146 盗賊討伐にゃ~
「決まったわ!」
海に連れて行けとうるさい女王達に、飛行機の乗員を決めさせた結果、こうなった。
まず、わしと兄弟達。これは猫だから人数に入らない。
次に護衛。イサベレを含めた、ソフィ、ドロテ、アイノの城組。そこに、リータとメイバイを護衛依頼を出して雇ってくれるそうだ。
そして、女王を含む王族四人。残りの枠を、三人の侍女となった。
「女性ばっかりにゃ~」
「泳ぐんだから当然でしょ」
「そうにゃけど……」
「あと、ひとつ頼んでいい?」
「……なんにゃ?」
先ほどまでの我儘が酷かったので、女王の質問に、わしは嫌そうに答えてしまった。
「そんなに構えないで。バーハドゥ王から、小麦の輸出の話があったでしょ? それをあなたに運んでもらいたいのよ。ちゃんと商業ギルドにも、指定依頼で出すから安心して」
「行くついでだから、お金は要らないにゃ」
「本来なら、私がビーダールに行くには、大金が掛かるのよ。シラタマは、こうでもしないとお金を受け取ってくれないでしょ? 気持ちだから受け取って。ね?」
運賃って事か……。確かにタダで連れて行くのは、割に合わんな。この面子では、ぜったい撫で回されるもん。
「わかったにゃ。有り難く受け取るにゃ。持って行く荷物も、わしの収納魔法に入れるから、当日までに用意するにゃ。それと、向こうは暑いから注意するにゃ」
「ええ。宿の手配は、私のほうで通信魔道具でしておくから大丈夫よ」
宿代は女王持ちって事じゃな。これで、だいたい決まったけど、あと聞いておく事は……
「女王はお忍びで行くにゃ?」
「そうなるわね。突然の訪問だから、バハードゥ王に会えるかわからないでしょうしね」
「会いたいにゃら、わしの名前を出すにゃ。たぶん、取り次いでくれるにゃ」
「本当!? これで目的が達成できるわね」
「やっぱり……そんにゃ魂胆だと思ったにゃ~」
「あ……」
女王は、海は口実で、バハードゥと会いたかったんじゃろうな。いや、あの顔は、海も本命か。王族全員で、海の話で盛り上がっておる。
話が終わると、出発の日付けを決めて城をあとにする。王族四人には散々撫で回されたので、また
そうして女王との旅行に必要な物をお店で見て回るが、なかなか値が張るので違う方法を考え、ハンターギルドで依頼を受ける事にした。
依頼ボードから一枚の紙を剥ぎ取って、受付カウンターに向かうとティーサと目が合ってしまったので、そこで依頼用紙を提出する。
「仕事する気になったのですか!」
「ちょっと必要にゃ素材が欲しくなったにゃ」
「必要な素材って……盗賊が、なんの素材になるのですか?」
「盗賊が持っている物にゃ! 人聞きが悪いにゃ!」
「猫ちゃんの事ですから、つい……」
まったく……ティーサはわしをなんだと思っているんじゃ。人間なんて、素材に変わるわけがないじゃろう。キョリスには、食材になっておったが……
「盗賊団の討伐依頼ですね。人数も多いみたいですけど、一人で受けるのですか?」
「リータ達とやるつもりだけど、ダメだったら一人でするにゃ」
「猫ちゃんなら大丈夫だと思いますけど、気を付けてくださいね」
「わかったにゃ~」
わしは依頼を受けると帰路に就く。家に着いたものの、リータ達はまだ戻って来ていなかったので、庭の手入れをしてから離れでコーヒーを
そうこうしていたら、本宅からわしを呼ぶ声が聞こえ、走って出迎えに行く。
「おかえりにゃ~」
「ただいま戻りました」
「ただいまニャー」
わしが玄関で、リータとメイバイを出迎えると、笑顔で返してくれた。
「お風呂にするにゃ? ご飯にするにゃ?」
「シラタマ殿にするニャー」
「私も~」
「にゃ!? ゴロゴロ~」
また主婦になりかけておる……てか、あえてベタなオチは外したのに、わしの選択肢が出るとは、メイバイはどこで習ったんじゃ?
わしは撫でるならお風呂で出来ると主張し、バススポンジとして活躍してあげた。その時、リータとメイバイの体を
それから綺麗になった二人と食卓を囲み、女王の依頼の件を説明して、リータ達の予定と擦り合わせる。
「女王陛下の指定依頼ですか……」
「嫌だろうけど、もう受けてしまったから、お願いするにゃ~」
「嫌と言うわけでは……。私が受けていい依頼なのかと思ってしまっただけです」
「わしの信頼する仲間だから大丈夫にゃ」
リータが難しい顔をしていたので宥めると、メイバイも続いてくれる。
「リータは自信が無さ過ぎるニャ。今日だって、リータに助けられたニャ」
「メイバイさん!」
「あ……なんでもないニャ」
メイバイの話をリータが邪魔するって事は、聞いて欲しくないって事か……
「……三日後に仕事をして、一日休んでからビーダールに行く女王の依頼にゃ。このスケジュールでいこうと思うにゃ。これで大丈夫かにゃ?」
「はい」
「……はいニャ」
わしがスケジュール調整をすると、リータは普通の返事をくれたが、今度はメイバイの顔が曇った。
「どうしたにゃ?」
「シラタマ殿は何も聞かないニャ。私達に興味がないニャ?」
「そんにゃ事はないにゃ。わしに言わないのは、何か目的があるんにゃろ?」
「そうだけど……」
「気ににゃるけど我慢してるにゃ。だから、二人に怪我が無いかはチェックしてるにゃ」
「あ! だからお風呂で、私達の体をずっと見ていたのですね」
「ま、まあにゃ」
少女の裸をあまり見たくないけど、背に腹は変えられん。けっしてエロイ目で見ているわけではない。ホンマホンマ。
「てっきり私達の体に見惚れていると思っていたニャ!」
「私もついに目覚めたのかと……」
だから、違うと言っておる! 心の声じゃけど……
「わしは二人の事を心配しているって事は、忘れないでくれにゃ」
「シラタマ殿~!」
わしが優しく語り掛けると、メイバイは抱き上げて撫で回す。
「ゴロゴロ~。そうにゃ! 明日はリータ達はにゃにをするにゃ? ゴロゴロ~」
「えっと……明日は、その……」
「予定があるんにゃ。気にしにゃいでいいにゃ。ゴロゴロ~」
「シラタマさん!」
「リータまでにゃ!? ゴロゴロゴロゴロ~」
二人にめちゃくちゃに撫で回されたわしは、この日はゴロゴロ言いながら眠りに就くのであった。
翌朝……
行ったか……
京も朝からめちゃくちゃにされながらも、寝たふりを続けたわしは、二人が出て行くのを待って、むくりを起き上がる。
リータもメイバイも甘噛みするから、毛が固まってしまっておる。息子さんは噛まれなくてよかった~。貞操の危機を感じるわい。
今日は早く出て行くつもりじゃったけど、シャワーを浴びてから出掛けよう。
わしはシャワーを浴びて朝食を済まし、庭に水やりをしてから王都を出る。そして、北東に向けて走り出す。
そうして走っていたら、小さく見えていた山が、大きくなって来た。
もう、馬車で五日は掛かる故郷の山が近くにある。車と違って走る道を選ばないから、一時間切ったな。飛行機といい勝負じゃわい。
たしか盗賊は、東と北の間の街と、ローザの街の間に、よく出没するんじゃったよな。大人数で襲われると聞いておったが、ヤサはどこじゃろう?
この辺で、襲われている人がいれば、拷問してでも吐かせるのに……幸い、以前使った拷問セットがあるからのう。って、酷い事を言っておる。早く情報提供者を見付けよう! 言い直しても、もう遅いか……
わしは探知魔法を遠くに飛ばしながら山に向けてひた走る。人の反応があれば近くに寄って確認するが、ハズレが続く。
その探索をしばらく続け、何度目かの接近で、目的らしき人影を見つけた。
馬車が止まって、人が多く集まっていた所に来てみたが……ビンゴじゃな。豪華な馬車に、盗賊が群がっておる。
十対三か。これなら人数的に不利じゃし、割って入ってもいいじゃろう。出来れば、五体満足で捕らえたいしのう。急ごう!
わしは人型に変身して、盗賊に囲まれている馬車に駆け寄る。騎士らしき三人の男は劣勢に戦い、防戦を繰り広げている。
わしは走るスピードを落とさずに攻撃範囲に入ると、魔法を発動する。
「「「「ぎゃ~~~!!!」」」」
「な、なんだ!?」
「どうなっている!?」
「盗賊が飛んで行きました……」
わしの風魔法、【突風】を下から受けた盗賊は、一人残らず空に舞い上がった。盗賊の叫び声はしだいに遠退き、落ちて来る頃には静かになっていた。
空に浮かんだ点が大きくなると、わしは盗賊を一ヶ所に集めるように魔法で風を操作し、騎士達から離れた場所で、起こさないように優しく受け止める。
それから、三人の騎士の目の前に行き、
「ね、猫!?」
「モンスター!!」
「ぬいぐるみ?」
予想通り、驚いておる。これは、わしを初めて見た人の反応じゃな。しかし、跪いておるじゃから、剣を降ろしてくれんかのう。
「突然、驚かせて申し訳ないですにゃ。わしはハンターのシラタマと申す者にゃ」
「猫がハンターだと?」
わしが丁寧に自己紹介をすると、一番格上であろう中年の騎士が、不思議そうに尋ねる。
「そうですにゃ。この度、盗賊討伐の依頼を受けて、ここに居ますにゃ。盗賊を横取りしたようにゃ形になってしまって、申し訳ないですにゃ」
「いや、劣勢だったから助かった。だが……」
「だがにゃ?」
「「「猫??」」」
混乱しておるな。どうしたモノか……あ! アレを返し忘れておったな。勝手に使うのは気が引けるが、この国の騎士なら
「騎士様は、王都で猫が現れたって噂を知らにゃいかにゃ?」
「あ……聞いた事がある」
「にゃら、女王陛下がその猫を、親友と言ったってのも聞いた事があるにゃ?」
「……ある」
「その猫がわしにゃ。これを見てくれにゃ」
わしは懐に手を入れ、次元倉庫から前回の旅で使った、女王の紋章の入った短刀を取り出し、騎士に見せる。
「これは女王陛下の紋章……」
「信じてくれるかにゃ? わしは悪い猫じゃないにゃ~」
「いや、えっと……」
う~ん。まだ混乱してる……もう少し待たないとダメか。
「とりあえず、盗賊を捕らえて来るにゃ。その間に話が出来るようにしてくれにゃ」
わしは騎士にそう告げると、気絶している盗賊に向かって歩く。そして、盗賊の武器や持ち物を没収してから、土魔法の檻に、一人を残して放り込む。
残った盗賊には手
目覚めた盗賊は、笑う者、騒ぐ者、怒る者と様々いるが、【小火の玉】を数発、檻に投げ込んで黙らせた。
「静かになったにゃ。話をしようにゃ~?」
「猫に話す事なんて、何も無い!」
「まあまあ。一枚乗せるからお願いするにゃ~」
「ぐっ……」
盗賊の膝の上に、石の板を乗せると、顔を歪めた。
「それで、今日はいい天気だにゃ。こんにゃ日は、もう一枚追加したくなるにゃ~」
「ぐぁっ!!」
二枚目の石の板を乗せると、今度はかなり苦しそうな顔に変わった。
「あ、そうそう。三枚目を乗せたあとは、下の土台が尖るにゃ。かなり痛くて、骨は折れて歩けなくなるにゃ。で、歩けなくにゃったら、他の人の交代してもらうにゃ。それじゃあ、一枚追加するにゃ~」
「ま、待て!」
わしが石の板を軽々持ち上げると待ったが掛かったので、石の板を縦に降ろして話を聞く。
「話す気になったにゃ?」
「あ、ああ……」
「じゃあ、質問するにゃ。今日はいい天気だと思わにゃいかにゃ?」
「………」
「一枚追加するにゃ~!」
「「「「「天気の話かよ!」」」」」
総ツッコミ……。どうやら盗賊は、秘密の暴露を迫られると思って待ち構えていたのに、わしが天気の話しかしないから、全員でツッコんだようだ。
盗賊に総ツッコミされたわしであったが、きっちりアジトの場所を聞き出す事は忘れないとは、わしは出来る猫だ。
盗賊との話を終わらせると、拷問を受けていた盗賊も檻の中に入れて、騎士達の元に戻る。
騎士達の元には、馬車から出て来たのか、人数が二人増えていた。だが、なにやら話し込んでいて、近付くわしに気付いていない。
「あ! お嬢様、危険です!!」
そんな中、馬車から降りて来た者の中にいた幼女がわしに気付き、走り出してわしに抱きついた。
「にゃ!?」
「ねこさん……またたすけてくれた!」
また……? 誰じゃったかいのう??
突然抱きつかれた幼女の言葉に、わしの頭の上にクエスチョンマークが浮かび、二本の尻尾もクエスチョンマークとなってしまうのであった。
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