ワンヂェンと旅行にゃ~2


 イースター島の集落に着いてもおっちゃん同様、島民はわし達の姿にあまり興味を持ってくれないので子供達にモフらせていると、「ごはんができた」と家の人が呼びに来たら、さっさと離れて行った。


「ああ……うち来ます?」

「ありがとにゃ~」


 わしが寂しそうにしていたら、首長が昼食に誘ってくれたのでご相伴にあずかる。おっちゃんもこれから用意するみたいだったので、首長が「うちで食え」とか誘っていた。


 とりあえず、首長の家に着いたらメイバイが写真撮影。他の家とは違い、半地下ではなくて大きな一軒家……ていうか、大きなモアイが何個も壁になって屋根にも寝てるから、何故かリータが興奮していた。

 中もモアイが柱や壁になっているので、誰かに見られているみたいで落ち着かない。テーブルもモアイの後頭部だし、イスまでモアイ。

 まぁ人数分無いので、わし達のは自前の物を用意したけど、わしの魔法にも興味を持ってほしいわ~。


「ささ、旅の方からどうぞ」


 食事がわし達の前に並んだが、皿になってるモアイの顔面の上には生魚の切り身が山盛り、隣の小皿二個には塩と液体が少量入っているだけだ。


「これってどうやって食べたらいいにゃ?」

「塩を振るか、汁につけるかお好みでどうぞ」

「だってにゃ。じゃ、いただこうにゃ~」

「「「「「いただきにゃす」」」」」


 食べ方を聞いたら、皆で手を合わせて食べる。ぶっちゃけ質素すぎるからあまり食欲はわかないが、別段変な食べ物でもないので少しぐらいは食べるのが礼儀だろう。


「にゃ? 食べないにゃらちょうだいにゃ~」

「いっぱいあるんにゃから、ワンヂェンは取るにゃよ~」


 魚好きの泥棒猫が居るからわしも観察している場合ではなくなったので、魚の切り身を指で摘まんだら、汁につけて口に運んだ。


「モグモグ。あ~……これって魚醤ぎょしょうだにゃ」

「魚醤にゃ?」

「うちの醤油は原材料が大豆にゃけど、ここは魚なんにゃ」

「へ~。ウチ、けっこう好きな味にゃ~。猫の国でも作ってにゃ~」

「わかったからくっつくにゃ~……だから取るにゃ!」


 ワンヂェンは甘えてくっついて来たのかと思ったけど、目的はわしの魚。もう面倒くさいので、全部くれてやった。

 そして首長達も食べ出したので、食事の邪魔にならない程度に話し掛けてみる。


「生魚もいいんにゃけど、もっと手の込んだ料理はにゃいの?」

「お口に合いませんでしたか……」

「いや……まぁそうかにゃ? あ、でも、悪いとか言ってるわけじゃにゃくて、単純な質問にゃ。気を悪くさせてゴメンにゃ~」

「いえいえ。こちらもこんな物しか用意できなくて心苦しいです。昔はもっと料理らしい料理を作っていたのですけど……」


 首長の話では、十年ぐらい前までは民族料理みたいな物があったらしいが、とある理由で作れなくなっているそうだ。


「にゃんだと……木がにゃいだって……」

「昔はあったのですが……」


 その理由とは、現在のイースター島には木材がないから。一時期、人口が増えたことで木を切り過ぎて森がみるみる小さくなり、存続が危ぶまれたそうだ。

 なので木を切らないようにしたらしいが、最悪の天候が続き、残っていた木が飛ばされたり流されたりして、森が死んでしまったらしい。

 それからは木造家屋を崩しては薪にしていたのだが、冬の暖のために使わないといけないから、食事で火を使う機会はたまにしかないそうだ。



「にゃるほど……だからトウモロコシだったんにゃ」


 首長の驚愕な話を聞き終えて、おっちゃんの話を思い出したわしであったが、このおっちゃん、砂浜に流れ着いたトウモロコシをよく食べたな……


「もしよろしければ、何か燃やせる物がありましたら、分けていただけると有り難いのですが……たまには子供達にも温かい物を食べさせてあげたいのです」


 わしがおっちゃんの勇気を気持ち悪い物でも見るような顔で見ていたら、首長がそんなことを言うのでやぶさかではない。


「そうだにゃ~……表に出ようにゃ。あと、住民のみんにゃも集めてくれにゃ。そしたらあげるにゃ」

「はあ……それでいいのでしたら……」


 わしの条件に不思議に思う首長であったが、材木がタダ同然で貰えるので動き出してくれる。おっちゃんと手分けして島民を集めてくれるみたいだ。

 その間に、わし達は正式なランチ。豪華な料理を並べてバクバク食べる。


「にゃんでいまさら出すんにゃ~。もう食べられないにゃ~」


 ワンヂェンは生魚でお腹パンパンみたいだが、我が猫ファミリーのお腹をナメるな。あの程度の量、腹1分目だ。だからコリスが涙目で見てたから、いっぱい並べてあげたのだ。


「食わなきゃいいだけにゃろ~」

「エミリの料理のほうが絶対に美味しいにゃ~」

「だからわしの魚を取るにゃよ~」


 お腹いっぱいなのにワンヂェンは無理して食べるものだから、体型がわしに似るのであった……


「い……いにゃああぁぁ~~~!!」

「そんにゃに嫌がらないでくれにゃ~」


 でっぷりとしたお腹を見たワンヂェンが発狂するので、わしが傷付くのであったとさ。



 そんなこんなで「にゃ~にゃ~」やっていたら首長が呼びに来たので広場に移動。そこには住民が急遽駆け付けたのか、全員モアイの上に座っていたので、頭が高いわ~。

 なのでモアイは解散させてもらってから首長に通訳をお願いし、わしは注目を集める。


「みんにゃ~? 木が欲しいにゃ~~~??」

「「「「「……」」」」」


 コール&レスポンスは失敗。どこからか「シーーーン」と聞こえて来たので皆はキョロキョロしているが、気にせず続ける。


「持ってけ泥棒にゃ~~~!!」

「「「お……」」」

「「「おお……」」」

「「「「「おお~~~!!」」」」」


 何も無い所から大量の丸太が出て来たら、住民は戸惑い、希望に満ちた顔になり、歓喜の声が弾けた。


「ついでにオマケにゃ~~~!!」


 さらに追加で10メートルオーバーの黒い獣を出したら……


「「「「「……」」」」」


 歓喜の声は消えちゃった。


「美味しいお肉にゃよ~? 鳥肉にゃんか目じゃないぐらい美味しいんにゃよ~??」

「「「「「うおおぉぉ~~~!!」」」」」


 首長が通訳してくれて、やっとこさ歓喜の声が爆発。わしは鼻高々で、住民の大歓声を受けるのであった。でも、黒い獣を簡単に捌いたせいで、島民との距離が開くわしであったとさ。



「「「「「うんめぇええぇぇ!!」」」」」


 丸太も薪に変え、焼き場も作ってベティ特性タレまで使ってあげたら、島民は気絶寸前。なんとか意識を保ってむさぼり食っている。

 首長は気絶どころが天に召されそうになっていたので魂は捕まえて口に押し込んだら、これからの話をする。


「たぶん食べきれないと思うから、保存食の作り方と保管場所も作ってやるからにゃ」

「は、はあ……いやいや。木だけでも感謝しきれないのに食料まで……どうしてそこまでしてくれるのでしょうか……」

「他でも同じくらいしてるからにゃ。いっつもわしの姿で驚かれてにゃかにゃか集落に入れてくれないから、これぐらい払ってるんにゃよ? 今回は、驚きもしないで普通に接してくれたから、サービスしちゃうにゃ~。にゃ~はっはっはっはっ」

「ありがとうございます。ありがとうございます……」


 わしが笑っていると首長が涙する。その姿をワンヂェンは不思議に思い、リータとメイバイに質問していた。


「あんにゃこと言ってるけど、シラタマはいつもあんにゃにタダであげてるにゃ?」

「そうですね……まだ少ないほうじゃないですか?」

「うんニャ。ホント、集落に入れてもらうのすっごく大変なんニャー」

「にゃはは。シラタマは猫だもんにゃ~」

「ワンヂェンさんもですよ?」

「普通、猫お断りニャー」

「にゃ……」


 わしのことを馬鹿にしていたワンヂェンは、リータとメイバイに冷たくツッコまれ、自分が猫だと自覚するのであったとさ。



 皆のお腹がいっぱいになったら、リータ達に干し肉製造講習を開いてもらい、わしは氷室作り。使わない肉はせっせと氷室に運び、リータ達の講習が終わったら、首長とおっちゃんを誘ってイースター島観光に戻る。

 しかし、わし達の楽しめる物がよくわからないらしいので、バスに乗せてイースター島をドライブ。たまに見付けた無人の場所にあるモアイについて聞いたり、作り方を見せてもらった。


 わしは興奮していたのだが、リータは普通。メイバイには不評。ノルンはいちおう記憶している。ワンヂェンは引っ掻くな。コリスとオニヒメに至っては寝てやがる。


 と、狭い島なので早くも一周してしまったら、首長の家で話し合い。わしとノルン以外、キャットハウスで待つらしい……



 そうこうしていたら、夕食ができたと言われたので皆を首長の家に連れ込んだが、全員ダッシュで逃走。まさかイースター島でクサヤが出て来るとは……


「ワンヂェ~ン。これは魚にゃよ~? 一口どうにゃ~?」

「シャーーーッ!!」

「騙されたと思って食ってみろにゃ~」


 外まで追いかけたら、ワンヂェンが背中を丸めて威嚇するので、わしは素早く動いてクサヤをほぐした物をワンヂェンの口の中に入れてみた。


「にゃ? 意外と美味しいにゃ……」

「実はこの料理は日ノ本にもあってにゃ。好きにゃ人はやめられないぐらい好きなんにゃ」

「日ノ本にゃ? にゃんで日ノ本の料理がここで出て来るにゃ??」

「わしもよくわかにゃいけど、同じ島国だからかにゃ? 塩水と魚があれば作れるから、似たようにゃ料理が生まれたのかもにゃ~」

「にゃるほど~。もっとちょうだいにゃ~」


 首長がわざわざ出してくれた物を誰ひとり食べないのでは悪いので、ワンヂェンが美味しく食べてくれたので助かった。


「ところでシラタマは、にゃんで食べないんにゃ?」

「わし、クサヤ苦手なんにゃ」

「にゃんでにゃ~~~!!」


 なんでもなにも、苦手な物は苦手。元の世界でもにおいで吐きそうになったんだから、食べるわけがない。


 ワンヂェンに引っ掛かれながら、美味しい猫の国料理に舌鼓を打つわしであったとさ。

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