261 感謝……
ラサの街に立ち寄ったわしが、これから新しい街で行う事を詳しく説明すると、ウンチョウとセンジに何故か怒られ、しばらく宥める事になったが、なんとか落ち着いてくれたようだ。
「シラタマさんが、もったいぶるから怒られたんですよ」
「シラタマ殿は空気が読めないからニャー」
名探偵のリータとメイバイが、わしの怒られた理由を謎解きしてくれるが、間違っていると思うので気にしない。ポコポコするのは気にしま~す。
二人と遊んでいる暇も無いので、さっそくお昼の準備を指示する。さすがに炊き出しで忙しくなるので、ポコポコは止まった。
ひとまず外の炊き出しは、食糧を取り出してリータ達に任せ、ウンチョウ達としばらくの必要物資を話し合う。
ラサの不作は深刻で、かなりの量の食糧を取られ、わしの街の食糧危機となってしまった。早く生産体制を整えればなんとかなるかと、安請け合いをしてしまったのが悪かった。
これは急がないといけない。と言う訳で、食事休憩が終わると、ラサから離れたい猫耳族を連れて街を出る。そして列車を動かし、シェルターのある街跡まで走らせた。
街跡まで到着すると猫耳の里まで行く者を残して、あとは街に入れる。ズーウェイへの報告と、移住者の住居はリータ達に丸投げ。補修してある家では足りないから集団生活になるが、しばらくは我慢してもらうしかない。
それが済むと列車を二両まで減らして細くし、猫耳の里へ出発。時間が無いからぶっ飛ばしてやった。
猫耳の里へ着くと元奴隷を残して、コウウン、シェンメイ、ワンヂェンを引き連れて、セイボクに終戦の報告だ。
「セイボク! 喜ぶにゃ! 戦争は、わし達の大勝利にゃ~~~!!」
「ほ、本当ですか!? うぅ……」
「待つにゃ! 泣くのはあとにしてくれにゃ。わしはすぐに戻らないといけないから、そのあとにしてくれにゃ~」
「は、はい……」
わしは簡単に終戦を説明すると、コウウン達を残すから、あとで詳しく聞くように言う。そして、千人の元奴隷の猫耳族を、無理矢理引き受ける事を了承させる。
ただし、ここでも食糧をカツアゲされてしまった。東の国で貯めた物を、わしの街の数日分を残し、調理してある魚も取られてしまった。
セイボクは泣き出しそうだったのを我慢していたが、魚を見た瞬間、猫になったから「待て!」と言って止めた。
食糧も与えたので、あとの説明と祝勝会はコウウンに任せ、数日経って落ち着いたら、必ず訪ねる旨を伝える。
感謝の言葉を告げるセイボクと握手を交わすと列車に戻り、猫耳族を降ろすと、これもコウウンに任せる。
わしの役目はこれで終了。二号車に乗り込んで列車を引いて帰ろうとしたら、ワンヂェンとヤーイーも乗り込んで来た。こっちのほうが楽しそうなんだとか……
仕方がないので、そのまま発車。またぶっ飛ばして街跡に入り、宴を開始する。
『え~。みにゃさん。食ってるにゃ?』
「「「「「わああああ!」」」」」
『よし! 明日から忙しくにゃるから、英気を養ってくれにゃ。じゃにゃいと、みんにゃ飢え死にしちゃうからにゃ? 頼むにゃ~~~!』
「「「「わあああああ!」」」」
今日はわしも宴にまざり、各々の輪に一言掛けながら、日が暮れる間近まで宴が続くのであった。
そうして辺りが暗闇に包まれる前に皆を家で休ませ、わしもシェルターに入る。
「シラタマ様! お疲れ様でした!!」
中に入ると、わしの帰りを待ってくれていたズーウェイに、いきなり抱きかかえられてしまった。
「ただいまにゃ~。ズーウェイもお疲れ様にゃ~。話はもう聞いてるかにゃ?」
「はい! 本当に有り難う御座います。これで死んだ仲間も浮かばれます……グスッ」
「まだ終わりじゃないにゃ。これからズーウェイは、幸せにならなきゃいけないにゃ。それが叶って、ようやく天国の仲間が喜んでくれるにゃ」
「そうですね……まだスタートラインでしたね」
「スタートラインでも、わしがトップスピードでゴールまで連れて行ってあげるにゃ。いや、ズーウェイやみんにゃも、一緒に走ろうにゃ。にゃ?」
「「「「はい!」」」」
わしが話を振ると、リータ達は笑顔のまま力強く返してくれた。
「それじゃあ酒でも飲みながら、わし達の居なかった間の、ズーウェイの冒険を聞かせてくれにゃ」
「わかりました!」
わしは面白半分で、ズーウェイの数日間の話を冒険と言う。だが、奴隷だったズーウェイには、本当に大冒険だったみたいだ。
子供達と楽しく遊び、楽しい食卓を囲み、笑い合う。奴隷では味わえない幸福……わしは酒のせいか、歳のせいか、涙を浮かべてズーウェイの冒険を聞いていた。
わしだけでなく、皆、同じ思いだったようだ。喋り終わったズーウェイが涙を流すと、全員で大泣きしてしまった。
このままでは明日に支障が出るので、今日は全員でお風呂で涙を落とす。ケンフの遠吠えが聞こえて来たので、皆が上がったあとにわしも残り、ケンフの背中を流してあげた。たまには男と語り合うのもいい。
二人で湯船に浸かると、わしはケンフに尋ねる。
「いつまでわしの犬にゃの?」
と……
「そうですね……死ぬまでですかね? あはははは」
マジか……わしの冗談が、一生続くとは思わなんだ……。このままでは四足歩行で歩きそうじゃし、ちゃんと話しておくか。
「べつに死ぬまで犬じゃなくていいんにゃよ? 十分働いてくれたにゃ」
「いえいえ。シラタマ様に仕えてからと言うもの、これまでの人生が嘘のように充実しておりました。こんなに毎日が楽しいのなら、いつまでだってお仕え出来ますよ」
そうなの? ずっと犬のように扱っておったんじゃけど……
「出来れば、このままおそばに置いて欲しいのですが……」
う~ん……珍しく男に好かれておるな。半分男のとき以来じゃ。いや、半分しか男じゃないから、カウントされないか。
さて、どうしたものか。これほど働いてくれたんじゃし、突き放すのもなんじゃな。忠犬ならぬ忠臣を、ほっぽり出すのは現状もったいないか。
「わかったにゃ。ただし約束してくれにゃ」
「約束とは、なんですか?」
「簡単な事にゃ。わしを立てるのも大事だけど、自分の幸せも忘れにゃいでくれにゃ」
「俺の幸せ……戦闘ぐらいしか思い付かないのですが……」
あ! 武術バカじゃったな。忘れておったわ。
「恋をして、結婚なんかにゃ。いい人と出会ったら、紹介してくれにゃ」
「女性ですか……山に籠っていたから考えていませんでした。どうやって扱っていいかもわかりません」
「にゃ……ケンフって、いくつにゃ?」
「山に籠っていたのが十年ぐらいですから、たしか今年で二十二です」
十年じゃと? 十二歳からずっとじゃと? だから「ワンワン」言っておったのか! どうりで遠吠えが本格的なわけじゃわい。
それよりも結婚相手じゃな。無理矢理お見合い結婚でもさせてみるか? 友達も、結婚してから恋に落ちたと言う者も居たしのう。
「まぁわしが見繕ってみるにゃ。ひとまず女の子に慣れる為に、ズーウェイと友達になったらどうにゃ?」
「友達ですか?」
「歳も近そうだし、話し相手になってもらおうにゃ。いざ、お見合いになった時に、緊張して話せませんでしたじゃ本末転倒にゃろ?」
「はあ……善処します」
「さてと、そろそろ上がろうかにゃ」
わし達がお風呂から上がると、リータとメイバイに遅かったと首根っこを掴まれた。ひとまず謝り、シェルターの外に出ると、土魔法で小さな仮住まいを建てる。
今日は寝るだけなので、皇帝のベッドを出して三人でダイブ。そうして撫でられてゴロゴロ言っていると、メイバイがわしをじっくり見て来た。
「どうしたにゃ? そんにゃに見られたら恥ずかしいにゃ~」
「シラタマ殿はかわいいから、ずっと見てられるニャー」
「メイバイもリータも、かわいいから、わしもずっと見てられるにゃ」
「「シラタマ(さん)殿」」
二人を褒めると照れ隠しなのか撫で出すが、リータだけだった。リータの手の感触しかないのでメイバイを見ると、体を起こし、膝を曲げてお辞儀をされた。
「シラタマ殿……」
「にゃ~?」
「この度は、私の願いを聞いてくれて有り難う御座います。全猫耳族を代表して、感謝を述べさせていただきます」
突然のメイバイの改まった喋り方に、横になって聞いていたわしとリータは飛び上がり、正座をして姿勢を正す。
「そんにゃご丁寧に……メイバイがわしを頼ってくれたから、猫耳族が救われたんですにゃ。わしを連れて来た、メイバイの手柄ですにゃ」
「いえいえ。シラタマ殿は、私と出会わなくとも猫耳族の暮らしを見たら、助けてくれていたはずです」
「いえいえ。わしはそこまでの聖者じゃないですにゃ。紛争が起こったら、それは国のせいですにゃ。そんにゃモノに付き合うにゃんてしませんでしたにゃ」
「いえいえ。シラタマ殿ならしていました」
「いえいえ。買い被り過ぎですにゃ」
「「いえいえ……」」
わしとメイバイが
「プッ! あははははは」
リータ。大爆笑だ。
「「にゃ~~~?」」
わしとメイバイは不思議に思い、同時に疑問を口にするが、メイバイがわしの口調をマネするのは相変わらずの謎だ。
「あははははは」
「あの~……どうしましたにゃ?」
「本当です。どうして笑っているのですか?」
「あはは……その口調ですよ! フフフ。メイバイさんは『ニャ』を忘れていますし、シラタマさんまで、何を畏まっているのですか! あははははは」
リータの指摘に、わしとメイバイは顔を見合わせる。
「「プッ……」」
「にゃははははは」
「あははははは」
そして、さっきまでの、お互いの似合わない口調を思い出し、大声で笑ってしまった。
「『ニャ』を忘れちゃダメにゃ~」
「シラタマ殿だって、私に敬語を使っていたニャー」
「わしは時々使ってるにゃ~。メイバイが『ニャ』を言ってないのは初めてにゃ~」
「私だって出来るんニャー!」
「あははははは」
「リータは笑い過ぎにゃ~」
「だって~。あはははは」
「ムウ……そうニャ! リータはシラタマ殿の手柄だと思うニャ?」
「違うにゃ~。メイバイのおかげで猫耳族が救われたと思うにゃ?」
わしとメイバイの質問で、ようやくリータの笑いが止まり、まじめな顔になる。
「それは、シラタマさんのおかげだと思います」
「ほらニャー?」
「にゃんで~?」
「だってシラタマさんは、私を助けてくれました。それに孤児院の子供達だって、砂漠の村だって、ビーダールだって助けていたじゃないですか。シラタマさんは、絶対に見て見ぬ振りは出来ません」
「そうニャー! 食べ物だって集めてたのは、この国の為だったニャ。戦争が終わったあとの事まで考えてくれていたニャー!」
「そ、それは……わしが食べる為だったにゃ!」
わしは苦し紛れの言い訳をするが、二人は微笑んでいるので、バレバレのようだ。
「嘘ですね。いくら食いしん坊のシラタマさんでも、あんなに多くは食べれませんよ」
「本当ニャー。猫耳の里では、この為に集めたって言ってたニャー! 素直に感謝を受け取ってニャー」
「わしはメイバイの為にしただけだから、全猫耳族の感謝は受け取れないにゃ」
わしの発言に、リータとメイバイは顔を見合わせる。
「あ……ひょっとして、そこに引っ掛かっていたのですか?」
「……シラタマ殿らしいニャ。わかったニャー。シラタマ殿……私の無理なお願いを聞いてくれて、有り難う御座いました」
「うんにゃ。受け取ったにゃ。また困った事があったら、わしに言うにゃ。リータもにゃ。二人の為だったら頑張るにゃ~」
「「シラタマ(さん)殿~!」」
「にゃ!? ゴロゴロ~」
わしの言葉に、二人はわしを押し倒して撫で回す。
「にゃ! そこは……ゴロゴロ~。明日は早いから、ほどほどにして寝ようにゃ~。ゴロゴロ~」
「「うぅぅ……」」
「じゃあ二人とも、わしの腕枕で寝るにゃ。それで我慢してくれにゃ」
「こうですか?」
「こうニャー?」
二人はわしの腕に頭を乗せると、モソモソと頬ずりする。
「「あ……モフモフしてて、気持ちいい……」」
「にゃ~? ふぁ。それじゃあ、おやすみにゃ~」
「おやすみなさい」
「おやすみニャー」
皆、疲れていたのか挨拶を済ませると、スースーと寝息を立てる。
「ゴロゴロ~」
二人は寝ていても無意識で撫でて来るので、わしの寝息はいつもと変わらず、ゴロゴロだ。
その声にまざって、メイバイの感謝の言葉が時々合わさっていた……
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