第二十一章 王様編其の四 ウサギ族の大移動にゃ~

582 女王は怖いにゃ~


 我輩は猫又である。名前はシラタマだ。いまから女王に怒られると考えただけで胃が痛い。


 さっちゃんの長期休暇に付き合わされたわしであったが、休暇を無断で一日延ばしたならば女王の説教案件。さっちゃんを無理矢理帰らせる事も出来たのに、勉強の為に残す決断をしたのはわしだ。

 わしはさっちゃんと共に城の中を歩き、覚悟を決めて執務室のドアを開け……


「やっぱりさっちゃんから入ってくんにゃい?」

「う、うん。私が無理を言って残ったんだもんね」


 さっちゃんも罪の意識があるらしく、わしのお願いを聞いてドアノブに手を掛け……


「やっぱ無理! シラタマちゃんが開けてよ~」

「わしも怖くて開けられないにゃ~」


 執務室からはただならぬオーラが漏れ出ているので、わしとさっちゃの覚悟は揺らいで「にゃ~にゃ~」押し付け合い。

 そんな事をしていたら、自動ドアでもないのに執務室のドアが勝手に開いた。


「「にゃ!?」」

「女王様が早く入るようにと仰っています」


 てっきり女王が出て来ると思ったわしとさっちゃんは抱き合って震えていたが、宰相のおじさんだった。ただ、その言い方はわし達の騒ぎ声が聞こえていた事を意味し、説教がひとつ増えたと確信するわしとさっちゃんであった。



「ズルイにゃ~」


 さっちゃんはわしを両手で持ち上げて女王オーラの盾に使うので、殺気が体に突き刺さってめっちゃ痛い。顔はいつも通りだが、その目が冷た過ぎて見てられない。


「サティ……」

「はい!」


 女王の冷たい声を聞いたさっちゃんは、ようやくわしを放り投げて女王の前で気を付け。わしも三回転で着地したら、遅れてさっちゃんの隣で気を付け。


「「すいにゃせんでした!」」


 からのシンクロお辞儀。息も口調もピッタリだ。


「あれだけ言ったのに、帰りが遅れるとはどういうこと」


 どうやら長期休暇を取る際、さっちゃんは期日を厳守するように女王から言われていたみたいだ。なのに約束を破ってしまったからには、さっちゃんはプルプル震えて顔を上げられないようなので、わしがなんとか動く。


「女王……今回の件は、わしが無理矢理連れ回したから許してやってくれにゃ」

「ち、ちがっ……シラタマちゃんは悪くないんです。全て私が無理を言ったから悪いんです」

「いや、わしが悪いんにゃ」

「いえ、私が悪いわ」


 珍しく罪の擦り付け合いではなく、罰の取り合いを繰り広げるわしとさっちゃん。それで女王の怒りが収まるわけもなく、また冷たい声が届く。


「どれだけ心配したか、わかっているのでしょうね」

「はい……本当に申し訳ありませんでした」


 女王の声は冷たいが、心配していたと聞いたさっちゃんはしゅんとして頭を下げていた。



「説教は後回しにしてくれないかにゃ?」


 さっちゃんがかわいそうに見えたというわけでなく、わしのせいでもあるので説教はカットイン。


「無理ね」

「気持ちはわかるにゃ。紹介したい人?が居るから、まずは会ってくれにゃ。お願いにゃ~」


 なんとか説教を軽くしたいわしが甘えた声を出すと、女王の怒りが和らいだ。


「人? ウサギって聞いてるんだけど……」


 そりゃ、城の主なんじゃから、情報を隠すなんて出来るわけがないわな。でも、食い付いたから、これで押し通るるるぅぅ!!


「わしみたいにゃ生き物にゃ。リータ、メイバイ。連れて来てくれにゃ~!」


 このチャンスを使って外に待機させていた猫パーティを大声で呼び込むと、ポポルとルルの手を引くリータとメイバイが入り、イサベレとオニヒメとコリスが続く。


 よし! 女王が手をわきゅわきゅしだした!!


 わしの隣にマントを羽織ったポポル親子を並べると、説教が少しでも減るように女王の興味をく話をする。


「この二人?が新大陸で出会ったウサギ族にゃ」

「ウサギ族……」

「ポポル。自己紹介するにゃ~」


 女王が歩くウサギに目を取られている内に畳み掛ける。ポポルはキョロキョロしながら自己紹介をしてくれたが、言葉が違うので女王には伝わらなかった。


「何か喋っていたようだけど……」

「日ノ本のキツネとタヌキと一緒にゃ。ほい。これを使ってもう一度自己紹介を聞いてくれにゃ」


 わしは女王の机に念話の魔道具を置いて戻ると、ポポルに再度自己紹介させる。


「ウ、ウサギ族のポポルと言います……」

「喋った!?」

「だからわしと一緒って言ってるにゃろ~」


 女王がわしと初めて会った人と同じような反応をするので、さっちゃんが軽く吹き出していた。大笑いしないところを見ると、女王に反省している姿を見せないといけないから笑えないようだ。

 それからポポルには犠牲になってもらおうと女王の膝に乗せる。女王がモフッているところに出会った簡単な経緯を説明し、ポポルが涙目になると話を止めた。


「みんにゃ。ポポル達に城を見せてやってくれにゃ。さっちゃんは……やる事があるにゃら、そっちを優先させてくれにゃ」


 わしが全員を追い出そうとすると、さっちゃんから待ったが掛かる。


「ううん。私もここに残るよ」

「いいからいいからにゃ。あとは任せておけにゃ」


 リータ達とは違い、さっちゃんは一緒に女王の説教を受けてくれようとするが、わしは背中を押して執務室から追い出すのであった。



「それで……一人で説教を受けたいのかしら?」


 さすがは女王。わしの真意を探って来たので、膝に乗って一冊のノートを取り出す。


「このノートに、ウサギ族の置かれた現状が載ってるにゃ。ちょっと読んでみてくれにゃい?」

「現状? 生息数でも書いているのかしら」


 モフモフ好きの女王は、ウサギ族の事が書かれていると聞いて興味津々。新大陸に新種族なのだから致し方ない。目をキラキラさせて読み始めたが、すぐに険しい顔に変わった。

 そうしてわしを撫でながら読み終えた女王は、わしを持ち上げて机の上に置く。


「酷い状況ね。こんなの、私でもどうしようもないわ……」

「だろうにゃ。ウサギ族のおさも、近々死ぬ予定だったにゃ」

「長みずから……いえ、そうでもしないと、民を抑えきれないか……でも、これを見せてシラタマは何を言いたいの?」


 女王の質問に、わしは座り直して正座になる。


「さっちゃんが休暇を延長した理由は、口減らしをするって聞いたから、ウサギ族の長に物申したかったからだったんにゃ」

「あの子がそんなことを……」

「そうにゃ。だからわしは許可したにゃ。ただし、宿題を出したにゃ」

「宿題??」

「ウサギ族をどうやったら救えるかにゃ」


 女王の中では答えが出ているので、首を横に振る。


「サティには、まだ早いわ」

「それは親心かにゃ?」

「ええ。私でも迷うこんな決断、できるわけがない」

「にゃはっ。にゃはははは」


 わしが大笑いすると、女王はポカンとした顔に変わった。


「無理でも、さっちゃんはやり遂げたにゃ。長い時間を掛けて、全てを救えないという結論を出したにゃ」

「うそ……」

「まぁその結論が許せないから、にゃん度も考え直していたけどにゃ」


 女王が驚いて目を丸くしているので、わしはまた笑う。


「にゃはは。子供ってのは、親が見ていないところでも成長するもんだにゃ。せっかくのさっちゃんが成長する姿、わしが独占して見ちゃったにゃ~。にゃははは」

「そう……」


 わしが笑い続けると女王は天を仰ぐ。そうして無言で天井を数秒見つめ、わしに視線を戻す。


「サティはいい勉強をして来たのね。こんな場面に遭遇しないと、話す切っ掛けは作れなかったわ。シラタマ。有り難う」


 女王が優しい顔でわしの頭を撫でるので、少し照れる。


「ひとつ謝っておかないといけないことがあるにゃ」

「謝る??」

「三年前、飢饉の際に女王が取った政策を少し喋ってしまったにゃ。わしの予想の部分が多いから、正確に伝えられなかったと思うんにゃ」

「そうね……多くの民を見殺しにした話は避けられない説明ね」

「変にゃ質問が来たらゴメンにゃ~」

「ええ。わかったわ。気を付けて答える。でも……」

「でもにゃ??」

「勉強の為だったからと言っても、サティの帰りを遅くした罪は逃れられないわ」

「減免を要求するにゃ~」

「ウフフフフ、ウフフフフ……」


 たぶんいい勉強をしたからわしの要求は通るはずだ。まったく笑いは止まらないが、通るはずだよね?



 女王の笑い方に怖くなったわしは、違う話も使って罰を減らそうとする。


「それでにゃんだけど……ウサギ族を東の国に移住させる話が出ててにゃ。いっぱいのウサギ……欲しくにゃい?」


 国民が増えると聞いて、現金な女王の笑いがピタリと止まった。


「モフモフ……」

「う、うんにゃ。モフモフが移住したがってるにゃ」


 いや、モフモフがやって来ると知って、笑いが止まったようだ。


「そうね……百人?なら引き受けるわ」

「百人?にゃんて、数の足しにならないにゃ~。全員受け入れてくれにゃ~」

「六千人?なんて無理に決まってるでしょ。百人?が限度ね。猫の街は住人が足りないというんだから、猫の街で受け入れたらいいじゃない」

「にゃ、にゃんで知ってるにゃ?」

「ジョスリーヌとジョジアーヌよ。いっつも住人が足りないとボヤいているわよ」


 おい、双子スパイよ! 国家機密を垂れ流すなよ!! スパイだからしょうがないのか……


「たしかに足りにゃいけど~。百人?は少な過ぎにゃ~。せめて四千人?は、にゃんとかならにゃい?」

「だから百人?は引き受けると言ってるでしょ。自分で撒いた種なんだから自分で刈り取りなさい」

「え~! さっちゃんは全員受け入れるって言ってたにゃ~」

「女王は私よ。百人?まで。百人?なら必ず引き受けると約束するわ」


 くっそ~。わしの仕事を減らせるチャンスなのに、女王が折れてくれん。そりゃこんな大量の移民なんて金が掛かるし食料も大量に必要だから、国のトップなら引き受けたくないのはわからんでもない。

 チッ……モフモフ好きのくせに強情な奴じゃ……てか、やけに百人?はこだわるな。ウサギを人と換算するか迷っている疑問符が気になって入ってこんかったけど、これって……


「百人?のウサギが欲しいのかにゃ?」

「そうよ。メイドや庭師……どこへ行ってもモフモフ観賞が出来るわ~」

「心の声が駄々漏れにゃ~!!」

「あ……うちにはそんな余裕がないだけよ~」


 女王の建前は遅すぎて、百人のウサギが働く夢物語を語るものだから、もう全員猫の国で受け入れる決意をするわしであった。


「猫の国の国民でいいから、百人?はちょうだい!!」

「おいしいとこだけ持って行こうとするにゃ~!!」


 こうして次なる戦いが始まるわしであったとさ。

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