212 お葬式にゃ~


 カミラの白骨遺体の発見に、すすり泣いていたわし達であったが、遺体の確認に取り掛かる。


「グズッ……にゃにか他に持ち物がないかにゃ?」

「あのカバン、収納袋じゃないかニャ? 私達のカバンに似てるニャー」

「わかったにゃ。一度、外に出ようにゃ。みんにゃに日の光を当ててやろうにゃ」

「「はい(ニャ)!」」


 わしはカミラパーティの遺体と、持ち物を次元倉庫に入れて洞窟の外に出る。外に出ると日が赤く照っていた。

 その光の中に、遺体をそっと並べる。そして、収納袋の中身を地面に広げる。


 金、食料、布や生活必需品……と、手紙が五通。手紙には名前と届け先か。カミラさんの手紙は……これじゃな。

 カミラさんの手紙も気になるが、他の人の手紙も何が書かれているか気になる。勝手に読むのは気が引けるが、何の手紙か気になるから読んでおこう。まずはこれから……


 わしは一通目の手紙に目を通す。その様子をリータとメイバイは黙って見守り、わしが読み終えると声を掛ける。


「どうでした?」

「何が書いてあるニャ?」

「遺書にゃ。もし、自分の死体を見付けた人がいるなら、この手紙を家族に届けてくれと書いてあるにゃ」

「遺書ですか。ハンターなら死ぬ事だってあるんですよね……私達も書いたほうがよさそうですね」

「そうだにゃ。まぁわしがそんにゃ事は絶対させないけどにゃ。でも、念の為、帰ったらみんにゃで書こうにゃ。とりあえず、残りを確かめるにゃ」


 わしは全員分の遺書に目を通し、遺体と荷物を次元倉庫に入れて立ち上がる。


「カミラさんは、何を書いていたのですか?」

「他の人と似たような事と、エミリの事を書いていたにゃ。それと、日本語でも転生者だと書いてあったにゃ」

「日本語ニャ?」

「わしの国の文字にゃ」

「もし、伝えられなかったらいいんですけど、内容を聞いてもいいですか?」


 内容か……リータ達はわしの転生の事を知っているし、まぁいっか。


「いいにゃ。『もしもこの文字が読める人がいたら、娘のエミリを少しでも助けてあげてくださいにゃ。可能にゃら、私の元の世界の話を、娘のエミリに聞かせてくださいにゃ。藤原恵美里』にゃ」

「それって……」

「もう助けてるニャー!」

「にゃはは。順番が逆になっちゃったにゃ」

「次は元の世界の話ですね!」

「そうだにゃ。さて、探索終了にゃ~! 帰るにゃ~!!」

「「にゃ~~~!」」


 わし達はカミラの遺体の発見に喜び、手を上げて叫ぶ。


「おっと、その前に」


 わしは、まったく話し掛けられないで寂しそうにしているゴリラブラザーズの元へ近付く。


「今日はありがとうな。お前達のおかげで、探していた者に会えた。本当にありがとう」

「礼を言われるような事はしてない、ヨー」

「頭を上げて、デース」

「いや、感謝している」

「アニキはもう帰る、ヨー?」

「ああ」

「また会える、デース?」


 こいつら、またわしと会いたいのか。まさかゴリラに好かれる日が来るとは思わなんだ。猫なのに……


「う~ん。たまに顔を出す。その時は、一緒に踊ろう!」

「「アニキー!」」

「ほな、さいなら~」


 ゴリラブラザーズと別れると、王都近辺に転移。この日は夜になりかけていたのでギルドには寄らずに、二人と手を繋いだまま帰宅した。



 翌昼……


 院長のババアが暇な時間を狙って、孤児院にお邪魔する。孤児院に入るとババアにカミラの事を耳打ちして、エミリの手を引き、四人と一匹でハンターギルドに向かう。

 ギルドに入るとティーサにギルマスに会いたい旨を伝える。どうやらスティナも休憩中だったらしく、待たずに会える事となった。


「急に時間を作らせて悪かったにゃ」

「シラタマちゃんならいいのよ。でも、私に会いたいなんてどうしたの? 家でもよかったんじゃない?」

「仕事絡みの話だったんにゃ。家には極力仕事を持ち帰りたくないからにゃ」

「そうね。帰ったら飲まないといけないもんね」

「いや、わしの家に帰るって言い方はおかしいにゃ。隣の家に帰れにゃ~」

「あはは。それで仕事絡みってどういうこと? エミリが居るって事は、まさか……」


 話を変えやがった! また今日も来るのか……。スティナに言ったところで、聞く耳持たないか。それよりも、要件じゃな。


「そのまさかにゃ。カミラさんの遺体を見付けたから、二人に話そうと連れて来たにゃ」

「見付けたの!?」

「お母さんの……いたい?」


 スティナは驚愕の表情。それとは違い、エミリはキョトンとした顔でわしを見る。なのでわしは、エミリの正面に移動して、目線を合わせて語り掛ける。


「エミリ……気をしっかり持って聞いてくれにゃ」

「ねこさん?」

「わし達はこの数ヶ月、エミリのお母さんの遺体を探していたにゃ」

「お母さんの……」

「そうにゃ。遺体を見付けて持ち帰って来たにゃ。それと、これはカミラさんの遺書にゃ」

「いしょ?」

「最後の手紙にゃ。わしは読んでしまったけど、たぶんカミラさんは、エミリにしか読んで欲しいと思っていないにゃ。だから読んでも、誰にも内容は話さないほうがいいにゃ」

「……はい」


 わしはエミリに遺書を手渡す。そして隣に座り、エミリの読めない文字があると補足する。最後の日本語は、周りに人が多いので、あとで話すと伝えておく。

 スティナには身分証明書となっているペンダントと収納袋、残りの四人の遺書を次元倉庫から取り出して渡した。


 そうして手紙を読み終えたエミリは、わしの手を強く握って来た。


「ねこさん……」

「お母さんは最後まで、エミリの事を心配していたみたいだにゃ」

「……うん」

「忘れていた悲しみを思い出させてしまったかもしれにゃいけど、お母さんを連れて帰って来たから、一緒に供養しようにゃ」

「……うん。ねこさん……うわ~ん」


 エミリはせきを切ったように泣き出す。わしはそんなエミリを抱き締め続けるしかなかった。


 エミリの涙が止まり、リータとメイバイに任せると、わしはスティナと今後の話に移る。


「遺体はどうしたらいいにゃ?」

「そうね……。明日、墓地に行きましょう。ただ、お墓の無い人は、ハンターの共同のお墓になるけど、それでいい?」

「ああ。カミラさんは身寄りが無かったみたいだし、わしが建てるにゃ。パーティメンバーも、お墓が無いにゃらわしがお金を用意するにゃ」

「なんで見ず知らずの死んだ者に、そこまでするの?」

「ただの気紛れにゃ」

「……そう。わかったわ。明日、また話をしましょう。今日はとむらいに飲むわよ~」

「いつものことにゃ~」


 この後、遺体を見付けた報償金は断って、家族の居る者には手厚く支払われるようにしてもらい、わし達は引き上げる。

 ババアは孤児院に、わし達はエミリを連れて家に帰る。家に帰ると、エミリが料理を作ろうとするので止めて、いつも多く作ってもらっている食事を皆で済まし、お風呂に入る。

 アダルトフォーの襲来はあったが、少しお酒を付き合い、今日は相手が出来ないと謝って抜け出した。



 寝室に入ったわしは、カミラの遺書をエミリに読んで聞かせ、転生の話について質問する。


「エミリ。お母さんの手紙にあった転生について、本当だと思うかにゃ?」

「……わからないです」

「それは事実にゃ。エミリは、お母さんの料理に疑問を持った事がないかにゃ? どれもこの国に無い料理にゃ。それこそが、お母さんが転生者だという証拠にゃ」

「ねこさんは、信じられるのですか?」

「もちろんにゃ。わしもカミラさんと同じ世界からやって来た、転生者にゃ」

「え??」


 エミリの驚く顔を見ながら、わしは手を合わせて言葉を発する。


「いただきにゃす。ごちそうさにゃ。どれも、元の世界の言葉にゃ」

「うそ……」

「カミラさんのレシピにも、遺書にも読めない文字があったにゃろ?」

「うん」

「あれは日本語と言って、レシピに書かれていた文字は、名前にゃ。『藤原恵美里』。お母さんの元の世界での名前が、エミリの名前にゃ」

「ふじわらえみり?」

「そうにゃ。これからお母さんに頼まれている、元の世界の話を聞かせるにゃ。まずは……」


 わしは布団に入る三人の間で、元の世界の話を語る。今日はエミリが喜びそうな飲食関係の話にした。

 この国と比べられないほど多種多様な料理。多種多様なお店。日本伝統の習慣で食べる料理を聞かせる。

 エミリは嬉しそうに話を聞くが、リータとメイバイの寝息が聞こえて来ると、限界が来たのか、返事が無くなる。


 眠りに就いた三人の頭を撫で、おやすみと言ってわしも眠りに就く。

 今日の夢は、家族で行った商業施設でのフードコート。楽しそうに、子供達が料理を頬張る姿にまじって、リータ、メイバイ、エミリも仲良く食べていた……





 翌朝……


 わし達は朝二の鐘(午前九時)が鳴ると家を出て、王都の外の墓地へ向かう。少し待ち合わせより早かったので、スティナ達が来るまで、昨日の話の続きを墓地の入口で聞かせる。

 そうこうしていると、ババアが孤児院を代表して現れ、その少し後に、スティナがカミラパーティの知り合いや家族、ギルド職員を連れて現れた。


「スティナ、おはようにゃ。早速だけど、この国の埋葬の仕方を教えてくれにゃ」

「おはよう。埋葬の仕方は土葬よ。墓の管理人の所へ行きましょう」

「わかったにゃ」


 わし達は集団となって、墓地の脇にある建物に向かう。そこで必要な書類にサインをし、お墓の料金を支払い、埋葬する場所に移動する。

 埋葬予定地に着くと、管理人が穴を掘り出したので、わしが代わりに土魔法で穴を掘る。その穴に長方形の箱を作り、次元倉庫から遺体を入れていく。

 墓の形は、カミラさんは日本風で、正面にこの世界の名前、後ろの目立たない所に元の世界の名前を刻む。残りのメンバーはその隣に連名で、周りと同じ西洋風にした。一緒にするか悩んだが、お隣さんなら寂しくないだろう。


 墓が完成すると遺体を埋める。今度は魔法は使わない。最後の別れで、そんな無粋な事は、わしには出来ないからだ。


 皆、別れの言葉を述べながら少しずつ土を掛けていき、エミリの順番となった。


「お母さん……わたし、頑張ってお母さんの夢を叶えるよ。いつか自分の力でお店を作る。その時は見に来てね。絶対だよ!」


 エミリの言葉に、わし達は目頭を押さえる。涙をこらえていたが、わしの番が来てしまい、涙ながらに土を掛ける。


 カミラさん……エミリは大丈夫じゃ。わしがずっと見守っている。でも、カミラさんなら徳を積んで、もう一度この世界の人間に生まれ変わっているかもしれんのう。

 そうなれば、わしと同い年ぐらいか……。記憶を持って輪廻転生できなくても、エミリの料理が道しるべとなって、二人を出会わせてくれるかもしれない。カミラさんなら味を覚えているじゃろう?

 その時には、わしも同席させてもらうぞ。これは決定事項じゃ。いつか、美味しいエミリの料理を食べながら、元の世界の話をしよう。


 わしの別れが終わると、皆で手分けして土を掛ける。土を掛け終わると、スティナや他の遺族達はこの国の風習なのか、目をつぶり、黙祷もくとうをしている。

 わしはエミリやリータ、メイバイに日本風の作法を教えていたので、手を合わせ、目を瞑り、心の中で念仏を唱えるのであった。



「さあ。お葬式はお仕舞い。死んだ者がうらやむくらい、パーっと飲むわよ~」


 埋葬が終わり、皆の別れの挨拶や黙祷も終わると、スティナが何やら言い出した。


「にゃ!? ここで飲むにゃ~?」

「そうよ。何も変な事はないわ。葬式なんだから飲まなきゃ!」


 マジですか? スティナはいつも飲んでるようなモノだから、信用できないんですけど~? あ、みんな準備しだした。本当なのか……


「ほら、シラタマちゃん。何か料理出して。今日は豪華なほうがいいわ~」

「う~ん……わかったにゃ。少し時間が掛かるから、こっちをつまんでいるにゃ」

「楽しみ~!」


 次元倉庫からおつまみを配ると、わしは墓地の真ん中にキッチンを作る。そこで、エミリと一緒に調理を開始する。

 今日のメニューは巨象肉の唐揚げだ。あまりのうまさに悲鳴が上がっていたが、悲しいだけの葬式よりも、多少うるさくても、笑顔のある葬式も捨てがたいとわしは思ってしまった。



 いい葬式じゃ。そう言えば、わしの葬式はどうだったんじゃろう? 女房が大爆笑してる姿しか思いつかんな。


――正解です――


 アマテラス……人の心の声を盗み聞くな!

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