486 夢の世界にゃ~


「な、なんじゃ!?」

「うわ~~~!!」

「このくそにゃ!!」


 玉藻とちびっこ天皇とわしが浮き上がり、天叢雲剣あめのむらくものつるぎが作り出した空間の亀裂に吸い寄せられる中、わしは重力魔法をマックスで使って地面に着地。亀裂に向かって飛んで来た二人をキャッチして、地面に押し付ける。

 そうしてリータ達に視線を移すと、リータはオニヒメとメイバイに覆い被さって耐えながら、【土壁】を出してる最中だった。コリスはというと、体を低くして、四つ足でなんとか地面に張り付いていた。


 亀裂は暴風を引き起こし、木や岩、海水、ありとあらゆる物を吸い込み続け、およそ3秒後、完全に閉じたのであった。



 う、嘘じゃろ……


 亀裂が閉じて、ようやく考える余裕のできたわしは、先ほどの光景を思い出す。


 亀裂の先は、宇宙じゃった……どゆこと? いや、わしも宇宙なんてこの目で見た事がない。真っ黒の空間、吸い込まれた事から真空状態を思い浮かべたから、なんとなく宇宙かと、直感でそう思っただけじゃ。

 それとも、ブラックホールか? う~ん……ブラックホールとは違うと思う。説明は出来んが、わしの直感がそう言っておる。使っていたら、地球なんて吸い込まれておったしな。何かもっと高次元的な……次元を斬ったような……

 わからん! わからんが、スサノオの奴がとんでもない置き土産をしていった事はわかる! まさか、この世界に、こんなオーパーツをいっぱい置き忘れておらんじゃろうな……



「おい! おい、シラタマ!! 何が起こったんじゃ!?」


 わしが考え込んでいたら、玉藻から何度も声が掛かっていたらしく、その声に気付いたわしは、重力魔法を解除しながら押さえていた手を緩める。


「あ、ああ……もう大丈夫にゃ。陛下、怪我はないにゃ?」

「う、うん……」


 玉藻は頑丈だから心配はせず、わしはちびっこ天皇を立たせて、服に付いた砂埃をポンポン叩いて払ってあげる。そうしていると、同じように砂埃を落とした玉藻は、わしに頭を下げて来た。


「陛下を守ってくれて、誠に感謝する」

「気にするにゃ。わしの我が儘の結果でもあるからにゃ」

「そうか……それで、いったいぜんたい何が起こったんじゃ?」

「わしもにゃにがにゃんだか。ただ……」


 リータ達も集まって来たので、わしは皆に予想を伝えるが、なかなか伝わらない。


「次元? また難しい話じゃな。その次元とやらに、妾達は吸い込まれそうになったのか?」

「その認識でいいはずにゃ」

「その次元に入ったらどうなるんじゃ?」

「さっぱりわからないにゃ。生きているかもしれにゃいし、死んでしまうかもしれないにゃ。まぁ予想では、生きていても戻る事は出来ないだろうにゃ」

に恐ろしや……」


 簡単な説明を終えると、お茶会議。テーブルセットとおやつを出し、別のテーブルには天叢雲剣を乗せて、玉藻達と話し合う。


「もう少し調べたいところにゃけど、危険すぎるから封印するしかないかにゃ~?」

「たしかにな……今までより、さらに警戒を強めたほうがよさそうじゃ」

「まぁ呪具だと知ってるのはここに居る人だけにゃし、喋らなければ大丈夫にゃろ。調べたければ、玉藻だけでやってくれにゃ」

「そ、そんな事するわけがなかろう!」

「本当かにゃ~? にゃあにゃあ??」

「しないと言っておろう!」


 ふん……その焦りよう、バレバレじゃわい。絶対ひとりで研究して、新しい魔法を見付けようとしておる。

 わしだって、怖いけど興味津々なんじゃ。特に、あれほどの出力なのに、魔道具から使用した魔力が減っていない謎が知りたい。それさえわかれば、永久的にエネルギーに困らなくなる! 夢の魔法じゃ~。


「教えてくれにゃいと口が滑ってしまいそうにゃ~。日ノ本には世界を取れる神剣があるとかにゃ~。いま口が滑ると、世界中から人が集まってくるかもにゃ~」


 これでどうじゃ? まぁ世界が取れるどころか世界が滅ぶから、絶対に口を滑らせないけどな。


「ぐっ……汚い奴じゃな。そんな事をすれば、三種の神器に泥棒が群がるじゃろうに」

「交渉上手と言って欲しいにゃ~。それに、わしの知識があったほうが、確実に進捗すると思うにゃ~。にゃあにゃあ~?」

「だからにゃあにゃあうるさ~い!!」


 「にゃあにゃあ」交渉して一時間……なんとか玉藻を説得できたわしであった。

 ちなみにその夜、玉藻は「にゃあにゃあ」うなされていたと、次回、御所を訪ねた時に、娘のお玉が教えてくれた。玉藻が「にゃあにゃあ」言っていたから、不思議だったそうだ。



 説得に時間が掛かってしまったので、ここでランチ。三種の神器を見せてくれた感謝の印に、ヤマタノオロチ肉フルコースで腹を満たす。


 でも、新作料理だから、あまり数が無いんじゃ……解読結果を教えないじゃと? わしの食べ差しでよければ……


 意地汚い玉藻は、それでご満悦。ヤマタノオロチ肉だけでもとんでもなくうまいのだが、西洋の味付けも気に入っているようだ。

 コリスとオニヒメも羨ましそうに見ていたので、ヤマタノオロチ肉のバーベキュー大会を開催。エミリ特製ダレを塗れば、美味しさ倍増なので、喜んで食べていた。意地汚い玉藻とちびっこ天皇もむさぼっていたけど……


 ランチが済めば、伊勢神宮に向けて飛行機を飛ばし、玉藻だけ蹴落として、旋回して待つ。これは、帰る旨を伝えるだけだから、着陸している時間がもったいないから時間短縮しただけで、決して玉藻をイジメているわけではない。

 すると玉藻は、数分で「ギャーギャー」帰還。空を飛べるから怖くは無かったようだが、キツネ神官達に「空から天女様が降って来られた」と拝まれて、恥ずかしい思いをしたそうだ。

 それを怒っていたようなので、「玉藻様の美貌じゃしょうがないにゃ~」と褒めておいたら静かになった。


 ……もっと言って欲しいの? キレイキレイ。小野小町にも勝ってるにゃ~。あ、本当に美人だったんじゃ……でも、お母さんのほうが美人だったのですか。でしょうね~。


 意外とチョロイ玉藻は放っておいて、京に着いたら、バスで御所まで送り届ける。その車内でリータ達と帰りの件で揉めていたら、玉藻から泊まって行けと言われたので、リータ達もなんとか折れてくれた。






 その日の深夜……


 ん、んん~……この感じは、夢の中か?


 わしは夢の中で目覚めた。


 アマテラスやスサノオのせいで、現実と夢との違いがハッキリわかるようになったわい。あいつらが乱入してさえ来なければ、夢の中でも平和なんじゃがな~。

 しかし、今日の夢はずいぶん変わっておるな。ベッドの上で、リータがわしの顔にずっとチュッチュッチュッチュッしておる。たしか夢って、潜在意識が関係していると聞いたが、わしはこんな事をされたいのかのう?

 まぁ夢の中じゃし、好きにさせてもらうか。わしだって、毎日リータやメイバイの裸を見て溜まっておるんじゃ。猫の姿じゃ無かったら、とっくに理性なんて吹っ飛んでおるぞ。


 なんか辺りがまぶしい気もするけど、シラタマ……イキま~~~す!


「ん……シラタマさんからそんな事を……」

「いいではにゃいか、いいではにゃいか」

「もう……シラタマさんったら~」


 わしがリータの胸を揉むと、嫌そうにせずに受け入れるが、それを邪魔する者が現れる。


「あの~……そんなに堂々と愛し合われると、呼び出した僕としては、見てられなくて……ちょっとやめてもらえませんか?」

「「……にゃ?」」


 夢の中での夫婦の営み中に第三者が現れたのならば、わしとリータは、同時にとぼけた声を出してしまった。


「「まぶしいにゃ~」」


 そして、第三者を同時に見て、これまた同時に目をくらませた。リータはわしの作った夢の住人なのだから、息も口調もビッタリだ。


「あ……まぶしかったですか。ちょっと光量を減らしますね」


 そう言った第三者は、徐々に発光が収まり、ようやく見れるようになったら、キラキラした美男子がそこに立っていた。


「誰にゃ? わしは会った事がないんにゃけど……わしが勝手に作り出した人かにゃ~?」


 わしが目を擦りながらリータに問うと、リータも目を擦りながら答えてくれる。


「違いますよ。この人はツクヨミ様です」

「そうにゃの? リータから聞いただけで、夢の中でここまで想像できるにゃんて、わしはにゃんて想像力が豊かなんにゃろ~」

「……夢の中? じゃあ、積極的に来るシラタマさんは、私の夢なんですか……残念です~。でも、ツクヨミ様が出て来るって事は、夢で間違いなさそうですね」


 はて? 夢の中のリータが、わしの事を夢の中の住人と言っておる。これまた入り組んだ夢を見ておるな。


「にゃんでわしの夢を、リータが取ってるんにゃ~」

「それを言ったらシラタマさんこそ、なんで私の夢を取るのですか~」

「いやいや、わしの夢にゃろ?」

「いえいえ、私の夢でしょ?」

「いやいや……」「いえいえ……」


 わし達が言い争っていると、リータからツクヨミと呼ばれた美男子が答えを述べる。


「この夢は、リータさんの夢で間違いないですよ」

「ほらね? 私の夢でしょ?」

「ですが、僕がリータさんの夢をシラタマさんの夢と繋げたので、シラタマさんの夢でもあります」

「ほら~? わしの夢にゃ~」

「「……にゃ??」」


 ツクヨミの説明でお互いの夢だと言い張ってみたが、ツクヨミの言い方が気になったので、リータとわしは同時にツクヨミを見る。


「ですから、二人の夢を繋げたんですって~」

「「にゃ~~~?」」

「リータさんとは三ヶ月ほど話をした事がありますが、シラタマさんとは初めてですね。僕はイサナギとイザナミの息子、ツクヨミです」


 うん? たしかツクヨミって、イサナギの目から産まれたんじゃなかったっけ?


「やだな~。その記述は、地球の古事記ですね。お父さんから、僕たち三兄弟が産まれるわけがないじゃないですか~」


 ……わし、いま、口に出したっけ??


「心を読むぐらい、僕に掛かれば簡単な事ですよ。その気になったら、シラタマさんの前世……全てを教えられますよ」


 ま、まさか……


「その通り、アマテラス姉さん、スサノオと同じく、夢の中にお邪魔しております。ただし僕の場合、リータさんにしか繋がりが無かったので、ひと手間掛かっておりますけどね」

「え? え? ツクヨミ様は、いまシラタマさんと喋っていたのですか?」


 ツクヨミがわしの心を読んで話し続ける中、リータは不思議そうに割り込んで来たが、わしは緊急事態なので無視するしかない。


 マジで??


「マジです」


 リータの胸を揉んでしまいましたよ??


「今までよく我慢していましたね。本当はリータさんの、む……」

「にゃ~~~!! わかりにゃした! わかったから、用件を教えてくださいにゃ~~~!!」

「??」


 わしの心で呟いた事はツクヨミに筒抜けで、会話となってリータにバラされそうになったから慌てて口で叫んだ。するとリータは首を傾げてしまったが、ツクヨミは空気を読んでわしの問いに答えてくれる。


「天叢雲剣を使った反応がありましてね。またスサノオ達が、僕を除け者にして神話を作ろうとしているのかと思って、ぺ~らぺらぺらぐち……」


 どうやらツクヨミは、古事記に載りたいが為に、罠を張っていたようだ。

 どの世界にもある三種の神器を使ったらツクヨミに通知が行くようになっていて、覗いて見たら小さな白い猫が使っていたので、いきなり現れる事はやめたようだ。

 そこでどういう経緯で使ったのかをこっそり聞こうとしたらしいが、スサノオの管理する世界だから無理矢理わしに繋ぐとすぐにバレるので、元々繋がりのあったリータを経由してわしの夢に繋いだらしい。


 でも、アマテラスがどうのこうのとか、スサノオばっかり目立っているとか、愚痴が長すぎない?


「愚痴? こんなの、愚痴でもなんでもないですよ~。だから、ぺ~らぺらぺらぐち……」


 わしの心の声にも返答しながらツクヨミの愚痴は続くので、リータに質問してみる。


「にゃあ? ツクヨミ様ってお喋りにゃの??」

「そうですね……私が一言も喋らなくても、一人でずっと喋っていました」

「あ~! 二人して僕を無視して喋ってる~! 無視しないでよ~!! ぺ~らぺらぺらぐち……」


 わしとリータがちょっと喋っただけで、かまってちゃんのツクヨミの愚痴がさらに膨らむ。なので、わしとリータはたじたじ。黙って手を繋ぎ、ツクヨミの愚痴に付き合う。



 いったいぜんたいこの愚痴はいつ終わるのだろうと考えた瞬間、またツクヨミの愚痴が増える事が決定したその刹那、救世主が現れる。


「あ~! ツクヨミ! 私のおもちゃ取らないでよ~~~!!」

「ツクヨミ! 俺の世界で何をしてるんだ!!」

「姉さん!? スサノオ!?」


 そう、アマテラスとスサノオの乱入だ。


「キャーーー!!」

「リータ! 逃げるにゃ~~~!!」


 救世主でもなかった。ただの破壊の権化の降臨だ。


 リータの夢の中の世界は、三兄弟の兄弟喧嘩で、地が割れ、マグマが吹き出し、星が落ちて、てんやわんや。


「「兄弟喧嘩にゃら、他所でやってくださいにゃ~~~!!」」


 わしはリータをかかえ、二人で叫びながら逃げ惑うのであったとさ。

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