050 我が家に招待するにゃ~


 わしが兄弟達と墓参りをしたいとお願いしたら、さっちゃん達に連れて行けと、逆にお願いされる事となってしまった。


「行っても何も無いにゃ」

「そんな事は無いわ。あの山の奥なんて、誰も行った事のない秘境よ!」

「本当に何も無いにゃ。行っても楽しく無いにゃ」

「行って見ないとわからないでしょ!」

「行かなくてもわかるにゃ。木しか無いにゃ」

「シラタマちゃん、連れて行ってよ~」

「シラタマ様、私も行きたいです」

「私もお願いします」

「猫ちゃんがどうやって行くか気になる~」


 気になると言われても……転移魔法なんて、この世界にあるのじゃろうか? 馬車で移動する世界じゃし、人に知られたら面倒な事になりそうじゃ。それに転移魔法は使い難い。


 まず行った場所に、わしの魔力でマーキングしないと、その場所に飛べない。

 イメージだけでも飛べるが失敗すると、とんでもない場所に飛ぶと魔法書にも書いてあった。千里眼のような魔法があれば飛べそうじゃが、残念ながら発見できていない。

 次に、使用する魔力量が多過ぎる。わしの全魔力量の三分の二が必要となり、行って帰るには飛んだ先で三分の一の魔力を吸収魔法で集めないといけない。吸収魔法で集めると、半日は掛かる。

 次元倉庫にあるストックを使えばいいが、わしは貧乏性じゃからあまり使いたくない。修業を終えて、王都に向かう時に使いたかったが、これらの理由で使えなかった。

 心配な事もある。それは、わし一人でしか使った事が無い事じゃ。魔法書によれば、魔力量を増やせば人数が増えてもいけると書いていたが、どれだけ必要か未知数じゃ。兄弟達なら軽いし、担げば人間一人と変わらないじゃろう。



「ねえねえ。シラタマちゃ~ん。連れてってよ~」


 ちょっと考え事をしとるんじゃから、揺らさないでくれんかのう。わしはさっちゃんより小さいんじゃから、揺れ幅がデカイんじゃ。


「ねえねえ。ねえってば~」


 え~い。うっとうしい! 娘の小さい頃を思い出すわ。元気でやっとるかのう……じゃない! さっちゃんはしょうがないのう。


「わかったにゃ」

「本当? やった~!」

「私達もいいのですよね?」

「いいにゃ。その代わり約束するにゃ」

「約束ですか?」

「そうにゃ。さっちゃんもにゃ」

「わたしも? うん。守る!」

「まだ何も言ってないにゃ~」

「あ……エヘヘ」

「連れて行くけど、この事は全て誰にも話さないで欲しいにゃ。それが出来ないなら連れて行かないにゃ」

「それだけ? いいよ。約束する!」

「私も誰にも言いません」

「私も約束します」

「猫ちゃんは、そんな遠くにどうやって行くの? ひょっとして魔法?」

「アイノは置いて行くにゃ」

「なんでもないから置いて行かないで~」



 それから翌朝、我が家に向かう為に、さっちゃんの部屋に全員集まる。


「セベリさんに、サンドリーヌ様の部屋には何があっても入らないように言って来ました」

「施錠もしたよ。念の為、魔法で補強しておいたから、夜まで誰も入れないよ」


 そんな魔法があるのか。今度教えてもらおう。ソフィの伝言も済んだようじゃし、わしの魔力も満タン。猫型で消費も無い。やるか。


「ちょっと離れているにゃ」



 わしは部屋の中心に行き、マーキングをする。


 これは猫の縄張りで行うマーキングではない。みんなの目の前で、そんな事をするわけがないじゃろう。両手をついて、座標をイメージして魔力を流すだけじゃ。


「準備が出来たから、みんなこっちに集まるにゃ。ソフィとドロテは兄弟達を抱いてくれにゃ。それと、もっとくっつくにゃ」

「これで宜しいですか?」

「いいにゃ。アイノはわしを乗せるにゃ」

「は~い」

「それじゃあ、行くにゃ……【転移】にゃ!」



 わしは魔力を放出して全員を包むと固定し、転移魔法を使う。朝日の差し込む部屋から一瞬にして、目の前が真っ暗に変わる。


 ふう。上手くいったのう。じゃが、魔力をごっそり持っていかれた。わしの残りの魔力は、一割ってところか。危なかったのう。


「え?」

「何??」

「真っ暗です」

「移動したの?」

「ちょっと待つにゃ。【光玉】にゃ」


 わしは光の球を出して辺りを照らす。皆は目が少し眩んでから徐々に慣れ、周りが見えてくる。すると辺りを見渡し、各々言葉を発する。


「部屋?」

「洞窟?」

「部屋じゃないですか?」

「山の中なら洞窟じゃない?」



 わしはみんなの反応を無視して土魔法を使い、塞いでいた入口、光の取り込み口、空調を全開にして風魔法で空気を入れ換える。いくら広い空間でも、一気に人が四人も入れば空気が薄くなって倒れ兼ねないからだ。


「ここは何かしら?」

「水呑場ですかね? でも、高さが違います」

「奥は……暗い。【ライト】。わ~! 毛皮がいっぱい」

「寝室じゃないですか?」

「あの大きな箱はベッドかな? 黒い毛皮がこんなにあるよ」

「信じられません」

「あんまりウロチョロするにゃ~」

「こっちは下る階段があります。アイノ、【ライト】をこちらにも」

「ちょっと待って。ここにも部屋があった」

「珍しい扉ですね。引き戸ですか」


 ウロチョロするなと言っておろう。しかも、わしの部屋まで……あ!


「そこはダメにゃ~!」

「なんで?」

「猫ちゃん。何を慌てているの?」

「何があるのでしょうか?」

「気になりますね」

「シラタマちゃんが嫌がってるでしょ。他を見よう」


 ホッ。さっちゃんが止めてくれた。わしの部屋には白熱球があるからのう。この世界では使われていないテクノロジーじゃから、見せたくないんじゃ。



 わしがホッとして胸を撫で下ろしいると、四人は目配せをして頷き合う。そして踵を返し、走ってわしの部屋に飛び込む。


「すきあり~~~!」

「にゃ~~~!」


 わしは突然の強襲に、成す統べなく入室を許可してしまった。


「あれ? 普通の部屋だよ」

「ベッドのある普通の部屋ですね」

「キッチンもある普通の部屋です」

「机に椅子のある普通の部屋……」

「「「「普通の部屋!?」」」」

「シラタマちゃんは猫だよね?」

「シラタマ様は猫ですか?」

「シラタマ様は猫ですよね?」

「猫ちゃんは猫?」

「猫だにゃ~」

「「「「嘘つけ~~~!!」」」」


 え~~~! ナニ、この一体感……


「なんで人間の部屋があるのよ!」

「私達の宿舎より綺麗です」

「このキッチンも使いやすそう」

「猫ちゃんが机で何するの?」


 そっちですか! そう言えば猫の部屋に見えない……ワンルームマンションを意識して、完全に人間使用じゃ。しまった~~~……いたっ!



 わしが己の失敗に唖然としていると、エリザベスに頭を叩かれた。


「何するんじゃ!」

「あんたこそ、私達の家に何してるのよ!」

「それは……アレじゃ。使いやすいように……」

「馬鹿じゃないの」


 うぅぅ。エリザベスに馬鹿にされた……



 わしがエリザベスにツッコミを入れられ、小馬鹿にされていると、さっちゃんが白熱球を手に取る。


「このガラスの球は、なんなのかしら?」

「この出っ張りが怪しいです」

「押してみて」


 あ! それは!


「何も起きませんね」

「ただの飾りみたいね。それはそれで、猫としてどうかと思うけど……」


 セーフ! バッテリー代わりに使っていた角の魔力は切れていたか。電気なんてこの文明には早過ぎる。雷魔法も説明出来んしな。

 光魔法を角に入れて置けば、電球なんて作る必要無かったのに……そろそろ、みんなを外に出して、話しも逸らそう。……あれ?


「エリザベス。ルシウスはどこに行った?」

「ああ、寝床にいるわよ……放っておきなさい」

「おっかさんの墓は外じゃからな。連れて来る」

「私は止めたわよ?」


 なんじゃろう? 何か含みがあるような言い方をしておるが……行って見ればわかるか。



 わしは自分の部屋を出て、寝室をのぞく。覗いたが、すぐに身を隠して後悔する。


「ハァハァ。お母さんの匂い。お母さんの匂い。ハァハァ」


 どこの変態じゃ! こりゃ見てられん。エリザベスが止めるわけじゃな。じゃか、墓参りに来てるんじゃから、一緒に行かなくては……


「ルシウス……行くぞ」

「もう少し、もう少し。ハァハァ」

「そんなのあとにせい! おっかさんの埋まっている所に行くのが先じゃ!」

「お母さん!? 行く!!」


 はぁ……素直に来てくれてよかった。我が家に来ただけなのに、どうしてこんなに疲れるんじゃ。はぁ……



 わしはルシウスを寝室から連れ出すと、さっちゃん達、四人が地下にある氷室から飛び出して来た。


「さむ~い!」

「何も無い、行き止まりでしたね」

「きっと何かの施設ですよ」

「アレじゃない? 城の地下にある氷室?」

「まさか~~~」


 全員がわしを見るが、その視線は無視してして玄関に向かう。


「外に出るにゃ。危ないから、絶対に遠くに行っちゃダメにゃ」

「シラタマちゃん、待って~」



 わし達兄弟の後を、さっちゃん達は走って追い掛ける。さっちゃん達は玄関から外に出ると、目に映る光景に感嘆の声をあげる。


「すご~い!」

「黒い木がこんなに……」

「普通の木と半々ぐらいでしょうか」

「ここまで多いと怖いね」


 さっちゃん達は開いた口が塞がっておらんが、そんなに珍しいのか? そう言えば、わしも初めて見た時は同じ感想を抱いていたな。


「あそこ花壇かな?」

「なんでしょう?」

「これ、香草ですよ。しかも高級品です」

「猫ちゃんが育てているのかしら?」

「そっちじゃないにゃ。こっちにゃ~」

「あ、は~い」


 わしは兄弟達を連れて、トコトコと玄関横にある白い木に近付く。


「白い木!!」

「初めて見ました」

「こんなに綺麗なんですね」

「不吉の象徴とは思えないぐらい綺麗ね」


 不吉の象徴? なんじゃそりゃ? さっちゃん達は見た事が無いのか。もっと上のキョリスの所に行ったら、たくさん生えておるけど、人間からしたら珍しい物なのか。


「ここにお母さんを埋めたのか?」

「そうじゃ」

「……で、それはなに?」

「なにって、これがお墓……」


 わしが兄弟達と話をしていると、さっちゃんが割り込む。


「シラタマちゃん……それはなに?」

「にゃ? エリザベスにも話していたけど、お墓にゃ」


 わしの答えに、兄弟達もさっちゃん達も、口をそろえて叫ぶ。


「「「「「「猫っ!!」」」」」」



 そう。お墓は猫の形をしているのであった。


 なにが悪いんじゃ?

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