240 シェルターに帰るにゃ~
皆の希望の眼差しに負けて、猫耳族の王となったわしは、さっそく会議を再開……しないで、お腹が鳴ったのでお昼休憩を提案する。
「私どもは大丈夫なのですが……」
お前らはな! 焼き魚をあんなに食ったから腹はへってないじゃろうとも。だが、わしは食べてないからペコペコじゃ。それに一旦、気持ちを落ち着かせたい。
わしは無理矢理休憩を宣言し、会議室を出る。そして車に戻り、一緒に入って来ようとしたメイバイを制止して、ベッドに飛び込んで
あぁ……くそっ! 王様なんて、なる気なかったのに……これって、帝国を滅ぼしたら、必然的にこの国の王様に祭り上げられるんじゃなかろうか?
帝国を滅ぼしたあとは食糧を配給して、後始末は誰かに任せるつもりじゃったのに~! なんでわしがこんな目にあうんじゃ!!
アマテラスが予言した大変な事って、巨象で終わりじゃなかったのか? アマテラス、聞いているじゃろ? 答えてくれ!!
……普段、どうでもいい事には話し掛けて来るのに、こういう時は返事しないんじゃよな~。
決まったものは仕方がない。王様だって、全てを一人でやるわけでもないし、優秀な人材を捕まえて、あとは投げ出そう。
そうじゃ。君臨すれども統治せずじゃ。これでいこう!
わしは深呼吸を数度繰り返すと、車を降りる。
「シラタマ殿。車が揺れていたけど、大丈夫ニャ?」
おっと。メイバイに心配を掛けたか……
「もう大丈夫にゃ。それより、メイバイもお腹すいたにゃ?」
「私はそんなに……」
「あ……メイバイも食べてたもんにゃ。でも、一人で食べるのは寂しいから付き合ってにゃ~」
「わかったニャー!」
その後、メイバイの膝に乗せられ、撫でなれながら昼食を食べる。メニューは手っ取り早く食べられる、次元倉庫から取り出したサンドイッチだ。
ノエミも車について来ていたので、食べるかと聞いたら、いらないとのこと。猫耳族にまじって、焼き魚を食ってやがった。
昼食を終えると、会議を再開する。
「まずはこの国の事を教えてくれにゃ。それと、猫耳族は何処に何人いるか、帝国軍の動向も教えて欲しいにゃ」
「でしたら私が……」
セイボクが手を上げ、各分野に詳しい者が、次々にわしに報告していく。
この国にはケンフから聞いていた通り、十個の村と街が二つある。庶民が多く暮らす街「ラサ」と、貴族が多く暮らす街「帝都」があり、帝都に皇族が鎮座していると、猫耳族は調べていたようだ。
猫耳族の奴隷は村にはいないらしく、街でキツイ労働を
軍の動向は、およそ一万の兵が帝都を出たと言う情報を掴んだらしいが、その後は連絡待ちとのこと。
報告を聞き終えたわしは、腕を組んで目を閉じる。
軍は南西に動いていると言う事は、その方向にトンネルがあるのか。地理的に、最北に帝都、南に徒歩三日でラサ。この中間地点の西がトンネルかな?
わし達がいる場所は地図から見ると、ラサより南東に四日ってところか。この位置から帝都を攻めるのは遠いのう。ラサすら遠い。
わし一人で攻めるのは簡単じゃが、奴隷を人質にされていては大きな攻撃は出来ない。猫耳族の協力が不可欠じゃ。そうなると、拠点が必要か……
目を開けると、皆はわしを見つめて次の言葉を待っていた。
「とりあえず、ラサを落とそうと思うにゃ。みんにゃはそれでかまわないかにゃ?」
「いいのですが……」
「セイボク。どうしたにゃ?」
「簡単におっしゃるのですね」
「さっきも言った通り、わしは強いにゃ。一万の兵では、とても止められないにゃ」
「王の言葉ですから信用はしますが……」
セイボクはどう見ても心配そうな顔をしているので、わしは笑顔で語る。
「まぁ実際見にゃいとわからないだろうにゃ。でも、ラサは帝都と比べると、兵士を軍隊に取られて、守り手も少なくなっているだろうし、落としやすいと思わないかにゃ~?」
「……たしかに」
「じゃあ、決定でいいかにゃ?」
「「「「「はっ!」」」」」
わしの決定に、皆、やる気に満ちた顔で返事をしてくれた。
「ウンチョウ。猫耳族で戦える者はどれぐらい居るにゃ?」
「およそ千人です」
「里の警備以外を進軍するとして、戦えなくても雑用で人が必要になるから、その倍は用意するにゃ」
「はっ!」
戦力は少なくてもわしがいるからなんとかなるとして、問題はそのあとじゃな。
「バンリを落としたあと、統治する者が必要になるにゃ……ウンチョウ。やってみるかにゃ?」
「俺がですか? セイボクのほうが適任かと……」
「セイボクはここに残って、少ない人数で里のやりくりしないといけないにゃ」
「しかし、人族への恨みが……」
「ラサを落としたにゃら、人族も含め、街として建て直さなくちゃいけなくなるにゃ。恨んでいる暇、なくにゃるんじゃないかにゃ?」
「それでも……」
ダメか~。セイボクの次に偉そうだから、ウンチョウ以外、適任者がおらんのじゃよな~。
「わかったにゃ。他に適任者がいれば、そいつに任せるにゃ。でも、補佐は必ずしてもらうにゃ」
「……わかりました」
決める事はこれでおしまいかな? おっと、奴隷紋解除の者も連れていかないとな。
「ワンヂェン。里に居る猫耳族の奴隷紋解除には、どれぐらい掛かりそうにゃ?」
「そうだにゃ……魔法使いを集めて全てにやり方を教えれば、一日あればいけるかにゃ?」
「じゃあ、それが終わったら、田畑に必要にゃ人数を残して進軍にゃ」
「わかったにゃ」
「進軍する日付は準備もあるだろうし、出発は二日後にしようかにゃ? 集合場所はここから、北西にある街跡にするにゃ。シェンメイ。案内を頼むにゃ」
「はっ!」
「それじゃあ、わしは先行して街跡に向かうから、三日後に集合にゃ~!」
わしは立ち上がって宣言するが、何故か返事がない。その代わりに、セイボクが質問して来る。
「一緒に行かれないのですか?」
「やる事があるから、先に行くにゃ。あ! 食糧はわしが用意しておくから、街跡に着くまでの食糧だけでいいからにゃ?」
「はあ……」
「
「「「「「はっ!」」」」」
皆の返事を受けて、わし達は会議室をあとにする。その後、溜め池に魔力三割程の【水玉】を補充してから猫耳族の里を出た。
そこで、メイバイとノエミに車に乗り込んでもらうと、猫型に戻って屋根に登る。
「車で移動なんて出来るニャー?」
わしの行動に不思議に思ったメイバイが、屋根に開けた穴から尋ねて来た。
「まぁ見てるにゃ。【三日月】にゃ~!」
「「おお~~~!」」
わしの放った風魔法【三日月】は、木を薙ぎ倒し、北西への道を作る。
それだけでは木と切り株が邪魔になるので、木は次元倉庫に保管。切り株は土魔法で土を操作して掘り起こしながら、ついでに車もベルトコンベアのようにして運ぶ。
その作業を続け、空が赤くなる頃にリータ達の待つ、街跡に到着した。
「立派な道が出来たニャー! 凄いニャー!」
「ホントに……どんだけ魔力があるのよ!」
メイバイはわしを褒めてくれるが、ノエミは何故かツッコンで来たので、道を作った理由を説明してあげる。
「これで、猫耳族の移動速度が上がるにゃ~」
「そうだけど、こんな事に魔法を使うなんて、シラタマ君はすっごく変よ」
「変って言うにゃ~!」
「そうニャ。シラタマ殿はかわいいニャー」
う~ん。かわいいは褒め言葉なの? 褒められている気がしないんじゃけど……
二人の言葉に納得のいかないわしであったが、人型に戻ると街跡に入る。ここはまだ木が生い茂っているので、歩いてシェルターに向かう。
ノエミがおんぶとか言って来て、魔法使いだから仕方ないかと背負ったら、メイバイが怒るトラブルはあったが、無事、シェルターに到着した。
そうしてシェルターに入ると、待ち構えていたリータに、わしはいきなり抱き上げられてしまった。
「シラタマさん。おかえりなさい」
「にゃ!? 苦しいにゃ~」
「あ! すみません」
いきなり正面からベアハッグにあったわしは息ができず、タップしてみたが、リータは降ろしてくれないので、そのまま労いの言葉を掛ける。
「留守番、ご苦労様にゃ。それにしても、わし達の帰るのがよくわかったにゃ~」
「あれだけ木を倒していたら、音でわかりますよ~。最初は何事かと思いましたけどね」
「にゃ……それはすまなかったにゃ。子供達は怖がっていなかったかにゃ?」
「私が説明したら、すぐにわかってくれましたから大丈夫です」
すぐにわかるものなの? リータがなんて説明したのか気になる……
「にゃんて説明したにゃ?」
「それは……いいじゃないですか。お疲れでしょ? 入りましょう!」
「教えてにゃ~。にゃあにゃあ~?」
その後、しつこく聞いたせいか、リータにきつく抱き締められ、口を塞がれてしまった。中に入ると夕食が始まる前だったらしく、皆でわいわいと食事をいただき、食べ終わると主要メンバーを食堂に残す。
「ケンフ。服はどれぐらい集まったにゃ?」
「多くは集まりませんでした。ですが、布なら集まったので、加工できれば子供達の服には充分でしょう」
「よくやったにゃ。ズーウェイ。子供達は元気にしてたにゃ?」
「はい。よく食べ、よく手伝ってくれています。一人体調が優れない子がいるのが気になります」
「よく見てるにゃ。あとでその子を診てみるにゃ。リータ。獣は近付いて来なかったにゃ?」
「はい。シェルター付近には何も来ませんでした。空も子供達と交代で見ているから問題ありません」
「安全に気を付けてくれてありがとうにゃ。これから忙しくなるから、みんにゃも心して聞いてくれにゃ」
わしは矢継ぎ早に報告を聞き、感謝を述べて、もったいぶって話を切ると、リータが質問する。
「忙しくなるとはどういう事ですか?」
「三日後に、猫耳族の軍隊がこの街にやって来るにゃ。その受け入れ準備を手伝ってもらうにゃ」
「猫耳族の軍隊が!? 私がここに居たらまずいのでは無いですか?」
「リータやノエミ、ケンフには、肩身の狭い思いをさせるかもしれないにゃ。でも、軍隊はわしの指揮下に入るから、にゃにもさせないにゃ」
「軍隊がシラタマさんの指揮下? なんでそんな事が出来るのですか?」
「これには深い理由があるにゃ……。わしはやりたくにゃかったけど……」
わしがリータの質問に答えていると、メイバイが立ち上がり、声をあげる。
「シラタマ殿は、猫耳族の王様になったニャー!」
「「「え!?」」」
メイバイの発表に、全員でわしを見るので、肩を落として小さくなる。すると、わしから答えをもらえないと悟ったリータは、メイバイに質問する。
「王様って、一番偉い人ですか?」
「そうニャー!」
「シラタマさん。本当ですか?」
リータがわしの顔を無理矢理あげるので、渋々声を出す。
「そう……みたいですにゃ……」
「なんで他人事なんですか!」
「だって……やりたくないにゃ~~~」
「なんでニャー! シラタマ殿に、ぴったりニャー!!」
どこがじゃ! 猫じゃぞ? 猫が王様をする国なんて、何処にも無い!
「私が……王妃?」
「リータが第一夫人で、私が第二夫人ニャー」
あ……やりたくないって言っているのに、もう結婚した事になってる。
「シラタマさんを支えられる妻になってみせます!」
「一緒に頑張るニャー!」
リータなら王妃は嫌がると思っていたけど、やる気に満ち
わしが不思議に思ってリータとメイバイを交互に見ると、二人は声を合わせる。
「「夫の出世は妻の喜び(ニャー)です!」」
「どこでそんにゃ言葉、覚えたにゃ~~~!」
「「恋愛指南書 (ニャ)です」」
「もう読むにゃ~~~!!」
その後、王も王妃も決定と言わんばかりに、わしの言葉は無視され続け、二人に撫でられながら眠りに就くのであったとさ。
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