241 ささやかな宴会にゃ~
はぁ……わしが王様か……
車の中に差し込む気持ちのいい朝日で目覚めたわしは、気分の沈んだ朝を迎えた。
それにリータとメイバイが王妃……わしもそうじゃが、二人も高貴な者は似合わんのう。見た目が猫、街娘、メイドな王族ってどうなんじゃろう?
いや、二人はかわいらしい顔をしているから、服を変えれば見えん事はないか。問題はわしじゃな。猫じゃ。もしくは、ぬいぐるみじゃ。
こんな奴に付いて来る者が……猫耳族は来るな。はぁ……そろそろ起きるとするかのう。
わしは両隣で寝ているリータとメイバイを優しく起こし、撫で始めた二人から抜け出る。車から出ると、乱れた着流しで追い掛けて来たので、着替えて来るように強く言う。
怒られてしゅんとしていたので、二人の着替えが終わるのを待って、出て来た所を二人に飛び付く。簡単に機嫌は戻っていた。
その後、朝食を皆で済ませると、各種仕事を押し付け……頼む。メイバイ、ノエミ、ズーウェイ、子供達で洗濯組。ケンフ、ヨキ、シンの三人で見張り組。最後に、わしとリータで見回り組。
洗濯組の仕事は、ケンフが集めて来た布を綺麗に洗い、干すことだ。水の魔道具を大量配布したから、石鹸を使って皆で踏み洗いしてもらう。
見張り組には、空からの警戒をしてもらう。子供達は外に出ているから、大事な仕事だ。ヨキとシンが立候補してくれたから、ケンフ一人の見張りより、安全なはずだ。
見回り組のわしは、街の外壁の修理にあたる。シェルターの壁だけでは、二千人もの猫耳族を受け入れられないので、外壁を再利用しようと言う訳だ。
メイバイも誘ったけど、昨日、一昨日と、わしを独占していたのを、リータに気を使って洗濯組に参加している。
洗濯に必要な桶や物干し等を作ると、子供達の「キャッキャッ」と遊ぶように洗っている姿をあとに、わしとリータは外壁に移動する。
「ここからするかにゃ」
「はい!」
と、言うやり取りをして、わしは黙々と壁の補強をしていく。元々立派な壁だったらしく、穴が開いている所を塞ぎさえすれば再利用できる。念の為、上から新しく土を被せて強度を上げる。
リータは暇だったのか、何故か猫又石像を作っていた。
え? 石像も補強しろ? 嫌じゃ。ポコポコしても嫌じゃ。あ、そんなに悲しそうな顔しないで……
結局、わしが折れて、壁の上に強化された猫又石像が作られていく。
門の前にはいらないんじゃないかな? いりますか。そうですか。
門は大きな門があったがボロボロで、
門は小さいので、猫耳軍が到着したら、土魔法で壁を大きく開ける予定だ。
壁の補強が終わると腹が鳴ったので、シェルターに戻る。皆、もう食ってやがった。
食べ終わった子供達と交代で、わしとリータもズーウェイに食事を出してもらう。ヨキとシンも食堂にいたので、食べ終わったら、ケンフに食事を持って行くように指示を出しておいた。
その席で、わしは昼食をとりながら各種報告を聞く。
「メイバイ。洗濯はどうにゃ?」
「もう終わったニャー。ノエミちゃんが風魔法で乾かしてくれたから、もう取り込めるニャー」
「そうにゃの? ノエミ。ありがとにゃ~」
「これぐらい、どうってことないわよ」
「いんにゃ。おかげで次の作業にいけるにゃ。この中で裁縫が得意な人はいるかにゃ?」
「それなら私が得意です」
わしの質問に、ズーウェイが手を上げた。
「ズーウェイは、家事全般が得意なんにゃ。助かるにゃ~。他に出来る者はいないにゃ?」
「得意ではないけど、私も出来るニャー」
「それじゃあ、ズーウェイとメイバイで、服の制作をお願いするにゃ。不格好でもいいから、着れるようにしてくれにゃ。あと、女の子達にも教えてあげてにゃ~」
「わかりました」
「わかったニャー」
二人に頼み事をしていると、リータも役に立ちたいからか立候補する。
「私も簡単な裁縫ぐらいなら出来ますよ?」
「リータは別の仕事を頼みたいにゃ」
「なんですか?」
「先に食べてしまおうにゃ」
「はい」
食事が終わるとノエミに、ヨキとシンの見張りの交代をお願いして、外に来るように言ってもらう。
外で遊んでいた子供達にも声を掛け、シン達女の子はズーウェイとメイバイの元で裁縫をしてもらい、ヨキ達男の子はシェルターの日当たりのいい南側に移動させる。
「君達には農作業をしてもらうにゃ」
「農作業?」
わしの唐突な発表に、ヨキが代表して質問するので、詳しい説明に移る。
「わしの用意した食糧だって、数に限りがあるにゃ。そこで、自分達の食糧ぐらいは確保して欲しいにゃ」
「道具も何も無いよ? 植える物もそうだけだ、せめて
「にゃ? ヨキは農作業が出来るにゃ?」
「いちおう……」
あ、ヨキの親は農夫だったのか。不作で捨てられて、ここに来たんじゃろうな。嫌な事を思い出させてしまった。
「さすがリーダーにゃ! ヨキがいれば、みんにゃの食べ物に困らないにゃ~」
「う、うん」
「道具は、わしが作るから大丈夫にゃ。植える物は、成長の早いジャガイモにゃ。ひとまず、ジャガイモ畑を作るにゃ~」
ヨキはリーダーと聞くと、自分の立場を思い出したのか、気を取り直す。わしはその姿を見て大丈夫と確信し、作業を始める。
まずはジャガイモを数十個取り出し、種芋とするべくリータに切り分けるように指示を出す。子供達も交じり、すぐに終わりそうなので、急いで鍬を作る。
土魔法で軽くて硬い鍬を作ると、子供達に配布。地面に四角く線を引き、その中の土を柔らかく耕してもらっている間に、水の確保。
壁際に穴を堀り、壁向こうのお堀と繋がる小さな穴を開ける。汲みやすいように屋根付きの滑車も付けた。
水を確保すると子供達の作業を見ていたが、元々広場だった土は硬く、苦戦しているようだ。リータはサクサク掘っていたが、子供達の力では難しい。
なので、残りの畑はわしが担当。土魔法でちょちょいと耕す。見ていた子供達のブーイングは凄まじかったが……
うるさい子供達の声は無視して、水の汲み方を説明。楽に汲めると喜び、楽しそうに水を汲んでいた。水の入った桶には、わし特性栄養材を入れて、畑に水を撒いてもらう。
広場の土では水分が少なく、栄養不足に思えたので、先にやってしまおうと言う訳だ。
それを見ていたわしも、水魔法で水撒きすると、またブーイング。いいから耕せと言い、叱りつけると、逆にリータに怒られてしゅんとする。魔法を使って、何が悪いんじゃ……
土と栄養材が十分に馴染んだら
罰ですか。そうですか。
腹が立つが、わしは大人。スピードを活かして、種植えをあっという間に終わらせる。
その後、子供達に追い掛け回されたので、あとはリータに押し付けてシェルターから脱出。街を走り、壁に飛び乗って街中を眺める。
さて、猫耳族の寝る場所を考えねばならん。道を整備した南側から来るから、そこの壁に穴を開けて入れるとして、寝る場所は廃墟か。
廃墟は崩れそうなのは補強して、その導線の道も作らないといけないのう。今日は街中の木を伐採しておしまいじゃな。
壁から飛び降りると、周りに生えている木を【鎌鼬】で切り倒す。家を傷付けないように、慎重に操作しながら放っていたが、何軒か貫通したり、倒れた木で倒壊してしまった。
少しもったいない気もするが、時間短縮で気にしない。整備された道からシェルターに向けて進み、シェルターから出口になる西に木を切り倒し、壁に辿り着くと来た道を戻る。
切り倒した木は次元倉庫に入れ、切り株は時間が掛かりそうなので放置。道の反対側に来る頃には、空が赤くなっていた。
夕飯も近いので、今日の作業はおしまい。シェルターに戻る。だが、子供達の集中攻撃を受け、撫でられる作業が残っていた。
夕飯はもう少し掛かると聞いたので、
「まだ見張りをしていたにゃ?」
屋上に出ると、ノエミとケンフが残っていた。
「え? もうよかったの?」
「あ、誰も呼びに来なかったにゃ? 指示を出すのを忘れてたにゃ。ごめんにゃ~」
「いえ……」
わしが謝罪するとケンフは困ったように口ごもるので、その先はノエミが喋る。
「シラタマ君のせいってわけでもないわね。それより、屋上に何か用があったの?」
「子供達の撫で回しから逃げて来ただけにゃ」
「相変わらず人気があるのね」
「まぁにゃ。それはそうと、見張り、お疲れ様にゃ」
「シラタマ君ほど働いていないわよ」
「見張りは子供達の命を守る、立派な仕事にゃ。
「そう……じゃあ、無理を言ってもいい?」
無理? ノエミの欲する物はなんじゃろ? 背かな? 胸かな??
「なんにゃ?」
「お酒が飲みたい! 持ってない?」
あ、酒か。ノエミはちびっこでもおばさんじゃもんな。でも……
「子供にはちょっと早いにゃ~」
「だから、大人って言ってるでしょ!」
「にゃはは。冗談にゃ。夕飯を食べたら、大人を集めて宴会をしようにゃ」
「やった!」
「ケンフも絶対参加にゃ」
「俺もいいんですか?」
「少ないけど、働いた対価にゃ。貰ってくれにゃ」
「ありがとうございます!」
見張りの二人を連れて食堂に戻ると、子供達は、もう食べてやがった。文句を言いたかったが、黙って料理を運ぶ。ズーウェイが配膳をしようとしたが、遅れて来たわし達が悪いと言って座らせた。
食事が終わると大人組に片付けを頼み、わしは子供組のお風呂の世話。今日は早く寝させる為に、魔法で雑に洗う。
子供達を寝室に送り込むと、久し振りに働いて疲れたせいか、バッタバッタと倒れて眠りに落ちていく。
最後の組を寝室に送り込んだら食堂に戻り、酒を用意してささやかな宴会を始める。
「みんにゃ~、コップを持ったにゃ~? 今日までの三日間、お疲れ様にゃ。かんぱいにゃ~!」
「「「「かんぱ~~~い!」」」」
今日の酒の肴は、海魚の干物とポテトチップス。メイバイとズーウェイが猫に戻っていたが、慣れたものだ。
「メイバイ。ズーウェイ。美味しいにゃ~?」
「「ニャーーー!」」
「ノエミ。美味しいにゃ~?」
「ニャーーーって、なんでやねん!」
「にゃはは。ノリがいいにゃ~」
わしが猫耳族の二人とノエミをかまっていると、リータが絡み付いてくる。
「シラタマさ~ん。私もかまってくださ~い」
「わかったにゃ~。強く抱き締められると苦しいにゃ~」
「モフモフ~」
「あ! 私も抱くニャー」
「ほい。焼き魚にゃ」
「「「ニャーーー!」」」
メイバイが猫から復活したが、わしが焼き魚を出すと、また猫に戻っていたが、何故かノエミも一緒に「ニャーーー!」と言っているのは謎だ。酔っ払ったのかもしれない。
「にゃははは。ケンフも飲んでるにゃ?」
「ワン! ワワワワン!」
「喋れにゃ!」
「ワフッ!」
「にゃはは、は……」
……う~ん。猫のわしが、一番、人の言葉を喋っているのは、どういう事じゃ?
しばらくわしは、黙って皆を観察していたが、メイバイとズーウェイにまじってノエミが「ニャーニャー」何か話をしており、リータがわしに「モフモフ」、ケンフが「ワンワン」と話し掛け、夜は更けて行った……
誰かわしの話し相手になってくれ~~~!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます