ありません!」

「わしの質問に答えてくれにゃ~」

「本当に申し訳ありません。私のことは忘れてください!」

「そんにゃこと聞いてないにゃ~~~」


 ルルはわしの質問には答えてくれないので「おめでとう」とだけ言って、ポポルを誘って外に逃げるわしであった。


 だってソウハが「元カレがシャシャリ出るな!」って目でわしを見ていたんじゃもん! なんかわしがフラれたみたいになって居心地が悪かったんじゃもん!!


 フラれた事はショックではないのだが、一番と言っていいぐらい信頼していたソウハがルルと結婚する事がショックなわしは、二人の愛の巣の前で腰を下ろしてポポルと喋る。


「それで……訓練の成果はどうにゃ?」

「あ、はい。お父さんから教えてもらえますので、狩りでは大活躍ですよ」

「お父さんって、どっちのことにゃの?」

「ソウハさんに決まってるじゃないですか~」

「はぁ~~~」


 こないだまでわしの事をお父さんと呼んでいたポポルまでそんな事を言うので、なんだかますますわしがフラれたみたいなので溜め息が出てしまう。


「そんじゃあ、次に移行しようかにゃ?」

「次ですか??」

「ポポルにはウサギ族の守護者になってもらうと言ったにゃろ? ポポルを将軍に任命して、ウサギ軍を作ってもらうにゃ」

「僕がそんな大役を!?」

「にゃにも問題ないにゃ。ポポルはウサギ族の誰よりも強いからにゃ。今までの狩りで見せ付けてやったんにゃろ?」

「まぁ……はい。えへへ」


 わしが質問するとポポルは照れて頭を掻いていたので、どうやら強くなって皆からチヤホヤされてるっぽい。女の子にもモテモテらしいので、また調子に乗りそうで心配だ。


「これ、先日やった軍事演習にゃんだけど、この果敢に戦っているのが、猫の国の将軍にゃ」

「こんなことを僕がやるんですか!?」


 なので、大蟻との戦闘の写真を見せて、五本目の天狗っ鼻を叩き折ってやった。さすがにこれほどの大規模な戦闘は自信がないみたいだ。

 かと言って、やってもらわねばわしが困る。この為にポポルを育てていたのだ。エルフは軍隊が出来るまでの繋ぎで用心棒に雇っただけだから、いつまでも滞在させるわけにはいかない。

 ポポルにはいまある警備隊を訓練して、立派なウサギ軍を作るように命令した。


「まぁうちからも誰か派遣するから、人の使い方なんかはまた学んでくれにゃ。頼んだからにゃ」

「はい!」


 命令とお願いと甘い言葉と、わしが頼りにしている感じを出したらポポルはいい返事。ぶっちゃけ、将軍になったら給料が増えていい嫁さんをもらえるとそそのかしたら、ポポルは乗り気になってくれただけ。

 あとはヨタンカにはわしのほうから言っておくと伝えて、ポポル家をあとにするのであった。



「にゃ? ラビットランドってやってたにゃ??」


 わしとコリスがラビットランドの洞穴に入ったら、リータ達はウサギを侍らせてモフッていたので聞き取り調査。

 どうやら猫の国から派遣されている者の為に少人数で営業をしていたようだが、店を閉める前に猫の国の王族であるリータ達が駆け込んだから、起きてる人を集めたらしい。


「もうみんにゃ寝てるんにゃから、解放してやってにゃ~」


 わしに説明してくれたウサギ以外、グロッキー状態。いつもは寝ている時間なのに、モフられまくって疲れたのか眠ってしまっている。


 こうしてわしたち猫ファミリーは、手分けしてウサギを担いで家に送り届けるのであったとさ。

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